結晶工学特論 part II 鍋谷暢一 化合物半導体とエピタキシー
化合物半導体デバイス Light Emitting Diode(LED) Laser Diode(LD) Photo Diode(PD) Solar Cell ・・・ Metal-Semiconductor Field Effect Transistor(MESFET) Hetero Bipolar Transistor(HBT) High Mobility Electron Transistor(HEMT) ・・・
デバイスに用い ( られてい ) る半導体 Si, Ge, (C) ダイアモンド構造 GaAs, InP, InAs, InSb, 閃亜鉛鉱構造 GaN ウツル鉱山構造 CuInSe 2 カルコパイライト構造
結晶構造 diamond zinc blende wurtzitechalco pyrite
結晶工学特論(第2部)で扱う内容 1. 化合物半導体とデバイス 2. エピタキシャル結晶と歪 格子不整合、格子歪、欠陥 混晶組成 成長モード(表面エネルギーと歪エネルギー) 3. 逆格子 逆格子の定義、回折条件( Ewald 球) X 線回折と電子線回折 電子顕微鏡 4. 光デバイスの活性層 格子整合 量子井戸、超格子、量子ドット 光閉じ込め、導波路
化合物半導体の特長 移動度が大きい 高周波に対応 GaAs 8,800 cm 2 /Vs Si 1,350 cm 2 /Vs 直接遷移型のものが多い 発光効率が高い 種類が豊富 バンドギャップ、格子定数の自由度が高い 混晶が作製できる AlGaAs, AlGaInP, InGaAsP, InGaN, ・・・
半導体のバンドギャップと格子定数 主な半導体 格子定数 Si GaAs AlGaInP InGaAsP GaInN ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ トランジスタ、 IC 、 CPU 、メモリな ど 高周波用トランジスタなど 赤色発光ダイオード( CD,DVD, 交通 信号) 光通信用半導体レーザ( 1.55μm ) 青・緑色発光ダイオード、紫外レー ザ
発光デバイスと受光デバイス 価電子帯 伝導帯 EgEg ①電子と正孔を注入(励 起) ②再結合(緩和) ③発光 hv 価電子帯 伝導帯 EgEg ①光吸収 ②電子と正孔を生成(励 起) ③引き抜き hv ① ① ② ③ ① ③ ③ 発光デバイス( LD 、 LED 、・・・) 受光デバイス( PD 、太陽電 池、・・・)
バンドギャップと対応できる波長 価電子帯 伝導帯 E g :バンド ギャップ c :光速 h :プランク定 数 例えば、 1.41 eV (GaAs) 1.55μm (LD) 890 nm 0.8 eV
混晶半導体 InGaAs ・・・ 正確には In x Ga 1-x As (0 ≦ x ≦ 1) x : In 組 成 III x III 1-x V, III x III y III 1- x - y V, IIIV y V 1-y, III x III 1- V y V 1-y, ・・・ InGaAs, AlGaInP, GaAsP, InGaAsP, ・・・ In 組成によってバンド ギャップと格子定数を連続 的に制御できる
四元混晶 In x Ga 1-x As y P 1-y 格子定数と バンド ギャップを 独立に制御
混晶を用いることにより、バンドギャップと格子定数を連続的に 変化 4元混晶では格子定数を固定したままバンドギャップのみ変化 化合物混晶半導体の格子定数とバンドギャップ
発光ダイオード( LED )と半導体レーザ( LD )
発光ダイオードの実用例
T. Mukai et al, Jpn. J. Appl. Phys., 38, p.3976 (1999) 発光ダイオードの開発の流れ
色相図
半導体光デバイスの材料選択、設計において重要な要素 バンドギャップ 応用可能な光の波長 n 形基 板 n層n層 p層p層 p+ 層 LED の構造 発光ダイオードの原理
半導体レーザ( Laser Diode)
n 形基 板 n クラッド層 p クラッド 層 p+ コンタクト層 LD の構造 活性層 半導体レーザの原理
LED および LD の構造 LEDLD
HEMT の原理と構造 不純物による散乱を低減するため、 ドーピング領域と電子走行領域を分離(変調ドープ)
化合物半導体デバイスの作製に要求されること 活性層(量子井戸)、クラッド nm オーダの膜厚制御 ドーピング ( 変調ドーピング ) ppm オーダの組成制御 混ざらないものを混ぜる 組成 急峻なヘテロ界面
化合物半導体デバイスの作製方法 エピタキシャル成長( LD,LED など) 下の層から順に上に積層する 基本的には面内は均一 成長する結晶の種類が制御できる イオン打ち込み+リソグラフィ( IC など) 加速電圧でイオン打ち込み深さを制御 面内に構造を作製 母体材料は決まっている(ドーパントを打ち込 む)
エピタキシー epitaxy = epi + taxy 語源はギリシャ語 上に置く 配列
化合物半導体の主なエピタキシャル成長法 溶液成長 Liquid Phase Epitaxy(LPE) 気相成長 Halide Vapor Phase Epitaxy(HVPE) OrganoMetalic Vaper Phase Epitaxy(OMVPE, MOVPE, MOCVD) Molecular Beam Epitaxy(MBE)
Liquid Phase Epitaxy(LPE) 1.溶液を原料結晶上にセットして温度を上げ、飽和溶液をつ くる 2.ボートを引いて溶液を基板上にセットして温度を下げ、析 出させる 平衡状態に近い成長のため、良い結晶が作製できる 成長速度が速い( nm オーダの制御が不可能) 成長方法 特徴
Halide Vapor Phase Epitaxy(HVPE) H 2 キャリアガスに乗せて AsH 3, PH 3 を運ぶ Ga は HCl と反応させて運ぶ 成長速度が速い ハロゲン( Cl, I など ) と反応する原料しか適用できない 温度制御部が多い 成長方法 特徴
MOVPE と MBE 成長速度を遅くすることができる( 1μm/h ≒ ML/s 。 ML は分子層を表す) 成長温度を低くすることができる 複数の原料を選択的に供給することができる 原子レベルで急峻なヘテロ界面(異なる結晶の接合)の形 成 ・量子井戸、超格子・・・ ・高電子移動度トランジスタ( HEMT ) ・半導体レーザ( LD ) 混和性の低い混晶 ・ GaInNAs, InGaN ・・・
MOVPE で使用する原料(Ⅲ-Ⅴ族の場合) Ⅲ族 TMGa( Ga(CH 3 ) 3 ), TMAl, TMIn, TEGa( Ga(C 2 H 5 ) 3 ), TEIn, ・・・・ Ⅴ族 AsH 3, PH 3, NH 3, TBAs( t-C 4 H 9 AsH 2 ), TBP, DMHy, ・・・ ドーパント DEZn SiH 4, H 2 Se GaGa CH 3 GaGa C2H5C2H5 C2H5C2H5 C2H5C2H5 As H H H t-C 4 H 9 H H 室温で気体または液体のものを用いる
MOVPE 装置 ( 全有機原料の場合 ) H 2 ガスに乗せて原料を基板まで供給
MOVPE 装置 ( 成長部 ) リアクター部サセプタに基板をセットした様 子
MOVPE で使用する原料(Ⅲ-Ⅴ族の場合) Ⅲ族有機金属 ・・・ 可燃性が強い Ⅴ族原料 ・・・ 毒性が強い 原料名 LC 50 PH TBP>1100 AsH TBAs70 LC 50 ラットに 4 時間曝した後、死ぬ確率の 指標 特殊高圧ガス モノシラン、ホスフィン、アルシン、ジボラン、セレン化水素、モノゲル マン、ジシラン 量に関わらず、使用する際には都道府県知事に届けを出す必要がある
MOVPE 装置の外観
MOVPE の特徴 長所 As 系、 P 系、 N 系すべての化合物半導体の成長に適用可能 原料が枯渇しても、取替えが容易 改造(ガスラインの増設)が容易 大量生産 短所 安全管理の徹底 排ガス処理 Ⅴ族原料の熱分解効率が悪い
2室構成型固体ソース MBE の場 合 MBE の構成 高真空中での成長
K セルとクラッキングセル クラッキングセル k セル (Knudsen cell) 分子線の強度 J A : セル出口の面積 L : セル出口からの距離 p : セル内の平衡蒸気圧 坩堝 (PBN) ~ 1200 ℃ 900 ~ 1000 ℃ ・ AsH 3, PH 3, As 4 As 2, P 2 ・Ⅲ族 MO も低温加熱
固体ソース MBE の原料 固体ソース MBE 原料は全て固体( Ga, Al, In, As ・・・) 問題点 ・蒸気圧の高い原料(特にⅤ族)の分子線供給量の制御が困難 ・ソースが枯渇すると、成長室を大気リークする必要がある
MBE の種類と特徴 固体ソース MBE システムが簡単 成長室のリーク ガスソース MBE 原料供給量の制御性 成長室のリーク不要 安全管理 クラッキングセル MOMBE 原料供給量の制御性 成長室のリーク不要 組成均一性 選択成長 安全管理 クラッキングセル
GaN, AlN, InN 原料 Ⅲ族 ・・・金属 Ga 、 Al 、 In N ・・・ N 2 、 NH 3 、 ( DMHy ) ガスソース MOVPE が多い (TMGa, NH 3 ) MBE では 成長が NH 3 の熱分解に律速されない 成長温度を低く できる N 2 はクラッキングでは分解できない( N-N 9.8eV ) NH 3 や DMHy はクラッキングすると N 2 を生成 InN (電子デバイス材料として期待) In – N の結合が弱い 成長温度 500 ℃ NH 3 の分解効 率 1 % プラズマセルによる活性窒素の供給 RF プラズマ( 13.56MHz) 、 ECR プラズマ( 2.45GHz, 875G ) 窒化物の MBE 成長
活性窒素 中性の励起状態 N 2 * 、 N * が成長に寄与 イオン N 2 + 、 (N 2 + ) * 、 N + はプ ラズマ中の電界によって加 速され、大きなエネルギー をもつ 表面へのダメージ大 基板へのバイアス、偏向電 界、磁界によって制御
プラズマ分光(活性種を知る) W.C. Houghes et al., J. Vac. Sci. Technol., B13(1995)1571. イオン 原子状 窒素 100W, 2×10 -4 Torr ECR ・・・ イオン、 2nd positive RF ・・・ 原子状窒素( N * )、 1st positive
酸素プラズマの分光
まとめ 半導体デバイス LED, LD, HEMT 半導体デバイスと化合物半導体 種類の豊富さ、直接遷移型、ヘテロ構造、混晶 半導体デバイスの作製方法 基板上にエピタキシャル成長 エピタキシャル成長法 LPE, HVPE, MOVPE, MBE