空気シャワーから放射されるマイクロ波の探索 IV -電子ビームからの広角放射の検出- 山本常夏, 大田 泉 ( 甲南大 ), 池田大輔, 佐川宏行, 福島正己 ( 東大宇宙線研 ), 荻尾 彰一 ( 大阪市大 ), Romain Gaior, 間瀬圭一, 吉田滋, 石原安野, Matthew Relich,

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ガス電子増幅器を読み出しに用いた タイムプロジェクションチェンバー (GEM-TPC)の開発
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マイクロ波測定により、プラズマ密度、揺動計測を行いプラズマ閉じ込めについて調べる。
圧電素子を用いた 高エネルギー素粒子実験用小型電源の開発
5×5×5㎝3純ヨウ化セシウムシンチレーションカウンターの基礎特性に関する研究
高計数率ビームテストにおける ビーム構造の解析
甲南大学 理工学部物理学科 宇宙粒子研究室 学籍番号 氏名 上田武典
荷電粒子の物質中でのエネルギー損失と飛程
B5 プラズマ B5 実験テーマ 2017年度は後期のみ プラズマ 物質の第4の状態 外部の場とともに荷電粒子自身が作る電磁場が相互作用
シンチレーションファイバーを 用いた宇宙線の観測
60Co線源を用いたγ線分光 ―角相関と偏光の測定―
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空気シャワーから放射されるマイクロ波の探索 IV -電子ビームからの広角放射の検出- 山本常夏, 大田 泉 ( 甲南大 ), 池田大輔, 佐川宏行, 福島正己 ( 東大宇宙線研 ), 荻尾 彰一 ( 大阪市大 ), Romain Gaior, 間瀬圭一, 吉田滋, 石原安野, Matthew Relich, 桑原 孝夫, 上山俊佑 ( 千葉大 ), Bokkyun Shin(Hanyang Univ), Gordon Thomson, John N. Matthews(University of Utah), 柴田達伸 (KEK) 空気シャワー中の電子 ( 数 10MeV) が空気分子を電離することにより 生じる低エネルギー電子プラズマが分子制動輻射により放射する マイクロ波を測定する実験を行っていた。 空気シャワーが等方的 に放射するマイクロ波 を検出できれば、大気 蛍光望遠鏡のように遠 方リモート観測が可能 になる。天候や明るさ に左右されずに観測で きるため最高エネル ギー宇宙線の次世代観 測方法として注目され た。 携帯電話や衛星通信の普及に伴い高性能なマイクロ波検出器が比較的安価に利用できるようになった。このマイクロ波検出器を宇宙線観測に応用する研究を行っている。この 研究のため加速機により作られた電子ビームを空気中に放出することにより生成した疑似空気シャワーを使いマイクロ波検出実験を行っている。この実験により電子ビームの 射出口からの広角度広帯域放射を検出した。放射は電場の急激な変化により起こると考えられ sudden birth や sudden appearance と呼ばれている。この放射は3つの独立した実 験により検出された。 ① 大気中へ定常的にマイクロ波を放射し、そこを空気シャワーが通った時にできるプラズマが反射するマイクロ波を検出する実験 ② 空気シャワーが氷 の中で Askryan 効果により放出するマイクロ波を検出し、高エネルギーニュートリノの検出方法を開発する実験 ③ 空気シャワーが大気制動輻射により等方的に放射するマイク ロ波を検出する実験である。この検出結果について報告する。 最高エネルギー宇宙線の起源解明をめざ し、アメリカユタ州の砂漠地帯 700 km 3 の領域に宇宙線観測装置 Telescope Array が建設されている。この装置は地上に粒 子検出器を並べた地上検出器 ( Surface Detector : SD) と大気蛍光望遠鏡 (Fluorescence Detector : FD) からなる。こ の FD は空気シャワーが発する大気蛍光を 検出するが、そのキャリブレーションの ために電子加速器 (Electron Light Source : ELS) が設置されている。 ELS により生成し た電子ビームを大気中に放ち疑似空気 シャワーを作り出す装置で、世界的にみ て極めてユニークな装置である。 この加速器により 40MeV の電子を最大 10^9 個放出できる。 電子はパルス状のビームとして放出され、パルス幅は可 変である。電子ビームは大気中に放出され、そこから放 射される大気蛍光は FD により測定されている。この測定 データとシミュレーションを比較することにより、 FD と シミュレーションの性能評価・キャリブレーションを 行っている。この装置は高エネルギー宇宙線が作り出す 空気シャワーを人工的に制御された状態で生成できるた め、様々な検出器開発研究に使用されている。 電子ビームが放出される前にまず ELS からトリガーパル スが出される。続いてコンデンサーに貯められていた 20kV の電荷が Thyratron により放出される。この時最も大 きな電磁波ノイズが出る。この Thyratron 放電の間に電子 を加速するための 2GHz 高周波が Klystron に送られる。ト リガーパルスから電子ビーム放出までの時間は正確に制 御され、電子ビームの電荷量も 0.2 % の精度でモニターさ れている。 空気シャワーの通った後には 5ns 程度の間プラズマが発生する。 このプラズマが反射するマイクロ波を検出できれば宇宙線の広 域観測に応用できるはずである。この方法は流星観測で実用化 されており、 TA 観測所で検証実験が行われている。 ELS の近くで 54.1MHz のマイクロ波を 送信する。それを 200 m 離れたとこ ろにあるアンテナでモニターしてお く。 ELS から電子ビームが放たれた 時にデータを取得し電子ビームによ り反射されたマイクロ波の強度を測 定している。 この測定では電子ビームにより反 射されたマイクロ波は検出されな かった。しかし、右図に示すように 電子ビームを大気中に放出したとき にはっきりとした信号をとらえてい る。この信号はビームを射出口でダ ンプさせると完全に消え、 54.1MHz のマイクロ波送信には影響を受けて いない。さらにビーム強度と信号強 度が強く依存していることも分かっ た。 南極の氷に検出器を沈め高エネルギーニュートリノの観測を行っている IceCube は拡張 計画として電波検出器を使うことを検討している。ニュートリノが引き起こす電磁カ スケードがアスカリアン効果により放出するマイクロ波を検出する計画で Askaryan Radio Array (ARA) と呼ばれている。この計画のため、氷の中での Askryan 効果を調べるた めに TA サイトに ARA の検出器を設置する実験が ARAcalTA である。 ELS の上に氷を設置し、そ こに電子ビームを照射す る。氷から放射されるマ イクロ波を測定している。 230~430MHz を測定する 小型アンテナをアンテナ タワーに固定していて、 氷の角度、アンテナの高 さを変えることにより放 射角と放射強度を測定で きる。 左図は測定結果を示していて、赤、 緑、青の実線は氷の仰角を 30, 45, 60 度にした時の放射強度を放射角 の関数で示している。点線はシ ミュレーションから期待される Askryan 効果による放射強度で、測 定値より一ケタ以上低い値になっ ている。この結果から測定された マイクロ波は電子ビームが氷に入 射するときに起こるトランジット 放射によるものと考えられる。黒 い実践は氷が無いときの測定値で、 これは電子ビームが大気に放出さ れることにより急激な電場の変化 が起こり放射されたマイクロ波で あると考えられる。 電子ビームから等方的に放射されるマイクロ 波の検出実験を行ったが、検出には至らな かった。この実験の中で電子ビームの射出口 の近くに 12.5GHz の受信機を置き電子ビームか らの測定を行った。この測定で、 ESL からのサ イラトロンノイズとともに射出口からの放射 が検出された。 受信機で検出されたマイク ロ波はアンプを通り検波器 により DC 変換され、オシロ スコープで測定される。上 の測定と同様にトリガー信 号は ELS から送られる。 左図受信機を電子ビーム 射出口に向けたときに検出 されたマイクロ波強度の時 間変化を示している。黒線 はビーム方向、青線はビー ムと垂直方向の偏波放射を 示している。両偏波方向と も ELS からでる電気ノイズ がはっきり見えている。電 子ビームが射出された時間 の波形を拡大すると電子 ビームの射出口から放出さ れる信号が検出されてるこ とがわかる。波形は電子 ビームの形と一致していて、 縦方向に強く偏波している。 ビームを射出口でファラ デーカップにダンプすると この信号は切れることが確 認されている。 空気シャワーからの電磁波放射を使った新しい宇宙線観測方法を開発するため電子 ビーム使った測定を行った。 Telescope Array 観測所にある電子加速器 ELS は大気中に 40MeV の電子ビームを放出し人工的に疑似空気シャワーを作り出すことができる。 そのエネルギーは 0.1 EeV の宇宙線に相当する。 空気シャワーは様々な過程を経てマイクロ波を放出するが、このマイクロ波を使っ た新しい観測方法を開発するため、いくつかの実験が行われている。ここで取り上 げているのは ① 空気シャワーが作るプラズマが反射するマイクロ波を検出する、 ② 空気シャワーがアスカリアン効果により氷のなかで放出するマイクロ波を検出する、 ③ 空気シャワー中の電子が電離により生じる低エネルギー電子が分子制動輻射によ り等方的に発するマイクロ波を検出する実験である。いずれも目的のマイクロ波の 検出には至っていない。 これらの実験の過程で電子ビーム射出口から広角度に放出されるマイクロ波が検出 された。この放射は sudden birth とか sudden appearance と呼ばれ、急激な電場の変 化により起こると考えられる。 実験は 54MHz から 12.5GHz まで広帯域にわたっており、放射角もビームと垂直な方向 にまで及んでいることが確認された。 この sudden birth 放射は 原理的に Transit radiation (TR) と同じ放射である。 TR は屈折 率の違う物質を荷電粒子が通貨するときに起こるが、 Sudden birth は荷電粒子が急激 に出現するときの放射である。空気シャワー中の電子の charge excess による TR はす でに確認さているが、今回の測定により Sudden birth が確認された。 実際の空気シャワーでは sudden birth と逆の減少が起こると考えられる。空気シャ ワーが地面に到達して電荷が消失するときにおきり、今回測定された放射と同じこ とが起こると考えられる。 現在この放射が空気シャワー観測に応用できるか検討している。放射がされていて も、地面からのマイクロ波放射を測定するのは技術的に検討を要する。 Telescope Array と粒子加速器 54.1MHz 測定 230~430 MHz 領域広帯域測定 まとめ・考察 12GHz 測定 V118c 日本天文学会@甲南大学