名古屋市立大学経済学部 川端ゼミ 2015年度中部経済学インターゼミ 2015年11月21日 南山大学 オリンピックの光と影 名古屋市立大学経済学部 川端ゼミ 2015年度中部経済学インターゼミ 2015年11月21日 南山大学
はじめに 2013年9月7日、2020年のオリンピックが東京で開催されることが決定し ました 現在メインスタジアムの費用等で問題となっている中で、私たちは過去の オリンピックの成功面と失敗面を振り返り、2020年東京オリンピックの行く 末を検討していく
第一章 過去のオリンピック 第二章 2020年東京オリンピック 1964年東京オリンピック 2000年シドニーオリンピック 第一章 過去のオリンピック 1964年東京オリンピック 2000年シドニーオリンピック 2004年アテネオリンピック 2008年北京オリンピック 2012年ロンドンオリンピック 第二章 2020年東京オリンピック
第一章 過去のオリンピック
1964年 東京オリンピック
東京オリンピック開催における背景 第18回東京オリンピックが開催された1964年は 第二次世界大戦から19年後 戦後の日本にとっての復興、国際社会への復帰を意味する
第18回東京オリンピック開催によるプラス面 1.インフラ整備 2.競技場等施設の建設 3.先進国としての復活
第18回東京オリンピック開催によるプラス面 1.インフラ整備 ・東海道新幹線の開業 ・東京モノレールの開業 ・首都高速道路、名神高速道路の整備 etc…
第18回東京オリンピック開催によるプラス面 2.競技場等施設の建設 ・国立競技場 ・日本武道館(建設費約20億円) ・国立競技場 ・日本武道館(建設費約20億円) ・ホテルニューオータニ etc… これらの施設は現在も有効に利用されている
第18回東京オリンピック開催によるプラス面 3.先進国としての復活 東京オリンピックの開催が決まったことで、それに先駆けて「経済協力 開発機構(OECD)」への加盟が認められる 第二次世界大戦敗戦後、再び先進国として復活したことを証明した
第18回東京オリンピック開催によるプラス面 その他にも… 競技施設や交通網の整備に多額の建設投資 競技や施設を見る旅行需要の喚起 カラーテレビの普及 ↓ オリンピック景気と呼ばれる好景気をもたらした
プラス面の一方で… 1965年にはオリンピック開催で公共事業は大幅に増えたが 翌年の公共事業が大幅に減り、 翌年の公共事業が大幅に減り、 「40年不況」と呼ばれる大型不況へ... ↓ 戦後初めて日本が赤字国債を発行することに
2000年 シドニーオリンピック
シドニーオリンピック ・2000年9月15日に開幕し、シドニーオリンピックパークをメイ ン舞台として10月1日まで行われた第27回大会 ・シドニーは南半球に位置しているため一年で最もさわやかで あり、雨が少なく平均気温も16度~20度といった理想的な環 境だった
シドニーオリンピック ・テーマは「環境」で太陽光発電や水の再利用、自然採光を 取り入れるデザインを採用するなど誘致運動当初から「環境 五輪(Green Games)」と称し環境問題に取り組んでいた ・招致時点ですでに複数の競技会場の建設が進められており、 環境改善策や生態系保存などをアピールしたことが招致の強み に
1995年オリンピック基本計画 2002年基本計画 2025年構想計画 2030年基本計画 1995年オリンピック基本計画 2002年基本計画 2025年構想計画 2030年基本計画
1995年オリンピック基本計画 ・1993年の招致決定後、開発計画として「1995年オリンピック基本計 画」を発表 ・各競技場や関連施設、環状線路や下水道・水利用設備などの建設・整 備について規定 ・整備資金調達はNSW州政府だけでなくBOOT方式により民間企業から も行いその負担額は3割である
BOOT方式 民間企業が州政府等に代わり公共施設を建設、またその所有権を取得 し自らの施設として運営を行い、その間の開発や運営のリスクを負いな がら一定期間後は州政府に所有権を譲渡する義務を負うという方式
2002年基本計画 ・2002年5月に策定されたもので7~10年間を見据えた中長期的な計 画 ・オリンピックパークの様々な利用形態とそのための土地活用承認を含 み、商業、教育、ホテルなど日常的に1万人の勤務者と3000人の住民 を受け入れられるようにするというビジョンが描かれた
2025年構想計画と2030年基本計画 ・2002年基本計画をさらに発展させ2005年に20ヶ年の計画として発表 されたのが「2025年構想計画」である。そして、これに基づき立案された ものが「2030年シドニーオリンピックパーク基本計画」である ・商業機能を駅の近くに集中させ新しい住居施設やコミュニティ利用にも それぞれ開発区域を割り当て、教育機関はスポーツ施設の近くに設置す るなどなど・・・
スタジアム・オーストラリア 建設費・・・660億円 BOOT方式が導入された 五輪後もラグビー等人気スポーツの開催地として利用
アクアティックセンター 1994年にオープンし、国際大会も開催されオリンピック競技場と もなったが子供も遊べるレジャープールやバーベキュー施設など もある ⇒オリンピック後も多くの人が利用
選手村 五輪後の活用を考え民間企業が建設した住宅を五輪中のみシドニーオリンピック組織委員会(SOCOG)が貸借するという形をとった 小学校、ショッピングセンターの建設等郊外の街として機能するよう工夫 村内住宅は太陽光発電設備を設けた
成功
一方で・・・ 2000年大会終了後パークの管理機関の設置や基本計画が実行される まで空白期間があったためオリンピックパークの利用を巡り「無用の長 物」とメディアから批判された。
ボランティア <活用分野> 案内や薬物検査、運転や通訳など約30種類以上 <年齢層内訳> ・五輪47000人、パラリンピック15000人と総勢62000人のボランティア が活用された <活用分野> 案内や薬物検査、運転や通訳など約30種類以上 <年齢層内訳> ・1人あたりの経費は$700(交通費は含まず) 年齢 18~24歳 25~34歳 35~44歳 45~54歳 55歳以上 % 24% 18% 22%
経済成長率 ・オリンピック開催翌年には 実質経済成長率の減少が 見られる ⇐オリンピックの需要はなく なり、企業の注文が減ったこ とによる景気の悪化
まとめ シドニーオリンピックが示したことは以下の二つ。 ・レガシー計画の重要性 ・ボランティアの活用
まとめ ・レガシー計画の重要性 ››アクアティックセンターや選手村のように五輪後も活用できるように開催 前から長期的なレガシー計画を立てることが大切 ››計画立案や管理を担当する機関を早めに設置すること、開催後の空白 期間を作らないことも重要 ››有形レガシーがイベントやプログラムといった無形レガシー誘致のきっ かけになるだけでなく、無形レガシーがさらなる有形レガシー推進のきっ かけになる場合もある
まとめ ・ボランティアの活用 ››シドニー五輪の成功は円滑にものを進めるためのボランティア運営の 成功によるところが大きいと言われている ››そのボランティア運営成功の理由は、人口の約17%が経験者、スポー ツに対する関心が高い国民性、英語圏であることが挙げられる
2004年 アテネオリンピック
アテネオリンピック(2004年) 2001年のユーロ加盟に続く歴史的偉業 「強いギリシャの復活」を目指し、国民は湧いた。 新たな競技施設、関連施設の建設 新空港の開業、地下鉄拡張など鉄道インフラの整備 1997年以降、実質GDP成長率は毎年3~4%が続き、五輪前年の 2003年には6%以上を記録 アテネ市のあるアッティカ県で労働力が12%増加
しかしながら・・・ オリンピック終了後に残ったツケは大きかった。 ・当初予算の2倍となった巨額の開催費(約1兆円以上)により財政悪化 ・施設のほとんどは使われなくなり、一部は廃墟化
ギリシャはもともと財政破綻の常連国だった 「ギリシャが財政危機に陥ったのは、アテネオリン オリンピックが不況をもたらした? というのも・・・ ギリシャはもともと財政破綻の常連国だった 1800年前後から第二次世界大戦後までの大半の期間を債務不履行 の状態 政府は非効率で徴税能力が低く、脱税が横行 「ギリシャが財政危機に陥ったのは、アテネオリン ピックだけに原因がある訳ではない」
とはいうものの、1990年代後半には、ユーロ導入に必要な基準を満たすた め、財政赤字削減に取り組んでいた・・・ しかし、オリンピック開催準備に伴い再び財政赤字拡大
オリンピックそのものがギリシャの財政危機の主因ではないものの・・・ もともとのギリシャ政府の体質が事態の悪化を招き、オリンピックという機 会を活かすことが出来なかった。 アテネオリンピック成功とは言えない
2008年 北京オリンピック
北京オリンピック(2008年) 競技場整備、基礎施設の建設、観光者の増加などの直接効果および 関連産業の需要増大などの間接効果を生み出した 直接の経済効果は約4兆7780億円、間接の経済効果は約10兆 2260億円に達したとされている 「社会主義」という特殊な体制を保ちながらの経済社会の発展をPRす ることに成功した
五輪会場 通称「鳥の巣」 建設費約513億円 奇抜なデザインで話題に しかし、この鳥の巣を含めた五輪会場は今ほとんど利用されていない
五輪会場 建設計画段階から五輪後の会場の再利用について 考慮されていなかった これらの原因としては、五輪会場が北京市中心部から15キロも 離れた郊外にあり、北京市民が利用できないため 建設計画段階から五輪後の会場の再利用について 考慮されていなかった
北京オリンピックの環境対策 北京オリンピックでは大気汚染対策として様々な政策が行われた 排ガス基準を満たしていない自動車の乗り入れ禁止 排出基準を満たしていない工場の操業停止 北京五輪会場の周辺にある街灯の8割に太陽光発電を利用 ⇒IOCも北京の大気は改善されたと評価
北京オリンピックの環境対策 ⇒現在でも中国の環境汚染問題は深化 しかしながら・・・ オリンピック後にこれらの規制は解除され、旧型の工場施設も操業を 再開し、結局はあまり環境対策にはならなかった ⇒現在でも中国の環境汚染問題は深化
北京と中国 北京オリンピックによって、2002年から2007年までのGDP成長率は 0.3~0.4%押し上げられたとされているが・・・ 北京オリンピックの経済効果は中国全体には広がっていない
北京オリンピック 将来や中国全体など、広い視野で みると必ずしも成功とは言えない 北京オリンピックはその時、その場所に限れば成功 しかし・・・ 将来や中国全体など、広い視野で みると必ずしも成功とは言えない
2012年 ロンドンオリンピック
ロンドンオリンピック 2012年開催 第30回大会 環境に配慮した「都市型オリンピック」 メインスタジアム 建設費 約900億円
オリンピック後財政赤字を縮小 ロンドンオリンピック 2012年:欧州債務危機のさなか…… 予算は当初の4倍 ←7割弱が政府負担 予算は当初の4倍 ←7割弱が政府負担 キャメロン首相の厳しい財政規律 オリンピック後財政赤字を縮小
ロンドンオリンピック 経済効果 全体 約1兆2474億円(99億ポンド) オリンピック関連活動に伴う販売増 59億ポンド 全体 約1兆2474億円(99億ポンド) オリンピック関連活動に伴う販売増 59億ポンド 海外からの投資増 25億ポンド 海外イベント等の契約増 15億ポンド
ロンドンオリンピック London (イングランドはロンドンを除く) 出典:Department for Culture, Media & Sport, Report5: Post-Games Evaluation: Meta-Evaluation of the Impacts and Legacy of the London 2012 Olympic Games and Paralympic Games: ECONOMY EVIDENCE BASE, 2013.7, p.153.
ロンドンオリンピック ロンドンだけにとどまっていない 出典:Department for Culture, Media & Sport, Report5: Post-Games Evaluation: Meta-Evaluation of the Impacts and Legacy of the London 2012 Olympic Games and Paralympic Games: ECONOMY EVIDENCE BASE, 2013.7, p.153.
ロンドンオリンピック すべての地域で増加 出典:山崎治 「オリンピックの経済効果を地方にまで普及させた英国」を基に作成
ロンドンオリンピック 以上から…… 経済効果は比較的広い範囲に及んだ!
ロンドンオリンピック なぜ地域的な広がり? ロンドン2012全国地域グループ 英国全土がオリンピックから受ける恩恵を最大化 英国全土がオリンピックから受ける恩恵を最大化 することを最終目標 情報提供による支援 「CompeteFor」 ウェブサイト活用 事前合宿の誘致
ロンドンオリンピック 「持続可能性(サステナビリティ)」 マネジメントシステム規格 ISO 20121 史上最も環境に優しい大会
第二章 2020年東京オリンピック
2013年9月7日2020年夏季オリンピック大会招致決定 2020年開催 第32回大会 基本コンセプト ・「すべての人が自己ベストを目指し」 ・「一人ひとりが互いを認め合い」 ・「そして、未来につなげよう」
東京五輪成功に向けた課題 国全体への影響 財政問題 施設の五輪後の活用
国全体への影響 ロンドン大会 国全体がオリンピックを意識し、経済効果は国全体に及んだ 北京大会 国全体がオリンピックを意識し、経済効果は国全体に及んだ 北京大会 広い国土の影響もあり北京一極集中のオリンピックとなった 東京は?
地方のPRが大事!! 観光 サッカー予選を除き、ほとんどの競技が東京で行われる ⇒直接的影響は東京以外には出にくい ⇒直接的影響は東京以外には出にくい 外国人だけでなく日本人も東京に集中する しかし、日本の交通機関は素晴らしい 地方のPRが大事!! 観光 キャンプ地招致
財政問題 アテネ大会 ⇒大会後、多くの施設は使われず、莫大な大会予算に対して政府が 無策だった ロンドン大会 ⇒大会後、多くの施設は使われず、莫大な大会予算に対して政府が 無策だった ロンドン大会 ⇒大会予算は当初の4倍になったが政府のしっかりとした財政対策 により赤字縮小 違いは歴然!
失敗国 ⇒ オリンピック成功最優先し財政を後回し 景気上向きは大会時のみ 成功国 ⇒ オリンピックと財政政策を平行 大会後の落ち込みはない
大会施設における綿密な事前計画が必要! 東京大会に向けた日本政府の対策は? 日本は財政赤字国 ⇒オリンピックで赤字を膨らませてはならない ⇒オリンピックで赤字を膨らませてはならない ⇒負のレガシーを残さない 大会施設における綿密な事前計画が必要!
施設の五輪後の活用 2020年東京オリンピック関連施設 選手村 ・晴海埠頭 競技場 ・ヘリテッジゾーン ・東京ベイゾーン ・武蔵野エリア ・晴海埠頭 競技場 ・ヘリテッジゾーン ・東京ベイゾーン ・武蔵野エリア ・東京郊外
過去のオリンピックではどうだったのか 1964年東京五輪 ⇒国立競技場や日本武道館などを大会後も有効に活用 シドニー五輪 ⇒国立競技場や日本武道館などを大会後も有効に活用 シドニー五輪 ⇒もともと利用されていた施設を使用し大会後も活用 ロンドン五輪 ⇒メインスタジアムを大会後に縮小し大会後も活用 アテネ五輪 ⇒大会後まったく活用されていない 北京五輪 ⇒市街地から離れた場所に建設し大会後に活用されていない
2020年東京大会の具体的対策は? 選手村 ⇒ 住宅に改装予定 ヘリテッジゾーン ⇒ 大会前と同じ用途で利用 対策万全 選手村 ⇒ 住宅に改装予定 ヘリテッジゾーン ⇒ 大会前と同じ用途で利用 対策万全 東京ベイゾーン ⇒ 収容人数を約半分に縮小 しかし、メインスタジアムの大会後の実用性に疑問があるなどレガシー についての問題は無くなってはいない
不明瞭な部分が多い メインスタジアムの大会後の計画は? 大会後はスポーツ競技会場やイベント会場として利用予定 →収入は38.4億円、支出は35.1億円 →年間3.3億円黒字見込み しかし、建設後50年間で約656億円の大規模改修費が必要 不明瞭な部分が多い
新国立競技場の予定建設費用は?
大会別メインスタジアム建設費比較 2000年 シドニーオリンピック スタジアム・オーストラリア 660億円 83500 2004年 開催年 大会 メインスタジアム 総工費(現在のレート) 収容能力(人) 2000年 シドニーオリンピック スタジアム・オーストラリア 660億円 83500 2004年 アテネオリンピック オリンピックスタジアム 355億円 75000 2008年 北京オリンピック 北京国家体育場 513億円 91000 2012年 ロンドンオリンピック 900億円 80000 2020年 東京オリンピック 新国立競技場 1550億円
東京オリンピックを成功させるために 東京だけでなく、地方も積極的にオリンピックを活 用する 大会施設における綿密な事前計画を立てる
参考文献 「五輪を起爆剤にできなかったギリシャの悲劇」 小林隆太郎 産経ニュースコラム 2012.6.30 「北京五輪の中国経済への中期的な影響」 みずほ研究所 <http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/research/r080801china.pdf> 中日経済情報週刊 <http://j.people.com.cn/weekly/20090720/jnew6-1.html> ZUU online <http://zuuonline.com/archives/3400/2> 「五輪を起爆剤にできなかったギリシャの悲劇」 小林隆太郎 産経ニュースコラム 2012.6.30 http://sankei.jp.msn.com/london2012/news/120630/clm12063008560000-n4.htm 「これがギリシャ危機のすべて」 岡田晃 マイナビニュースコラム 2015.8.11 http://news.mynavi.jp/column/greece/003/ 「オリンピックへの期待と不安 ~ギリシャの教訓から何を学ぶ~」 田中理 第一生命経済研レポート 2013.11 「オリンピックの経済効果を地方にまで波及させた英国」 山崎 治 <レファレンス 平成27年4月号> BSI(British Standards Institution)英国規格協会 <http://www.bsigroup.com/ja-JP/ISO20121/> JOC 日本オリンピック協会 <http://www.joc.or.jp/>
参考文献 『アジアの経済的活力の拡大』経済産業省http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2006/2006honbun/html/i212100.html 本間 恵子(2015)『シドニーオリンピックパークに見る有形と無形のレガシー:2000年シドニー大会がもたらしたもの』笹川スポーツ財団 http://www.ssf.or.jp/research/international/spioc/au/sportnews06.html 『シドニー五輪の概況と波及効果』財団法人自治体国際化協会 http://www.clair.or.jp/j/forum/c_report/pdf/237-1.pdf 日本武道館officialhttp://www.nipponbudokan.or.jp/about/about.html