北日本における4月と8月気温の強い相関関係とその時間変動(2)

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北日本における4月と8月気温の強い相関関係とその時間変動(2) (独)農業・食品産業技術総合研究機構  東北農業研究センター 菅野洋光

目的 北日本の農業にとって、作付時期の春と生長・稔実時期の夏の気温は非常に重要である。しかしながら、近年、夏季の気温変動が大きく、冷夏や暑夏が頻発している。冷害や高温による米の品質低下が発生し、気温の変動要因の把握が重要である。 2010年は春の気温が低く、高温の夏とあわせて極端な季節変化となった。それら春と夏の気温について、季節変動の規則性の観点から統計的に検討する。

データと方法 北日本の平均気温偏差は、東北と北海道の気象官署月平均気温偏差を平均して求めた。 平年値は全期間に1981年~2010年平年値を用いている。 客観解析データはJRA25を用いた。 各季節、月の平均値でそれぞれの相関関係を検討し、特に関係の明瞭な4月と8月の事例を中心に客観解析データを用いて解析した。

Table 1 北日本における各月平均気温の最新13年間相関係数 (1999~2011).スクリーンは5%有意を示す.

北日本における4月と6~9月の13年移動相関係数の時間変化(1950~2011).破線は5%有意を示す.

北日本における4月と8月気温および両者の13年移動相関係数の時間変化(1950~2011).破線は5%有意を示す.

1998年以降の4月と8月気温偏差散布図を図1に示す。4月と8月気温偏差は、傾き約-1. 1の直線に回帰され、14年間の相関係数は-0 1998年以降の4月と8月気温偏差散布図を図1に示す。4月と8月気温偏差は、傾き約-1.1の直線に回帰され、14年間の相関係数は-0.83である。両月とも0に近い事例はほとんど無く、直線の両端付近に値が集中している。すなわち、4月低温→8月高温もしくは4月高温→8月低温の組み合わせが大多数で、両月とも平年並み気温の年は1998年以降ほとんど無い。 4月と8月気温の散布図(1998年~2011年)

北日本における8月平均気温偏差と先行する4月の200hPa高度との相関係数分布(1998~2011年).陰影域は危険率5%未満で統計的に有意.

200hPa高度主成分分析結果 (計算領域:北緯20~70°, 東経0°~西経120°) (計算領域:北緯20~70°, 東経0°~西経120°) April Importance of components: PC1 PC2 PC3 PC4 PC5 Standard deviation 2678.2791 1988.8962 1786.6569 1751.3143 1.416e+03 Proportion of Variance 0.2529 0.1394 0.1125 0.1081 7.069e-02 Cumulative Proportion 0.2529 0.3923 0.5048 0.6129 6.836e-01 PC2: R between NJT(1999-2011) Apr : r=0.627233 Aug: r= -0.57532 August Importance of components: PC1 PC2 PC3 PC4 PC5 Standard deviation 1616.2517 1577.5654 1517.0735 1.290e+03 1.203e+03 Proportion of Variance 0.1536 0.1463 0.1353 9.779e-02 8.502e-02 Cumulative Proportion 0.1536 0.2999 0.4352 5.330e-01 6.180e-01 PC3: R between NJT(1999-2011) Apr : r=-0.79726 Aug: r=0.694166

200hPaにおける4月第2主成分と(AprPC2)と8月第3主成分(AugPC3)の時間変化、およびAprPC2とAugPC3の13年移動相関係数と4月8月気温の13年移動相関係数. つぎに、各高度場に主成分分析を行い、得られた主成分と北日本4月8月気温との相関、4月と8月の時間相関をみた。その結果、200hPaの4月第2主成分(AprPC2、寄与率13.94%)と8月の第3主成分(AugPC3、13.53%)がそれらをよく説明していた(AprPC2は北日本4月気温と1999~2011年の13年間でr=0.62、AugPC3は8月気温とr=0.69)。AprPC2とAugPC3の13年移動相関係数を見ると、1990年代終わり以降、有意な負の相関を示し、4月8月気温の時間変動とも良く一致している(図2)。

AprEOF2とAugEOF3の分布.単位はm. 図3には200hPa高度の回帰計算結果を示す。AprEOF2、AugEOF3ともヨーロッパに中心があり、4月では逆符号、8月では正符号で日本付近に連なっているように見える。またSSTとの回帰計算結果では、8月に日本付近での変動と同時にENSO様の分布とも対応していた(図は当日示す)。以上より、これらのモードの1990年代末以降の同時的変動が、前線帯の位置および寒気の南下、それによる北日本気温変動に影響を及ぼしていると考えられる。 AprEOF2とAugEOF3の分布.単位はm.

200hPaにおけるu成分のAprEOF2とAugEOF3の時系列による回帰計算結果.

北日本における8月平均気温偏差と先行する4月の200hPa-u成分との相関係数分布(1998~2011年)とu成分の平年値.相関係数は着色域の危険率5%未満で統計的に有意なもののみ示す.

北日本における8月平均気温偏差と先行する4月の850hPa気温との相関係数分布(1998~2011年).

SSTとAugEOF3の時系列による回帰計算結果. またSSTとの回帰計算結果では、8月に日本付近での変動と同時にENSO様の分布とも対応していた。 SSTとAugEOF3の時系列による回帰計算結果.

まとめ   AprEOF2、AugEOF3ともヨーロッパに中心があり、4月では逆符号、8月では正符号で日本付近に連なっているように見える。またSSTとの回帰計算結果では、8月に日本付近での変動と同時にENSO様の分布とも対応している。これらのモードの1990年代末以降の同時的変動が、前線帯の位置および寒気の南下、それによる北日本気温変動に影響を及ぼしていると考えられる。