組合せ最適化の地平 Combinatorial Optimization: A Tour d’Horizon

Slides:



Advertisements
Similar presentations
組合せ最適化輪講 2.3 連結性 川原 純. 2.3 連結性 内容 – グラフ上の節点をすべてたどるアルゴリズム 計算機上でのグラフの表現 – 強連結成分を求めるアルゴリズム トポロジカル順序を求める方法も – k- 連結、 k- 辺連結について – 2- 連結グラフの耳分解について.
Advertisements

フロンティア法 - 組合せ問題の解を列挙索引化するZDD構築アルゴリズム
到着時刻と燃料消費量を同時に最適化する船速・航路計画
凸関数じゃないですか (最大値/最小値を求める問題) 目的関数を固定する (最大値/最小値を最小/最大化する問題)
ネットワーク理論講義補助資料 Text. 組合せ最適化とアルゴリズム 4.5 節 主・双対法 pp
データ構造と アルゴリズム 第十二回 知能情報学部 知能情報学科 新田直也.
フロンティア法 - 組合せ問題の解を列挙索引化するZDD構築アルゴリズム
近似アルゴリズム 第10章 終了時刻最小化スケジューリング
第4章 Matching(後半) 情報学研究科 湯浅研究室M1 藤川浩光.
    有限幾何学        第8回.
曲面上のグラフの彩色 ~種数の増加,面の制限及び局所平面性~
組合せ最適化問題と厳密解法 最小木、ナップサック問題、ビンパッキング、巡回セールスマン問題 LPによる上界・下界 分枝限定法
ネットワーク理論 Text. Part 3 pp 最短路問題 pp 最大流問題 pp.85-94
群論とルービックキューブ 白柳研究室  水野貴裕.
整数計画法を用いた スリザーリンクの解法 杉村 由花 (東京大学)
An Algorithm for Enumerating Maximal Matchings of a Graph
計算の理論 II NP完全 月曜4校時 大月美佳.
組合せ最適化 輪講 第1回 ERATO研究員 川原 純.
Extremal Combinatrics Chapter 4
Approximation of k-Set Cover by Semi-Local Optimization
Reed-Solomon 符号と擬似ランダム性
JAG Regional Practice Contest 2012 問題C: Median Tree
論理式の表現を数学的に取り扱いやすくするために代数学の助けを借りる.
「基礎OR」/「OR演習」 第3回 10/13/2009 森戸 晋.
整数計画法を用いた ペグソリティアの解法 ver. 2.1
データ構造と アルゴリズム 第二回 知能情報学部 新田直也.
9.NP完全問題とNP困難問題.
点素パス問題に対するアルゴリズム 小林 佑輔 東京大学 大学院情報理工学系研究科 組合せ最適化セミナー 2012 年 7月 13日
第 七 回 双対問題とその解法 山梨大学.
宇野 毅明 国立情報学研究所 2002年3月 東北大大学院 情報科学研究科ワークショップ
最大最小性, 双対性 min-max property duality
5.5 The Linear Arboricity of Graphs (グラフの線形樹化数)
3次元剛体運動の理論と シミュレーション技法
A First Course in Combinatorial Optimization Chapter 3(前半)
シャノンのスイッチングゲームにおけるペアリング戦略について
点素パス問題に対するアルゴリズム 小林 佑輔 東京大学 大学院情報理工学系研究科 組合せ最適化セミナー 2012 年 7月 13日
遺伝的アルゴリズムへの 統計力学的アプローチ 大阪大学 大学院理学研究科 鈴木譲 CISJ2005 於早稲田大学理工学部
第25章 単一始点最短路 3節 Bellman-Fordのアルゴリズム
ネットワーク上での社会的効用と個人的効用の対立問題に対するアルゴリズム的研究
ネットワーク理論 Text. Part 3 pp 最短路問題 pp 最大流問題 pp.85-94
確率伝搬法と量子系の平均場理論 田中和之 東北大学大学院情報科学研究科
第3回 アルゴリズムと計算量 2019/2/24.
計算量理論 1. マトロイドと貪欲アルゴリズム 1. Matroids and the Greedy Algorithm
量子系における 確率推論の平均場理論 田中和之 東北大学大学院情報科学研究科
b f c a d e g h a b c d e f g 図1 図2 2012年度 有限幾何学 期末試験
計算量理論輪講 chap5-3 M1 高井唯史.
計算の理論 II 言語とクラス 月曜4校時 大月美佳.
A First Course in Combinatorial Optimization Chapter
First Course in Combinatorial Optimization
連続領域におけるファジィ制約充足問題の 反復改善アルゴリズムによる解法 Solving by heuristic repair Algorithm of the Fuzzy Constraint Satisfaction Problems with Continuous Domains 北海道大学.
First Course in Combinatorial Optimization
東北大学 大学院情報科学研究科 応用情報科学専攻 田中 和之(Kazuyuki Tanaka)
14. The Basic Method M1 太田圭亮 14.3 Spaces of polynomials
ナップサック問題 クマさん人形をめぐる熱いドラマの結末.
第4章 データ構造 p.82 [誤] ハミルトニアン経路問題  [正] ハミルトン閉路問題 p.82,83 [誤] セールスパーソン問題
東京大学大学院工学系研究科 計数工学専攻 松井知己
第16章 動的計画法 アルゴリズムイントロダクション.
直並列グラフの連続多重彩色 西関研究室 吉田進太郎.
離散数学 06. グラフ 序論 五島.
Max Cut and the Smallest Eigenvalue 論文紹介
A02 計算理論的設計による知識抽出モデルに関する研究
統計力学と情報処理 ---自由エネルギーの生み出す新しい情報処理技術--- 2003年8月14日前半
離散数学 11. その他のアルゴリズム 五島.
13.近似アルゴリズム.
第4章 空間解析 2.ネットワーク分析 (2) 最大流問題
点素パス問題に対するアルゴリズム 小林 佑輔 東京大学 大学院情報理工学系研究科 組合せ最適化セミナー 2012 年 7月 13日
東京工業大学情報理工学研究科 小島政和 第1回横幹連合コンファレンス 2005年11月25,26日 JA 長野県ビル
グラフの帯域幅連続多重彩色 を求めるアルゴリズム (Bandwidth Consective Multicolorings of Graphs) 西関研究室 西川和秀.
京都大学 情報学研究科 通信情報システム専攻 高田智史 joint work with 伊藤大雄 中村義作
Time Reversal E-Text: pp.80-83(PDF: pp.49-50) FM08002 太神 諭
Presentation transcript:

組合せ最適化の地平 Combinatorial Optimization: A Tour d’Horizon 岩田 覚 (京都大学数理解析研究所) 2006 年 11月 18 日 名古屋大学

組合せ最適化と計算量理論 実用上現れる多くの組合せ最適化問題は, 次の3種類のいずれか. 簡単に多項式時間アルゴリズムが作れる.  実用上現れる多くの組合せ最適化問題は, 次の3種類のいずれか. 簡単に多項式時間アルゴリズムが作れる. 容易にNP困難性が示せる. ネットワーク・フロー問題に帰着できる.

独立偶因子問題 Satoru Iwata and Kenjiro Takazawa: The Independent Even Factor Problem, SODA’07 高澤兼二郎 (東京大学,M2)

本研究の位置づけ マッチング マトロイド 交叉 偶因子 独立偶因子 ・最大最小定理 ・多項式時間算法 ・最大最小定理 [Edmonds ’70] ・多項式時間算法 [冨澤 & 伊理 ’74, Lawler ’75, Edmonds ’79] 本研究の位置づけ ・最大最小定理 [Tutte ’47, Berge ’58] ・多項式時間算法 [Edmonds ’65] マッチング マトロイド 交叉 ・最大最小定理 [Cunningham & Geelen ’01] ・多項式時間算法 [Pap ’05] 本研究 偶因子 ・最大最小定理 ・多項式時間算法 独立偶因子

マッチング 無向グラフ G = (V, E) 定義 M⊆E が マッチング M は枝の点素な集まり 2 max{|マッチング|} V X Tutte-Berge 公式 2 max{|マッチング|}

定義 (Cunningham and Geelen ’01) 偶因子 (even factor) 有向グラフ 定義 (Cunningham and Geelen ’01) が 偶因子 有向パス 有向偶閉路 M は の 点素な集まり

最大マッチングの一般化 : 無向グラフ からの対称グラフ (両方向に枝) 2 | の最大マッチング| = | の最大偶因子|

偶因子の先行研究 Pap ’05 奇閉路対称グラフにおける多項式時間算法 Cunningham & Geelen ’01 ・ 導入 ・ 一般には NP 困難 ・ 特定のクラスにおける 最大最小定理 多項式時間算法 Pap ’05 奇閉路対称グラフにおける多項式時間算法 ∀奇閉路が逆向き閉路をもつ

偶因子の最大最小定理 = max{|偶因子|} Cunningham & Geelen ’01 G = (V, A): 奇閉路対称 安定対 ・対称グラフで X+ = X- とすると Tutte-Berge 公式を導出 ・ 安定対 は, X+ = X- を含むクラス odd(X) X

アルゴリズム: 増加道 Pap ’05

アルゴリズム: 奇閉路 の 縮約 Pap ’05

奇閉路 の 展開 逆向き枝をもつ

マトロイド 有限集合 V, 部分集合族 ⊆ 2V マトロイド M = (V, ) の公理 [Whitney ’35] 階数関数 例 ・ グラフ的マトロイド: V = 枝集合, = {G の森}

マトロイド 交叉 マトロイド 最大 共通独立集合 例 ・ 二部グラフのマッチング ・ 根付有向木のパッキング ・ 混合行列 × 一般グラフのマッチング

マトロイド 交叉の最大最小定理 [Edmonds ’70] M+ = (V, ), M- = (V, ) =

マトロイド 交叉 アルゴリズム a a b b c d d e e f f

独立偶因子 有向グラフ マトロイド が独立偶因子 M が偶因子 a b c 定義 d e g f 基底偶因子 [Cunningham & Geelen ’01] 偶因子・マトロイドインターセクション 両方を使うアルゴリズム

偶因子 マトロイド 交叉 の拡張 ⇔ {b, c, e} ∈ M が独立偶因子 が自由マトロイド → 偶因子 a a b b c c d d f f

独立偶因子の最大最小定理 = max{|独立偶因子|} ・自由マトロイドなら偶因子と同じ ・ とすると, G = (V, A): 奇閉路対称; max{|独立偶因子|} = 安定対 ・自由マトロイドなら偶因子と同じ a b c d e f ・ とすると,

独立偶因子アルゴリズム j a b c d e f g h i Shrink w g h i a b c d

Shrink 後のマトロイド ・Expand ができるための自然な定義 ・マトロイドの公理をみたす V V w w

アルゴリズムの特徴 マトロイドに対する新しい演算: “Shrink” 最大最小定理の構成的証明 計算量 O(n4Q) [n = 頂点数, Q = 独立性判定] Edmonds-Gallai 分解 [マッチング] 基本分割 [マトロイド交叉] 共通の拡張

まとめ 本研究 組合せ的 独立偶因子 アルゴリズム 課題 重みつき 独立偶因子 アルゴリズム Cunningham & Geelen ’01      組合せ的 独立偶因子 アルゴリズム 課題      重みつき 独立偶因子 アルゴリズム Let me conclude my talk. We have presented a combinatorial algorithm for independent even factors that combines the matching algorithm and the matroid intersection algorithm. As for future works, we intend to devise a weighted version of this algorithm. In fact, Cunningham and Geelen proposed a weighted basic even factor algorithm, by reducing the problem to valuated matroid intersection. However, we think we can extend our approach to obtain a simpler algorithm. Cunningham & Geelen ’01 付値マトロイドインターセクション [Murota ’96] に帰着

理想クラッターの 分数パッキング Yuji Matsuoka: Fractional Packing in Ideal Clutters, SODA’07 松岡祐治 (東京大学,D1)

クラッターの例 (st-パスとst-カット) 入口 出口 入口 出口 ⇒ 任意のst-パスと任意のst-カットは必ず交わる

st‐パスのパッキング 重複度 4 重複度 2 3 6 入口 出口 8 重複度 3 4 6 最大パッキングの大きさ:9

st‐パスのパッキング 重複度 4 3 6 重複度 2 出口 入口 8 4 6 重複度 3 最大パッキングの大きさ:9

st‐パスのパッキング 重複度 4 3 6 重複度 2 出口 入口 8 4 6 重複度 3 最大パッキングの大きさ:9 定理 [Ford-Fulkerson, 1962] (最小st‐カット) = (st-パスの最大パッキングの大きさ)

クラッターとパッキング 有限集合  の各要素間に 包含関係がない クラッター パッキング パッキングの大きさ

クラッターとブロッカー クラッター   全ての  の要素と 交わる極小集合の全体 のブロッカー

MFMCクラッターと理想クラッター クラッター ブロッカー MFMCクラッター 最大整数パッキングの大きさ, 理想クラッター 最大分数パッキングの大きさ,

クラッターの例(ダイジョインとダイカット) 逆向きの枝を付けるとグラフが強連結になる枝集合 ダイジョイン ダイカット ⇒ 任意のダイジョインと任意のダイカットは必ず交わる

ダイジョインのパッキング 重複度 4 6 5 4 2 8 重複度 2 最大パッキングの大きさ:6

ダイジョインのパッキング 重複度 4 6 5 4 2 8 重複度 2 最小ダイカットの容量:6 最大パッキングの大きさ:6

ダイジョインのパッキング ? 重複度 4 6 5 4 2 8 重複度 2 最小ダイカットの容量:6 最大パッキングの大きさ:6 予想: (最小ダイカット) = (ダイジョインの最大整数パッキング) ?

Schrijverの反例 2 = 最小ダイカット ≠ 最大整数パッキング = 1 太い枝は容量1, 細い枝は容量0

ダイジョインのパッキング 重複度 4 6 5 4 2 8 重複度 2 最小ダイカットの容量:6 最大パッキングの大きさ:6 定理[Schrijver 1980] (最小ダイカット) ≠ (ダイジョインの最大整数パッキング)

ダイジョインのパッキング 重複度 4 6 5 4 2 8 重複度 2 最小ダイカットの容量:6 最大パッキングの大きさ:6 定理[Schrijver 1980] (最小ダイカット) ≠ (ダイジョインの最大整数パッキング) 定理[Lucchesi-Younger 1978] (最小ダイカット) = (ダイジョインの最大分数パッキング)

ダイジョインのパッキング 重複度 4 6 5 4 2 8 重複度 2 最小ダイカットの容量:6 最大パッキングの大きさ:6 MFMCでない 定理 [Schrijver 1980] (最小ダイカット) ≠ (ダイジョインの最大整数パッキング) 理想的 定理 [Lucchesi-Younger 1978] (最小ダイカット) = (ダイジョインの最大分数パッキング)

クラッターの例(全域木とカット) 全域木 カット ⇒ 任意の全域木と任意のカットは必ず交わる

全域木のパッキング 重複度 1 2 重複度 1 重複度 1 最大パッキングの大きさ:3

全域木のパッキング 重複度 1 2 重複度 1 重複度 1 最小カットの容量:4 最大パッキングの大きさ:3

全域木のパッキング 重複度 1 2 重複度 1 重複度 1 最小カットの容量:4 最大パッキングの大きさ:3 注: (最小カット) ≠ (最大分数パッキングの大きさ)

全域木のパッキング 重複度 1 2 重複度 1 重複度 1 最小カットの容量:4 最大パッキングの大きさ:3 理想的でない 注: (最小カット) ≠ (最大分数パッキングの大きさ)

クラッターの分類 クラッター ブロッカー MF MC 理想 最大最小定理 パッキング st-パス st-カット ○ Ford-Fulkerson (1962) 最大流算法 r-有向木 r-カット Edmonds (1973) Gabow & Manu (1998) T-ジョイン T-カット × Edmonds & Johnson (1973) Barahona (2004) ダイジョイン ダイカット Lucchesi & Younger (1978) 全域木 カット 松岡 (2007)

理想クラッターの分数パッキング 簡単のためにダイジョインのパッキングで説明. グラフ上の議論を必要としないことに注意. D=(V,A): 有向グラフ, w: 辺の容量. n= |V|, m=|A|. λ(w): 容量 w に関する最小ダイカット値.

多面体を導入

多面体を導入

多面体を導入

ダイジョインの分数パッキング ダイジョインの分数パッキング 最小ダイカット問題 双対 ○最小ダイカットは効率的に計算できるが,   ダイジョインの分数パッキングは与えない. ○最小ダイジョインも効率的に計算できる. ⇒ 両アルゴリズムをサブルーチンとすることで、    ダイジョインの最大分数パッキングを計算する.

問題の変形 分数パッキング 等価な問題

問題の変形 分数パッキング 等価な問題 最小ダイカットを 解けば求まる

問題のイメージ 解くべき問題 × +

結合係数の定め方

結合係数の定め方

結合係数の定め方

結合係数の定め方 ⇒ 点の乗る面の次元が下がる

結合係数の定め方

結合係数の定め方 ⇒ 点の乗る面の次元が下がる

結合係数の定め方 必要な手続き: ①どうやって面上の点を取るか? ②壁とのぶつかりの判定 ⇒ 点の乗る面の次元が下がる

アルゴリズムの概要 ⇒ 最小ダイジョインの計算1回 ⇒ 最小ダイカットの計算 m 回

一般化 イデアルクラッター H=(A,E), ブロッカー b(H)=(A,F). 分数パッキング問題: ダイジョイン イデアルクラッター H=(A,E),   ブロッカー b(H)=(A,F). 分数パッキング問題: 以下の二つの最小化問題をオラクルとする解法. ダイカット O(m) 回 O(m^2) 回

まとめ 本研究 理想クラッターにおける分数パッキング問題に対する効率的な汎用解法の開発. 課題 完全クラッターにおける整数カバリング問題に パーフェクト・グラフの彩色アルゴリズム 最大安定集合・最大クリークをn回計算

次世代研究者の育成に向けて 垣村尚徳 (D2) Sign-LP, LCP, 定性的行列理論 小市俊悟 (D2) 分子構造符号化,系統樹解析 高澤兼二郎(M2) マッチング,マトロイド,偶因子 高松瑞代  (M2) 行列束,微分代数方程式 小林佑輔  (M2) Jump System, Disjoint Paths