重力波でみる 7億光年先の宇宙 地下大型重力波検出器LCGT計画の始動 東京大学宇宙線研究所 宮川 治 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 東京大学宇宙線研究所 宮川 治 3km 3km
重力波検出=超精密計測 日本の重力波グループの15年越しの悲願であった大型重力波検出器LCGTの建設が始まる 神岡鉱山内に設置される基線長3kmの低温レーザー干渉計 重力波検出=超精密計測 重力波検出を目指し、重力波天文学を創設 3km 3km
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 アインシュタインの予言:重力波 一般相対性理論 (1916): 時空の曲率 物質とエネルギー 非対称な質量の急激な変化による、波として光の速度で伝わる時空のひずみ 重力波が存在する!! 連星中性子や ブラックホールの合体 超新星爆発 パルサー 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
連星中性子やブラックホールの 合体からの重力波 合体の様子 重力波の 波形 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 重力波って本当にあるの? ハルスとテーラーによる連星パルサーの軌道変化による重力波の間接的存在証明 一秒間に17回も回転するパルサー 公転周期は8時間 太陽系から7 kpc しか離れていない 1975年に発見され、その公転周期が25年以上も観測され続けている 周期が1975年から1994年で14秒早くなった 重力波の放射エネルギーに一致 1993年ノーベル賞受賞 PSR 1913 + 16 -- Timing of pulsars ● 17 / sec ~ 8 hr ● 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 どうやって重力波を測る? 重力波がやってくる 空間が伸び縮みする 長さの変化を測ってやればよい 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 どれくらいの大きさのものを見るの? 0.0000000000000000001mのものを見ます 19個 太陽から地球上の原子一個を見分けるくらいの精度 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 初期の試み:共振型重力波検出器 1966年 Joseph Weber は最初の共振型重力波検出器を開発。1969年までに感度は h =10-16に到達。 共振型重力波検出器: 真空中につられた棒状の巨大なアルミニウムに重力波が入射すると、そのアルミニウム共振周波数と同じ周波数の重力波が増幅されて信号に現れる。 問題点: アルミ棒と同じ共振周波数の重力波しか検出できない。そのため重力波の波形がわからない。 Weberは1969年重力波が検出できたと発表した。しかし現在ではそれは誤りで、検出器のノイズだったと考えられている。 GW wave Aluminum bar 共鳴型アンテナでは現実の重力波検出は不可能と考えられていて、現在ではレーザー干渉計型検出器にその主役を譲っている。 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 レーザー干渉計を使った重力波検出 光の重ね合わせ(干渉) 明るい + = + = 重力波が到達すると自由質点である鏡を差動に揺らす 両腕の微小距離の変化を光の明暗で測定 暗い 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 さらに感度を上げるために 光検出器側を暗く(Dark port)するように鏡の位置に制御をかける Bright port Dark port 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 検出器の腕を長くするために 光を折り返す! シンプル、光を通す小さな穴の空いた大きな鏡が必要、光の散乱が問題 コンパクト、制御が困難 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
なぜ長いと得なのか? 長ければ長い程いい! 重力波がやってくると干渉計の腕の長さをある割合で変化させるので 重力波検出器の性能は「何%の変化が見える」と表される 例えば1%の長さの変化が見える検出器を使うと ・1mのものを見れば1cmの変化を見ればよい ・1mmのものを見れば10ミクロンの変化を見なければならない ・1kmのものを見ればその変化は10mにもなる 長ければ長い程いい! 実際には 0.00000000000000000000001=10-23 の変化が見えるLCGTは、3kmの長さがあるので 0.00000000000000000003m=3x10-20m の長さの変化になって現れる 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 干渉計光学設定の発展 Michelson interferometer (MI) Fabry-Perot MI (FPMI) ショットノイズを下げるため検出器側をダークに保つよう制御 Fabry-Perot caivtyを用い、腕で光を折り返し光路長をかせぐ Power recycling (PRFPMI) Dual recycling (DR) Dark Port側の重力波シグナルを打ち返し増幅する(Signal Recycling)、もしくは引き出しバンド幅を増やす(Resonant Sideband Extraction) Bright Port側の光を再び打ち返し、実効的な内部パワーを上げる 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 重力波を作ってみよう 1トンの重りを2m離して1秒間に100回まわしてみよう どれくらいの大きさの重力波が出るだろうか? 2m 103 kg 103 kg M = 103 kg R = 1 m F = 100 Hz r = 1 m 10-36 !! (検出限界10-23に比べて13桁も小さすぎる) 地球上での重力波源では小さすぎる!! ならば遠くても質量のとてつもなく大きい天体現象に頼らざるを得ない 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 CLIO:プロトタイプ重力波検出器 基線長100mの低温レーザー干渉計 岐阜県神岡鉱山に設置されたLCGTのプロトタイプ 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 CLIOの感度: 超精密測定 重力波測定は 微小ノイズとの戦い 低い周波数(ゆっくりした揺れ)は地面が揺れることで、鏡が揺らされる 真ん中の周波数は振り子や鏡が300kの熱を持っていることによる熱振動が見えている 高い周波数は、光の粒子性に依る物で、光検出器に入る光子数は常に一定というわけでなく、統計的な揺らぎがあり、その揺らぎがノイズになる 振り子系 熱雑音 鏡の 熱雑音 P~100mW Shot Noise + RF強度雑音 不明 地面振動 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 様々な雑音源 様々な雑音を下げていって、ようやく重力波が残る 地面振動 振り子熱雑音 鏡熱雑音 散射雑音 レーザー周波数雑音 レーザー強度雑音 RF強度雑音 検出器雑音 制御回路雑音 フィルター回路雑音 コイル回路雑音 その他にも 鏡角度揺れ雑音 発信器位相雑音 真空密度揺らぎ Etc. 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 鏡の冷却 反射鏡 地面振動が大変小さい神岡の地下は重力波観測に最適である。それでも究極には、ミクロのレベルでの鏡の中の分子の熱運動が問題になる。つまり熱運動によってわずかに鏡の表面がゆらぎ、それが空間の揺らぎと区別できなくなる。 分子運動で鏡の表面がわずかに揺らぐ。 鏡をマイナス253度以下(絶対温度で20度以下)に冷やして熱運動を押さえる。 非常に困難な技術開発を必要としたが、10年にわたる開発研究で可能となった。 分子 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
腕を長くする! 1年に何回かは見つかるはずだ! 例えば腕の長さを10倍にして、感度を10倍にすれば 10倍遠くの物まで見える 今のCLIOでは我々が住んでいる銀河系内(100kパーセク程度)の 重力波イベントを検出できる位の感度はある ところが、我々の銀河系内で、例えば超新星爆発が起きる確立は 100年に1回程度で、とてもじゃないが待っていられない 例えば腕の長さを10倍にして、感度を10倍にすれば 10倍遠くの物まで見える 10倍遠くなので、体積で考えると1000倍の宇宙空間を探ることができる 100年に1回がの確立が1000倍なら… 1年に何回かは見つかるはずだ! 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
3kmの地下大型干渉計LCGT (1) 世界初の重力波の直接検出 (2) 重力波天文学の創成 地下に建設 低地面振動による安定動作 (2) 低温鏡と懸架装置 熱雑音の低減 3kmの地下大型干渉計LCGT (1) 世界初の重力波の直接検出 (2) 重力波天文学の創成 岐阜県飛騨市神岡町 (神岡鉱山跡地)
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 LCGTの感度 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 LCGT の目標感度(コンパクト星連星合体) ~7億光年 年数回のイベントレートが期待される 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 感度を上げる工夫:防振装置 レーザー干渉計の防振装置と鏡(模式図) 鏡 防振装置 鏡の振動を小さくすればそれだけ感度が向上する 地面の振動を防振装置で防ぐ 地面の振動が少ない地下(神岡)に装置を設置する 鏡の重さを大きくして雑音の力に対して動きにくくする 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
感度を上げる工夫:ハイパワーレーザー 100Wクラス注入同期用スレーブレーザー 干渉した光の強弱を読み取る精度を上げれば感度が向上する できるだけ強力なレーザーを使う HR with piezo Laser module 1 Brewster window Laser module 2 Output Coupler 100Wクラス注入同期用スレーブレーザー 24
感度を上げる工夫:干渉計応答の増幅
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 デジタルシステムを利用した干渉計制御 Client system Network analyzer Oscilloscope FFT Real time PC Anti Imaging filters ユーザーインターフェース Anti Alias filters 自動制御装置 ADC/DAC 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 LCGTの到達感度 TAMA in 2008 (improved after installation of SAS) 300 m arm length CLIO at cryo temperature, 2010/3/7 100 m arm length LIGO 4 km CLIO limit by room temperature LCGT design, 3 km 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治
世界の重力波望遠鏡ネットワーク LCGT GEO 日本:4km、地下 独•英:600m LIGO Hanford Virgo 米国:4km LIGO Livingston AIGO 伊•仏:3km 米国:4km 豪:80m
2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治 まとめ 重力波の検出により、アインシュタインの一般相対性理論の検証ができる 重力波の観測は新しい天文学の手段であり従来の観測を補って宇宙のなぞに迫る 日本独自の技術を集大成した低温大型レーザー干渉計型重力波検出器LCGTの建設が間もなく始まる 7億光年先の重力波を神岡の地下から捉え、重力波天文学という分野を作り出す 2010/10/15 第3回『アインシュタインの物理』でリンクする研究・教育拠点研究会 宮川 治