法務部・知的財産部のための 民事訴訟法セミナー 関西大学法学部教授 栗田 隆 第9回 審理
第9回 口頭弁論の意義 弁論主義 専門家の協力(専門委員と知的財産調査官) 審理の計画 口頭弁論における裁判所の役割 攻撃防御方法 準備書面 当事者照会 争点整理手続 自由心証主義・証明責任 T. Kurita
手続の流れ 訴え 弁論準備手続(168条以下) 審理(対審) =口頭弁論 進行協議期日(規則95条以下) 和解期日(法89条、規則32条) これらは公開原則が適用されない 判決の言渡し T. Kurita
口頭弁論はいろいろな意味で用いられる 訴え 当事者の主張 ・申し出 狭義 広義 最広義 証拠調べ 判決の言渡し T. Kurita
次の規定の口頭弁論の意味を考えよう(1) 159条1項(自白の擬制) 161条1項(口頭弁論は書面で準備しなければならない)。 153条(口頭弁論の再開)・152条(口頭弁論の制限・分離・併合) 249条(直接主義) 251条1項(判決言渡期日は口頭弁論終結の日から2月以内) T. Kurita
次の規定の口頭弁論の意味を考えよう(2) 253条1項4号(判決書の記載事項としての口頭弁論終結の日) 91条2項(公開を禁止した口頭弁論に係わる訴訟記録) 規則76条(口頭弁論における陳述の録音) 160条(口頭弁論調書。規則67条1項7号に注意)。 312条2項5号(絶対的上告理由としての口頭弁論公開規定の違反) T. Kurita
口頭弁論を行う場所 口頭弁論を行う場所は、法廷である。法廷は、裁判所またはその支部で開かれるのが原則である(裁判所法69条1項)。 例外的に法廷外での証拠調べも許されるが、証拠調べの結果を判決の基礎資料とするためには、口頭弁論期日に顕出(報告)することが必要である。 T. Kurita
口頭弁論の主宰者=裁判所 口頭弁論は、裁判所(合議体)が判断材料を獲得するために行われ、裁判所が主宰する。 受命裁判官や受託裁判官がたとえ法廷で当事者の主張を聴いたり証拠調べをしても、口頭弁論にはならない。 T. Kurita
双方審尋主義 裁判所は、両当事者に、主張を述べ、証拠を提出する機会を平等に与えなければならない。これを双方審尋主義という。 双方審尋主義は、相手方の主張に反論する機会の保障も含む。これを当事者公開の原則という。 T. Kurita
当事者公開の原則 当事者は、相手方と平等な立場において裁判の基礎資料を提出することができるとともに、相手方と裁判所との間にどのような交流があったかを知ることができることが要請される。 両当事者に在廷する機会が与えられた期日において提出された資料のみが裁判の基礎資料となり、その他の資料は裁判の基礎資料にならない。 T. Kurita
当事者公開に資する規定 139条(口頭弁論期日への当事者の呼出) 149条4項(期日外における釈明権行使の内容の相手方への通知) 187条2項(参考人等の審尋における相手方の立会権の保障) 規則95条1項(進行協議期日における当事者の立会権の保障) T. Kurita
当事者公開の例外 223条6項 文書提出命令手続きにおいてインカメラ調査が行われる場合。 223条6項 文書提出命令手続きにおいてインカメラ調査が行われる場合。 240条 証拠保全手続おいて、急速を要する場合には、当事者の呼出を省略できる。 規則61条 進行参考事項の事前聴取について、相手方への開示は要求されていない。 和解期日における交互面接。 T. Kurita
弁論主義 ⇔ 職権探知主義 事実とその認定資料である証拠の収集に関する当事者と裁判所の間の役割分担について、その収集を当事者の権限と責任とし、裁判所自らは収集しない建て前を弁論主義という。 当事者の責任 ⇒ 当事者は事実と証拠を提出しないと敗訴する。当事者は、裁判所が収集しなかったことを非難できない。 当事者の権限 ⇒ 裁判所は職権で事実と証拠を収集してはならない。 T. Kurita
主張共通・証拠共通の原則 弁論主義は、裁判の基礎資料(事実と証拠)の収集に関する当事者と裁判所の間の役割分担である。 裁判所は、ある当事者の提出した事実あるいは証拠をその者に不利に、相手方に有利に斟酌することもできる。 T. Kurita
当事者の主張する事実の分類 主要事実(直接事実) 法規の適用の直接の原因となる事実。 主要事実(直接事実) 法規の適用の直接の原因となる事実。 間接事実 直接事実または他の間接事実を推認するのに役立つ事実。 補助事実 証拠能力や証拠の信用性に影響を与える事実 その他の事実 事件の背景事情等に関する事実 T. Kurita
直接事実と間接事実 要件 法的効果 1999年9月9日に**でXがYに金100万円を手渡した 該当 ①金銭の授受 返還債務 ②返還約束 法規範 直接事実 経験則を用いて推認 間接事実 間接事実 T. Kurita
弁論主義の具体的内容 主張の必要性 主要事実は、口頭弁論において主張されていない限り、裁判の基礎にすることができない。 主張の必要性 主要事実は、口頭弁論において主張されていない限り、裁判の基礎にすることができない。 自白の拘束力 当事者間に争いのない主要事実は、そのまま裁判の基礎にしなければならない 職権証拠調べの禁止 証拠は当事者が申し出たものに限る。但し例外が多い。 T. Kurita
釈明権=裁判所による補充 弁論主義の下では主張・立証の不備により本来は勝訴すべき者が敗訴する可能性があるが、それは適正な裁判の視点からは好ましくない。 その是正のために裁判所に釈明の権限が認められている(149条・151条)。 T. Kurita
否認と自白 否認 主張責任を負う者の主張する事実を相手方が認めないこと。事案の迅速・適正な解明のために、否認には理由を付すべきである(民訴規79条3項参照) 自白 主張責任を負う者の主張する事実と同じ事実を相手方が陳述すること(典型的にはその事実を認めると陳述すること)。 T. Kurita
理由付否認(積極否認)の例 原告が「ある日時に吹田市内の原告の事務所で被告に現金を貸し渡し、被告が1月後に年利10%を付して返還する事を約束した」と主張する場合に、 被告が「その時、被告はニューヨーク市内にあるホテルに宿泊していたので、現金の授受などありえようがない」と主張する(全面的不両立)。 「金銭は受け取ったが、贈与として受け取ったのであり、返還約束はない」(部分的否認。金銭の受領については自白となる)。 T. Kurita
抗 弁 相手方主張の法律効果の発生を阻害しあるいは消滅させる事実について自己が主張責任を負う場合に、その事実を主張することを抗弁という。 X Y 貸金返還請求 債務の承認により時効は中断されている 再抗弁 消滅時効が完成している 抗弁 T. Kurita
抗弁の提出の態様 相手の主張を認めた上でなす抗弁(制限自白・抗弁付自白) 相手の主張を争いつつ、もしその主張が裁判所によって認められる場合にそなえてなされる抗弁(仮定的抗弁) (次に例題あり) T. Kurita
Yの次の2つの主張について説明しなさい X Y ①金は借りたがすでに弁済した 貸金返還請求 ②弁済が認められないのであれば、反対債権と相殺する T. Kurita
事実抗弁と権利抗弁 事実抗弁 相手方の権利の発生を妨げあるいは消滅をもたらす規定の要件に該当する事実を主張すれば足りるもの。例: 弁済・免除 事実抗弁 相手方の権利の発生を妨げあるいは消滅をもたらす規定の要件に該当する事実を主張すれば足りるもの。例: 弁済・免除 民法418条・722条2項による過失相殺 公序良俗違反(民90条)・信義則違反・権利濫用(民1条2項・3項) 権利抗弁 相手の権利の行使を妨げあるいは消滅させる権利の発生要件に該当する事実の主張のみならず、その権利の行使ないし利益享受の主張も必要なもの。例: 取消権、解除権、相殺権、建物買取請求権など 催告・検索の抗弁権、同時履行の抗弁権、留置権 時効(民145条)。 T. Kurita
専門委員の制度 特許や医療あるいは建築関係の紛争となると、紛争事実関係を正しく把握するのに通常の裁判官が有する知識・理解力では不十分な場合が多々生ずる。 このような訴訟について、争点整理段階あるいは証拠調べの段階で専門家が裁判官を広範囲にわたって補助する制度が必要であることが強く認識されるようになり、専門委員の制度が設けられた。 T. Kurita
専門委員の職務、地位、任免 専門委員は、専門的知見に基づいて裁判官に必要な説明をし、証拠調べにおいて説明あるいは質問をし、あるいは、和解手続において裁判官と当事者に必要な説明をする者である。 非常勤の裁判所職員(国家公務員) 最高裁判所規則に従って任免される(92条の5第3項。手当等につき、同条4項参照)。 T. Kurita
専門委員の指定、除斥・忌避 個々の事件において手続に関与する専門委員の指定は、当事者の意見を聴いて、裁判所(裁判機関)が行う(92条の5第2項)。員数は、1人以上である(同1項)。 専門委員は、裁判に与える影響力が大きいことに鑑み、除斥・忌避に関する規定が準用される(92条の6、規則34条の9)。 T. Kurita
専門委員の関与の場面(92条の2) 1項関与 争点整理・進行協議の場面での関与) 2項関与 証拠調べの場面での関与 証拠調べの結果の趣旨説明 1項関与 争点整理・進行協議の場面での関与) 2項関与 証拠調べの場面での関与 証拠調べの結果の趣旨説明 証人等に対する質問 3項関与 和解の場面での関与 T. Kurita
専門委員の関与に関する当事者の権利 専門委員の関与は当事者に公開される。 当事者には、専門委員が裁判官に何を説明したかを知る機会(規則34条の3参照)、及び専門委員がした説明について意見を述べる機会が与えられる(規則34条の5)。 除斥・忌避の申立権 関与決定の取消しの申立権 T. Kurita
専門委員の関与の方法 裁判長は、専門委員に説明をさせるに当たり、必要があると認めるときは、専門委員に対し、係争物の現況の確認その他の準備を指示することができる(規則34条の6)。 通話による関与(法92条の3、規則34条の2第2項・34条の7) T. Kurita
知的財産事件における裁判所調査官 平成16年の改正で、「知的財産に関する事件の審理及び裁判に関して調査を行う裁判所調査官」の制度が新設された(92条の8。平成17年4月1日から施行)。 裁判官は、法律の専門官ではあるが、こうした科学技術分野における専門的知識を十分に有するとは限らない 科学技術分野の猛烈なスピードで発展している状況 T. Kurita
訴訟手続の計画的進行(147条の2) 裁判の迅速化に関する法律第2条:「裁判の迅速化は、第一審の訴訟手続については2年以内のできるだけ短い期間内にこれを終局」させることにより行う。 民訴147条の2:「裁判所及び当事者は、適正かつ迅速な審理の実現のため、訴訟手続の計画的な進行を図らなければならない」。 T. Kurita
審理の計画(147条の3) 要件:複雑な事件について適正かつ迅速な審理を行うため必要があると認められるとき 策定者:裁判所 当事者との協議が必要 口頭弁論調書への記載(規67条2号) 裁判長による補充(156条の2) T. Kurita
計画策定事項 必要的策定事項(2項) 争点及び証拠の整理を行う期間 証人及び当事者本人の尋問を行う期間 口頭弁論の終結及び判決の言渡しの予定時期 任意的策定事項(3項) 特定の事項についての攻撃又は防御の方法を提出すべき期間 その他の訴訟手続の計画的な進行上必要な事項 T. Kurita
審理計画の効力 攻撃防御方法の却下(157条の2) 訴訟費用の負担 63条はここでも作用する。 T. Kurita
口頭弁論の一体性 口頭弁論ならびに証拠調べは、何回に分けて行われようとも、終結するまでに行われた口頭弁論の全体が一体として判決の基礎となる。これを口頭弁論の一体性という。 前の期日で行われた弁論は、後の期日で繰り返される必要はない。 当事者の弁論は、どの期日で行っても、裁判資料としては基本的に同一の効果をもつ(口頭弁論の等価値性。但し、157条の制限があり、また、提出時期が弁論の全趣旨の一部として事実認定の判断材料となることがある(247条))。 T. Kurita
各回の口頭弁論期日の進行 期日指定と期日への呼出し(93条・94条。139条も参照) --------------- 期日の開始=事件の呼上げ(規62条) 審理の対象となる事件を特定するために必要である。 当事者および裁判所の訴訟行為 期日の終了=次回期日の指定または弁論の終結 T. Kurita
裁判長の訴訟指揮権(弁論指揮権)(148条) 口頭弁論(最広義)は裁判長が指揮する 120条により、いつでも取り消すことができる。 口頭弁論(最広義)は裁判長が指揮する 120条により、いつでも取り消すことができる。 T. Kurita
裁判長の命令に対する不服申立て 合議体に対する異議の陳述 弁論指揮の裁判等について認められている(150条) 合議体に対する異議の陳述 弁論指揮の裁判等について認められている(150条) 即時抗告 これは個別に規定されている。:137条2項の訴訟却下命令(同4項)。 通常抗告 口頭弁論を経ないで訴訟手続に関する申立てを却下する命令(例えば、35条の特別代理人選任申立てを却下する命令)に対しては、通常抗告が許される(328条)。 T. Kurita
裁判長の命令で不服申立てが許されないものも多い 35条の特別代理人を選任する命令 期日の指定及び変更(93条・139条) 準備書面の提出期間の指定(162条) 準備的口頭弁論の要約書面の提出の(命令(165条) T. Kurita
釈明権(149条1項・2項) 事件の内容を明らかにするため、当事者に対し事実上・法律上の事項について質問を発し、立証をうながす裁判長等の権限を釈明権という。 当事者から異議があれば合議に付す。 T. Kurita
釈明権行使の範囲 消極的釈明 当事者の申立て・主張が不明瞭であったり矛盾している場合に、その不明を正すための釈明。 消極的釈明 当事者の申立て・主張が不明瞭であったり矛盾している場合に、その不明を正すための釈明。 積極的釈明 事案の適正な解決に必要な申立てや主張が欠ける場合に、裁判所がこれを示唆・指摘する釈明。これも許される。 T. Kurita
期日外釈明 裁判官(裁判長・陪席裁判官)が口頭弁論の準備のために期日外で記録を調査・検討している時に釈明が必要と考えた点については、期日を待つことなく、すみやかに釈明を求めることが審理の効率化にかなう。 攻撃防御方法に重要な変更を生じ得る事項について釈明権を行使したときは、手続の公正さを担保するために、その内容を相手方に通知し(149条4項)、裁判所書記官は、その内容を訴訟記録上明らかにしておく規則63条2項)。 T. Kurita
求問権(149条3項) 相手方の主張が不明瞭の場合に、それを明瞭にするための裁判長の発問を求める当事者の権利。 相手方の主張がすでに明瞭であると裁判長が判断すれば、発問はなされず、求問(発問申立て)は却下される。 当事者から当事者への直接の発問では、不適切・不要な発問あるいは感情的な応答がなされる虞があるので、このように裁判長を介して発問する。 T. Kurita
釈明処分(151条) 釈明権を行使して、主張を明確にさせるだけでは、不十分な場合がある。裁判所は、訴訟関係を明瞭にするために、151条列挙の処分をすることができる。 証拠調べではない。 T. Kurita
進行協議期日(規95条) 審理を充実させることを目的として、裁判所と当事者双方が訴訟の進行に関し必要な事項について協議するために開かれる口頭弁論外の期日である。特徴: 非公開でよい。 口頭弁論調書ないしこれに準じた調書の作成は不要。 裁判所外で行うことができる(規97条)。 両当事者に立会の機会を与える。 T. Kurita
攻撃と防御 攻撃 原告の判決申立て=請求の趣旨に示された判決の申立て 攻撃 原告の判決申立て=請求の趣旨に示された判決の申立て 防御 被告の判決申立て=訴え却下・請求棄却の申立て(答弁書の記載事項である T. Kurita
攻撃方法と防御方法 各当事者が自己の攻撃または防御を根拠付けるために提出する一切の裁判資料ないしその提出行為を攻撃方法または防御方法という。 被告が攻撃方法を提出することはない 民訴法146条参照 原告が防御方法を提出することはない 規則53条3項は誤解を生じさせやすい T. Kurita
攻撃防御方法の内容 法律上の主張および事実上の主張 相手の主張に対する態度表明 証拠の申出(180条) その他 相手方の攻撃防御方法に対する却下の申立て(157条)。 相手方に対する質問(裁判所を通してする。149条3項)。 但し、個々の条文で内容が異なることがある。例:161条2項と157条を対比せよ。 T. Kurita
攻撃防御方法の提出時期(156条等) 一般原則 適時提出主義(156条) 手続きの段階付けによる制限 一般原則 適時提出主義(156条) 手続きの段階付けによる制限 審理の計画を経た場合(147条の3第3項) 争点整理手続を経た場合(167条等) 裁判長による個別的な提出期間の設定 審理計画に従った手続進行のために必要な場合に、攻撃防御方法の提出期間(156条の2)。 特定の事項について、準備書面の提出あるいは証拠申出の期間(162条) T. Kurita
証拠結合主義 当事者の事実主張は、当初は、真実が何であるかよくわからない状況で、自己にできるだけ有利になるような形でなされる。簡単に実施できる証拠調べの結果、本当の事実関係が判明すれば、当事者はそれにあわせて事実主張を変更・撤回して争点が整理され、あるいは新たな事実主張をなすことが必要になる場合がある。 そこで、証拠調べと事実主張とは並行して行うとの原則がとられている。 T. Kurita
時機に後れた攻撃防御方法の却下(157条1項) 時機に後れて提出されたものであること 後れたことが当事者の故意又は重大な過失に基づくこと その攻撃防御方法を斟酌すると訴訟の完結を遅延すること T. Kurita
趣旨不明瞭の攻撃防御方法の却下(157条2項) 趣旨不明瞭の攻撃防御方法は、裁判の基礎として斟酌できない。 斟酌できないことを明らかにするために、釈明の機会を与えたうえで、却下する。 T. Kurita
その他の理由による攻撃防御方法の却下 訴訟手続を不安定にし、審理の遅滞を招き、かつ当該攻撃防御方法の提出により当事者が得ようとした利益が他の手段で実現することができる場合。 既判力により遮断される場合。 不必要な証拠(181条)、違法性の強い方法あるいは信義誠実原則に反する度合の強い方法で収集した証拠 T. Kurita
最初の口頭弁論期日 最初の口頭弁論期日では、原告が訴状に基づいて、どのような判決を求めるか(請求の趣旨)を陳述し、請求の原因と請求を理由づける事実を述べる。 被告も、どのような判決を求めるかを陳述する。 T. Kurita
陳述擬制 初回期日に原告が出頭しない場合、または出頭したが請求を陳述しない場合には、裁判所は、原告が提出した訴状・準備書面を陳述したものとみなして、被告に弁論させることができる。 これとの公平上、被告が出頭しない場合、および出頭しても本案について弁論しない場合には、裁判所は、被告が期日までに提出した答弁書その他の準備書面を陳述したものとみなして、原告に弁論を続けさせることができる(158条)。 T. Kurita
158条の陳述擬制の要件で注意すべき点 最初にすべき口頭弁論期日つまり原告が請求を陳述すべき期日であること 続行期日には、陳述擬制は認められない。例外:277条。 当事者の一方が本案の弁論をする場合であること 当事者双方が出頭しない場合、又は出頭しても弁論をしない場合には、訴えの取下げの擬制に向かい出す(263条)。 T. Kurita
擬制自白(159条1項) 当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、弁論の全趣旨により(口頭弁論全体におけるその者の態度の合理的解釈により)その事実を争ったものと認めるべきときを除き、その事実を自白したものとみなされる(159条1項)。 自白の効果については、179条参照。 T. Kurita
自白を擬制される時期 自白の擬制は、口頭弁論終結時まで明示的に争わなかったということにより生ずる。 口頭弁論終結間際に否認するような場合には、次の不利益を受ける可能性がある。 時機に後れた攻撃防御方法として却下される(157条)。 事実認定の資料の一部(弁論の全趣旨)として、その者に不利な方向で斟酌される(247条)。 T. Kurita
一方の不出頭の場合(159条3項) 原則: 擬制自白の規定が準用されるのが原則である(159条3項。肯定的争点決定)。 原則: 擬制自白の規定が準用されるのが原則である(159条3項。肯定的争点決定)。 例外 不出頭者への期日への呼出しが公示送達によりなされた場合(159条3項但書き。否定的争点決定)。 注意: 準備書面に記載されなかった事実は相手方が不出頭の場合には陳述できないので(161条3項)、この事実については擬制自白の余地もない。 T. Kurita
不知の陳述(159条2項) 相手方の主張に対して「知らない」と答えることは、争ったものと推定される(159条2項)。 相手方がその事実について証明責任を負う場合には、相手方は、証拠を提出することが必要となる。 T. Kurita
不知の陳述が許されない場合 次の場合には、相手方が証明責任を負う事実について不知の陳述をする者は、事実関係の調査義務を負い、その結果を報告すべきである。 自己の行為または認識が問題となっている場合 自己との実体的な関係により情報提供を求めることができる第三者(代理人や前権利者など)の行為 T. Kurita
義務違反の効果 裁判所は、調査結果の報告を求め、それに応じない場合には、不知の陳述を却下することができる(157条2項の類推適用)。 却下しない場合でも、調査結果を報告しないことを心証形成の資料にすることができる(247条)。 T. Kurita
準備書面の意義 当事者が口頭弁論において陳述しようとする事項を記載して裁判所に提出するとともに相手方に送付する書面。 口頭弁論は、各当事者が陳述予定の内容を準備書面に記載して相手方及び裁判所に予告することにより準備しなければならない(161条1項)。 T. Kurita
記載事項(161条) 準備書面には、次の事項を記載する。事実についての主張を記載する場合には、証拠も記載する(規則79条4項)。 自己の攻撃又は防御の方法 相手方(原告・反訴原告)の請求に対する陳述(被告・反訴被告の防御) 相手方の攻撃防御方法に対する陳述 相手方主張事実を否認する場合には、その理由を記載しなければならない(規則79条3項)。 T. Kurita
答弁書の記載事項 被告の最初の準備書面を答弁書という(162条、規則80条)。次の特則がある。 訴状の場合と同様に(規則55条)、重要な証拠文書の写しを添付すること(規則80条2項)。 訴状の場合と同様に(規則53条4項)、被告又はその代理人の郵便番号および電話番号・ファクシミリの番号を記載すること(規則80条3項) T. Kurita
裁判所への提出と相手方への送付(直送) 準備書面は、相手方が準備をなすのに必要な期間をおいて、 裁判所に提出する(規則79条)。 相手方当事者に直送をする(規則83条・47条)。 いずれについても、ファクシミリを利用することができる(規則3条・47条1項)。 T. Kurita
相手方の受領書 準備書面に記載されている事項については、相手方不在の法廷で主張して相手方の擬制自白を成立させることが可能であるので(159条3項)、相手方が準備書面を受領したことが明確にされなければならない。 具体的な方法については、規則83条2項・3項を参照。 T. Kurita
送付が確認された準備書面に記載されていない事実 相手方が在廷しない場合 主張できない(161条3項)。この結果、その事実については、159条1項の擬制自白を成立させることができない(相手方の弁論権の保障)。この事実には、間接事実も含まれる。相手方の主張に対する否認・不知の陳述は、記載されていなくても主張できる。 相手方が在廷する場合 主張することができる。 T. Kurita
当事者照会(163条・規則84条) 当事者は、主張又は立証を準備するために必要な事項について、裁判所を介さずに、直接相手方に照会する(問い合わせる)ことができる。 当事者間での照会・回答により、事実関係が相当に明らかになることが期待され、裁判所の釈明権を介するより効率的であるので、この制度が設けられた。 T. Kurita
当事者照会に対する回答がなされない場合 回答拒絶に対する直接の制裁はない。 回答を拒絶された当事者は、必要であれば、裁判所に発問を求めたり(求問権。149条3項)、222条の文書特定手続をとる。 当事者は口頭弁論において、どのような照会に対して回答がなされなかったかを主張して(必要であれば立証して)、回答の経過を事実認定の資料に含まれるようにすることができる。 T. Kurita
争点整理手続を実施する場合の審理モデル 当事者の主張と文書等の証拠調べにより、争点を整理する 争点整理段階 整理の結果を確認する 証拠調べ段階 証人及び当事者本人の尋問(182条) 口頭弁論の終結 T. Kurita
争点整理手続きのポイント 要証事実の確認 手続の終了・終結の際又はその後の口頭弁論期日に、その後の証拠調べにより証明すべき事実が何であるかを裁判所が当事者との間で確認する(165条・170条6項・177条)。 口頭弁論への上程 整理が口頭弁論の手続外でなされた場合には、整理結果を口頭弁論の手続に上程する 説明義務 争点整理手続終了後に攻撃防御の方法を提出した当事者は、相手方の求めのあるときは、各整理手続終了前に提出することができなかった理由を説明しなければならない(説明要求権と説明義務。167条・174条・178条)。 T. Kurita
3つの整理手続 準備的口頭弁論(164条以下) 弁論準備手続(168条以下) 書面による準備手続(175条-178条、規則91条-94条) T. Kurita
自由心証主義(247条) 裁判官は、次の資料に基づいて、自由な心証により、当事者の主張の真否を判断することができる。 証拠調べの結果・弁論の全趣旨 顕著な事実 裁判官の心証形成は恣意的であってはならず、経験法則や論理法則にしたがった合理的なものでなければならない。 T. Kurita
自由心証主義の具体的内容 証明の必要 経験則による推認 弁論の全趣旨の斟酌 証拠調べの結果の斟酌 証拠の証明力の自由評価 顕著な事実(179条)の斟酌 T. Kurita
具体例 資料に掲載した判例から、自由心証の具体例を挙げる。 T. Kurita
自由心証主義が尽きた時に、証明責任の作用が始まる 裁判所が事実の存否を確信できないときに、存否不明の事実についてはその存在または不存在を仮定して法規の適用の有無を判断せざるをえない。 その仮定により不利益を受ける者の負担を客観的証明責任と言い、その者の証明の必要性を主観的証明責任と言う。証明責任は、通常前者の意味で用いられる。 T. Kurita
証明責任の分配法則-法律要件分類説 出発点となる基本命題: 法規はその要件事実の存在が証明されたときにのみ適用されることを前提に法規範を定めると、立法者は、法規範の構成を通して証明責任を分配することができる。 私法法規は、この考えを前提にして作られている。 推定規定により証明責任の分配を明示する場合もある。 T. Kurita
法規範の構成方法 権利根拠規定(拠権規定) A→Xの発生 権利障害規定(障権規定) B→Xの不発生 権利根拠規定(拠権規定) A→Xの発生 権利障害規定(障権規定) B→Xの不発生 権利消滅規定(滅権規定) C→Xの消滅 (同時履行の抗弁権による権利行使阻止なども含まれる) 法律効果の発生を主張する必要のある者は、拠権規定の要件事実の証明責任を負う。 法律効果の不存在を主張する必要のある者は、障権規定あるいは滅権規定の要件事実の証明責任を負う。 T. Kurita
主張責任と証明責任 証明責任 争いのある主要事実の存否を証拠調べによっても確定することができない場合に、法規が適用されない(法律効果の発生等が認められない)という一方の当事者に生ずる不利益。 主張責任 弁論主義の下で、主要事実が主張されないため法規が適用されないという一方当事者に生ずる不利益 主張責任の分配は、証明責任の分配に従う。 T. Kurita
損害の算定の基礎となる事実の主張・立証 建物が他人の放火あるいは重過失による失火で焼失し、損害賠償請求訴訟が提起された場合に、建物の中にあった動産の損害額の証明は、原告が、個別に品名をあげ、購入時期・購入価額を明らかにすることにより、現在の価額の算定に必要な事実を主張・証明するのが本来である。 T. Kurita
立証の困難からの救済の必要 主要な動産については可能であるとしても、全部についてすることは極めて困難である。主張立証のできたものだけについて被告は賠償すれば足りるとしたのでは、正義に反することになりやすい。 このような場合には、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。(248条) T. Kurita
248条の適用要件 損害が生じたことが認められる場合であること 損害の性質上その額を立証することが極めて困難であること 民訴248条にならって、同趣旨の規定が平成11年法律38号により特許法105条の3に新設された(実用新案30条、意匠41条、商標39条により準用されている)。 T. Kurita