系列パターンマイニングを用いた有効な素性の組み合わせの発見 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 工藤 拓 松本 裕治
背景 SVM をはじめとする Kernel Method のめざましい進展 自然言語処理も例外ではない テキストチャンキング 固有名詞抽出 構文解析 Kernel Method は万能なのか?
Kernel Method の問題点 有効な素性の分析が困難 分類の計算量が大きい GOAL: この2つの問題の克服 素性空間が陰に表現される 有効な素性(事例の部分構造)は我々の知らない一種の知識 (マイニング) 分類の計算量が大きい Kernel Method に基づくチャンカーや構文解析器は大規模テキストデータの解析に不向き GOAL: この2つの問題の克服
ケーススタディ(日本語係り受け) SVM に基づく日本語係り受け解析システム「南瓜」 新聞記事数年分を解析するのに 数週間 2000年 Perl + C++ プロトタイプ 2-3秒/文 2001年 春 C++ で再実装 0.4秒/文 2001年 夏 データ構造の工夫 0.3秒/文 新聞記事数年分を解析するのに 数週間 ちなみに.. 形態素解析 0.0001秒/文 SVMの分類アルゴリズムを改良しない限り、これ以上の高速化は無理
本発表の流れ Kernel Method Power Set Kernel Power Set Kernel の高速化手法 PSKB (ベースライン) PSKI (提案手法 1) PSKE (提案手法 2) 日本語係り受けタスクにおける実験 考察、今後の課題
本発表の流れ Kernel Method Power Set Kernel Power Set Kernel の高速化手法 PSKB (ベースライン) PSKI (提案手法 1) PSKE (提案手法 2) 日本語係り受けタスクにおける実験 考察、今後の課題
Kernel Method 事例間の内積を与える Kernel 関数のみ定義 陽に表現された素性ベクトルは不要 事例 x の構造に基づく Kernel の設計 (集合, ベクトル, 系列, 木, グラフのノード グラフ…)
Kernel Method の問題点 分類に O(L・m) の計算量 (m は K(・,・)の計算量) 素性空間が陰に表現されてしまい, 有効な素性の 提示が困難
本発表の流れ Kernel Method Power Set Kernel Power Set Kernel の高速化手法 PSKB (ベースライン) PSKI (提案手法 1) PSKE (提案手法 2) 日本語係り受けタスクにおける実験 考察、今後の課題
Power Set 集合のすべての部分集合の集まりをべき集合(Power Set)とよぶ 集合 X の Power Set を P(X)と記す 例 X={a,b,c} P(X)={φ,{a},{b},{c},{a,b},{a,c}, {b,c},{a,b,c}}
(Special) Power Set Kernel X, Z は集合 X の要素数を |X|と記す K(X, Z) = | P(X) ∩ P(Z) |=2 |X∩Z| 例 X = {a,b,c}, Z={a,b,d} P(X) = {φ,{a},{b},{c},{a,b},{a,c},{b,c},{a,b,c}} P(Z) = {φ,{a},{b},{d},{a,b},{a,d},{b,d},{a,b,d}} P(X)∩P(Z)={φ,{a},{b},{a,b}} K(X,Z) = |P(X) ∩ P(Z)| = 4
Power Set Kernel (PSK) (部分集合重み) (例) X = {a,b,c}, Z={a,b,d}, C0=2, C1=3, C2=1, C3=0 P(X) = {φ,{a},{b},{c},{a,b},{a,c},{b,c},{a,b,c}} P(Z) = {φ,{a},{b},{d},{a,b},{a,d},{b,d},{a,b,d}} P(X)∩P(Z)={φ,{a},{b},{a,b}} K(X,Z) = 2・1+ 3・2 + 1・1 + 0・0 = 9
PSK の周辺定理 X,Zを任意の集合, を正の整数とするとき, は PSK となる X,Zを任意の集合, を n階微分可能でかつ となる関数とするとき, はPSKとなる すべての PSK K(X,Z) は, |X∩Z|の多項式で表現できる Cr が事前に分かる場合, PSK を設計できる
多項式Kernel 定理2を満たし, Power Set Kernel 例 d=2 のとき C0 = 1, C1=3, C2=2 d=3 のとき C0 = 1, C1=7, C2=12, C3 = 6 一般に d=k のとき
RBF Kernel |X|=|Z|=定数 (要素数は一定) ならば 定理2を満たし, Power Set Kernel
本発表の流れ Kernel Method Power Set Kernel Power Set Kernel の高速化手法 PSKB (ベースライン) PSKI (提案手法 1) PSKE (提案手法 2) 日本語係り受けタスクにおける実験 考察、今後の課題
Power Set Kernel の高速化 PSKB PSKI (Inverted representation) 通常の分類手法(ベースライン) PSKI (Inverted representation) 事例 の集合を転置した形で表現 PSKE (Expanded representation) 事例を Power Set の空間で分類
PSKB (ベースライン) K(X,Z) = (|X∩Z|+1) α X {a, b, c} {a, b, d} {b, c, d} 1 2 3 K(X,Z) = (|X∩Z|+1) α X サポート ベクター {a, b, c} {a, b, d} {b, c, d} K(X,Z) 1 2 3 1 0.5 -2 分類したい事例 Z={a,c,e} 3 3 3 f(Z)=1・(2+1) + 0.5・(1+1) - 2 (1+1) = 15 計算量は常に O(L・|Z|)
PSKI (Inverted Representation) 3 K(X,Z) = (|X∩Z|+1) α X Inverted Representation 分類したい事例 Z= {a, c, e} a b c d {1,2} {1,2,3} {1,3} {2,3} {a, b, c} {a, b, d} {b, c, d} 1 2 3 1 0.5 -2 3 3 3 f(Z)=1・(2+1) + 0.5・(1+1) - 2 (1+1) = 15 計算量は, 最悪 O(L・|Z|) 集合要素が疎な時に有効(自然言語処理など)
PSKE (Expanded Representation) (1/2) PSK における は, 集合 X を, Power Set の 空間に部分集合重み付きで写像するような関数 w をあらかじめ計算しておき, 高次元空間空間 (Power Set 空間)での内積を直接計算 [磯崎 2002] と考え方は同じ
PSKE (Expanded Representation) (2/2) C w 展開テーブル 3 K(X,Z) = (|X∩Z|+1) φ {a} {b} {c} {d} {a,b} {a,c} {a,d} {b,c} {b,d} {c,d} {a,b,c} {a,b,d} {a,c,d} {b,c,d} 1 -0.5 10.5 -3.5 -7 -10.5 12 6 -12 -18 -24 3 分類したい事例 Z={a,c,e} 7 Cr の算出 α X 12 P(Z)={{φ},{a},{c}, {e},{a,c},{a,e}, {c,e},{a,c,e}} 展開 {a, b, c} {a, b, d} {b, c, d} 1 2 3 1 0.5 -2 6 F(z)=-0.5+10.5-7+12 =15 計算量は O(|P(Z)|), 事例数に依存しない 事例数が大きいときに有効 d次の多項式 Kernel → d個の部分集合のみ
PSKEの実際 展開テーブル の作成 展開テーブル の保持 素性の d個の組み合わせを全展開するのは非常に困難 (係り受けの素性は 4万程度) [磯崎2002]は 2個の組み合わせだけに限定 |w|は, その部分集合の分類寄与度を与える. |w|の小さい部分集合は考えない(近似) データマイニングアルゴリズムの適用 展開テーブル の保持 そのままでは冗長なので TRIE を作成
マイニング問題としての定式化 |w|≧σ となるような部分集合を もれなく 効率よく 列挙せよ 例 σ=10 C w φ {a} {b} {d} {a,b} {a,c} {a,d} {b,c} {b,d} {c,d} {a,b,c} {a,b,d} {a,c,d} {b,c,d} 1 -0.5 10.5 -3.5 -7 -10.5 12 6 -12 -18 -24 3 7 C w {a} {d} {a,b} {a,c} {b,c} {b,d} {c,d} {b,c,d} 10.5 -10.5 12 -12 -18 -24 7 σ=10 12 12 6 6
部分集合のマイニング(1/3) αは実数で, 単純な頻度とみなせない 正例,負例の数には偏りがある 正例(α≧0),負例(α<0)の事例に分けてそれぞれ独立にマイニング 部分集合 p の重み w は (正例の頻度)-(負例の頻度) となる 正例,負例の数には偏りがある σを正負例の数に応じて線形分配し, 正負別々の最小サポート値を与える サイズ r の部分集合の頻度は Cr 倍される 最悪の状況 Cmax=max(C0,C1,..,C|x|) を考え, 事例の頻度を Cmax倍しておく マイニング後, パターンp の頻度を C|p|/ Cmax 倍
部分集合のマイニング (3/3) σ=15 α X K(X,Z)= (|X∩Z|+1) |Cmax・α|を C0=1, C1=7,C2=12 部分集合のマイニング (3/3) 3 バスケットマイニング (Apriori, PrefixSpan) K(X,Z)= (|X∩Z|+1) |Cmax・α|を 頻度とみなす C0=1, C1=7,C2=12 C3=6, Cmax=12 φ 18 {a} 18 {b} 18 {c} 12 {a,b} 18 {a,c} 12 {b,c} 12 merge 頻度 X 正例 {a} 10.5 {b} –10.5 {a,b} 12 {a,c} 12 {b,c} -12 {b,d} -18 {c,d} -24 {b,c,d} -12 σ=15 σ正例=10 σ負例=5 1 2 12 6 {a, b, c} {a, b, d} Minsup=10 α X φ 24 {b} 24 {c} 24 {d} 24 {b,c} 24 {b,d} 24 {c,d} 24 {b,c,d} 24 負例 頻度 X 1 2 3 1 0.5 -2 {a, b, c} {a, b, d} {b, c, d} w= (f正例-f負例)・ C|p|/Cmax 3 24 {b, c, d} (例) {b} の重み W=(18-24)*7/12=10.5 Minsup=5
TRIEによる表現 共通 Prefix の圧縮 TRIE の実装にはダブル配列を用いた root a b c d b c c d d d w {a,c} {b,c} {b,d} {c,d} {b,c,d} 10.5 -10.5 12 -12 -18 -24 a b c d 10.5 -10.5 b c c d d -24 12 12 -12 -18 d -12 共通 Prefix の圧縮 TRIE の実装にはダブル配列を用いた
本発表の流れ Kernel Method Power Set Kernel Power Set Kernel の高速化手法 PSKB (ベースライン) PSKI (提案手法 1) PSKE (提案手法 2) 日本語係り受けタスクにおける実験 考察, 今後の課題
実験 日本語係り受け解析[工藤,松本2002] 3次の多項式 Kernel マイニング→PrefixSpan [Peiら 2000] 学習データ数 110,355 SV数(正例/負例) 34,996(17,528/17,468) 集合要素の異なり数 43,637 事例あたりの平均集合要素数 17.64 * XEON 2.4GHz, Linux, C++ による実装
素性 B A C 彼の1 友人は2 この本を3 持っている4 女性を5 探している6 静的素性 係り元/係り先 係るかどうかの判定? B A C 彼の1 友人は2 この本を3 持っている4 女性を5 探している6 係り元 係り先 静的素性 係り元/係り先 主辞/機能語: (表層、品詞、品詞再分類、活用型、活用形、括弧の有無、疑問符の有無、句読点の有無、位置) 間: 距離(離散値)、括弧の有無、句読点の有無、疑問符の有無 動的素性 [工藤, 松本 2000] A,B : 機能語の静的素性 C: 主辞の静的素性 Now we'd like to consider the features for dependency analysis. We use two kinds of features, Static features, and dynamic features. For static features, we take the gramatical features in modifer and mofier. For example, surfece POS, POS-subcategory, inflection-type inflection form of head and functional word in segment . , and whether head and functional word contains brackets, quoatations qunctionations. We also use the distance, case-particles, brackets .quoateions, and punctioations between two segments. Japanese dependency relations are heavily constrained by such static features, However, when a sentence is long and there are more than one possible dependents, static features by themselves cannot determine the correct dependency. To improve the accuracy, we proposed a new type of features, called ‘dynamic-features’ before. When we call the SVMs to check whether 2nd modiier depends on 4th modifer, the dependency of segments of A B and C are already identified because we build dependency relation with bottom-up process. The idea of dynamic features is to use these segments, which are already identified, as new features. In our experiments, we use Functional representation as dynamic features for Segments type A and B, and POS of head word for segments type C. I would like to note that the parsing cost does not change even using dynamic features, because the cascaded chunking model parses a sentence deterministically.
実験結果 σ 解析時間 (秒/文) 正解率(%) 部分集合数(k個) PSKB - 0.2848 89.29 PSKI 0.0811 TRIEのサイズ(MB) PSKB - 0.2848 89.29 PSKI 0.0811 PSKE 0.1 0.0013 82.02 7 1.8 0.05 0.0020 86.27 30 3.1 0.01 0.0050 88.91 739 37.2 0.005 0.0067 89.05 1,924 93.4 0.001 0.0092 89.26 6,686 317.5 0.0005 0.0097 8,262 391.1 0.0001 0.0101 9,846 464.9
考察 PSKI が 約3倍, PSKEが 30倍程度 高速 σ=0.0005のときの部分集合のサイズは 826万, TRIEのサイズは 391MB 頻度によるフィルタリング 部分集合のそれぞれに対し、事例集合中の出現頻度がξ(=1,2,3..)以上の部分集合を残し, 残りを削除 頻出部分集合も バスケットマイニングアルゴリズムを用い効率よく列挙する σ=0.0005に固定し, ξを変化させる
頻度によるフィルタリング結果 フィルタリングにより、サイズを約1/3に 若干ながら精度向上→頻度の小さい例外的事例の排除 ξ 解析時間 (秒/文) 正解率(%) 部分集合数(k個) TRIEのサイズ(MB) PSKB - 0.2848 89.29 PSKI 0.0810 PSKE σ=0.005 1 0.0097 82.29 8,262 391.1 2 0.0074 89.34 2,450 118.0 3 0.0069 89.31 1,360 66.4 4 0.0065 89.25 945 46.8 フィルタリングにより、サイズを約1/3に 若干ながら精度向上→頻度の小さい例外的事例の排除
PSKEにおいて実際に抽出された 3つ組み素性 ● {係り元-主辞-品詞細分類-普通名詞, 係り元-機能語-表層-と, 係り先-主辞-品詞細分類-普通名詞} 「普通名詞 と 普通名詞」 並列構造 ● {係り元-機能語-表層-を, 係り先-主辞-表層-中心, 係り先-機能語-表層-に} 「~を 中心に」 頻出言い回し, 一般 名詞が「を格」をとる特殊なパターン ● {係り元-機能語-表層-から, 係り元-機能語-品詞-助詞, 係り先-機能語-表層-まで} 「~から ~まで」 頻出言い回し
まとめ Power Set Kernel の定式化と分析 Power Set Kernel の高速化 PSKI (事例集合を転置した形で表現) PSKE (Power Set の空間で分類) PSKI が 3倍程度、PSKE が 30倍程度の高速化に成功
今後の課題 部分集合重み Cr の分析 Cr の適当な推定 → Crに即した Kernel 頻度によるフィルタリングの詳細な分析 係り受け以外のデータセットでの実験
おまけ PSK のより詳細な分析は、次回のアクティブマイニング研究会で発表いたします PSKI は拙作の 汎用 チャンカー YamCha と, 係り受け解析プログラム CaboCha に使われています PSKE に基づくチャンカー, 係り受け解析プログラムの公開 (まだモデルが大きすぎる?)