DNA鑑定によるコメの トレーサビリティーの確保 東京工科大学 バイオニクス学部 多田雄一.

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DNA鑑定によるコメの トレーサビリティーの確保 東京工科大学 バイオニクス学部 多田雄一

利用例 ・特定の産地ブランドの認証 ・既存のトレーサビリティを確保する方法の補完   参考:全農の安心システム(履歴をwebで公開) ・特別な栽培をしたコメの付加価値の証明 ・外中食産業での生産地表示の信頼性の確保

効果(メリット) ・食の安全、安心に対する消費者、生産者、販売者の要求を満たすことができる 1.消費者は品種、産地、産年、生産方法などをDNA鑑定で確認済み、または再確認可能なコメを購入できる 2.生産者はブランド産地、有機栽培などの付加価値を証明して販売できる 3.コメの表示に疑惑が生じた場合にDNA鑑定による真偽の判定ができる 4.外中食産業の生産地表示の証明にも利用できる

本技術によるトレーサビリティー確保のビジネスモデル 事業主体 想定顧客 実施料 鑑定料 委託費 認証会社(検定会社、ベンチャー、全農など) 全農 経済連 農協 農業法人 農家 米卸 小売店 外食産業 消費者 ・栽培履歴管理法の実施許諾 ・変異系統作出 ・種子の管理(純度検定) ・苗、栽培中の作物、生産物のDNA鑑定 ・コメ(商品)のDNA鑑定と認証 ・簡易検定キットの開発 変異系統 DNA鑑定 認証

概要 既存の品種に「DNAの指紋」を持たせた系統1を利用することで、DNA鑑定により生産地や栽培方法等の生産履歴を証明2する方法を提供する。  例)コシヒカリA、コシヒカリB、コシヒカリC、・・・ 2:各系統を特定の生産地や栽培方法でのみ栽培し、「目印」に基づくDNA鑑定によって栽培地や栽培方法を認証する  (例)X農協でのみコシヒカリAを栽培          → 他産地のコメと識別可能     Y農家の有機栽培でのみコシヒカリBを栽培          → 生産者と有機栽培であることを識別可能     Z農協で05年にコシヒカリC,06年にコシヒカリD・・・を栽培          →産地と産年を認証可能

「DNAの指紋」をつける方法    ・・・DNA配列がわずかに異なる(品種の特性は      変化しない)系統をつくる ・各地域の品種(例えばコシヒカリ)の中から突然変異体をスクリーニングしてDNA配列を調べる ・弱い変異原で処理して突然変異体をつくる ・目印となるような遺伝子を導入(遺伝子組換え) ・トランスポゾン(動く遺伝子)の利用

・トランスポゾン(動く遺伝子)が動くことで正常な遺伝子の機能が回復したり、逆に正常な遺伝子に飛び込んでその遺伝子の働きを壊す。ほとんどの生物にトランスポゾンはあるが、ふだんは全く動いていないか、動いてもわからないことが多い。 例)アサガオ                      例)トウモロコシ http://nature.cc.hirosaki-u.ac.jp/lab/1/plantbrd/ri/maize.html http://www.museum.kyushu-u.ac.jp/PLANT2002/01/14.html 

Tos17・・・培養によって活性化される(動き出す) 培養変異の原因の一つと考えられる 普段は動かない 廣近氏((独)生物資源研究所)が発見 イネのトランスポゾン   ・Tos1~Tos17   ・mPing etc. Tos17・・・培養によって活性化される(動き出す)        培養変異の原因の一つと考えられる        普段は動かない        廣近氏((独)生物資源研究所)が発見 細胞培養でトランスポゾンが別の場所に動いたイネ       =各々が世界で一つだけのイネ 染色体 元のTos17

変異系統作出の流れ 液体培養 再分化 イネのカルス化 トランスポゾンの転移 挿入位置近傍の塩基配列の解析 トランスポゾンの転移の確認 ・・・・AGCTAGCTAGCT AGCT         AG CTAGCTAGCT・・・・・ Tos17 挿入位置近傍の塩基配列の解析 トランスポゾンの転移の確認 植物体の育成

コシヒカリ 2種類の転移パターン 1.他の遺伝子中に転移 2.遺伝子のない部分に転移 トランスポゾン カルス化 再分化 遺 トランスポゾン 伝子α 遺伝子αの中に転移 遺伝子αの機能が消失 遺伝子β トランスポゾン 遺伝子γ *いずれの場合も新たに転移した位置にトランスポゾンを持つイネは世界にひとつだけ 遺伝子のない部分に挿入 他の遺伝子に影響なし

1.トランスポゾンの転移した近傍の塩基配列の解析(PCR) Annealing Control Technology (Seegene): PCRによる隣接配列の増幅 再分化個体 再分化個体 アキタコマチ コシヒカリ A1 A2 A3 A4 A5 K1 K2 K3 K4 K5 K6 PCR → 電気泳動 → 回収 → 

・・・・・・CATCGGATGTCCAGTCCATTG・・・・・・ 2.トランスポゾンと近傍の塩基配列間のPCRによる識別 例1)「similar to resistance complex protein I2C 2 」遺伝子中への挿入(アキタコマチA)  ・・・この遺伝子の機能は消失していると考えられるが、この    遺伝子には元来機能がない可能性が高い Tos17 ・・・・・・CATCGGATGTCCAGTCCATTG・・・・・・ プライマー Chr.3 ・・・tacatgaccgccctccgtc acttgtacactcacggatgttggaggttaaa・・・ ・・・aactgcgggacatggtgaagcttgtgttagatggttgcaa・・・ プライマー →塩基配列の決定 →PCRプライマーの設計 →PCRによる検定

・・・・・・CATCGGATGTCCAGTCCATTG・・・・・・ 例2)遺伝子をコードしていない部位への挿入(アキタコマチB)  ・・・表現型(イネの特性)への影響はないと考えられる Tos17 ・・・・・・CATCGGATGTCCAGTCCATTG・・・・・・ プライマー Chr.2 ・・・caatctctgtgaagctgtagcctc・・・tactaaatat gatgtatgttgatctgcaga・・・ プライマー その他、「イントロンに挿入された個体」など

・植物体、コメ(種子)、飯米のいずれにも適用可能 ・他の遺伝子増幅法(LAMP法(栄研化学))などでも検定可能 PCRによる検定 アキタコマチ アキタコマチA アキタコマチA アキタコマチB アキタコマチB コシヒカリ キヌヒカリ 例1)のアキタコマチAを検出 例2)のアキタコマチBを検出 ・植物体、コメ(種子)、飯米のいずれにも適用可能 ・他の遺伝子増幅法(LAMP法(栄研化学))などでも検定可能 ・原理的には世代を経ても変異は安定である。(3世代まで確認)

DNA鑑定によるコメのトレーサビリティーの確保のビジネスモデル (コシヒカリを例として) 培養中にトランスポゾンが動く(遺伝子組換えではない) 種子のDNA鑑定 世界でただひとつの新しい系統(トランスポゾンの位置が異なる)を多数作出 変異系統の作出 染色体 コ シ ヒ カ リ コシヒカリA A農協で栽培 B地区05年産 DNA鑑定による産地産年保障 *再鑑定可能 DNA鑑定済 B地区有機栽培米 コシヒカリB B農協で栽培 DNA鑑定済 A農協産コシヒカリ 100% 生産物・加工品のDNA鑑定と認証 苗・作物のDNA鑑定

その他の突然変異の利用 ・他のトランスポゾンによる突然変異も利用可能 ・地域で生じた偶発突然変異も変異部位を特定すれば利用可能 ・変異原処理により生じた突然変異も利用可能 ・ガンマ線で生じた一塩基置換によるサイレント突然変異 (西尾ら 育種学研究 : 2006)

コメ品種のDNA鑑定法の比較 *1: 種子が持ち出されてしまえば× *2: 毎年系統を変えることで種子が持ち出されても○ 本技術の長所  ・変異系統の作出が容易  ・DNA鑑定が容易で鑑定結果が安定  ・すべての既存品種(と今後作出される品種)に適用可能  ・他の作物にも適用可能  ・原理的には、すべての生産者・圃場に適用可能

今後の課題 ①大規模栽培で変異系統が元品種と特性が変わらないことの確認 ②簡易鑑定キットの開発  ・簡便にその場で機械を使わず検定できるキットの作成  ・不要遺伝子(アレルゲン遺伝子など)にトランスポゾンが挿入されたキメラ遺伝子から作られるキメラタンパクを抗体で検出