GPS補強のための気圧高度計の補正 電子航法研究所 坂井 丈泰  惟村 和宣  新美 賢治.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
偏光ライダーとラジオゾンデに よる大気境界層に関する研究 交通電子機械工学専攻 99317 中島 大輔 平成12年度 修士論文発表会.
Advertisements

第4回 GPS 測位の誤 差  GPS 測位の誤差  GPS 測位の信号  測位誤差の対処  代表的 GPS.
Determining Optical Flow. はじめに オプティカルフローとは画像内の明る さのパターンの動きの見かけの速さの 分布 オプティカルフローは物体の動きの よって変化するため、オプティカルフ ローより速度に関する情報を得ること ができる.
No.2 実用部材の疲労強度           に関する研究 鹿島 巌 酒井 徹.
反射波が支配的な状況下でのマルチパス誤差低減
データ分析入門(12) 第12章 単回帰分析 廣野元久.
時間・空間補間した 基準局網観測値による キネマティックGPS性能の評価
現場における 熱貫流率簡易測定法の開発  五十嵐 幹郎   木村 芳也 
Introduction 初期位置算出時間(Time To First Fix): TTFFの短縮:
Introduction 航空局による広域補強システムMSASは、現在試験中。 MSAS試験信号を受信し、補強メッセージの評価を試みた:
坂井 丈泰、松永 圭左、星野尾 一明 (電子航法研究所) Todd Walter (Stanford University)
数値気象モデルCReSSの計算結果と 観測結果の比較および検討
近似アルゴリズム 第10章 終了時刻最小化スケジューリング
Todd Walter (Stanford University)
磁気トルカ較正試験結果 宇宙機ダイナミクス研究室 D2 宮田 喜久子.
GPS観測 2006年度地球観測実習 ~新しい可能性を求めて~     新井隆太 大久保忠博 米田朝美        担当教官 宮崎真一.
「データ学習アルゴリズム」 第3章 複雑な学習モデル 3.1 関数近似モデル ….. … 3層パーセプトロン
力学的ダウンスケールによる2003年東北冷夏の アンサンブル予報実験
山口市における ヒートアイランド現象の解析
成層圏突然昇温の 再現実験に向けて 佐伯 拓郎 神戸大学 理学部 地球惑星科学科 4 回生 地球および惑星大気科学研究室.
Low-Cost INS/GPS複合航法 に関する研究の進捗状況
大きな数と小さな数の 感覚的理解 北村 正直.
ワイヤレス通信におけるMIMO伝送技術.
3.8 m望遠鏡主鏡エッジセンサ 開発進捗 京都大学 理学研究科 M2 河端 洋人.
京大岡山3.8 m望遠鏡計画: 分割主鏡制御エッジセンサの開発
需要の価格弾力性 価格の変化率と需要の変化率の比.
オルソポジトロニウムの 寿命測定によるQEDの実験的検証
LabVIEWによる 地上気象観測データ 収集システムの開発
CMIP5マルチ気候モデルにおける ヤマセに関連する大規模大気循環の 再現性と将来変化(その2)
通信情報システム専攻 津田研究室 M1 佐藤陽介
第7回 衛星測位の新しい動向 ・GPSの問題とバージョンアップ ・ロシアのGLONASS ・ヨーロッパのGalileo
大気レーダーのアダプティブクラッタ 抑圧法の開発
In situ cosmogenic seminar
坂井 丈泰、福島 荘之介、武市 昇、荒蒔 昌江、伊藤 憲
準天頂衛星 サブメータ級補強機能の性能評価
第10週 その他の測位方法 自律航法とナビ 携帯電話測位 gpsOneの事例.
フィールドセンシング Field Sensing Technologies
第 3 回.
第8週 高精度GPSの構築 位相測位の原理 通信システムの構築.
①浮上(RTB準備)→ 圧力センサー(水深)
広域DGPSとMSAS GPS/GNSSシンポジウム2006 チュートリアル 電子航法研究所 坂井 丈泰
Todd Walter (Stanford University)
Radiation dosimetry of 137Cs γray for a long time irradiation
第2回 GPS測位の原理 衛星測位の原理 GPS衛星システム GPSの信号システム GPSの測位方式.
YT2003 論文紹介 荻原弘尭.
今後の予定 4日目 10月22日(木) 班編成の確認 講義(2章の続き,3章) 5日目 10月29日(木) 小テスト 4日目までの内容
東京海洋大産学官連携研究員/技術コンサルタント 高須 知二 Tomoji TAKASU
モデルに基づいた PID コントローラの設計 MBD とは モータ駆動系のモデリング モデルマッチング 5.1 節 出力を角速度とした場合
第6回 高精度GPSの構築 位相測位の原理 通信システムの構築.
In situ cosmogenic seminar
MEMSセンサを用いたINS/GPS複合航法システム
7.一次元ダクトの消音制御系における低コスト化
レーザーシーロメーターによる 大気境界層エアロゾル及び 低層雲の動態に関する研究
CCDを用いた星像中心決定実験の結果 ○矢野太平(理研)、郷田直輝、小林行泰、辻本拓司(国立天文台)
準天頂衛星L1-SAIF信号の 低緯度地域対応の試み
産総研・計測標準 寺田聡一 東大地震研 新谷昌人、高森昭光
X線CCD新イベント抽出法の 「すざく」データへの適用
X線CCD新イベント抽出法の 「すざく」データへの適用
傾圧不安定の直感的理解(2) ー低気圧軸の西傾の重要性ー
傾圧不安定の直感的理解(2) ー低気圧軸の西傾の重要性ー
2.2 L1-SAIF補強信号の 測位精度とその改善策
ICRR共同研究発表会(2003/12/19) 神岡100mレーザー伸縮計の概要と観測記録              新谷 昌人(東京大学地震研究所)
第3章 線形回帰モデル 修士1年 山田 孝太郎.
坂井 丈泰、松永 圭左、星野尾 一明 (電子航法研究所) Todd Walter (Stanford University)
超小型航空機における 位置および姿勢の同定
第2回 GPS測位の原理 衛星測位の原理 GPS衛星システム GPSの信号システム GPSの測位方式.
落下水膜の振動特性に関する実験的研究 3m 理工学研究科   中村 亮.
MIROC5による将来のヤマセの再現性について(2)
低軌道周回衛星における インターネット構築に関する研究
CMIP3マルチ気候モデルにおける 夏季東アジアのトレンド
Presentation transcript:

GPS補強のための気圧高度計の補正 電子航法研究所 坂井 丈泰  惟村 和宣  新美 賢治

Introduction GNSS(全世界的衛星航法システム)の信頼性の改善には、他センサによる情報が有効。 Electronic Navigation Research Institute Introduction Slide 1 GNSS(全世界的衛星航法システム)の信頼性の改善には、他センサによる情報が有効。 高度方向については、気圧高度計により補強可能。ただし、GNSSの補強に使用するには、気圧高度の補正処理が必要。 日本付近の気象条件でどの程度の高度測定精度が見込めるか。2種類の補正方式について、気象庁のデータを使用して試算。 飛行実験データを利用して、高度測定精度を評価。

気圧高度計 気圧高度計(Barometric Altimeter)のメリット: 注意点: 簡単な原理で高度を測定できる。機械式も可能。 Electronic Navigation Research Institute 気圧高度計 Slide 2 気圧高度計(Barometric Altimeter)のメリット: 簡単な原理で高度を測定できる。機械式も可能。 すべての航空機に搭載されている。 実用上それほど問題のない測定精度が得られる。 他航空機との間での相対精度が保たれるため、セパレーションに都合が良い。 注意点: 測定誤差が気象条件に左右される。 このため補正を必要とし、エラーの要因となり得る。 対地高度ではなく、標高が測定される。 GNSS補強に使用するには絶対精度が問題となる。

高度センサによる補強 a1 a2 : aN b1 b2 bN g1 g2 gN 1 Dx Dy Dz Ds Dr1 Dr2 DrN DH = Electronic Navigation Research Institute 高度センサによる補強 Slide 3 通常の測位方程式 高度センサを追加した場合 ユーザ位置 擬似距離 a1 a2 : aN b1 b2 bN g1 g2 gN 1 Dx Dy Dz Ds Dr1 Dr2 DrN DH = a1 a2 : aN b1 b2 bN g1 g2 gN 1 Dx Dy Dz Ds Dr1 Dr2 DrN = 衛星の視線方向 高度方向を表す 高度測定値 擬似距離と同様に、鉛直方向の距離測定値として高度を利用。 鉛直真下方向に衛星が追加されるのとほぼ同じ。 DOPも普通に求められる(ただし誤差のスケーリングが必要)。

高度情報の利用 Slide 4 通常の場合 高度センサがある場合 高度を測定 気圧高度 高度を測定 Electronic Navigation Research Institute 高度情報の利用 Slide 4 通常の場合 高度センサがある場合 高度を測定 気圧高度 高度を測定 鉛直方向の距離測定値がある ≒ 鉛直真下方向に衛星がある

高度決定精度の向上 Slide 5 22.8 m (95%) Height Accuracy, m Electronic Navigation Research Institute 高度決定精度の向上 Slide 5 50 100 10 20 Baro-altimeter Accuracy, m Height Accuracy, m 22.8 m (95%) 気圧高度計の高度測定精度と、総合的な高度決定精度の関係。 GPS L1 C/Aコード測位を想定して試算。規定は垂直方向 22 m。

標準大気モデル Slide 6 成層圏 Height, m 対流圏 Pressure, hPa 標準大気モデルによる、高度と気圧の対応関係。 Electronic Navigation Research Institute 標準大気モデル Slide 6 200 400 600 800 1000 10000 20000 30000 Pressure, hPa Height, m 対流圏 成層圏 標準大気モデルによる、高度と気圧の対応関係。 気圧高度計はこの関係に基づいて気圧を高度に変換する。

気象条件による影響 Slide 7 Δ P =P '-P , hPa Height Error, m 地上気圧の影響 Δ T , K Electronic Navigation Research Institute 気象条件による影響 Slide 7 -30 -20 -10 10 20 30 -200 -100 100 200 Δ P =P '-P , hPa Height Error, m 地上気圧の影響 -5 5 -100 -50 50 100 Δ T , K Height Error, m 地上気温の影響 気圧高度計は標準大気モデルに基づいて高度を求めるため、実際の気象条件のモデルとの差異はそのまま誤差となる。 気圧・気温の変化により数100mオーダの誤差を生じる。 この誤差は周辺の航空機に共通に現れ、相対誤差は小さい。 ただし、GNSS補強に用いる場合は問題となる。

誤差の要因 Slide 8 地上気圧 地上気温 気温減率 重力加速度 高度の定義 ジオイド高 地上気圧の1013.25hPaからのずれ Electronic Navigation Research Institute 誤差の要因 Slide 8 地上気圧 地上気温 気温減率 重力加速度 高度の定義 ジオイド高 地上気圧の1013.25hPaからのずれ 地上気温の15℃からのずれ 上空の気温の近似式 T=T0+LH からのずれ 重力加速度の標準値からのずれ 気圧高度計の測定する高度Hは幾何高度Zより若干小さい GNSSは楕円体高を基本とするが、気圧高度計は標高を測定する P0 T0 L g0 誤差要因 内 容 H=0でも影響 補正の可否 ○ ― QNHで補正 地上から放送 要センサ 容易 データベース △

気圧高度の規正 QNE規正 QNH規正 QFE規正 QNH = 2992 Electronic Navigation Research Institute 気圧高度の規正 Slide 9 標準大気による測定値をそのまま使用するため、QNH=2992 とする。 QNE規正 14000 ft (FL140)以上 規正の方式 適用範囲 QNH規正 QFE規正 滑走路上で空港標高を指示するように規正値を定める。 滑走路上で高度ゼロを指示するように規正値を定める。 14000 ft 未満 我が国では使用されない QNH = 2992 29.92 inHg = 1013.25 hPa を地上気圧とする。 地上気圧しか補正されない

高度測定精度の評価 Slide 10 気圧高度計による高度測定精度を、気象庁の観測データ(3年分)を使用して評価した。 Electronic Navigation Research Institute 高度測定精度の評価 Slide 10 気圧高度計による高度測定精度を、気象庁の観測データ(3年分)を使用して評価した。 ▲(20地点):ラジオゾンデによる高層観測データ(高層気象観測年報1998~2000) →垂直成分を調査 ●(156地点):地上観測データ(気象庁年報1998~2000) →水平成分を調査 気圧高度の補正方式は以下を想定: (1) QNE規正:補正なし (2) QNH規正:地上気圧を補正 (3) QNH+T :さらに地上気温・外気温によりT0,Lを補正 130 140 150 30 40 Longitude, deg Latitude, deg

垂直成分:補正なし(QNE) Slide 11 Altitude Error (QNE), m Height from Ground, m Electronic Navigation Research Institute 垂直成分:補正なし(QNE) Slide 11 5000 10000 -1000 -500 500 1000 Height from Ground, m Altitude Error (QNE), m AVR MAX MIN 地上付近でも大きな誤差を生じる。-212~+449m。 高度の上昇に伴い誤差も増大、高度11000mでは±800m以上。 データ点数:各気圧面で44844点。

垂直成分:QNH補正 Slide 12 Altitude Error (QNH), m Height from Ground, m Electronic Navigation Research Institute 垂直成分:QNH補正 Slide 12 5000 10000 -1000 -500 500 1000 Height from Ground, m Altitude Error (QNH), m AVR MAX MIN QNH規正を想定し、地上気圧についてだけ補正。 地上付近の誤差がなくなる。 上空での誤差についてはそれほど補正効果がない。

垂直成分:QNH+T Slide 13 Altitude Error (QNH+T), m Height from Ground, m Electronic Navigation Research Institute 垂直成分:QNH+T Slide 13 5000 10000 -1000 -500 500 1000 Height from Ground, m Altitude Error (QNH+T), m AVR MAX MIN QNH規正(地上気圧を補正)に加え、地上気温・外気温からT0,Lを補正。 QNH規正だけの場合に比べて半分程度に誤差が低減。 地上付近で特に有効。

水平成分:補正なし(QNE) Slide 14 Altitude Error (QNE), m Distance, km Electronic Navigation Research Institute 水平成分:補正なし(QNE) Slide 14 100 200 300 -1000 -500 500 1000 Distance, km Altitude Error (QNE), m AVR MAX MIN すべての観測地点を総当りしてさまざまな距離に応じた誤差を求めた。 補正なしの場合、距離によらず±500m程度の誤差を生じる。 データ点数:400万点以上。

水平成分:QNH補正 Slide 15 Altitude Error (QNH), m Distance, km Electronic Navigation Research Institute 水平成分:QNH補正 Slide 15 100 200 300 -1000 -500 500 1000 Distance, km Altitude Error (QNH), m AVR MAX MIN 近距離については補正が有効だが、おおむね100km以上では頭打ちとなる。 最大誤差の距離依存性: ±5.092m/km (破線)。

水平成分:QNH+T Slide 16 Altitude Error (QNH+T), m Distance, km Electronic Navigation Research Institute 水平成分:QNH+T Slide 16 100 200 300 -1000 -500 500 1000 Distance, km Altitude Error (QNH+T), m AVR MAX MIN QNH規正の場合とそれほど変わらない。 最大誤差の距離依存性: ±5.359m/km (破線)。 効果がない原因:地上データのみで評価したため。

飛行実験による評価 04 MAR 2002 TUE #01 Slide 17 Electronic Navigation Research Institute 飛行実験による評価 Slide 17 実験機で飛行中に収集したデータを使用して、気圧高度計の測定精度を評価した。 本年3月4日、仙台―高知間を飛行。 ADCの出力する気圧高度および外気温データをARINC429バスを介して収集。データレート 1Hz。 GPS受信機:NovAtel RT-20 地上局は当所(東京都調布市)に設置。 気圧高度の補正方式は以下を想定: (1) QNE規正:補正なし (2) QNH規正:地上気圧を補正 (3) QNH+T :さらに地上気温・外気温によりT0,Lを補正 134 136 138 140 142 34 36 38 Longitude, deg Latitude, deg 04 MAR 2002 TUE #01 8℃ 14℃

Electronic Navigation Research Institute 気圧高度の補正例 Slide 18

高度と測定精度の関係 Slide 19 地上~低高度ではQNE規正(補正なし)の場合の誤差が大きい。 Electronic Navigation Research Institute 高度と測定精度の関係 Slide 19 地上~低高度ではQNE規正(補正なし)の場合の誤差が大きい。 高度が上がると気温による補正が有効で、誤差を半分以下にできる。

補正効果 Slide 20 地上気圧(QNH規正) 気温補正 重力補正 幾何補正 54.08 -47.70 2.727 2.226 Electronic Navigation Research Institute 補正効果 Slide 20 地上気圧(QNH規正) 気温補正 重力補正 幾何補正 54.08 -47.70 2.727 2.226 73.80 7.025 5.320 5.868 43.58 -172.7 -0.007 0.0 ― -11.02 0.9379 0.5536 補正要素 平均 m 最大 最小 高度あたり平均 m/km 測定誤差は、地上付近の一部を除いて気象データによる予測の範囲内。 気温による補正の効果が大きい。最大172.7mの補正量であり、高度あたりの平均でも11.02m/kmと大きな値を示す。 重力補正および幾何補正は補正量が小さいうえ高度に依存するため、必要性については要検討。 気温補正のあるとき、地上付近では気温減率Lが-3.5~-9.5℃/kmの制限一杯に振っている。地上付近では気温補正を行わないほうがよい。

Electronic Navigation Research Institute Conclusion Slide 21 GNSSの信頼性を向上させるため、垂直方向については気圧高度計が使用できる。この際に気象条件を考慮した補正が必要となり、また測定誤差に関する知識が不可欠。 日本付近における気圧高度計の測定誤差について、気象観測データによる見積りを示し、飛行実験により確認した。 測定誤差の補正には、地上気圧によるほか、高空では気温を考慮することが有効である。 今後の課題:補正用データの伝送チャネル。           補正用データの分解能と補正効果。