大阪大学大学院国際公共政策研究科 教 授 大久保 邦彦 法学部 1年生配当科目 民法入門 第1‐2講 法学入門 大阪大学大学院国際公共政策研究科 教 授 大久保 邦彦
実際の講義では、以下の【参考判例】 を参照しながら、講義は進行します。 茨木簡裁昭和60年12月20日判決 (判例時報1198号143頁) 法的なものの考え方 実際の講義では、以下の【参考判例】 を参照しながら、講義は進行します。 茨木簡裁昭和60年12月20日判決 (判例時報1198号143頁)
法ルールの構造 要 件 効 果
殺人罪(刑199) 人を殺した者は、 死刑又は無期若しくは 5年以上の懲役に処する。
法ルールの例 契 約 債権・債務 債務不履行 契約解除権 債務不履行 損害賠償請求権 不当利得 債権・債務
法的三段論法 要 件 効 果 充 足 具体的事実 具体的効果
法ルールの適用 要 件 a b c 効 果 R 具体的事実 a b c 具体的効果 R
法ルールの不適用 要 件 a b c 効 果 R × × 具体的事実 a b 具体的効果 R
生の事実→ 法的に意味のある事実 生の事実 法 的 に 意 味 の あ る 事 実
甲野花子のプロフィール S40-1-26生まれ 丙川株式 会社勤務 給料は 7~8万円 身長は 1m60cm 血液型は O型 藤色の 服が好き 趣味はテニス 彼氏募集中
法と事実との間の 視線の往復 法 事 実
登場人物
登場人物 原告:甲野花子 被告:東京美粧株式会社 被告:株式会社オリエントファイナンス 裁判所:茨木簡易裁判所 従業員:A 従業員:B 裁判官:谷口伊一郎
訴訟の主体 当事者 原 告 被 告 裁判所
訴訟の主体 訴訟の主体 裁判所 原 告 被 告 Illustration by Toto-tarou with CC License Attribution
訴訟の構造 裁判所 原 告 被 告 訴訟の客体
訴訟の主体 当事者 原 告 被 告 裁判所 甲野花子 東京美粧 オリエントファイナンス
事件の概要 【理由】二1(2) 【事実】第二一
甲野 花子 東京 美粧 契約 取消し オリエント ファイナンス 従業員A 従業員B 化粧品 エステ ¥150,000 ¥165,000 ¥155,000 甲野 花子 東京 美粧 契約 取消し 14000 5000 10000 14000 14000 従業員A 立替払契約 従業員B ¥150,000 オリエント ファイナンス
実体法上の問題
【契約】⇒【債権・債務】 契 約 債権 債務 有効に成立した
債 権 特定人(債権者)が、 特定の他人(債務者)に対して、 一定の行為(給付・給付行為)を請求し、 その行為(給付)のもたらす 債 権 特定人(債権者)が、 特定の他人(債務者)に対して、 一定の行為(給付・給付行為)を請求し、 その行為(給付)のもたらす 結果ないし利益(給付結果)を、 当該債務者に対する相対的関係において、 適法に保持しうる権利
化粧品購入契約 化粧品 エステ 甲野花子 東京美粧 ¥165,000
立替払契約 「立替払せよ!」 甲野花子 オリエントF ¥14,000×12ヶ月
契約のプロセス 契約 成立 契約 終了 契約締結過程 契約履行過程 債務 発生 債務 履行
契約の履行・不履行
不動産売買契約の履行 売 主 X 所 所有権移転債務 買 主 Y 占 引渡債務 登 登記移転債務 金 代金支払債務
債務不履行の事実 債 務 現 実 債務不履行
「債務不履行」の意義 「債務不履行」には二義ある 債務が履行されていない ① 債務不履行の事実 債務が履行されていない状態 ① 債務不履行の事実 債務が履行されていない状態 ② 債務不履行の事実+帰責事由 債務者の帰責事由によって、 債務が履行されていない
債権者の救済方法 債務不履行 の事実 ① 強制履行 ② 損害賠償 債務不履行 の事実 + 帰責事由 ③ 契約解除
自力救済 自力救済は、原則的に禁止 X 債 務 者 S 債 権 者 G 物
強制執行 執 行 官 債 務 者 S 債 権 者 G 物
金銭債務の強制執行 G 差押え 換 価 満 足 差押え 金 S D 所
強制執行と契約解除 契約 成立 契約 終了 債務不履行 債務 発生 債務 履行 契約 解除 強制 執行
不動産売買契約 売 主 X 所 所有権移転債務 買 主 Y 占 引渡債務 登 登記移転債務 代金支払債務 金
契約解除の効果 売 主 X 所 買 主 Y 解除 占 原状回復請求権 登 原状回復請求権 金 原状回復請求権
損害賠償(民415) 債務不履行の事実 要 件 帰責事由 効 果 損害賠償請求権
契約の成否・効力
【契約】⇒【債権・債務】 契 約 債権 債務 有効に成立した
契約の成否と有効要件 契 約 内 容 成 立 不成立 無 効 有 効 取消し 取消可 取消不可 取消権消滅 確定的有効
無効原因 心裡留保(の例外の場合) 虚偽表示 公序良俗違反 錯 誤 強行法規違反 意思無能力 原始的不能
取消原因 制限行為能力 詐 欺 強 迫
行為能力 1人で確定的に有効な 法律行為を行う能力 行為=法律行為 制限行為能力 取消権
制限行為能力者 (民20Ⅰ) 未成年者 成年被後見人 被保佐人 (被補助人)
未成年者の契約 (同意方式) 親権者 P 同 意 契約締結 未成年者 X 相手方 Y 効果帰属
未成年者の契約 (代理方式) 親権者 P 代理人 契約締結 未成年者 X 相手方 Y 本 人 効果帰属
未成年者が 単独で契約を結んだとき 取消権 追認権 親権者 P 追認権 契約締結 取消権 催告権 未成年者 X 相手方 Y 効果帰属
取消しの遡及効 (民121本) 契約 成立 遡及効 無 効 有 効 取消し 債務 発生
契約未履行⇒履行拒絶 X Y 「取り消します」 契約締結 取消権
契約既履行⇒給付利得 売 主 X 所 所 買 主 Y 取消し 占 給付利得返還請求権 登 給付利得返還請求権 金 給付利得返還請求権
不当利得の要件・効果 民法703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、 その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
不当利得の要件・効果 不 当 利 得 返 還 請 求 権 法律上の 原因なく (不当) 要 件 効 果 因果関係 受 益 損 失 関連性
給付利得の機能 誤って実行された給付の巻き戻し 債 権 者 G 債 務 者 S 給付は 金銭の支払いに 限られない 給 付
給付利得の要件 給付の実行 受 益 損 失 債権が ないのに 法律上の 原因なく (不当) 要 件 Sの元にあるべき物が 因果関係 給付の実行 Sの元にあるべき物が Gのところにあることが、 Gの受益であり、 Sの損失である。 受 益 損 失 関連性
訴訟法上の問題
訴訟の主体
訴訟の主体 当事者 原 告 被 告 裁判所
訴訟の主体 訴訟の主体 裁判所 原 告 被 告 Illustration by Toto-tarou with CC License Attribution
訴訟の構造 裁判所 原 告 被 告 訴訟の客体
訴訟の主体 当事者 原 告 被 告 裁判所 甲野花子 東京美粧 オリエントファイナンス
訴訟の過程
民事裁判の手続 訴えの提起 口頭弁論 証拠調べ 判 決
訴えの提起 民事訴訟法133条(訴え提起の方式) 訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。 訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。 一 当事者及び法定代理人 二 請求の趣旨及び原因
訴 状-請求の趣旨 1 被告東京美粧株式会社は原告に対し、 金15,000円を支払え。 1 被告東京美粧株式会社は原告に対し、 金15,000円を支払え。 2 被告株式会社オリエントファイナンスの原告に対する昭和58年8月26日付立替払契約に基づく金154,000円の債務の存在しないことを確認する。 3 被告株式会社オリエントファイナンスは原告に対し、金14,000円を支払え。 4 訴訟費用は被告らの負担とする。 との判決ならびに第1項及び第3項について仮執行の宣言を求める。
甲野 花子 東京 美粧 契約 取消し オリエント ファイナンス 従業員A 従業員B 化粧品 エステ ¥150,000 ¥155,000 ¥165,000 甲野 花子 東京 美粧 契約 取消し 5000 10000 14000 従業員A 立替払契約 従業員B ¥150,000 オリエント ファイナンス
訴訟の客体(対象)
訴訟の構造 裁判所 原 告 被 告 訴訟の客体
訴訟上の請求 裁判所 「その主張を認容して 特定の判決をせよ」 との要求 原 告 被 告 一定の法的利益の主張
裁判所 原 告 被 告 具体例(給付訴訟) 「被告は原告に対し 金100万円を支払え」 との判決を求める 原告は被告に対し、 100万円の債権を有する
訴訟物 要 件 効 果 具体的事実 具体的効果 訴訟物
訴訟・判決の種類 給付訴訟 確認訴訟 形成訴訟 給付判決 確認判決 形成判決
裁判所の判断 【主文】 原告の請求 被告の答弁 【請求の趣旨】 被告東京美粧株式会社は原告に対し、 別紙目録記載の化粧品の引渡をうけるのとの 引換に金1万5,000円を支払え。 原告の請求 【請求の趣旨】 被告東京美粧株式会社は原告に対し、 金15,000円を支払え。 被告の答弁 【請求の趣旨に対する答弁】 原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。
法的三段論法 要 件 効 果 「法の解釈」が必要 具体的事実 具体的効果 「事実の確定」が必要
事実の確定
民訴159 事実の主張 否認 不知 自白 沈黙 証拠調べ 事実の確定 事実認定
裁判所の判断 《証拠略》によると原告は昭和40年1月26日生れであって、本件化粧品購入契約を締結した昭和58年8月当時は満18才であった。 原告の主張 原告は、被告東京美粧との間で化粧品購入契約を締結した昭和58年8月当時は満18才で未成年であった。 被告の主張 左の事実は知らない。
被告から原告に対し電話があったことは認めるが、それは契約の金額に対する確認がなされただけである。 裁判所の判断 被告オリエントファイナンスから原告に対し電話があった際、原告が被告に対し、原告の生年月日が立替払申込書に記載のとおり昭和38年1月26日に相違ない旨回答した事実については、これを認めるに足りる証拠はない。 原告の主張 被告から原告に対し電話があったことは認めるが、それは契約の金額に対する確認がなされただけである。 被告の主張 被告オリエントファイナンスの原告に対する電話による契約内容の確認に対して、書面の記載に誤りのない旨陳述して、自己が成年者であるかのように年齢を詐称した。
法の解釈
法の解釈の例(民21) 要 件 詐 術 効 果 取消権不発生 ? 契約書に虚偽の 年齢を記入した
「詐術」に当たるとすると 要 件 詐 術 効 果 取消権不発生 ○ 契約書に虚偽の 年齢を記入した 花子は取消権を 取得しない
× × 「詐術」に当たらないなら 詐 術 取消権不発生 要 件 効 果 年齢を記入した 花子は取消権を 取得する 花子は取消権を 取得しない 要 件 詐 術 効 果 取消権不発生 × × 契約書に虚偽の 年齢を記入した 花子は取消権を 取得する 花子は取消権を 取得しない
原告は契約に際し、契約申込書に自己の生年月日を昭和38年1月26日である旨記載して成年者であるかのように自己の年令を詐称した。 裁判所の判断 ・・・・・・原告が右経緯により申込書に真実と異なる生年月日を記載したとしても、これをもって原告が自ら成年者であって能力者であることを被告に信じさせるために詐術を用いたことには当たらない。 原告の主張 原告が被告主張の申込書に自己の生年月日を昭和38年1月26日と記載した事実は認めるが、原告がこれにより成年者であるかのように自己の年令を詐称したとの事実は否認する。 被告の主張 原告は契約に際し、契約申込書に自己の生年月日を昭和38年1月26日である旨記載して成年者であるかのように自己の年令を詐称した。