「不確かさ」で差をつける! -不確かさの考え方と利用法-

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「不確かさ」で差をつける! -不確かさの考え方と利用法- 作成:産業技術総合研究所 計量標準総合センター 田中秀幸 協力:日本電気計器検定所,不確かさクラブ教育法研究会参加者各位

目次 §1「不確かさ1) 」と「トレーサビリティ2) 」 §2 不確かさとは §3 不確かさの利点 §4 不確かさの利用例 コスト改善に繋がる合否判定のリスクコントロール法 不確かさ評価を利用した目標精度の達成法 測定における改善ポイントの抽出とその効果 最後に 用語 参考文献 本文中,1)などと数字がついている用語は「用語」スライドに定義を記載してあります

測定された値をそのまま信用していませんか? §1「不確かさ」と 「トレーサビリティ」 測定された値をそのまま信用していませんか?

これだけの情報では,測定結果の正しさがよく分からない §1「不確かさ」と「トレーサビリティ」 例:マイクロメータで金属製品の大きさを測定 製品:マイクロメータによって繰返し測定 エラーバー:繰返しのばらつきの範囲 ばらつき3)について ・ばらつきの要因は繰返しだけでよいか? 測定にばらつきを与える要因は繰返しだけではないはず! かたより4)について ・本当に正しい? ・かたよりは存在しない? ・どの程度正しい? かたよりを知るためには必ず正しい値と比較する必要がある!マイクロメータの指示値はどのくらい正しい? 測定値 マイクロメータによる 繰返し測定結果の平均値 「不確かさ」「トレーサビリティ」導入前 問題点 これだけの情報では,測定結果の正しさがよく分からない

トレーサビリティ:用いる測定器のかたよりを知ることができる 不確かさ:測定値の全体的なばらつきを知ることができる §1「不確かさ」と「トレーサビリティ」 「不確かさ」「トレーサビリティ」を導入すると・・・ トレーサビリティの階層 かたよりが分かるので補正5)する 長さの定義: 299 792 458分の1秒間に光が真空中を伝わる距離 国家標準6): 協定世界時に同期した光周波数コム装置 ばらつきが 受け継がれる レーザー波長: 国家標準によって校正7) ブロックゲージ: レーザーによって校正 マイクロメータ: ブロックゲージによって校正 製品: マイクロメータによって繰返し測定 測定値とその不確かさ 校正値 測定値 トレーサビリティ:用いる測定器のかたよりを知ることができる 不確かさ:測定値の全体的なばらつきを知ることができる

§2 不確かさとは 不確かさの定義とその評価法について

§2 不確かさとは 不確かさ要因 ばらつき 不確かさ要因 ばらつき 不確かさ要因 ばらつき 不確かさ要因 ばらつき 不確かさ要因 ばらつき 用いる情報に基づいて,測定対象量に帰属する量の値のばらつきを特徴付ける負ではないパラメータ。 不確かさ要因 ばらつき 不確かさ要因 ばらつき 不確かさ要因 ばらつき 次スライドへ 不確かさ要因 ばらつき 不確かさ要因 ばらつき 測定された値にばらつきを与える主要な要因をピックアップ 不確かさ要因によって引き起こされるばらつきの大きさの平均的な値(標準不確かさ8))をそれぞれ求める 例:マイクロメータで金属製品の大きさを測定 金属製品の大きさの測定結果:45.143 mm(45 143 μm) 不確かさ要因 ・測定の繰返し ・測定箇所による大きさの違い ・マイクロメータの指示値の曖昧さ ・温度変化による金属製品の伸び縮み 標準不確かさ(標準偏差で表す) ・繰返しの不確かさ 2.1 μm ・測定箇所による不確かさ 7.8 μm ・マイクロメータの校正の不確かさ 1.5 μm ・温度変化による不確かさ 1.1 μm

トレーサビリティ体系にも不確かさは必須! §2 不確かさとは 用いる情報に基づいて,測定対象量に帰属する量の値のばらつきを特徴付ける負ではないパラメータ。 合成標準 不確かさ9) 前スライドから 拡張不確かさ10) 結果として報告する測定された値のばらつきの平均的な値 結果として報告する測定された値の存在範囲 例:マイクロメータで金属製品の大きさを測定 標準不確かさ ・繰返しの不確かさ 2.1 μm ・測定箇所による不確かさ 7.8 μm ・マイクロメータの校正の不確かさ 1.5 μm ・温度変化による不確かさ 1.1 μm 合成標準不確かさ 8.3 μm 合成標準不確かさ 8.3 μm 拡張不確かさ 17 μm (0.017 mm) 測定結果 金属製品の大きさは, 45.143 mm ± 0.017 mm の範囲にほぼ含まれる。 トレーサビリティ:個々の校正が測定不確かさに寄与する,文書化された切れ目のない校正の連鎖を通して,測定結果を計量参照に関連付けることができる測定結果の性質。 トレーサビリティ体系にも不確かさは必須!

測定値の信頼性を表す指標が 本来持つべき性質とは? §3 不確かさの利点 測定値の信頼性を表す指標が 本来持つべき性質とは?

測定結果の信頼性の指標が持つべき性質を列挙すると・・・ §3 不確かさの利点 測定結果の信頼性の指標が持つべき性質を列挙すると・・・ 新しい信頼性の指標が持つべき性質 どのような測定にも適用できる。 世界中で同じ手法に則って信頼性を評価し,値の比較を手軽に行える。 測定された値の信頼性の証明に使える。 他の人が行った評価を自分の評価に組み入れ可能である。 測定された値のばらつきの原因追及を行える。 上記を達成するために測定結果の信頼性を評価する新しい手法が開発され,それがGUM(Guide to the expression of Uncertainty in Measurement:測定における不確かさの表現のガイド)として公表される。不確かさは上記の利点をすべて備える。

§3 不確かさの利点 1.どのような測定にも適用できる。 2.世界中で同じ手法に則って信頼性を評価し,値の比較を手軽に行える。 質量であろうが,長さであろうが,有害物質の濃度測定であろうが,騒音の大きさであろうがすべてGUMに基づいて不確かさ評価を行うことができる。 2.世界中で同じ手法に則って信頼性を評価し,値の比較を手軽に行える。 GUMという同じポリシーに従って不確かさを評価するため,測定対象が同じであるものに対して不確かさを評価すれば,不確かさ評価法が異なっていたとしても,最終的に算出される不確かさは同様の意味を持つので,値の比較が非常に行いやすい。 左図の二つの測定結果は等しいと言えるのか?普通に考えれば,エラーバーが十分に重なっており,等しいと考えられるが,エラーバーの求め方が同じ手法に則っていなかったとすると? 両者GUMに則ると また,測定結果の同等性を不確かさを考慮して決定する手法が多く開発されている。

§3 不確かさの利点 3.測定された値の信頼性の証明に使える。 4.他の人が行った評価を自分の評価に組み入れ可能である。 お互いの測定結果の信頼性を評価するために,同じ測定対象物を持ち回り測定し,その結果を比較して同等であるならば,今後はお互いの測定結果を信用し合える。→技能試験・国際比較・トレーサビリティ制度 4.他の人が行った評価を自分の評価に組み入れ可能である。 上位標準の校正の不確かさや,長さ測定を行っている際の温度測定の不確かさなどを他の人が行った評価をそのまま自分の評価に導入できる。 例:マイクロメータで金属製品の大きさを測定 マイクロメータの校正の不確かさは,測定を行う人が求めた訳ではなく,マイクロメータを校正した人が求めたものである。このように他の人が行った不確かさ評価結果を自分の不確かさ評価に手軽に導入することができる。 標準不確かさ ・繰返しの不確かさ 2.1 μm ・測定箇所による不確かさ 7.8 μm ・マイクロメータの校正の不確かさ 1.5 μm ・温度変化による不確かさ 1.1 μm 合成標準不確かさ 8.3 μm

バジェットシート(不確かさ評価の一覧表) §3 不確かさの利点 5.測定された値のばらつきの原因追及を行える。 ばらつきを与える主要な要因をすべて考慮し,個々のばらつきから全体的なばらつきを求めるので,報告する測定された値のばらつきの原因追及を行うことができる。 バジェットシート(不確かさ評価の一覧表) 製品の大きさをマイクロメータで測定 記号 不確かさ要因 標準不確かさ 寄与率 u1 繰返しの不確かさ 0.0021 mm 6.4 % u2 測定箇所による不確かさ 0.0078 88.5 % u3 マイクロメータの校正の不確かさ 0.0015 3.3 % u4 温度変化による不確かさ 0.0011 1.8 % 合成標準不確かさ: uc 0.008289 拡張不確かさ: U 0.017 寄与率によってばらつきを与える要因の寄与の大きさを示すことができる。この場合,測定箇所が異なることによる不確かさが主要因。効率よく測定結果のばらつきを低減させるには,製品の表面の凸凹を改善すれば良い。

バジェットシート(不確かさ評価の一覧表) §3 不確かさの利点 5.測定された値のばらつきの原因追及を行える。 寄与率の算出法 バジェットシート(不確かさ評価の一覧表) 製品の大きさをマイクロメータで測定 記号 不確かさ要因 標準不確かさ 寄与率 u1 繰返しの不確かさ 0.0021 mm u2 測定箇所による不確かさ 0.0078 u3 マイクロメータの校正の不確かさ 0.0015 u4 温度変化による不確かさ 0.0011 合成標準不確かさ: uc 0.008289 拡張不確かさ: U 0.017 合成標準不確かさの二乗と各標準不確かさの二乗の比を求める。つまり,分散比を求めていることになる。この値によって各不確かさ要因が全体的なばらつきに対して,どの程度の寄与を与えているか,ということを示すことができる。

バジェットシート(不確かさ評価の一覧表) §3 不確かさの利点 5.測定された値のばらつきの原因追及を行える。 もし,測定箇所による不確かさを製造工程の見直しによって半減することができたとすると, バジェットシート(不確かさ評価の一覧表) 製品の大きさをマイクロメータで測定 記号 不確かさ要因 標準不確かさ 寄与率 u1 繰返しの不確かさ 0.0021 mm 19.1 % u2 測定箇所による不確かさ 0.0039 65.9 % u3 マイクロメータの校正の不確かさ 0.0015 9.7 % u4 温度変化による不確かさ 0.0011 5.2 % 合成標準不確かさ: uc 0.004804 拡張不確かさ: U 0.010 このように,ばらつきを低減させたあとの全体的なばらつきの予想値を算出することができる。今回の場合は0.017 mmから0.010 mmへ低減する。

不確かさの利点を活用した 不確かさの利用例を三件紹介 §4 不確かさの利用例 不確かさの利点を活用した 不確かさの利用例を三件紹介

§4 不確かさの利用例1 コスト改善に繋がる合否判定のリスクコントロール法 不確かさの利用例1: 製品の合否判定を行っているが,市場に不良品が出回るのを防ぐため,合否判定基準を厳しくしている。しかしそうすると生産された製品の不適合率が高く損失が多い。 コスト改善に繋がる合否判定のリスクコントロール法

§4 不確かさの利用例1 コスト改善に繋がる合否判定のリスクコントロール法 不確かさ この場合は合格?不合格? 通常,作成した製品が想定通り作成できているかどうかは,許容幅と呼ばれる,合否判定基準内に製品の特性が入っているかどうかによって判断する。 許容上限値 測定結果 不確かさ ±0 許容幅 拡大 許容下限値 許容上限値 この場合は合格?不合格? 測定結果

§4 不確かさの利用例1 コスト改善に繋がる合否判定のリスクコントロール法 受入下限値 受入上限値 ガードバンド 受入幅 ガードバンド 許容幅 許容下限値 許容上限値 特性の測定結果には必ず不確かさが存在するので,不良品を市場に出さないために「ガードバンド」と呼ばれる幅を設定し,実際には許容幅からガードバンドを引いた受入幅に測定結果が入っているのかどうかを判断して合否を決定している。このガードバンドは,これまでは経験を元に設定したり,安全のために非常に大きな値を設定(例えば機械部品の強度について,最低限必要とされる強度の数倍を実際の受入下限値にする)したりすることが多かった。 大きなガードバンドの設定は,確かに市場に出る不良品率(消費者リスク)が大きく減ることは間違いないが,本当は良品であったものを不良品として扱い,廃棄・再調整が必要な多くの製品を生み出す元となり(生産者リスク),そのせいでコスト高の原因にもなっていた。

§4 不確かさの利用例1 コスト改善に繋がる合否判定のリスクコントロール法 ある製品の測定値の分布 (不確かさ) 製品の特性値の分布 受入下限値 受入上限値 ガードバンド 受入幅 ガードバンド 許容幅 許容下限値 許容上限値 製品の特性値の分布と,ある製品の測定値の分布(不確かさ)が分かれば,合格品を不合格と判定してしまうリスクと,不合格品を合格と判定してしまうリスクを計算し求めることができる。 更にガードバンドの幅を変えることによって,合格品を不合格と判定するリスク(生産者リスク)や,不合格品を合格品と判定するリスク(消費者リスク)をコントロールすることができる。 その結果,適切な消費者リスクを保ったまま,生産者リスクを最小化することができ,コスト改善に繋がる。

§4 不確かさの利用例2 不確かさ評価を利用した目標精度の達成法 不確かさの利用例2: 物質の純度測定を行っているが,目標精度の1 %にまだまだ達していない。どの要因をどのくらいの精度で測定すれば,目標精度1 %を達成できるのだろうか? 不確かさ評価を利用した目標精度の達成法

被測定溶液の純度を決定するにあたり,1 %以下の精度を達成したい。 §4 不確かさの利用例2 不確かさ評価を利用した目標精度の達成法 通常測定を行うときには,その測定結果の信頼性があるレベル以上でないと測定の目的を達成することができないという目標が存在する。 例えば・・・溶液の純度測定 被測定溶液の純度を決定するにあたり,1 %以下の精度を達成したい。 AQARI(あかり): Accurate QuAntitative NMR with Internal reference material 定量NMR法(物質の純度の測定手法の一つ)において,新しく提唱されている信頼性確保のための手法。通常の定量NMR法で用いられる内標準法を行った際の,分析値の信頼性を定量的に表現できる。以下の手順で実践する。 1.調製・測定・解析までの各操作において、   予期できるかたよりを十分に抑える 2.①測定の繰返し性(測定の不確かさ)   ②解析の信号間の差(信号の不確かさ)   ③試料調製の再現性(調製の不確かさ)   ④内標準物質の純度の影響      (内標準物質の純度の不確かさ)   を簡易的な不確かさ評価法を用い求める。 計量管理 品質管理 評価された値を元に,目標とする精度が達成できているかを確認,達成できていない場合はどの要因のばらつきをどの程度削減すればよいかを決定する。

目標とする分析値の拡張不確かさ(合成標準不確かさ) §4 不確かさの利用例2 不確かさ評価を利用した目標精度の達成法 目標とする不確かさの大きさ ・測定の不確かさ :0.25 % ・信号の不確かさ :0.25 % ・調製の不確かさ :0.25 % ・内標準物質の純度の不確かさ :0.25 %   以内を満たせば目標を達成できる! 拡張不確かさ:1.0 % 合成標準不確かさ:0.5 % 評価結果 目標とする分析値の拡張不確かさ(合成標準不確かさ) 1 % (0.5 %) 判定 (<0.25 %) 測定の不確かさ 0.24 % ○ 信号の不確かさ 0.21 % 調製の不確かさ 0.27 % △ 内標準物質の純度の不確かさ 0.25 % 合成標準不確かさ 0.49 % ○(<0.50 %) 拡張不確かさ 0.97 % ○(<1.0 %) いくつかの要因で若干満足しないものが出たが,総合的には合成標準不確かさ0.5 %,拡張不確かさ1.0 %を満足することが分かったので,この測定は十分品質が確保できている。

測定における改善ポイントの抽出とその効果 §4 不確かさの利用例3 不確かさの利用例3: 非常に大規模の試験を行っているが,試験で行われる測定があまりにも多岐にわたり,どのばらつきの要因を改善すると効率よく試験結果のばらつきを低減できるかが分からない。 測定における改善ポイントの抽出とその効果

§4 不確かさの利用例3 測定における改善ポイントの抽出とその効果 船舶エンジン用ターボチャージャーの試験の1つ,コンプレッサ質量流量について コンプレッサ質量流量を求めるためには,非常に複雑な測定と計算が必要。 大気絶対全温度 水の飽和水蒸気圧力 大気相対湿度を元にした大気の絶対温度 大気の乾き空気質量比 大気の水蒸気質量比 大気のガス定数 コンプレッサオリフィス絞り直径比 ・ 20以上もの測定項目 コンプレッサ 質量流量 ループ計算 つまり,測定があまりに複雑すぎて,コンプレッサ質量流量に一番影響を与えるばらつきの要因を求めることが困難であった。

§4 不確かさの利用例3 測定における改善ポイントの抽出とその効果 コンプレッサ質量流量の不確かさ評価結果 不確かさ要因 標準不確かさ 寄与率 大気絶対全温度 ・・・・・ 水の飽和水蒸気圧力 大気の水蒸気質量比 大気の乾き空気質量比 大気のガス定数 オリフィス絞り直径比による流出係数 最大の寄与率!  よって,オリフィス口径を小さくし,オリフィス差圧を大きくすることで,コンプレッサ質量流量の不確かさを改善することができることが分かった。  またそのほかにも,吸込体積流量に関しても不確かさ評価を行い,ばらつきの主要因を評価した結果,「コンプレッサ入口全温度」の不確かさの影響が最も大きいことが分かった。そこで,「コンプレッサ入口全温度」を測定するためのセンサを増やすことにより,温度測定を厳密に行えるようにした結果,吸込体積流量のばらつきを削減することができた。

最後に 測定結果には必ず不確かさが含まれる。測定結 果を過信しすぎないように。(特にデジタル表 示に注意!) 正しい測定結果とは,測定された値の平均値な どの報告された値のみではない。その周辺の値 も正しい測定結果の候補である。よって,不確 かさの記述を伴ってはじめて完全な測定結果の 表明と言える。 不確かさとは,評価した人がどの程度よくその 測定を知っているのか,どれだけ誠実に測定に 向き合っているのか,ということを反映する鏡 のようなものである。測定に対する知識が増え れば,問題解決力の上昇に繋がる!

用語 1) 測定不確かさ 不確かさ 用いる情報に基づいて,測定対象量に帰属する量の値のばらつきを特徴付ける負ではないパラメータ。 2) 計量計測   トレーサビリティ 個々の校正が測定不確かさに寄与する,文書化された切れ目のない校正の連鎖を通して,測定結果を計量参照に関連付けることができる測定結果の性質。 3) ばらつき 測定値の大きさがそろっていないこと。またはふぞろいの程度。 4) かたより 測定値の母平均から真の値を引いた値。 5) 補正 推定される系統的効果に対する補償。 6) 国家標準 当該の量の種類について,他の測定標準に量の値を付与するための根拠として,ある国または経済圏で用いるように国家当局が承認した測定標準。 参考 測定標準 何らかの計量参照として用いるための,表記された量の値及び付随する測定不確かさを持つ,量の定義の具現化。 7) 校正 指定の条件下において,第一段階で,測定標準によって提供される測定不確かさを伴う量の値と,付随した測定不確かさを伴う当該の指示値との関係を確立し,第二段階で,この情報を用いて指示値から測定結果を得るための関係を確立する操作。 8) 標準測定不確かさ 標準不確かさ 標準偏差として表した測定不確かさ。 9) 合成標準測定不確かさ 合成標準不確かさ 測定モデルの入力量に付随する個々の標準測定不確かさを用いて得られる標準測定不確かさ。 10) 拡張測定不確かさ 拡張不確かさ 合成標準測定不確かさと1より大きい係数との積。 3),4):JIS Z8103:2000 計測用語 より引用 それ以外:TS Z0032:2012 国際計量計測用語 より引用

参考文献 不確かさ評価について: ISO/IEC Guide98-3 (JCGM100), Guide to the expression of uncertainty in measurement, 2008.  日本語版 TS Z0033,測定における不確かさの表現のガイド,日本規格協会,2012. 用語について ISO/IEC Guide99 (JCGM200), International vocabulary of metrology - Basic and general concepts and associated terms, 2007. TS Z0032,国際計量計測用語-基本及び一般概念並びに関連用語(VIM),日本規格協会,2012. JIS Z8103,計測用語,日本規格協会,2000. 不確かさの利用例1 鶴輝久(村田製作所),(株)村田製作所における,不確かさを考慮した製品のリスク管理について,第8回NMIJ不確かさクラブ総会資料,2014. https://unit.aist.go.jp/mcml/rg-mi/uncertainty/club8s.html 不確かさの利用例2 田中秀幸(産総研),不確かさ評価の基礎-AQARIを理解するための第一歩-,定量NMRクラブ第3回会合「定量NMRと精度管理」資料集,2014. 不確かさの利用例3 小池利康(IHI回転機械)・小口幸成(神奈川工科大学),流体機械性能計測における“不確かさ解析の簡略化と自動化”,不確かさ評価事例集II,産総研NMIJ不確かさクラブ編,2013.