次世代半導体材料による 省エネルギーエレクトロニクス

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次世代半導体材料による 省エネルギーエレクトロニクス 名古屋工業大学 電気電子工学科 加藤 正史 http://araiweb.elcom.nitech.ac.jp/

電力用半導体素子の応用 応用分野は 半導体素子で上記の電力制御している その技術をパワーエレクトロニクス(パワエレ)と呼ぶ 配電系統 電車 工場の動力モータ ハイブリッド・電気自動車 エアコンなど家電 半導体素子で上記の電力制御している その技術をパワーエレクトロニクス(パワエレ)と呼ぶ

電力変換 例:家庭用交流電圧を直流電圧にする回路 電力用トランジスタ 電力用ダイオード 全波整流 全波整流 周波数変換 AC100V DC ?V 全波整流 全波整流 周波数変換

身近な電力変換 ACアダプタ エアコン・冷蔵庫のインバータ 電気自動車・電車のモータインバータ これらも電力用半導体素子・パワエレを利用 ACをDCに変換 エアコン・冷蔵庫のインバータ コンプレッサのモータを動かす 電気自動車・電車のモータインバータ 電車のウィーンという音はインバータ音 これらも電力用半導体素子・パワエレを利用

電力用半導体素子への要求 シリコンはこれらの要求を満たす 大電圧(AC100V等)に耐える 電気抵抗が低い 耐熱・放熱性が良い 信頼性が高い 必須条件 ピークは141V 正負で283V AC100Vの場合 耐圧は余裕を見て倍 約600V 電気抵抗が低い 抵抗が高いと電力ロス・熱が 発生 耐熱・放熱性が良い 高温になると壊れるため 信頼性が高い すぐに壊れるようではダメ シリコンはこれらの要求を満たす

シリコンの諸特性 バンドギャップ 1.1 eV 絶縁破壊電界 0.3 MV/cm 熱伝導度 1.5 W/cm/K 値が大きいほうが高温で動作 値が大きいほうが高電圧に耐える 熱伝導度   1.5 W/cm/K 値が大きいほうが放熱が良い 他の従来材料に比べて、これらの特性が電力用に適す

電力用素子の例:ダイオード アノードに正電圧印加の時のみ電流 この特性が必要:整流 大きな負電圧を印加すると急激な逆電流 印加電圧V アノード 逆電圧VR 順電圧VF 電圧 カソード アノードに正電圧印加の時のみ電流 この特性が必要:整流 大きな負電圧を印加すると急激な逆電流 降伏現象 起こしたくない現象 エネルギーバンド図でダイオードの動作原理を説明できる

半導体のエネルギーバンド 伝導帯に電子を導入することで電気伝導を起こす(n型) 金属では 電子エネルギー 伝導帯端 + 価電子帯端 + ここに電子があると電流が流れる 電子が存在できないバンドギャップ シリコンではEg=1.1eV 電子の分布を示す線 フェルミ準位 伝導帯の電子一個につきバンドギャップ中に正電荷一つ ここには電子が詰まっているが、一般的に図では省略される 伝導帯に電子を導入することで電気伝導を起こす(n型) 金属では 電子エネルギー 電子は自由に動くことができる フェルミエ準位 フェルミ準位より下では電子が詰まっている

ダイオードのエネルギーバンド図 電圧を印加しない場合 電極とシリコンのフェルミ準位差をなくすため電荷が分布 アノード カソード シリコン 電子エネルギー ショットキー障壁 シリコン + 電子 電極 + + + + + + + + + + + + フェルミ準位 - - 電荷 - 位置 アノード カソード 金属電極 シリコン ショットキーバリアダイオードの場合 電圧を印加しない場合 電極とシリコンのフェルミ準位差をなくすため電荷が分布

電荷密度分布 正電荷が金属/半導体界面から一定の密度で存在 シリコンの内部は電子の負電荷と相殺 シリコン + 電極 + + + + + + - - 電荷 - 電荷密度 正電荷 位置 負電荷 正電荷が金属/半導体界面から一定の密度で存在 シリコンの内部は電子の負電荷と相殺

電界分布 電界は電荷密度の積分 三角の形の電界分布 + + + + + + + + + + + + - - - 電荷密度 ポアソンの方程式 E: 電界 x: 位置 ρ: 電荷密度 ε: 誘電率 電界 位置 電界は電荷密度の積分 三角の形の電界分布

電界が減り、電子は電極側に流れる 大きな順電流 順電圧印加時 電極側に正電圧 + + + + + + + + + + 印加電圧VF - - - 電荷密度 電荷分布が狭まる 位置 電界 電界のピークが小さくなる 電界が減り、電子は電極側に流れる 大きな順電流

電極シリコンの界面のエネルギー差が大きくなる 逆電圧印加時 電極側に負電圧 + - + + - + 印加電圧VR - + + - + + + + + + + + + + - - - 電極シリコンの界面のエネルギー差が大きくなる 電極側からシリコン側へ電子は移動できない 逆電流が流れない 整流

広がった電荷分布により界面の電界が大きくなる 逆電圧印加時の電界 + - + + - + 印加電圧VR - + + - + + + + + + + + + + - - - 電荷密度 電荷分布が広がる 電界 電界のピークが大きくなる 位置 広がった電荷分布により界面の電界が大きくなる

ダイオードの降伏 電界のピークが絶縁破壊電界を超えると降伏 大きな逆電流 解決策 降伏が起こらないような電圧で使う シリコンの絶縁破壊電界 0.3 MV/cm 電界 位置 電界のピークが絶縁破壊電界を超えると降伏 大きな逆電流 解決策 降伏が起こらないような電圧で使う 高い電圧では使えない シリコン中の電荷密度を下げる 高い電圧でも使える

電荷密度を下げた場合 降伏は起こりにくくなるが、電気抵抗が上がる 電子が減り 電気抵抗が上がる シリコン + 電極 + + + + + - 電界 この面積が電圧に対応 底辺が長くなるので電圧が多くても ピークは低くなる 位置 降伏は起こりにくくなるが、電気抵抗が上がる

低い抵抗・高い降伏電圧の両立 次世代半導体材料の絶縁破壊電界を利用 同じ耐電圧で低抵抗(低消費電力)の素子が可能 ダイオード以外の素子も同様 シリコンカーバイド・窒化ガリウム の絶縁破壊電界 2~3 MV/cm シリコンの絶縁破壊電界 0.3 MV/cm 電界 位置 次世代半導体材料の絶縁破壊電界を利用 同じ耐電圧で低抵抗(低消費電力)の素子が可能 ダイオード以外の素子も同様

次世代半導体材料の諸特性 シリコンカーバイド、窒化ガリウム(SiC,GaN) バンドギャップ 3 eV付近 絶縁破壊電界 2~3 MV/cm シリコンの3倍  250℃程度の高温でも動作 絶縁破壊電界 2~3 MV/cm シリコンの10倍の電界に耐える 熱伝導度   1.5~4.5 W/cm/K シリコンの1~3倍  シリコンカーバイドは高い放熱性

理論性能 図の右下の方が低消費電力、大電圧 SiC,GaNにより飛躍的性能向上

技術の歴史 ・シリコンのエレクトロニクス技術 ・SiCのエレクトロニクス技術 ・GaNのエレクトロニクス技術 1940年代に発見、1950年代に実用化 ・SiCのエレクトロニクス技術 1980年代に結晶基板、2000年代に実用化 ・GaNのエレクトロニクス技術 1980年代に結晶基板、1990年代にLED実用化 2000年代に電波発振機実用化 SiC,GaN技術はまだ成長段階

SiC、GaN素子によるメリットの実例 SiC素子による省エネエアコンの市販 電気自動車ホイールモータへの実装試験 エアコンシステムで6%の電力削減 電気自動車ホイールモータへの実装試験 自動車内部スペースの簡略化 ノートPCのACアダプタへの実装試験 耐熱性向上による小型・軽量化 現在、毎月のように新しい展開が発表

SiC,GaN素子の省エネ効果予測 我が国の省エネ技術・基盤産業へ 2003年時点での予測 2020年における省電力効果28.61TWh/年 2005年の我が国の総電力消費 約1000TWh/年 2005年時点の電力消費と比較すると 約2.9%の省電力効果 我が国の省エネ技術・基盤産業へ