第7章 LANの構築 LAN(Local Area Network)は,局部ネットワークといい,一施設内程度の規模で用いられるコンピュータネットワークのことである.一般家庭,企業のオフィス,研究所,大学,学部などで広く使用されている. 米国電気電子学会(IEEE)の定義: 「LANは,限定された広がりをもった地域で,コンピュータをはじめとするさまざまな機器の間で自由に情報交換ができるものである」. 広辞苑の定義:「主として同一組織内で用いられる総合的な情報通信ネットワーク,コンピュータネットワークを中心とし,文章,音声,画像などの多様な情報を高速で安価に提供できる」 コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
7.1 LANの構築 LANの標準化はIEEEにより制定・管理されている.LANの標準化を目的とするIEEE802委員会は,LANの基本定義から,構築方法や通信方式などは詳細に定められている. 異機種コンピュータシステム間の相互接続・相互運用・相互通信を実現するために,システムがどのような通信機能を具備するべきか,すべてOSI参照モデルに照らして決定される.特に,トランスポート層とネットワーク層でTCP/IPというプロトコルが業界標準として定め,現在広く普及している.LANにも欠かせないプロトコルと技術になっている. コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
●信号 LANにおいて,信号がメディアに流れると,減衰,ノイズと衝突という信号障害が起こる可能性がある. ●信号 LANにおいて,信号がメディアに流れると,減衰,ノイズと衝突という信号障害が起こる可能性がある. 減衰とは,信号が弱くなることである.銅線において抵抗,光ファイバにおいて光の漏れと拡散,無線において電波の障害物と媒体影響もあるから,信号が必ず弱まってしまう. ノイズが信号に入ってくる原因は次の各点が考えられる.すぐ隣の銅線の信号漏れによるクロストーク(cross talk)干渉,電磁波干渉(EMI)と無線周波数干渉(RFI)などの原因でノイズが入って,信号が変形してしまい,認識できなくなる危険性もある. コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
■衝突について 衝突はLANに最も重視された問題である.ケーブル上で2つ以上の信号を同時に流れると信号の衝突(collision:コリジョン)が発生する.衝突したら,信号の形も変形してしまう. 受信と送信を別々のケーブルにしても,ハブ内部で伝送路が1つしかないので,ハブの中で衝突が起きる.衝突が起きる領域を衝突ドメインという.衝突発生を防ぐために,衝突ドメインを最小限に小さくする必要がある. コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
■減衰とノイズについて 減衰とノイズの影響に対して,リピータやハブなどは信号の増幅・補正の機能をもっているから,ある程度で防止・解消できる.しかし,ハブを連続でたくさん使うと,増幅・補正の際に多少時間がかかるから,遅延が多くなる.遅延はネットワークの全体性能にダメージを大きく与える.また,ハブをたくさん使うと,衝突ドメインも大きくなる。そこで,リピータやハブなどデバイスは多くて3,4個という制限がある. コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
●LANの伝送メディア(ケーブル) LANの主流はイーサネットである.コンピュータとコンピュータを結ぶケーブルには,同軸ケーブル,ツイストペアケーブルと光ファイバケーブルなどがある. ケーブルの規格の型番号は コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
■ケーブル型の説明 伝送方式には,ベースバンド(BASE)とブロードバンド(BROAD)がある.前者は,デジタル信号を変調せずに直接に0と1を送る方式である.後者は,異なる周波数を使って,1つの伝送路で同時に複数チャネルの信号を伝送できる 最大距離Mは,信号の減衰と遅延の限界値で決められている.単位を100mとして表す. (-X)は伝送路の種類を表す.(-T)はツイストペアケーブルを,(-F)は光ケーブルを表す. 例えば,LANの規格10BASE5では,10Mbps伝送速度のベースバンドで,最大距離500mの同軸ケーブル配線を表わす.10BASE-Tは,10Mbps伝送速度のベースバンドで,最大距離100mのツイストペアケーブルである. コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
●LANのトポロジー(形状) LANは各端末をケーブルで結ぶことによって作られている.その結び方をLANのトポロジー(topology)といい,物理トポロジーと論理トポロジーに分けてある. 物理トポロジーは,実際にコンピュータなどの端末とケーブルなどのメディアの配置と接続関係を示したもので,LANの形状となる. 論理トポロジーは信号レベルでのデータの流れと動きを示したものである. 一般にバス型,スター型とリング型がある. コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
●バス型(bus formed LAN) バスと呼ばれる1本の幹線となる母線に多数の端末を支線で接続するメディア共有型の配線形状で,イーサネットの10BASE5などがこの形状である. コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
●スター型(star formed LAN) スター型LANは,中心にハブなどを置いて,すべての端末を接続する形状である.配線の自由度が高いのが特長である.イーサネットの100BASE-TXなどがこの方式である.配線はツイストペアケーブルで,現在,LANに最も多く使われているトポロジーであり,LANの形状の主流となっている. コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
●リング型(ring formed LAN) リング型のLANは,すべての端末をリングの形で結び,それぞれの端末が隣の2つと接続する形状である.ツイストペアケーブルが用いられ,トークンリング(Token Ring)ともいう. 2重リング型がよく使われる.片方しか使わない.もう一方は予備. コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
●論理トポロジー 論理トポロジーはネットワーク上で,データの流れ方についてのトポロジーである.リング型とバス型に分けてある. ●論理トポロジー 論理トポロジーはネットワーク上で,データの流れ方についてのトポロジーである.リング型とバス型に分けてある. リング型はデータがノードを巡回する形で伝送される. バス型はデータが同時にすべてのノードに伝送される. コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
●物理トポロジーと論理トポロジーの関係 物理トポロジーと論理トポロジーは必ずしも一致しない.下図のような組合せができる. ●物理トポロジーと論理トポロジーの関係 物理トポロジーと論理トポロジーは必ずしも一致しない.下図のような組合せができる. コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
●物理トポロジーと論理トポロジーの組合せ ●物理トポロジーと論理トポロジーの組合せ 物理トポロジーはバス型で,データはノードを巡回する形で伝送されるので,論理トポロジーはリング型である. 物理トポロジーはスター型で,論理トポロジーはバス型とリング型である. バス型 リング型 コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
7.2 LANのメディア・アクセス制御方式 多数の端末が一本の伝送路を共有するLANでは,同時に複数の端末がデータを送信してしまうと,信号と信号の衝突が起こる.衝突がないように,どれの端末が伝送路(メディア)に送信(アクセス)したらいいのかを制御する必要がある.これをメディア・アクセス制御方式という. LANの論理トポロジーによって,CSMA/CD方式とToken Passing方式がある. コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
●CSMA/CD方式の送信 LANでは,データをフレームとして送信する. ●送信準備 送信するフレームを用意し,衝突カウンターをリセットする. ●CSMAによるキャリアの検出と送信 伝送路に通信があるならば,終わるまでに待つ.通信していない場合,一定時間を待ってから送信を開始する. ●CDによる衝突を検出 衝突がなければ,送信が完了.衝突があった場合,衝突カウンターを1増加して送信を中止する.衝突カウンターが16未満ならば,ランダムな時間を待ってからやり直す.16以上ならば,問答無用で送信できなかったフレームを破棄する. コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
●CSMA/CD方式の受信 LANでは,受信したフレームはすべての端末に届くから,各端末は受信時点で,宛先のMACアドレスと自分のMACアドレスを比較する.自分宛でない場合,その場で破棄する.自分宛の場合,エラーチェックを行い,正しいデータであることを確かめる.エラーがあったら,破棄する. LANの送受信はベストエフォート型配送(best effort deliver)である.すなわち,確実に配送できるように十分努力するが,それ以上保障はないという伝送方法である.実際にCSMA/CD方式はかなり信頼性の高い通信方式で,エラーの発生率が低い. コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
●Token Passing方式 Token passing (トークンパッシング)アクセス制御方式は,リング型論理トポロジーのLAN規格に使われる. トークンパッシング方式では,トークン(token)と呼ばれるフレームが,リング状のネットワーク上を巡回する.トークンにはフリートークン,ビジートークンと呼ぶ.データを送信したい端末はフリートークンをつかみ,「送信権」を得る.送信すべきデータと送受信アドレスを付加して,ビジートークンとして送出する.その後,ビジートークンがネットワーク上で各端末間に回り続ける.各端末は,回ってきたビジートークンのMACアドレスを調べ,それが自分宛でない場合,受領しない.自分宛の場合は,データを受領し,「受領印」を押してから,トークンを送り返す.「受領印」を受けたトークンは一周して送信先の端末に戻ると,送信済みのフレームが破棄され,再びフリートークンとして放出される. コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
●Token Passing方式の説明 端末AがCに送信したいとする.フリートークン■が図(a)のようにAに回ってきたら,Aは送信データや宛先Cの情報などをフリートークン に付加して,ビジートークンとして放出する図(b).ビジートークンは端末Bにきたら,Bの宛ではないためBに受領せず放出する.Cに回ってきて,Cの宛であるから,Cで受領し,「受領印」を押して,送信済みトークン▲を送り返す図(c).送信済みトークンは一周してAに戻ると,データフレームを破棄して,再びフリートークンを放出し,送受信が完了する図(d). コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
7.3 MANの概説 MAN(Metropolitan Area Network)とは,都市圏エリアをカバーするネットワークの新しい形態である.大学や企業などのビルや敷地内のエリアをカバーするLANに対して,MANは半径50Km程度の都市全体のエリアをカバーするネットワークである.ADSLやFTTHなどアクセス回線の高速化に伴い,ブロードバンドのアクセス回線が普及してきた.企業向けでは,さらに高速な1Gbpsのイーサネットも,アクセス回線として提供されている.こうしたアクセス回線のブロードバンド化に伴い,高速化する必要がある.これを支えるのがMANと呼ばれる最新のメトロネットワーク(都市圏ネットワーク)である. コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
●MANの構成 MANのアクセス回線の主流が光ファイバで構成されている.日本では「MAN」という呼び方は一般的ではなく,単に「アクセス網」と呼ばれている. 自治体のLAN MAN コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
第7章のまとめ 1.LANのメリットと効果 2.LANの構築要素 ●信号の障害:減衰,ノイズ,衝突 第7章のまとめ 1.LANのメリットと効果 2.LANの構築要素 ●信号の障害:減衰,ノイズ,衝突 ●伝送メディア:同軸ケーブル,ツイストペアケーブル, 光ファイバ ●トポロジー(形状):物理トポロジー(バス型,スター型, リング型),論理トポロジー(リング型,バス型) コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築
第7章のまとめ 3.LANのメディア・アクセス制御方式 ● CSMA/CD方式 ● Token Passing方式 4. MAN発展と普及 完 第7章のまとめ 3.LANのメディア・アクセス制御方式 ● CSMA/CD方式 ● Token Passing方式 4. MAN発展と普及 コンピュータとネットワーク概論 第7章 LANの構築