新しいダブルベータ崩壊探索実験にむけた CdTe検出器の大型化

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新しいダブルベータ崩壊探索実験にむけた CdTe検出器の大型化 京都大学 木河達也

ダブルベータ崩壊 ニュートリノを放出するダブルベータ崩壊 ニュートリノを放出しないダブルベータ崩壊 (2nbb) (0nbb) 標準模型の枠内 実験的に確認 ニュートリノを放出しないダブルベータ崩壊 標準模型では禁止された反応 実験的に未確認 確認されると ニュートリノはマヨラナ粒子 有効マヨラナ質量 (2nbb) (0nbb)

0nbbの探索 要請 2nbb 0nbb 2つの電子のエネルギー和の分布においてQ値にできるピークを探索 エネルギー分解能の高い放射線検出器 高統計、低バックグラウンド 2nbb 0nbb 2つの電子のエネルギーの和 Q値

CdTe (テルル化カドミウム) 130Te, 116Cd 106Cd 自然存在比 Q値(MeV) 130Te 34% 2.53 116Cd 化合物半導体 有望なダブルベータ崩壊核を含む。 CdTeを素子とした半導体検出器(CdTe検出器)で電子のエネルギーを測定できる。 130Te, 116Cd 自然存在比が高い Q値が高い 環境放射線バックグラウンド が少ない 106Cd β+EC崩壊を起こす 自然存在比 Q値(MeV) 130Te 34% 2.53 116Cd 7.5% 2.80 128Te 31% 0.866 106Cd 1.5% 1.75

106Cdを用いた0nbb探索 CdTe - + + + + - - - - β+EC崩壊を起こす。 陽電子は静止後、電子と対消滅し2γを生成 CdTe - + + + + γ γ e+ - - - -

106Cdを用いた0nbb探索 CdTe検出器をNaI検出器で囲む CdTe検出器からの信号に加え、Back to BackとなるNaI検出器で511keVのγを同時検出することを要求することで、環境放射線によるバックグラウンドを排除 CdTe検出器 NaI検出器

CdTe検出器 長所 短所 放射線→電気信号への変換効率がよい。 (半導体検出器としての性質) 放射線→電気信号への変換効率がよい。   (半導体検出器としての性質) 放射線吸収率が高い。(原子番号と密度が高いため) 常温で使うことができる。(バンドギャップが大きいため) 短所 半導体検出器としてはエネルギー分解能が低い。 (ホールの易動度が低く、ホールの寿命が短いため) バンドギャップ(eV) 密度(g/cm3) 原子番号 電子 移動度(cm2/V/s) ホール移動度(cm2/V/s) 電子寿命(s) ホール寿命(s) Ge 0.67 5.33 32 3800 1900 >10-3 1×10-3 Si 1.11 2.33 14 1400 500 2×10-3 CdTe 1.47 5.85 48,52 1100 100 3×10-6 2×10-6

ホール捕獲の効果 荷電粒子 CdTe ホール 電子 陰極 陽極 + - CdTe中ではホールのドリフト中の捕獲が顕著。 ホールの易動度が低いため、ホールの寿命が短いため 荷電粒子 + - CdTe ホール 電子 陽極 陰極

ホール捕獲の効果 Ge, Siなどはμhτが十分大きい CdTeではμhτが小さくホール捕獲の効果が顕著 十分に小さいとき 大きいとき Nとx0に依存 ↓ エネルギー 分解能が悪化 Nのみに依存 Ge, Siなどはμhτが十分大きい CdTeではμhτが小さくホール捕獲の効果が顕著 素子が薄ければ(dが小さければ)その影響は小さい → 小型のCdTe検出器は既に市販されている しかし小型のCdTe検出器を積層するとなるとチャンネル数が多くなってしまう。 → 大型のCdTe検出器でも高いエネルギー分解能を得ることはできないか

波形読み出し CdTe検出器からの信号の波形を読み出し、パルスの高さとドリフト時間を測定。 ドリフト時間によりパルスハイトに補正をかけることで、ホール捕獲の効果を補正 → エネルギー分解能を改善できるはず 補正 ホールの効果 電子の効果 ドリフト時間 予想されるCdTe検出器からの信号の波形 予想されるドリフト時間とパルスハイトの関係

セットアップ CdTe検出器(CdTe505050) クリアパルス社製, 特注品 オーミック型 素子のサイズ:5mm×5mm×5mm (特注品) Bias supply PreAmp FADC CdTe detector 137Cs γ (662keV) 400V 線源 信号 DAQ PC Bias コントロール データ取得 CdTe検出器(CdTe505050) クリアパルス社製, 特注品 オーミック型 素子のサイズ:5mm×5mm×5mm PreAmp(580K) クリアパルス社製, 電荷有感型 時定数:60μs→600μs, gain:約11倍 Flash ADC(V1724) CAEN社製, sampling rate:100MHz dynamic range:-2V~2V, resolution:14bit 改造 10kΩ 22kΩ 1μF 220kΩ ↓ 75kΩ 2.2nF 22nF プリアンプの改造

観測された波形 電子の効果が大きいもの (反応が陰極付近で起きた) ホールの効果が大きいもの (反応が陽極付近で起きた) ドリフト時間が短い ドリフト時間が長い

エネルギー分布 補正により光電効果によるピークがきれいに見えるようになった。(FWHM:2.02%) パルスハイトの分布 エネルギーの分布 素子の温度が0℃の時 100 (FWHM2.02%) 50 # of counts # of counts ドリフト時間によるエネルギー補正 400 400 Pulse height Energy(keV) パルスハイトとドリフト時間 エネルギーとドリフト時間 1000 700 Pulse height Energy(keV) 8 Drift time(μs) 8 Drift time(μs) 補正により光電効果によるピークがきれいに見えるようになった。(FWHM:2.02%)

温度の影響 液体窒素、恒温槽によりCdTe素子の温度を制御して測定。 温度が低くなると、ホールのドリフト速度が遅くなっていく。 30℃の時 -40℃の時 FADC counts FADC counts time (s) time (s)

温度の影響 温度が高くなるとノイズが大きくなる。 温度を低くすると、ドリフト速度が遅くなり、ホール捕獲の効果が大きくなる。 温度と2μs間でのPedestalのRMSの関係 液体窒素での冷却下 恒温槽による温度制御下 液体窒素での冷却下 恒温槽による温度制御下 Mean drift time (s) Pedestal RMS (FADC counts) Temperature(℃) Temperature (℃) 温度が高くなるとノイズが大きくなる。 温度を低くすると、ドリフト速度が遅くなり、ホール捕獲の効果が大きくなる。 → 現在の測定環境では0℃付近で分解能が最良(FWHM:2.02%)となる

エネルギー分解能 0℃で測定したとき 依然として電荷収集の影響が支配的

電場の一様性 理想的には電荷収集の影響は完全にキャンセルできる。 完全にキャンセルできないのは、CdTe内部の電場が一様でないためだと思われる。 CdTe素子全体が均一であった場合、電場の非一様性による影響は0.2%程度→均一でない? 陽極 X position(cm) Y position(cm) 電場(V/cm) 陽極 陰極 5mm 2.5mm CdTe 5mm 5mm 陰極

さらに大型化 15mm× 15mm×10mmのCdTe素子を用いたCdTe検出器 クリアパルス製, オーミック型 15mm 10mm

大型CdTe検出器 ホール捕獲の効果が大きく、補正後もエネルギー分解能が低い → 解析方法の改善が必要

今後 CdTe素子のサイズ(厚いとドリフト時間大、横に広げるとノイズ大) 塩素のドープ量(多いとホールの移動度小?、少ないとリーク電流大) 温度(高いとノイズ大、低いとホールの移動度小) 印加電圧(高いとリーク電流大、低いとドリフト速度小) を最適化 解析方法や電極構造を改善 O(10cm3)でエネルギー分解能0.5%(FWHM@2.5MeV)を目指す ダブルベータ崩壊探索のみでなく、検出効率の高く、常温で使用可能な放射線検出器としての応用も考えていく。

まとめ ドリフト時間からパルスハイトに補正をすることにより、0℃において、5mm角の素子を用いたCdTe検出器で662keVのγ線に対しFWHM2.0%のエネルギー分解能を得ることに成功した。 温度が高いとノイズが大きく、低いとホールの移動度が低くなるため現在の測定環境では0℃付近でエネルギー分解能が最良となる。 補正後も依然、電荷収集の影響が支配的であり、その原因として電場の非一様性、素子の非均一性が考えられる。 さらに大きい15mm× 15mm×10mmのCdTe素子を用いたCdTe検出器を用いたR&Dも開始した 今後もR&Dを続け、O(10cm3)でエネルギー分解能0.5%(FWHM@2.5MeV)を目指す

バックアップ

半導体検出器からの信号の式 電子による信号 ホールによる信号 足し合わせた信号

Coplanar grid technique 半導体素子の陽極側に電圧の異なる2つの電極を配置する。 ホールのドリフトや陽極付近に来るまでの電子のドリフトによる効果は両方の陽極に同じようにあらわれる。 陽極付近から電圧が高い方の陽極までのドリフトによる効果は2つの電極で異なる。 一方の陽極からの信号から他方の陽極の信号を引けばホールの影響を受けない電子の数だけに比例した情報が得られる。 半導体 陽極1 陰極 CH1(high bias) 陽極2 + - CH2(low bias) CH1-CH2 陽極1 ガード電極 陽極2 陽極の構造 CdTe素子、電極構造の写真 各陽極からの信号

60Co 小CdTe

60Co 大CdTe