予防医学のストラテジー 甲田
GIO 予防医学の基本的概念とストラテジーを理解する。
SBO 予防医学の3つのレベルを説明し、それぞれの具体例を挙げることができる ヘルスプロモーションの概要を説明できる ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチを説明できる 1 予防医学の概念と具体例は理解しておく必要ある。 2健康増進の概要についても国試にもこれまで出ている。 3~5 ハイリスクアプローチ、 ポピュレーションアプローチ、各々の有効な条件、利点、欠点をおさえておく。
産業革命時代のマンチェスター ▼人口:6千人(1685年)、3万人(1760年) 16万人(1821年)、22万人(1841年) 16万人(1821年)、22万人(1841年) ▼住居(1841年、7000人の地区) 便所 33 3人部屋 1,500、4人部屋 738 5人部屋 281 ▼7-8歳から就労
我が国の疾病構造の変遷 公衆衛生学の輸入 厚生労働省HPより
健康とは (1) 健康と疾病の不連続性 健康、半健康、病弱、疾病は、それぞれ の境界線が不明瞭。 (2) 1946年のWHOの健康の定義: 健康、半健康、病弱、疾病は、それぞれ の境界線が不明瞭。 (2) 1946年のWHOの健康の定義: 「健康とは単に病気でない、虚弱でないとういうのみ ならず、身体的、精神的そして社会的に完全に良好 な状態を指す」
健康管理の範囲と活動の構成 健康の保持・増進 疾病・災害予防 健康相談 健康教育 健康を保持・増進するための活動 健康診断 救急処置 疾病管理 臨床診断・治療 リハビリテーション ターミナルケア 健康を保持・増進するための活動 健康破綻からの回復、 QOLの確保のための活動 7
一次予防 疾病でない(感受性期)人を対象にした対策。 目的は、病気になる原因やリスク要因を除去することで病気が起こらないようにすること。
1次予防 健康保持・増進: 適切な栄養摂取、運動や休養、 健康教育等。 特異的疾病予防: 感染症に対する予防接種、消毒、入 適切な栄養摂取、運動や休養、 健康教育等。 特異的疾病予防: 感染症に対する予防接種、消毒、入 院措置、職業病を防ぐための対策、 公害対策、事故防止、特殊栄養食品 の供給、発がん物質の除去等。
二次予防 症状が現れていない(発症前期、無症候期)人を対象にした、疾病の早期発見と早期治療。 臨床的に発見される前に介入 プリントの空欄が改行で消失 症状が現れていない(発症前期、無症候期)人を対象にした、疾病の早期発見と早期治療。 臨床的に発見される前に介入 健康障害の進展を防止する 循環器健診、がん検診、高血圧の治療 プリントの空欄が改行で消失
三次予防 発症した疾病の増悪を防止すると共に、機能障害を残さないようにようにする。 患者や障害のある人を対象にした治療 リハビリテーション 社会復帰対策
三次予防の例 再発予防 (心筋梗塞後の抗凝固剤内服療法) 脳卒中後の機能回復訓練 3次予防の具体例 (心筋梗塞後の抗凝固剤内服療法) 脳卒中後の機能回復訓練 3次予防の具体例 ・病気の再発予防はこれにあたる。たとえば、心筋梗塞後の抗凝固剤内服療法で、再梗塞発症予防につとめる。 ・脳卒中後の機能回復訓練、これによりQOLの向上、社会復帰をめざす。
予防医学の3つのレベル【まとめ】 健康増進 再発 機能障害 疾病なし 疾病あり 無症候期 1次予防 2次予防 3次予防 リハビリ 早期発見 疾病なし 疾病あり 無症候期 1次予防 2次予防 3次予防 予防医学の3つのレベルのまとめ。疾病の自然史のどの段階を対象としているか。1~3次予防の各々の目的と具体例を把握しておく。 健康増進 特異的疾病予防 早期発見 早期治療 リハビリ 社会復帰 13
21世紀の健康戦略 健康増進(ヘルスプロモーション) ヘルス・フォー・オール アルマ・アタ宣言 オタワ憲章 健康日本21
ヘルス・フォー・オール WHOが1977年の第30回世界保健総会において設定した目標 「2000年までにすべての人に健康を」
アルマ・アタ宣言 アルマ・アタでのWHOとユニセフの合同会議(1978年) 健康に関して格差や不平等は容認されるべきではないという基本精神に基づき 医療の重点を従来の高度医療中心から、プライマリ・ヘルス・ケア(PHC) に転換するよう提唱
PHCの具体的な活動項目 健康教育 食糧確保と安全な飲み水と基本的な衛生 母子保健(家族計画を含む)や予防接種 地方風土病対策 簡単な病気や怪我の治療 必須医薬品の供給
ヘルスプロモーションに関するオタワ憲章 1986年にオタワ市での国際会議 WHOはオタワ憲章を採択 ヘルスプロモーションを個人に任せるだけでなく 公共政策、健康支援の環境づくり
環境と行動 個人の行動は社会環境を形成する。 社会環境は個人の行動に影響する。 健康的関連行動について単に個人を教育するだけでは効果的でない。 健康支援の環境づくりが大切。
健康問題の異なるレベルにおける要因の相互の関係性 (一目でわかるへルスプロモーション、国立保健医療科学院より引用)
図「健康さかい21」より改変して引用 健康 QOLの向上 住民参加 地域活動の強化 健康を支援する 環境づくり 個人技術の向上 (パワーを増やす) 個人技術の向上 健康を支援する 環境づくり (勾配を下げる) 図「健康さかい21」より改変して引用
保健サービスの方向転換 例 健康増進法 公共の場における受動喫煙の防止が規定→病院敷地内禁煙 健康増進法 公共の場における受動喫煙の防止が規定→病院敷地内禁煙 地域環境の健康化→小中学校の身近な施設(体育館、プールなど)の解放 健康日本21にも取り入れられた ヘルスプロモーションの概念は、21世紀の国民健康づくり運動「健康日本21」に取り入れられた。 例として以下。 健康増進法 公共の場における受動喫煙の防止が規定→病院敷地内禁煙 地域環境の健康化→小中学校の身近な施設(体育館、プールなど)の解放
健康日本21(2000~2012年) 21世紀の国民健康づくり運動 健康寿命の延伸等のため 具体的な目標等を提示 全ての関係機関・団体等を始めとして、国民が一体となった健康づくり運動を促す
健康日本21の特徴 ①健康診断重視の二次予防から、健康づくりの一次予防重視へ ②ハイリスクアプローチからポピュレーションアプローチ重視へ ③個人の健康づくりを支援する社会環境整備 ④目標設定 ⑤地方の実情に合わせた地方計画の策定と評価 EX. 「健康大阪さやま21」計画
健康日本21(第2次)(2013~2022年)の目標 健康寿命の延伸と健康格差の縮小 生活習慣病の発症予防と重症化予防 社会生活のための必要な機能の維持・向上 健康を支え守るための社会環境の整備 生活習慣及び社会環境の改善 等
ハイリスクアプローチ と ポピュレーションアプローチ
ハイリスクアプローチ ハイリスクアプローチとは、疾患を発症するリスクの高い人や重症化するリスクの高い人を発見して対策を講じる方法。 例えば、高血圧のグループを見つけ出し、血圧を下げることによって、脳卒中の頻度を低下させる。
血圧分布が通常の脳卒中発症 図「(社)地域医療振興協会ヘルスプロモーション研究センター報告書」より引用
ポピュレーションアプローチ ポピュレーションアプローチとは、個人のリスクの有無に無関係に、集団全体に対策を行う方法。 脳卒中に罹る人数は、高血圧域の人より境界域の人数の方が圧倒的に多い。 集団全体の血圧を下げた方が防げる人数は大きい。
血圧分布が左方移動した場合の脳卒中発症 図「(社)地域医療振興協会ヘルスプロモーション研究センター報告書」より引用
健康づくりの取組みの例 個人 グループ 地域 ハイリスクアプローチ 大 リスク 小 個別教育 糖尿病予防教室 特定保健指導 歩こう会 大 リスク 小 個別教育 糖尿病予防教室 特定保健指導 歩こう会 健康大阪さやま21計画 特定健診 ウオーキングコース整備 普及啓発 ポピュレーションアプローチ
ハイリスクアプローチ: 明確な疾病予防。 ポピュレーションアプローチ: 疾病予防に特化しない社会へのアプローチ。 生活様式や環境へのアプローチ。 地域の組織化やシステム化が含まれる。 健康増進に対する地域の基盤づくりから始まり、 集団指導に至る。
ハイリスクアプローチが有効である条件 対象疾患が進行性、潜行性の疾患で、放置すると重大な健康問題となる。 ハイリスク者を発見する有効な検査がある。 ハイリスク者に対して適切な対処法がある。 ・ハイリスクアプローチが有効である条件 対象とする疾患が進行性、潜行性の疾患で、放置すると重大な健康問題となる。 ハイリスク者を発見する有効な検査(screening test)がある。 ハイリスク者に対して適切な対処法がある。 予防事業として継続的に実施できる体制がある 実施することによって死亡や障害が減少する。 実施することで節減される医療費や社会的損失がそれに必要な経費を上回る。
ハイリスクアプローチの利点 個人のニーズに適合した介入内容を設定できる。 個人にとって行動を変容するための強い動機を与えやすい。 介入する側(例:医療者)も同様。
ハイリスクアプローチの欠点 ハイリスクでない人からの疾患の発生や重症化は防げない。 ハイリスク者は検査しなければ把握できない。
ポピュレーションアプローチの利点 ハイリスクでない人も恩恵を受ける。 個人だけでなく、社会環境への介入も含むので、生活習慣の変容を適切に実施できる。
ポピュレーションアプローチの欠点 個人に対する介入度合いは低いので、各人への動機づけは小さい。 医療者にとっても、介入する対象が個人ではないので、動機付け小さい。 介入効果の測定がしにくい。
実際のストラテジー 集団全体に対して多大な恩恵をもたらすポピュレーションアプローチも集団を構成する個人個人への恩恵は少ない。 実際には、2つのアプローチを統合して用いることが必要。
図「(社)地域医療振興協会ヘルスプロモーション研究センター報告書」より引用
袋井市小児生活習慣病予防 小学5年生(小6)および中学2年生(中3) 生活習慣病予防健診 健診結果説明会(全小中学校) 要指導者を対象とした親子予防教室 ポピュレーションアプローチ ハイリスクアプローチ 40
形成評価試験 1.ヘルスプロモーションは、2次予防である 2.ヘルスプロモーションの活動には、環境整備が含まれる 3.1次予防対策は、患者や障害のある人を対象にした予防対策である 4.風疹ワクチン接種は、1次予防対策である 5.禁煙外来は、2次予防対策である 6.3次予防対策は、罹患率の低下を目標としている 7.有効な検査はハイリスクアプローチのために必要である 8.ポピュレーションアプローチに比べ、ハイリスクアプローチの介入効果は評価が容易である 9.ハイリスクアプローチはリスク要因をもつ者の疾患発生リスクを下げることを目標としている 10.ポピュレーションアプローチはハイリスクアプローチよりも各人への行動変容の動機づけは小さい