2016年度 民事訴訟法講義 秋学期 第11回 関西大学法学部教授 栗田 隆

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2016年度 民事訴訟法講義 秋学期 第11回 関西大学法学部教授 栗田 隆 2016年度 民事訴訟法講義 秋学期 第11回 関西大学法学部教授 栗田 隆 既判力の客観的範囲(114条)

既判力の生ずる判断 既判力は、判決主文中の判断に限り生ずるのが原則である(114条1項)。 理由中の判断には生じないのが原則である  前提問題は当事者間で審判の最終目標とされたものではないから、この点の判断に既判力を認めることは、処分権主義に反する。理由中の判断に既判力を発生させたい当事者は、中間確認の訴え(145条)を提起すべきである。 T. Kurita

所有権に基づく引渡請求 私の所有物だ 占有者 X 所有権に基づく明渡請求 Y 請求認容 判決理由中でXの所有物であるとの判断がなされるが、この判断には既判力は生じない。 請求棄却 判決理由中でXの所有物でないとの判断がなされ、その理由により請求が棄却されても、この判断には既判力は生じない。 T. Kurita

債権に基づく給付請求 500万円貸した X 500万円の支払請求 Y 請求認容 貸金債権の存在の判断に既判力が生ずる。 債権自体と債権の効力の一部としての請求権とを区別する立場に立ったとしても、同様に考えるべきである。 T. Kurita

債権に基づく給付請求 500万円貸した X 500万円の支払請求 Y 請求棄却  次の理由で請求が棄却された場合に、どのような判断に既判力が生ずるか? 貸金債権の不存在。 貸金債権は発生しているが、弁済期未到来である。 貸金債権は発生しておらず、たとえ発生していたとしても弁済期は未到来である。 T. Kurita

明示の一部請求 明示の一部請求(600万円のうちの400万円の支払を求める) 請求部分のみが訴訟物になり、その部分の存否の判断に既判力が生じる。  600万円全額の存在が認められ、400万円の支払が命じられた場合  400万円の存在の判断 300万円のみの存在が認められ、300万円みの支払が命じられ、その余の請求が棄却された場合  300万円の存在と100万円の不存在の判断 債権の存在が認められなかった場合  400万円の不存在の判断 黙示の一部請求 債権全体が訴訟物になる。認容された金額でのみ債権が存在するとの判断に既判力が生ずる。   T. Kurita

例外 相殺の判断(114条2項) 相殺の抗弁について判断がなされた場合に、この判断に既判力を認めないと、訴求債権の存否についての紛争が反対債権の存否の紛争として蒸し返され、判決による紛争解決が実質的に意味を失う場合がある。 そこで、一挙にこの点を解決する趣旨で、反対債権の不存在について既判力が認められている。 T. Kurita

図解 α債権支払請求 Y X 裁判所が両債権の存在と相殺を認めて、請求を棄却。 β債権支払請求 Y X もしα債権の存在が認められるのであれば、自分のXに対するβ債権と相殺する 棄却 α債権支払請求 Y X 裁判所が両債権の存在と相殺を認めて、請求を棄却。 β債権支払請求 Y X α債権はもともとなかったから、β債権が相殺により消滅することはない T. Kurita

図解 認容 α債権支払請求 Y X X β債権支払請求 Y もしα債権の存在が認められるのであれば、自分のXに対するβ債権と相殺する 裁判所がα債権の存在とβ債権の不存在を認めて、請求を認容した。 β債権についての前訴裁判所の判断は誤っている X β債権支払請求 Y 前訴の訴求債権(α債権)の存否についての紛争が反対債権(β債権)の存否の紛争として蒸し返されるということにはならないが、前訴で既判力を認めてよいほどに審理されているから既判力が生ずる。 T. Kurita

図解 認容 α債権支払請求 Y X Y X β債権支払請求 もしα債権の存在が認められるのであれば、自分のXに対するβ債権と相殺する 相殺の抗弁を却下 裁判所がα債権の存在を認め相殺の抗弁を時期に遅れたものとして却下し(157条)、請求を認容した。 Y X β債権支払請求 β債権は存在する 前訴判決の既判力よって 遮断されない T. Kurita

相殺をもって対抗した額 α債権30万円の支払請求 Y X b c d 自分のXに対するβ債権150万円と対当額で相殺する 棄却 裁判所がα債権30万円の存在とβ債権100万円の存在を認めて請求を棄却した場合。 α債権不存在 β債権のうち相殺で対抗した部分(30万円)の不存在 次の判断には既判力は生じない  残余の70万円の存在 50万円の不存在 b 相殺 30万円 c d 裁判所認定100万円 被告主張150万円 T. Kurita

相殺をもって対抗した額 α債権100万円の支払請求 Y X 自分のXに対するβ債権100万円と対当額で相殺する 一部認容・一部棄却 裁判所がα債権全額の存在とβ債権のうち30万円のみの存在を認めた場合。 α債権70万円の存在 α債権30万円の不存在(相殺により消滅) β債権100万円の不存在 70万円は当初から不存在 30万円は相殺により消滅 T. Kurita

相殺をもって対抗した額 X α債権100万円の支払請求 Y 自分のXに対するβ債権100万円と対当額で相殺する 一部認容・一部棄却 裁判所がα債権のうち50万円のみの存在とβ債権のうち30万円のみの存在を認めた場合。 α債権20万円の存在 α債権のその余の80万円の不存在 50万円は当初から不存在 30万円は相殺により消滅 相殺をもって対抗する必要があるのは50万円。β債権50万円のうち 20万円は当初から不存在 T. Kurita

相殺と一部請求 判例(外側説) α債権100万円のうちの 80万円の支払請求 Y X 自分のXに対するβ債権80万円と対当額で相殺する 裁判所がα債権全額の存在と、β債権全額の存在を認めた場合。 α債権の外側部分(不訴求部分20万円)と反対債権のうち20万円とがまず相殺される。この相殺の判断には既判力は生じない。 請求は20万円だけ認容され、その余は棄却される。 反対債権については、次の判断に既判力が生ずる 60万円は相殺により消滅 T. Kurita

相殺と一部請求 判例(外側説) α債権100万円のうちの 80万円の支払請求 Y X 自分のXに対するβ債権100万円と対当額で相殺する 裁判所がα債権全額の存在と、β債権のうち80万円のみの存在を認めた場合。 α債権の外側部分(不訴求部分20万円)と認定された反対債権80万円のうちの20万円とがまず相殺される。この相殺の判断には既判力は生じない。 請求は20万円だけ認容され、その余は棄却される。 反対債権については、次の判断に既判力が生ずる 20万円は当初から不存在 60万円は相殺により消滅 T. Kurita

訴訟の蒸返しの禁止(信義則による禁止) 最判平成10年6月12日 金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情がない限り、信義則に反して許されない。 訴訟物を異にする場合であっても、後訴が実質的には、敗訴に終わった前訴の請求及び主張の蒸返しに当たる場合には、後訴の提起は信義則に反して許されない。 T. Kurita

折尾簡判平成14年11月21日 敗 敗 高利貸金業者 不当利得返還請求 借主 不当利得返還請求 2つの訴訟において借主とその子が不当な証言・陳述をした 損害賠償請求 裁判所は、旧訴訟物理論を前提にして第2訴訟の判決の既判力は本訴(第3訴訟)に及ばないとしつつ、貸金業者の本訴提起は信義則に反して許されないとして却下した。 T. Kurita