安達信泰 名古屋工業大学 セラミックス基盤工学研究センター 機能創製研究部門 複合機能研究グループ (別名 コンポジットグループ) 平成16年度 名古屋工業大学公開講座 セラミックス研究のフロンティア -機能を活かす製法と評価法- 磁石に見る磁性材料の製法 安達信泰 名古屋工業大学 セラミックス基盤工学研究センター 機能創製研究部門 複合機能研究グループ (別名 コンポジットグループ)
磁石材料 -身近なも日用品からハイテク機器まで網羅- 磁石の歴史 良い磁石の条件 磁石の性質、用語、特性表記 製造過程 磁石の応用 研究紹介
人と磁石との出会い -黒い天然鉄鉱石- 中国 紀元前3世紀 慈母に慕い寄る赤ん坊になぞらえて慈石 人と磁石との出会い -黒い天然鉄鉱石- 中国 紀元前3世紀 慈母に慕い寄る赤ん坊になぞらえて慈石 慈石(磁鉄鉱)の取れる地方を磁州(河北省磁県) それに伴い、慈石が磁石になったと言われる。
ギリシャ 紀元前7世紀頃 マグネシア地方で磁鉄鉱がとれ、マグナスと呼び、mgnetite, magnetとなったとも言われる。
高性能磁石の開発の歴史 KS鋼 鉄、コバルト、クロム、炭素の合金 本多光太郎、高木弘が発明(1917年) KS鋼 鉄、コバルト、クロム、炭素の合金 本多光太郎、高木弘が発明(1917年) 当時の3倍の保磁力で世界最強磁石となった。 Kichizaemon Sumitomo MK鋼 鉄、ニッケル、アルミニウムの 合金 三島徳七が発明(1932年) KS鋼の2倍以上の保磁力 400~600 Oe Mishima Tokusu Coフェライト磁石OP磁石 Fe2O3を主成分とする酸化物 武井武、加藤與五郎が発明(1931年) MK鋼の保磁力を上回る 600~900 Oe 戦後にPhylips社がBaO・6Fe2O3を大量生産(1952)
希土類磁石の登場(1960~ ) SmCo5 Sm2Co17 Nd-Fe-B系 USA 空軍材料研 Swiss 日本、USA (住特金、佐川ら)
良い磁石の条件 小さな体積で強力な磁界を発生 熱や外部からの磁界に対して安定 コストパフォーマンス ① 最大エネルギー積 (BH)MAXが大きい Nd-Fe-B系 > 55 MGOe ② キュリー温度が高い、保磁力が大きい アルニコ磁石 > 800 ℃ ③ 原料代が安い Fe化合物
磁気特性の理解のために 電流と磁界 H H 磁石のN極とS極 磁気の起源 強磁性体 -ハード磁性とソフト磁性-
磁石のN極とS極 磁気の起源 強磁性体 -ハード磁性とソフト磁性-
磁気の起源 電子のスピン(自転)と 軌道運動(公転) 磁気の大きさの表しかた 磁気モーメント(単位mB:原子レベル用) 磁化(単位gauss, A/m: 日常サイズ用) ボーア磁子 正確には、電子は粒子と波の性質を同時にもつ非日常的な物体、量子電磁力学*によって電子の軌道は確率分布関数で表される。 ナノテクノロジーの基礎 量子力学:1930年代に完成された物理理論、Bohr, Heisenberg, Dirac, Shoredinger, Pauri,Born がノーベル賞 量子電磁力学:戦後完成された物理理論、1964年に朝永、Feynman,Shwingerがノーベル賞
強磁性体 すべての物質は電子を持つので磁性を示す 自発磁化が生じる (磁石になる原因) 磁性としての物質の分類 外部磁界をかけると 常磁性体 強磁性体 すべての物質は電子を持つので磁性を示す 外部磁界をかけると 磁性としての物質の分類 常磁性体 (ガラスなど) 強磁性体 (鉄が代表) 反強磁性体 (酸化物に多い) 反磁性体 (超電導体は反磁性体) 原子どうしにスピンを揃える力が働く (交換相互作用) 量子電磁力学なしでは説明できない力 自発磁化が生じる (磁石になる原因)
磁化曲線 飽和磁化の温度変化と磁気履歴(ヒステレシス)曲線
ハード磁性とソフト磁性 ハード磁性 Hc 大 ソフト磁性 Hc 小 磁石に求められる性質:ハード磁性
磁化過程と磁区 結晶粒界 磁区と磁壁 結晶粒 多磁区構造 交換相互作用と静磁エネルギーが競合 静磁エネルギー: 体積とともに増大する。
磁気異方性 原子1個のスピン:Hの向きに対して360度等方的 結晶中のスピン:結晶構造、形状で磁化容易方向と困難方向がある
強力磁石の条件 大きな磁化 大きな保磁力 原子磁気モーメントを最大活用 磁化容易軸に配向結晶化 単磁区構造(粒界コントロールの必要) 単磁区サイズ 原子磁気モーメントを最大活用 大きな磁化 大きな保磁力 磁化容易軸に配向結晶化 単磁区構造(粒界コントロールの必要)
磁石の製法 フェライト磁石 アルニコ磁石
磁石の製法 ボンド磁石の製法
磁石の応用 ‐車部品に用いられている磁石‐ 磁石の応用 ‐車部品に用いられている磁石‐
医療からハイテク研究施設まで 放射光の発生(Spring-8 in 播磨) 超電導磁石を用いないMRI アンジュレータ アンジュレータの原理図
磁石の国内生産金額推移
希土類元素埋蔵量と生産量 諸外国の磁石生産量が増して、国内生産量が減少
日本の磁石産業に求められるもの 高度技術を用いて高付加価値を持たせる マイクロマシン(MEMS) への応用 例 AFM用探針 例 AFM用探針 マイクロマシン(MEMS) への応用 MEMS:Micro Electro Mechanical System Olympus Si カンチレバー 1本 \5000~\10000
MEMSへの応用 マイクロマシン用の動力モーター、アクチュエーター、センサー 小型モーターで動く犬型ロボット
NdFeB系高性能薄膜磁石の研究 研究紹介 Nd2F14B: 1983年 住友特殊金属 佐川らが発明 現在も世界最強永久磁石 Basic Characterization 1996年、我々と住特金との共同研究で薄膜磁石研究スタート
NdFeB薄膜磁石の合成 単磁区粒子系の制御 (200~300nm) 垂直磁気異方性の制御 高性能薄膜磁石を得るには 機械研磨では0.1mmが限界 直接成膜が必要なものの1990年代半ばまで進展ない 高性能薄膜磁石を得るには 単磁区粒子系の制御 (200~300nm) 垂直磁気異方性の制御 0.882 nm Nd Fe B ◆熱処理結晶化型 ◆基板加熱型 長所:膜法線方向にc軸配向成長が容易 短所:高保磁力膜を得られにくい(≦10kOe) 長所:単磁区サイズの結晶の析出が容易 短所:c軸配向成長が困難 結晶粒大 結晶粒小
Mo(100)上のMBE成長例 圧延面(200) 圧延方向<110> 本実験: as-rollのMo板を使用 X線回折より(100)に配向 圧延面(200) 圧延方向<110>
作製方法 RF Sputtering Set Up Substrate Holder casted Nd20Fe64B16 Cooling Water In Out 作製方法 Substrate Holder 0.1 mm Glass Sheet 2 x 10-6 Torr 0.1 mm Mo 5 x 10-3 Torr Fe sheet Ar casted Nd20Fe64B16 ターゲット組成を 最適化 TARGET HOLDER RF Sputtering Set Up
スパッタリング 原理 高周波スパッタ(我々の使用方式) [ splutter ] :「つばを飛ばす」「咳をする」など音をたてて、何かをまき散らすことやその音を意味する 原理 1852年、イギリス人科学者グローブによってスパッタ現象が発見された。このころは放電管が汚れる原因として、如何にスパッタを少なくするかが重要であった。グローブは燃料電池最初の実験者 高周波スパッタ(我々の使用方式) 1:交流なので、粒子の加速方向は電圧に合わせて変わる。 2:電子とイオンでは電子の方が軽くて移動しやすいため、導電性のチャンバーに到達した電子は回路に流れる。 3:ターゲット側の電子は逃げ場所がなく密度が高くなり、マイナスにバイアスされ、イオンがターゲットに引き寄せられスパッタが起こる。
Average Deposition Temperature ( T ) T1 < T2 T < T ~ 2 micron NdFeB Film Ti Coating ~ 600 A 0.1 mm Mo Substrate - As rolled sheet - RMS ~ 104 nm Film Structure Average Deposition Temperature ( T ) T1 < T2 T < T 1 2 T T 2 1 t = 0 mm t = 1.0 mm Glass Insulation Low Temp Deposition Ts = 300oC ? High Temp Deposition Ts = 365oC Water cooled Cu substrate holder これがブレークスルー
LTD as-depo膜のTEM像 2 Purely Amorphous Mo (200) Intensity (a.u.) Ti (100) Ti (00•2) Mo (110) 2
HTD as-depo 膜のTEM像 2 NdO (black) Mo (200) Intensity (a.u.) Ti (00•2) Amorphous Matrix 2
Ku = MsHc / 2 磁気異方性の比較 Ku = 0.014 J/cm3 Ku = 0.059 J/cm3 H // plane Magnetization (kG) H (kOe) H (kOe) HTD LTD
Furnace Cooling to Room Temp. Annealing process [30 mins, 650oC, 6.7x10-4 Pa] 昇温速度 hr = x oC/min (x: 10 ~ ∞) Conditions for Vacuum Annealing IR Heating Type Vacuum Furnace Vacuum Pressure = 6.7 x 10-4 Pa 50oC/min 650oC, 30 min Temperature (o C) Furnace Cooling to Room Temp. Annealing Time (min)
SEM 像 Dense, continuous, no voids fine crystals, some small voids surround the large and elongated 0.5 μm crystallites.
Anneal 膜の微構造 uniformly distributed grains with size ~ 400 nm 2 105 004 006 214 115 008 208 218 225 NdO (111) NdO (220) Mo (200) Mo (110) Intensity (a.u.) plain view hr = 50oC/min cross section
Anneal 膜の磁気特性 Initial magnetization curve (BH)MAX = 27 MGOe 4M (kG) H (kOe) 4M (kG) H (kOe) Nucleation type mechanism
Assignment of particles in grain & boundary Amorphous matrix Nd2Fe14B matrix Particles: Structure: fcc (a ~ 5 nm) NdO As deposited Annealed Film annealed at 650oC Matrix 中、境界に多くのNdOが存在
Conclusions Annealing at 650oC/min. TEM: Nd2Fe14B - phase & NdO Nd2Fe14B grain : 400 nm, near single domain,and behaves as nucleation type magnet. MEMS応用に求められる特性: ○ (BH)MAX=27 MGOe (BH)max 20 MGOe以上 Hc 15 kOe以上 Ir 1.0 T以上 垂直、面内に磁化コントロール可能 膜厚 300 μm 以下 パターン化(リソ対応可能) ○ iHc = 17 kOe ○ 4Mr = 10.6 kG, 4Ms = 11.2 kG ○ ○ 研究課題 (パターニングは可能、半導体基板上への合成が現課題)
これまで赤外線により非晶質→結晶化 レーザ照射による瞬間熱処理の可能性 レーザ照射:半導体プロセスと容易に結合可能 マスキングによるマイクロ加工が期待
照射は 真空中にて 2.0×10-6 Torr KrFエキシマレーザ(波長:248 nm ) パルス幅:20 ns 照射回数:1回 エネルギ密度:0.2,0.3,0.4,0.6 J/cm2 →エネルギー密度の最適化 マスク Nd-Fe-B膜(2μm) KrFエキシマレーザ 基板ホルダ ヒータ 基板温度:400℃ パターニングは線幅約100μmのマスクを使用
従来の熱処理 照射前 ●レーザ照射後のX線回折パターン → エネルギー密度 0.4 J/cm2 以上で結晶化 → 結晶化した膜はc軸配向成長
レーザー照射後の磁界パターン マスクを (線幅100μm)用いてパターニング KrFレーザ ・エネルギー密度 0.4 J/cm2 ・照射回数:1回 結晶化部分 レーザー照射後の磁界パターン 磁性コロイド塗布 MOインディケーター使用
磁気モーターの場合 静電モーターの場合 リソ技術を応用するために半導体基板上に 薄膜磁石を合成することが必要 ローター 中心軸 駆動電極 直径100μm、厚さ7μmのマイクロモータで、1分間に最高1万回転する。 1992 IBM東京、東大生産研 リソ技術を応用するために半導体基板上に 薄膜磁石を合成することが必要
まとめに変えて -周期律表- 希土類元素と遷移金属元素の組み合わせは千差万別 複合材料(コンポジット)強力磁石を生みつつある まとめに変えて -周期律表- 希土類元素と遷移金属元素の組み合わせは千差万別 複合材料(コンポジット)強力磁石を生みつつある 共同研究者(敬称略) 太田敏孝 奥田高士 坂本功 江龍修 中西昭男 上原稔 他大学院学生多数 参考文献 「磁石のはなし」日本電子工業会、 「理化学学習室」小森栄治、「磁性材料読本」工業調査会 他