SuperLHCための 高放射線耐性SCTセンサーの開発

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SuperLHCための 高放射線耐性SCTセンサーの開発 秦野 博光 原 和彦,目黒 立真,三井 真吾,望月 亜衣 (筑波大)  池上 陽一,海野 義信,高力 孝,寺田 進 (KEK) 他アトラスSCTグループ 2008 第63回 日本物理学会

LHC(Large Hadron Collider)実験  陽子-陽子衝突型加速器  2008年・8月の実験開始に向 け、現在急ピッチで調整中  重心系エネルギー 14TeV  ルミノシティ 1034 cm-2s-1 実験の目的 Higgs粒子の探索や 新しい物理の発見 2016年頃を目処に、ルミノシティをさらに10倍にするSuperLHC計画が検討されている ATLASの内部飛跡検出器をすべてシリコン検出器にする 現行のSCTシリコン検出器は、放射線耐性を上げたものと交換 2008 第63回 日本物理学会

シリコン検出器の放射線損傷 高放射線耐性p型ウェハーセンサーの開発 現SCT (p+-on-n)放射線耐性 ~ 2 x 1014 (1MeV-neq/cm2) LHCの10年分で、システム耐圧に達する。 高放射線耐性p型ウェハーセンサーの開発 N+-on-Pセンサー N+ P-bulk SiO2 P+ 空乏層 現SCT(バルク型変換前) P+ N-bulk SiO2 N+ 空乏層 型反転せず、常にストリップ面から空乏化する。耐圧を超えたら、部分空乏状態で作動させる 放射線を受けると P+ P-bulk SiO2 N+ 現SCT(バルク型変換後) 空乏層 sLHC P-bulk N型ウェハーp読み出しストリップの現SCTの放射線耐性は2 x 10^14 (1MeV-neq/cm2)迄です。 これは、シリコンセンサー耐圧で決まります 図は横軸放射線量、縦軸全空乏化電圧を表します。 Nウェハーは照射を受けるとp型に変換してしまいます。 それにより、空乏層はストリップの逆側から始まり、ストリップ間が空乏化されてないので、電気的に繋がった状態になってしまいます。 よって、信号を読みだすには全空乏化しなければなりません。 ただし、全空乏化電圧は照射によって増加するので耐圧の500Vに達したときが検出器の寿命になります。 superLHCの放射線量は1E15なので現SCTではSLHC用センサーとして使用できません。 我々はより放射耐性のあるセンサーとして、p型ウェハーセンサーの開発を行っています。 p型ウェハーnストリップセンサーの利点としては部分空乏化でも信号読み出しが可能 と言う点です。 p型ウェハーだと型変換が起こらないので空乏層は常にストリップ側からはじまり、 部分空乏化でも信号を読み出すことができます。 P型センサーの開発目的は高抵抗p型ウェハーの放射耐性評価とN+ストリップ間の電気的分離を達成することです。 型変換後は、全空乏化する必要がある。 現行 N-bulk 2008 第63回 日本物理学会

P型シリコン検出器の開発 P型センサーの問題点: 前述の理由により、N型センサーは使えない  (1)電子層がシリコン表面に蓄積しやすく電極分離劣化  (電極分離構造P-STOPやP-SPRAYが必要?)  (2)高純度、少欠陥のP型シリコンが入手できなかった  →Magnetic Czochralskiによる高純度ウェハー(MCZ)    高純度6”Float Zoneウェハー(FZp) 酸化膜SiO2にプラスの電荷がたまり、Pバルク部表面に電子が引き寄せられ、ストリップ間が電気的に繋がってしまうのを防ぐ。 2008 第63回 日本物理学会

P型シリコン検出器テストサンプル 高放射線耐性p型ウェハーセンサーの開発のために、以下のようなテストサンプル(1cm2)を用意し、東北大学のCYRICで陽子線(照射量1、2、5、10、20x1014 1MeV neq/cm2 ) を照射し実験を行った 一昨年作られたサンプル (シリコンウェハーサイズ4インチでつくられたもの) 4“FZ、4”MCZ 去年作られたサンプル (6インチでつくられた) 6“FZp、6”FZ、6“MCZがある。 2008 第63回 日本物理学会

センサー特性の測定 I-V測定:マイクロ放電の発生(評価済み) Isolation:ストリップ間が電気的に分離しているか評価(評価済み) C-V測定:全空乏化電圧の評価(評価済み←要複数項目チェック) CCE測定:全空乏化電圧、収集電荷量の評価 マイクロ放電 電場が局所的に強くなると発生する現象。高電場によって電子雪崩が発生し急激に電流が増大する。 P-STOPのような構造が加わると発生しやすい。 2008 第63回 日本物理学会

今までの放射線試験で分かったこと sLHCでの放射線量2x1015/cm2に対し以下の要求がある  マイクロ放電の発生電圧は500Vを下回らないこと    1cm2のサンプルでは達成  Isolation達成電圧は500V(運転電圧)よりも低いこと    すべてのサンプルで100V以下を達成  全空乏化電圧は500Vを大きく越えないこと    C-V測定により、6” FZ では~500Vとなったが、6” MCZは~1kV     CCE測定による追試 アニーリング効果   LHC、nバルクでは分かっている    pバルクでの測定が必要 各ウェハーは6つのzoneに分けられます。 これらは、ストリップ間分離の為の構造の違いです。 Nストリップである為、ストリップ間の電気的分離が問題になります。 酸化膜中にトラップされたプラス電荷がバルク内の電子を引き寄せ、ストリップ間に電子層を形成することにより、 ストリップ間が電気的に繋がってしまいます。 この電子層を除去するため、p-stopを入れてストリップ間を分離します。 インディビジュアルとcommonはp-stopの形状の違いです。 DC-field plate は p-stopにDC的に結合して、フローティング状態になっています。 これにより、p-stopエッジの電場を和らげる働きをします。 AFはマイナスの電圧をplateにかけることによって、plate下の電位を操作し、電子を排除するのが目的です。 P-stop濃度についても13乗の高濃度と12乗の低濃度を用意し比べました。 また、低濃度ではp-sprayがあるタイプも用意しました。 今回の発表では ・レーザーを用いたCCE測定(全空乏化電圧の評価) ・アニーリング効果(nバルクセンサーとの違いはあるか) 2008 第63回 日本物理学会

レーザーによる収集電荷の測定(CCE測定) laser head XY-stage amps collimators focusing lens Gamp=5mV/fC パルスNd:YAG(1064nm)はSiの内部まで侵入するので、通過する粒子に対する応答に近い信号を得られる。図は1~10x1015照射後の応答(Vb=1kV) 2008 第63回 日本物理学会

CCE測定、全空乏化電圧 CCE測定(レーザーによる収集電荷) 最小値 中心値 最大値 収集電荷は空乏層の厚さに比例。収集電荷の2乗はバイアス電圧に比例し、全空乏化後は一定になる。 (NA=アクセプタ密度 ND=ドナー密度 ε=シリコン誘電率 V=逆バイアス電圧 e=素電荷 d=空乏層の厚さ)

全空乏化電圧の線量依存性 CCE測定による評価 6”FZサンプルは、CCE測定でも~500Vで全空乏化を達成 6”MCZサンプルは、C-V測定の結果と違うため追調査する 2008 第63回 日本物理学会

アニーリングによる 全空乏化電圧、不純物密度の変化 2×1014 1-MeV neq/cm2を照射した6” FZp、FZ、MCZサンプルを60℃に温めて20000分までの全空乏化電圧の変化をCCE、C-V測定で評価した。 CCE測定 C-V測定 FZ・MCZ共に約100分以降、逆アニーリング効果が見られた n型ウエハーに似たアニーリング・逆アニーリング効果を示す MCZ測定でC-V測定とCCE測定に大きな違いがみられるが、 nバルクで知られている結果と比較すると、絶対値こそ違うが、C-V測定の方が信頼できるデータのように見える→β線で追調査 2008 第63回 日本物理学会

まとめ sLHCに使用できる高耐放射線性p型センサーを開発している 6”FZの全空乏化電圧は500Vを超えない。    実機サイズのセンサーに対するマイクロ放電発生が    最適な電極分離構造やウェハーの決定に重要。 MCZのレーザーとLCRメータでの全空乏化電圧の違いは、 電子ビームやβ線による評価を計画している。 p型ウエハーもn型ウエハーに似たアニーリング・逆アニーリング効果を示す事が分かった。

BACK UP 2008 第63回 日本物理学会

基本情報 2008 第63回 日本物理学会

電荷収集曲線 2008 第63回 日本物理学会

マイクロストリップ型シリコン検出器 6cm 768ch 微細に加工した電極により、荷電粒子の位置を精密に測定する SCT=SemiConductor Tracker 微細に加工した電極により、荷電粒子の位置を精密に測定する   O(10mm)の分解能が得られる   高速(数ns)応答性   コンパクト 2008 第63回 日本物理学会

CYRICでの陽子照射 サンプル サンプルボックス アルミ板でProfile 32コースでのBEAM Profile サンプルボックスをスキャン 2008 第63回 日本物理学会

C-V測定・CCE測定 C-V測定(バルク電気容量-バイアス) CCE測定(レーザーによる収集電荷) 最小値 中心値 最大値 最小値 中心値 最大値 1/C2はバイアス電圧に比例し、全空乏化後は一定になる。 収集電荷は空乏層の厚さに比例。収集電荷の2乗はバイアス電圧に比例し、全空乏化後は一定になる。 (NA=アクセプタ密度 ND=ドナー密度 ε=シリコン誘電率 V=逆バイアス電圧 e=素電荷 d=空乏層の厚さ)

電荷収集効率 放射線照射前と照射後の収集電荷量の比をBias300V~500Vの間で平均した。 300<Vb<500 放射線照射前と照射後の収集電荷量の比をBias300V~500Vの間で平均した。 FZ_pureは照射直後に収集電荷量が増えたが、一時的に格子欠陥が増えレーザーの透過割合が減少したためと考えられる。 2008 第63回 日本物理学会

全空乏化電圧の線量依存性 CCE測定による評価 CV測定による評価 C-V測定による評価 目盛や文字を大きく グラフの背景色は白 線で結ぶことはCCEの同様の扱い FZ1/2はFZp/FZに統一して 6”のMCZ以外はCCEとC-Vは似た傾向を示す(違いについては現在調査中) FZサンプルは、CCE測定でも500V以下で全空乏化を達成 2008 第63回 日本物理学会

ウェハー製造法 ウェハー製造法:2タイプ Magnetic Czochralski (MCZ) Floating Zone (FZ) 単結晶成長法 Floating Zone (FZ) 単結晶成長法 比抵抗 ~1 k W・cm 酸素濃度豊富 (放射線耐性を向上させる効果がある) 比抵抗 4-8 k W・cm 低不純物濃度 テストしたウェハーの種類(FZpは欠陥密度が少ない):比抵抗(kWcm) 今回照射テストをしたp型サンプルの説明をします。 ウェハー製造法について2タイプのものを調べました。 1つはFZ法です。 これは、シリコン多結晶を高周波コイルで熱しながら、単結晶化していくものです。 CZ法における石英るつぼ等他の物質に触れないため、不純物濃度が低く、高抵抗のウェハーを製造できます。 現n型ウェハーSCTはこのFZ法を採用しています。 もう1つは、MCZ法です。 これは、多結晶シリコンを石英るつぼの中に融解し、種結晶を接触させ、引き上げながら単結晶を成長させていく方法です。 MCZ法の特徴としては酸素濃度が豊富であることです。これは放射線耐性に優れた効果が期待されています。 2008 第63回 日本物理学会

P型シリコン検出器の開発 前述の理由により、N型センサーは使えない テストしたウェハーの種類(FZpは欠陥密度が少ない):結晶方位と比抵抗(kWcm) P型センサーの問題点:  (1)電子層がシリコン表面に蓄積しやすく電極分離劣化  (電極分離構造P-STOPやP-SPRAYが必要?)  (2)高純度、少欠陥のP型シリコンが入手できなかった  →Magnetic Czochralskiによる高純度ウェハー    高純度6”Float Zoneウェハー P-STOPとP-SPRAYのイオン密度(/cm2). P-SPRAYのみのサンプルはZ1 2008 第63回 日本物理学会

アニーリング・逆アニーリング効果 開発中のp型センサー用ウエハーに対してアニーリング・逆アニーリング特性の変 化を研究した。(特に逆アニ-リング特性は検出器の性能を劣化させないための 温度条件に対する情報を与える。) サンプル:2×1014 1-MeV neq/cm2       FZp、FZ、MCZの3種類。 測定:60℃に温めて20000分まで行った。     レーザーによる収集電荷測定(CCE)(~0℃) アニーリング:放射線によって生じた格子欠陥が熱的な攪拌を受けて次第にある程度整列してくために有効不純物密度が減少する 逆アニーリング:欠陥格子が電気的に中性になることで周囲の格子と相互作用して新たな電気的に有効な格子欠陥を形成していく 2008 第63回 日本物理学会 (By the RD48 collaboration)

アニーリングによる 全空乏化電圧、不純物密度の変化 CCE測定 C-V測定 全空乏化電圧は不純物密度に比例する。 (Vfd=全空乏化電圧 Neff=不純物密度 εsi=シリコン誘電率 e=素電荷 d=バルクの厚さ) FZ・MCZ共に約100分以降、逆アニーリング効果が見られた n型ウエハーに似たアニーリング・逆アニーリング効果を示す 2008 第63回 日本物理学会

全空乏化電圧と不純物密度の変化 CCE測定  FZP FZ MCZ 2008 第63回 日本物理学会

全空乏化電圧の周波数依存性 6”MCZには特有の問題がある -20℃ FZp -20℃ MCZ -20℃ MCZ 各サンプルで、周波数を変えて測定を行ったが、レーザー測定の結果と一致することはなかった(通常は1kHzで測定)。 暗電流の影響を考え、-30℃での測定をしたが、これについても同様だった。 -30℃ MCZ 6”MCZには特有の問題がある 2008 第63回 日本物理学会

2008 第63回 日本物理学会