2016.3/10 ヤマセ研究会 2013年5月13日の仙台山形の 気温差について 東北大学流体地球物理学講座 修士1年 岩場遊.

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2016.3/10 ヤマセ研究会 2013年5月13日の仙台山形の 気温差について 東北大学流体地球物理学講座 修士1年 岩場遊

2013年5月13日 17.7℃の最高気温差(4~8月で観測史上最大) 天気 仙台:曇り、霧雨 山形:晴れ 天気     仙台:曇り、霧雨    山形:晴れ 最高気温  仙台:11.4℃(17:32)  山形:29.1℃(14:13) 17.7℃の最高気温差(4~8月で観測史上最大) 28.7℃ 10.1℃ 2位の記録は14.5℃(1939/05/10) 図 2013年5月13日15時の気温     (アメダス) 図  2013年5月13日15時の風     (アメダス) ※時刻は全て日本時間(JST)

総観場 ヤマセのとき… 函館>深浦 になりやすい (Shimada et al. 2013) 6時 9時 黒:函館 赤:深浦 12時 15時 図 函館と深浦の地上気圧 ヤマセのとき…  函館>深浦 になりやすい (Shimada et al. 2013) 図 13日の天気図 左上から6時、9時、12時、15時(気象庁HP)

衛星画像 宮城県は赤外で暗域、可視で明域 ⇒ 下層の雲(層雲、霧) 赤外 可視 図 15時のひまわり衛星画像(高知大) 左:赤外 右:可視 下層雲の重要性について 図 15時のひまわり衛星画像(高知大)    左:赤外 右:可視 宮城県は赤外で暗域、可視で明域   ⇒ 下層の雲(層雲、霧)

SST 図 5月13日のSSTと平年偏差(気象庁HP)    左:SST 右:平年偏差 三陸沖に大きな低温偏差 ⇒ 太平洋側の低温に寄与か

ダウンスケール(Downscaling) <MSMの解像度>   水平:地表面 5km, 気圧面 10km   時間:3時間 NHMを用いて力学的ダウンスケール 図 計算領域 表 実験設定 初期時刻 2013年5月11日21時(JST) タイムステップ 5秒 水平解像度 2 km(150x150) 鉛直層 38層(40-760 m) モデルトップ 14.5 km 初期値境界値 MSM 雲物理過程 水蒸気・雲水・雨・雲氷の混合比、雲氷の数密度を予報 海面水温 MGDSST(daily, 0.25゜) 乱流スキーム Improved Mellor-Yamada Level3 (Nakanishi and Niino 2004,2006) MGDSST:Merged satellite and in situ data Global Daily SST

ダウンスケール結果(気温、風) 海から冷たい風が吹き込んでいる 気温差は10℃以上あるが、 仙台は観測より4~5℃高い 山形 仙台 黒:NHM 青:アメダス 図 山形(左)と仙台(右)の地上の気温と風 海から冷たい風が吹き込んでいる 気温差は10℃以上あるが、   仙台は観測より4~5℃高い 山形は気温、風ともに観測とよく一致 図 15時の地上の気温と風

東西断面図 太平洋側:東風成分は約750 m以下 ⇒ 奥羽山脈を越えられなかった 山形盆地:上空の高温位の空気の下降 ⇒ 混合層の形成 U V シェード:気温 U Wx10 シェード:温位 図 15時の38.26Nでの気温・風断面図    シェード:気温 ベクトル:U;V 図 15時の38.26Nでの温位・風断面図    シェード:温位 ベクトル:右U;Wx10 太平洋側:東風成分は約750 m以下   ⇒ 奥羽山脈を越えられなかった 山形盆地:上空の高温位の空気の下降   ⇒ 混合層の形成 仙台:逆転層

後方流跡線解析(Backward trajectory) 山形の暖気と仙台の冷気の起源、性質の違いを調べる 仙台・山形に空気塊を置き、風速を後方に時間積分し、軌跡を求める 両地点の近傍に複数(10個)の気塊をランダムに散らして配置 表 実験設定 到達時刻 2013年5月13日15時(JST) 到達高度 地上から200 m, 250 m, 300 m 空気塊の数 10個 計算時間 9時間 移流計算 4次のルンゲ・クッタ法 タイムステップ 30秒 出力間隔 15分 色が濃い(暗い)ほど低い(200→250→300)

流跡線解析結果 仙台:経路は概ね一致 東の海上から到達 山形:大きく分けて2パターンの経路 ①浜通りから ②中通りから     東の海上から到達 山形:大きく分けて2パターンの経路     ①浜通りから     ②中通りから 地形に衝突しなかった流跡線のみ描画 図 15時に到達した流跡線    色が濃い線ほど低い高度に到達したことを示す

山形に到達した流跡線 流跡線の鉛直方向の軌跡と軌跡に沿った温位変化 地表付近の冷たい 上空の高温位 空気の日射による 空気の下降 急速な加熱 中通り 浜通り 流跡線の高度 流跡線の高度 地表付近の冷たい 空気の日射による 急速な加熱 上空の高温位 空気の下降 温位 温位 両者とも、山を下りる(越える)過程での断熱昇温の効果は(相対的に)どのくらい? 図 13日15時に到達した空気塊の流跡線と断面図    左:山形300 m 右:山形200 m

仙台に到達した流跡線 海上で温位はほぼ一定 地上気温>SSTのとき、 顕熱フラックス負 ⇒ SSTの拘束 流跡線の高度 温位 赤:地上気温   顕熱フラックス負   ⇒ SSTの拘束 赤:地上気温 青:SST 赤:潜熱フラックス 青:顕熱フラックス 図 13日15時に到達した空気塊の流跡線と断面図    (仙台200 m)

上空の温位 東北南部は2~4 ℃の高温偏差 ⇒ 山形の高温に影響 オホーツク海は低温偏差 925 hPa 850 hPa 図 5月13日の925 hPa、850 hPa温位偏差(JRA55)    基準: 1981-2010年5月平均 東北南部は2~4 ℃の高温偏差   ⇒ 山形の高温に影響 オホーツク海は低温偏差

雲の再現 仙台の気温が高く予想された原因を調べる 仙台はNHMでは雲がほとんどない 気温が高くなる原因と考えられる ↓ 山形 仙台 黒:NHM 青:アメダス 仙台はNHMでは雲がほとんどない 気温が高くなる原因と考えられる     ↓ 雲を増やす感度実験を行い、 雲の影響を評価 図 下向き短波放射 [W/ m 2 ] 図 15時のひまわり可視画像    (再掲)

雲を増やす感度実験 部分凝結スキームのσの値を𝜎=𝜎+0.0004として雲を増やし(CLD)、CTLと比較   ⇒ 下層雲がほとんどなかった時刻でも下層雲量5程度まで増やすことができた   ※ σ大 ⇒ 雲量は5に近づく 下層雲量 下向き短波放射 地上気温 黒:CTL 緑:CLD 青:アメダス 図 左:下層雲量 中:下向き短波放射 右:地上気温    黒:CTL 緑:CLD 青:アメダス 下層雲量が約5まで増加 短波放射が小さくなり、気温は約2℃低下

SSTの影響 SSTの仙台の気温への影響を調べる MGDSSTの方が三陸沖で1~3 ℃高い ⇒ SSTも仙台の気温が高くなる原因と考えられる 気象庁HPのSST MGDSST MGDSST: AVHRR+AMSER-E+In-situ(0.25) 図 気象庁HPのSST(再掲)とMGDSSTの比較 MGDSSTの方が三陸沖で1~3 ℃高い   ⇒ SSTも仙台の気温が高くなる原因と考えられる   ※気象庁HPのSSTの方が精度が良いとした場合

SSTを下げる感度実験 MGDSSTを計算領域全体で2℃下げた(SST-2) 気温は約1℃低下 SSTの低下に伴い、 地上気温も低下 流跡線の高度 温位 黒:CTL 緑:SST-2 青:アメダス 赤:地上気温 青:SST 赤:潜熱フラックス 青:顕熱フラックス 図 仙台の地上気温 黒:CTL 緑:SST-2 青:アメダス 気温は約1℃低下 SSTの低下に伴い、   地上気温も低下 図 SST-2の流跡線解析の結果

まとめ 2013年5月13日の仙台山形間の気温差の要因をNHMで調べた 仙台と山形で10℃以上の気温差が再現された 仙台は観測に比べ気温が4~5℃程度高い 気温差の要因:空気の起源・経路の違い 上空の温位の正偏差 三陸沖のSSTの負偏差 仙台の予想気温が高くなる原因 雲が再現されない 境界値のSSTが高い可能性 今後の課題 気圧・風の場の再現の影響を調べる 気温差が大きかった他の事例との比較