21世紀COE 「物理学の多様性と普遍性の探求拠点」

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Sophia University 2005/9/23 体験授業 相転移の物理 磁性,超伝導,宇宙 理工学部物理学科 大槻東巳,黒江晴彦,大沢明
電気伝導の不思議 元素周期表と物質の多様性 「自由電子」って、ほんとに自 由? 電気の流れやすさ、流れにくさ 電子は波だ 電子はフェルミ粒子 金属と絶縁体の違いの根源 超伝導の性質 阪大基礎工 三宅和正.
材料系物理工学 第8回 超伝導 佐藤勝昭.
第2回応用物理学科セミナー 日時: 6月 2日(月) 16:00 – 17:00 場所:葛飾キャンパス研究棟8F第2セミナー室
単一分子接合の電子輸送特性の実験的検証 東京工業大学 理工学研究科  化学専攻 木口学.
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基盤科学への招待 クラスターの不思議 2005年6月3日  横浜市立大学 国際総合科学部  基盤科学コース 野々瀬真司.
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学年 名列 名前 福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛
第1回応用物理学科セミナー 日時: 5月19日(月) 15:00ー 場所:葛飾キャンパス研究棟8F第2セミナー室 Speaker:鹿野豊氏
第23回応用物理学科セミナー 日時: 6月23日(木) 16:10 – 17:40 場所:葛飾キャンパス研究棟8F第2セミナー室
COMPASS実験の紹介 〜回転の起源は?〜 山形大学 堂下典弘 1996年 COMPASS実験グループを立ち上げ 1997年 実験承認
はじめに m 長さスケール 固体、液体、気体 マクロスコピックな 金属、絶縁体、超伝導体 世界
TTF骨格を配位子に用いた 分子性磁性体の開発 分子科学研究所 西條 純一.
低温科学の魅力 ー 今年度ノーベル物理学賞:超伝導と超流動 ー
課題演習 B6 量子エレクトロニクス 物理第一教室・量子光学研究室 教授 高橋義朗
生物科学科(高分子機能学) 生体高分子解析学講座(第3) スタッフ 教授 新田勝利 助教授 出村誠 助手 相沢智康
Ⅰ 孤立イオンの磁気的性質 1.電子の磁気モーメント 2.イオン(原子)の磁気モーメント 反磁性磁化率、Hund結合、スピン・軌道相互作用
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アンドレーエフ反射.
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CERN (欧州原子核研究機構) LEP/LHC 世界の素粒子物理学研究者の半数以上の約7000人が施設を利用
現実の有限密度QCDの定性的な振る舞いに
担当: 松田 祐司 教授, 寺嶋 孝仁 教授, 笠原 裕一 准教授, 笠原 成 助教
課題研究 Q11 凝縮系の理論  教授  川上則雄 講師 R. Peters 准教授 池田隆介  助教 手塚真樹  准教授 柳瀬陽一.
1次元電子系の有効フェルミオン模型と GWG法の発展
非エルミート 量子力学と局在現象 羽田野 直道 D.R. Nelson (Harvard)
Dissociative Recombination of HeH+ at Large Center-of-Mass Energies
原子核物理学 第8講 核力.
HERMES実験における偏極水素気体標的の制御
Wan Kyu Park et al. cond-mat/ (2005)
Ⅴ 古典スピン系の秩序状態と分子場理論 1.古典スピン系の秩序状態 2.ハイゼンベルグ・モデルの分子場理論 3.異方的交換相互作用.
量子凝縮物性 課題研究 Q3 量子力学的多体効果により実現される新しい凝縮状態 非従来型超伝導、量子スピン液体、etc.
理科指導法D ノーベル物理学賞.
第2回:液体窒素・超伝導実験 理学研究科・物理学第一教室 固体量子物性研究室 北川 俊作 石田 憲二
最初に自己紹介 高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 幅 淳二
担当: 松田祐司 教授, 笠原裕一 准教授, 笠原成 助教
22章以降 化学反応の速度 本章 ◎ 反応速度の定義とその測定方法の概観 ◎ 測定結果 ⇒ 反応速度は速度式という微分方程式で表現
課題演習A5 自然における対称性 理論: 菅沼 秀夫 (内3830)
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分子軌道理論(Molecular Orbital theory, MO理論)
物性物理学で対象となる 強相関フェルミ粒子系とボーズ粒子系
2次元系における超伝導と電荷密度波の共存 Ⅰ.Introduction Ⅱ.モデルと計算方法 Ⅲ.結果 Ⅳ.まとめと今後の課題 栗原研究室
回転超流動3Heの基礎研究 講演題目 片岡 祐己 久保田 研究室 ~バルク及び平行平板間制限空間中の3He~
課題演習B1 「相転移」 相転移とは? 相転移の例 担当 不規則系物理学研究室 松田和博 (准教授) 永谷清信 (助教)
課題研究Q2            2017年度用 「光物性」の研究紹介  京都大学大学院理学研究科  物理学第一教室 光物性研究室 1.
Why Rotation ? Why 3He ? l ^ d Half-Quantum Vortex ( Alice vortex ) n
担当: 松田 祐司 教授, 寺嶋 孝仁 教授, 笠原 裕一 准教授, 笠原 成 助教
原子分子の運動制御と レーザー分光 榎本 勝成 (富山大学理学部物理学科)
LHC計画で期待される物理 ヒッグス粒子の発見 < 質量の起源を求めて > 2. TeVエネルギースケールに展開する新しい物理パラダイム
LHC計画で期待される物理 ヒッグス粒子の発見 < 質量の起源を求めて > 2. TeVエネルギースケールに展開する新しい物理パラダイム
B4 「高温超伝導」 興味深い「協力的」現象 舞台としての物質の重要性 固体中の現象: 電子や原子が互いに影響を 及ぼしあうことで生じる
課題演習A5 「自然における対称性」 担当教官 理論: 菅沼 秀夫 実験: 村上 哲也.
課題演習B1 「相転移」 相転移とは? 相転移の例 担当 不規則系物理学研究室 八尾 誠 (教授) 松田和博 (准教授) 永谷清信 (助教)
ディラック電子系分子性導体への静電キャリア注入を目的とした電界効果トランジスタの作製および物性評価
ホール素子を用いた 重い電子系超伝導体CeCoIn₅の 局所磁化測定 高温超伝導体Tl₂Ba₂CuO6+δの 擬ギャップ状態について
水素の室温大量貯蔵・輸送を実現する多孔性材料の分子ダイナミクスに基づく解明と先導的デザイン
課題研究 P4 原子核とハドロンの物理 (理論)延與 佳子 原子核理論研究室 5号館514号室(x3857)
大規模並列計算による原子核クラスターの構造解析と 反応シミュレーション
超流動の世界は量子力学的 アクティビティーの宝庫!
課題演習B1 「相転移」 相転移とは? 相転移の例 担当 不規則系物理学研究室 松田和博 (准教授) 永谷清信 (助教)
固体中の多体電子系に現れる量子凝縮現象と対称性 「複数の対称性の破れを伴う超伝導」
媒質中でのカイラル摂動論を用いた カイラル凝縮の解析
現実的核力を用いた4Heの励起と電弱遷移強度分布の解析
物性 ~ 電子の集団が描く多彩な風景 物性研究所 瀧川 仁 物性物理(Condensed Matter Physics)とは
第39回応用物理学科セミナー 日時: 12月22日(金) 14:30 – 16:00 場所:葛飾キャンパス研究棟8F第2セミナー室
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21世紀COE 「物理学の多様性と普遍性の探求拠点」 超伝導の不思議 京都大学  国際融合創造センター ・理学研究科(物理) 前野 悦輝 1. 物理学の多様性と普遍性の探求:  「全能の理論」か 「多は異なり」か 2. 超伝導現象の不思議 3. 質的に新しい超伝導状態の探求: スピン三重項超伝導

現在の物質観 (素粒子?の表) 陽子と 中性子 高等学校教科書 物理II(数研出版) 素粒子にきれいな色がついているわけではありません。 素粒子は点として描くか、さもなくば輪ゴムのように描くべきでしょう。 高等学校教科書 物理II(数研出版)

The Theory of Everything 全能の理論 “My ambition is to live to see all of physics reduced to a formula so elegant and simple that it will fit easily on the front of a T-shirt.” LEON LEDERMAN 還元 「ニュートリノビーム法、およびミューニュートリノの発見によるレプトンの二重構造の実証」 1988 ノーベル物理学賞

The theory of everything More is Different P.W. Anderson (Princeton University)  1977 ノーベル物理学賞 「磁性体と無秩序系の電子構造の研究」  1953年、29歳のとき京都理論物理学国際会議(久保亮五教授主催)に参加 The theory of everything or More is different 「全能の理論」か 「多は異なり」か 2002年12月11日

P.W. Anderson, Science 177 (1972) 4047.  莫大な数の原子・電子からなる物質の性質を理解するには、個々の構成粒子に対する物理法則とは異なる概念が必要である。 それゆえ、科学のそれぞれの階層に知的独立性があるという、 30年前のアンダーソン博士の主張 。 (1967 UCSD) 1967年のUCSDでの講演を基にしている。

科学の階層構造 XはYに還元(reduce)できる。 したがって、 「究極のYが基礎科学として最も高い価値を持つ」??? 固体物理学・多体系物理学 素粒子物理学 化学 分子生物学 細胞生物学 社会科学 しかし、Y を知れば Xが構築できるわけでは決してない。

21世紀COE 「物理学の多様性と普遍性の探求拠点」 種々の階層での物理現象・概念の多様性、 そしてそれらの支配法則にしばしば見られる普遍性の存在は、 要素還元論的に導かれるものでは決してない。 各階層ごとに生まれる不思議な現象・意外な事象の 発現(emergence)を支配する法則・概念の探求にも 本質的な価値がある。 素粒子の究極の素晴らしい方程式が得られても(要素還元論)、それは例えばDNAの2重螺旋構造を導出・理解するのには原理的にも無力でしょう。 各階層での基礎科学研究には知的独立性・価値がある。 どの階層が「より基礎的な科学か」とさえ断定できない。 (*同じ階層内でも二つの方向: ミクロ理論も現象論も両方重要で価値がある。) 21世紀COE 「物理学の多様性と普遍性の探求拠点」

金属の中の電子 温度が高いほどイオンの熱振動は激しく、電子はぴんぱんに衝突する。 伝導電子 温度が高いほどイオンの熱振動は激しく、電子はぴんぱんに衝突する。 金属: 原子から外側の電子が離れ、全体にひろがって運動する(伝導電子)。 金属を冷やすと 電気抵抗はどうなる? 残った原子は正イオンになっている。

超伝導の発見 水銀を冷やすと電気抵抗はだんだん小さくなるが、 電気抵抗 ある温度以下で突然 ゼロ抵抗になった! 1911年に発見 絶対温度(ケルビン) 電気抵抗 水銀を冷やすと電気抵抗はだんだん小さくなるが、 ある温度以下で突然 ゼロ抵抗になった! 1911年に発見 カメリン・オネス   (オランダ) 1913年に  ノーベル賞 摂氏温度 0ºC は 絶対温度273 K(ケルビン)

超伝導体の特徴 1. 電気抵抗がゼロ 2. マイスナー効果 磁場中の超伝導体は、 磁束をはねのける。 臨界温度 Tc (転移温度) T > Tc:常伝導 T < Tc:超伝導 磁場中の超伝導体は、 磁束をはねのける。 電気抵抗 温度 臨界温度 Tc (転移温度)

超伝導体になる元素 低温においては超伝導は珍しい現象ではない. 一番身近な超伝導体は? 大阪大学極限科学研究センターHPより 圧力をかけると超伝導になる 常圧で超伝導になる 低温においては超伝導は珍しい現象ではない. 一番身近な超伝導体は?

電子はフェルミ粒子 電子対を作るとボーズ粒子として振舞う 大阪大学 北岡良雄教授のノートより

従来型超伝導の機構(BCS理論) 電子が対(クーパー対)を作ったとたん、ボーズ・アインシュタイン凝縮が起こって超流動状態になる。 1911 超伝導の発見 1957 超伝導を理解する理論: Bardeen, Cooper, Schrieffer (1972 ノーベル賞) 電子が走り去った後、 正イオンが僅かに引かれて、正に帯電した領域ができる。  玉 ⇔ 電子 マット ⇔ イオン(原子) そこに別の電子(-)が引き寄せられる。 玉をマットの上にのせると、マットが沈んで二つの玉は引き合う。 電子が対(クーパー対)を作ったとたん、ボーズ・アインシュタイン凝縮が起こって超流動状態になる。

リニア中央新幹線 東京ー大阪市を時速500Kmで走行する超伝導磁気浮上式リニアモーターカーによって、約1時間で結ぶ計画。 http://www.linear-chuo-exp-cpf.gr.jp/ より 東京ー大阪市を時速500Kmで走行する超伝導磁気浮上式リニアモーターカーによって、約1時間で結ぶ計画。 ●実験線の累積走行距離40万キロ突破(2004.10.28) ●リニア時速 581 km(有人走行)、 世界最速記録を達成(2003.12.2)

磁気共鳴画像化法 MRI (Magnetic Resonance Imaging)                                                                                                                        東芝の装置(1.5テスラ)

高温超伝導の 発見(1986年) ミューラーとベドノルツ  1987年にノーベル賞 スピン一重項だが、 d波の超伝導 超伝導体の臨界温度の変遷

高温超伝導体の作り方 Y YBa2Cu3O7 (YBCO)

   高温超伝導体の電気抵抗        (嵯峨野高校 1年生による)

A B M S T 記者会見の通訳が前野です。

この構造が超伝導にとってそれほど具合が良いなら 「CuO2面」を銅以外の元素でつくったら? (1986~ ) Bednorz and Müller (IBM Zurich) Cu2+, O2-とすると(CuO2)2- は電気をもってしまいますが、ブロック層の正の電荷と中和してやることで全体として中性の物質が出来上がります。 この構造が超伝導にとってそれほど具合が良いなら 「CuO2面」を銅以外の元素でつくったら? ところがそのような超伝導体はひとつも 見付からなかった.(~1994)

元素の周期表 なんでこんなに 空いているの? 1905 ヴェルナーによって改良されたもの なんで似てるのに はなれているの? なんでこれらは Alfred Werner 1913年ノーベル化学賞 なんでこれらは 仲間はずれ?

新しい立体周期表 エレメンタッチ 3重の円筒上にらせん状に巻きつけると、 3つの「問題点」はすべて解消! 元素の“ヒモ” 新しい立体周期表 エレメンタッチ Elementouch 3重の円筒上にらせん状に巻きつけると、 3つの「問題点」はすべて解消! 元素の“ヒモ” タッチ:  touch、縦、立つ エレメント = 元素

エレメンタッチは 電子の軌道も示している s p 軌道 d 軌道 f 軌道 電子     ● 原子核

       元素の周期表は世界地図のようなもの エレメンタッチは元素の地球儀 ! 2002年9月号に解説 ? 元素の新しい世界地図はどんなもの ?

Elementouch on a T-Shirt “a new world map” ?

銅以外にどんな元素が有力か? sp電子 ⋁ d電子 f電子 Ruの酸化物で超伝導を発見した! 実はスピン三重項だった!!

層状ルテニウム酸化物 Sr2RuO4 純良単結晶の育成に成功 超伝導転移温度 Tc = 1.5 K フローティング・ゾーン法 2100C NishiZaki, Mao, Kikugawa, Ikeda, Maeno et al. (Kyoto) 超伝導転移温度 Tc = 1.5 K

銅を含まない層状ペロブスカイト超伝導の発見 Nature

スピン三重項超伝導とは 超伝導: 電子の対形成による 一種のボーズ・アインシュタイン凝縮状態 電子対(クーパー対)の大きさ: 1~100ナノメートル  電子はスピン(, )をもつ: クーパー対の合成スピンとして2種類が可能 スピン一重項 (singlet) 従来のすべての超伝導(高温超伝導も) S = 0 スピン三重項 (triplet) S = 1 新奇現象期待できる スピンも超流動状態

スピン三重項超流動体: ヘリウム3 「超流動ヘリウム3で起こる対形成は Anthony Leggett 理論:2003年 ノーベル物理学賞 Douglas Osheroff 実験:1996年 ノーベル物理学賞 (Lee, Richardson と共に) 2004.11.22(月) 京大講演会 (一般向け) 2004.11.23(火) 京大(基研)講演会 (専門家向) 「超流動ヘリウム3で起こる対形成は 超伝導体での電子対(クーパー対)の形成とは異なる。」  (2003ノーベル財団HP) スピン三重項超伝導の存在は未だ完全には認知されていません。 スピン一重項 (シングレット) 超伝導 3Heの超流動 スピン三重項 (トリプレット) 粒子対の全スピンが1のときは、スピンの成分として+1,0,-1の3種類があるので、トリプレット(3つ子)とよびます

超伝導対称性 : 反対称(フェルミ粒子) S = 0 s波, d波 Spin triplet (三重項) S = 1 p波, f波 Cooper対の状態ベクトル : 反対称(フェルミ粒子) 状態ベクトル    スピン状態     軌道波動関数 Spin singlet (一重項) S = 0 Sz = 0 反対称 対称 (偶パリティー) s波, d波 Spin triplet (三重項) S = 1 Sz = -1 Sz = 0 Sz = +1 対称 反対称 (奇パリティー) p波, f波 「2電子分子」のような電子対の全スピンが1のときは、スピンの成分として+1,0,-1の3種類があるので、トリプレット(3つ子)とよびます

非従来型(非s波)超伝導性の起源 電子間クーロン斥力の重要な系(強相関電子系): 電子間距離ゼロに波動関数の振幅を持つs波は不利 Cu酸化物:反強磁性揺らぎ ⇒ 反平行スピン対              ⇒ スピン一重項d波超伝導 Ru酸化物: 強磁性揺らぎは それほど 強くない ⇒ 電子相関によって スピン三重項 s波 d波 p波 電子・格子相互作用ではなく、 電子間のクーロン斥力が 対形成をうむ

スピン三重項を検証 Sr2RuO4の超伝導状態 スピン状態 ・NMR ナイトシフト 軌道状態 ・偏極中性子回折    スピン三重項を検証 ・ミューオンスピン回転 ・量子化磁束格子     時間反転対称性の破れ   を検証 (スピン三重項の強い傍証) 奇パリティーの直接証明は未だ 軌道状態 小矢印: 平行スピン対 (Sz = 0) 大矢印: 軌道角運動量 (Lz = 1)

スピン状態の決定 酸素17 のNMR (阪大・京大) スピン一重項 スピン三重項 超伝導体の 電子スピンの磁化率 温度 Ishida et al. Nature 396 (1998) 658. 1.2 K スピン一重項 スピン三重項 超伝導体の  電子スピンの磁化率 温度 スピン磁化率

超伝導位相(空間対称性)の決定 高温超伝導が(スピン一重項) 量子化磁束Φ0=h/2e の d波であることを証明した実験 ちょうど半分の磁束 共同研究者J.R. Kirtley博士(IBM)のHPより C.C. Tsuei, J.R. Kirtley et al., "Pairing Symmetry and Flux Quantization in a Tricrystal Superconducting Ring of YBa2 Cu3O7-d", Phys. Rev. Lett. 73,593(1994). スピン三重項超伝導体に対する、このような実験の報告例はまだない。

比熱測定による熱力学的状態の決定 比熱測定からエントロピーが “直接”わかる! 磁場中準粒子励起を検出 ベクトル超伝導マグネット付き ky f NS(f) 0 ° 180° kx ky FS Dk H 準粒子 磁場中準粒子励起を検出 ベクトル超伝導マグネット付き 比熱装置 by 出口和彦 (COE-PDF)

比熱による超伝導エネルギーギャップの 大きさの方向依存性決定 Ng Nab K. Deguchi et al, PRL 92, 047002 (2004). スピン三重項超伝導に対する 予想と一致

スピン三重項の可能性が指摘される超流体 S = 1 Cooper pairing (0) 原子の超流動体 3He p-wave (1) 重い電子系超伝導体 UPt3           UNi2Al3: UPd2Al3 は明らかに一重項 (2) ルテニウム酸化物超伝導体 Sr2RuO4 (3) 強磁性と共存する超伝導体 UGe2, URhGe, ZrZn2? (4) 有機超伝導体 (TMTSF)2PF6 ?? (5) その他 PrOs4Sb12? , etc. スピン三重項超伝導の存在が、実際の物質で詳細にわたって確立できたのは、Sr2RuO4がはじめて!

スピン三重項超伝導の物理 ●超伝導対称性・対形成メカニズムの詳細を ● Sr2RuO4:スピン三重項超伝導を遂に実現 ! 定量化できうる初めての例  (c.f. UPt3)    強い電子相関の効果が三重項を安定化 非従来型超伝導メカニズムの統一理論構築に重要なヒント     (京大 物理: 山田耕作教授の理論グループなど) ● スピン三重項特有の超伝導現象・効果の開拓  ● 複数の超伝導転移 ● カイラル現象 (ゼロ磁場ホール効果、デバイス応用など) ● クーパー対の集団励起運動 (collective modes)

超伝導 基礎研究の将来 (1) 高温超伝導メカニズムの解明 BCS理論よりも包括的な超伝導理論の構築 (2) より高いTcの実現    室温超伝導体の発見 Tcの最高値は150 K程度にとどまっていますが、原理的に室温超伝導を禁じる制約はありません。 (3) 新奇な超伝導体、超伝導状態の発見    電子-格子以外のメカニズム、非s波超伝導など (4) 新超伝導現象の発見    マイスナー効果やジョゼフソン効果に比肩しうる「新効果」

END

BCS理論のあらまし Bardeen, Cooper, Schrieffer (1957) 金属中の電子: フェルミ凝縮状態 電子-格子相互作用を媒介とした 電子間引力によって、 合成運動量 P = 0, 合成スピン S = 0 の電子対が形成される “BCS基底状態” Fermi凝縮状態は不安定化し、 BCS状態(超伝導)になる. 電子対の“ボーズ・アインシュタイン凝縮” 電子対(クーパー対)の大きさ: 1~100 nm 準粒子励起スペクトルにはエネルギーギャップ Δ が生じる。

強相関電子系:なぜ非s波が実現するのか? Unconventional Superconductivity Definition: Example: HTC cuprates The reason why unconventional sc is realized in strongly-correlated electron systems (heavy fermions, transition-metal oxides, some organic compounds, materials near a Mott insulator, etc.) gap equation For Vkk’ > 0 by Coulomb repulsion, the sign of D(k) has to change with k in order to have a solution for non-zero D(k) .

さらに詳しい解説 超伝導発見の論文: 被引用800件以上 前野・出口: Mackenzie and Maeno: YM et al.: 米国物理学会誌  2001年1月号 Rev. Mod. Phys. 2003年4月号 2001年11月号 超伝導発見の論文: 被引用800件以上 YM et al.: Nature 372 (1994) 532. 前野・出口: 日本物理学会誌  56 (2001) 817. Mackenzie and Maeno: Rev. Mod. Phys.: 75 (2003) 657.