質量数130領域の原子核のシッフモーメントおよびEDM

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質量数130領域の原子核のシッフモーメントおよびEDM 埼玉大学 理工学研究科 吉永 尚孝 東山幸司 共同研究者 千葉工業大学 埼玉大学  荒井亮一 Outline of my talk Xe領域の偶偶核・奇核の計算結果 シッフモーメントおよびEDMの計算 まとめ

背景 今回、殻模型的アプローチで得られた波動関数を用いて のシッフモーメントと原子核のEDMを計算 129Xe75 129Xe,199Hg 等の原子においてEDMの測定が行われている。 M. A. Rosenberry et al., Phys. Rev. Lett. 86, 22 (2001). W. C. Griffith et al., Phys. Rev. Lett. 102, 101601 (2009). 電子が閉殻の原子において,原子の主要なEDMは原子核のシッフモーメントにより生み出される。シッフモーメントの理論研究は、今まで平均場による計算は行われてきたが、殻模型的アプローチによる数値解析は行われていない。 イオンにおいては、原子核のEDMが直接測定できると考えられている。 S. Oshima, Phys. Rev. C 81, 038501 (2010). C. Itoi and S. Oshima (unpublished). 今回、殻模型的アプローチで得られた波動関数を用いて      のシッフモーメントと原子核のEDMを計算 129Xe75

シッフモーメントの計算 シッフモーメント演算子の書き換え 点状粒子(quark)のクラスターに対するシッフモーメント : 個々の核子の中心の位置 : 点粒子の位置 この式から、原子核のシッフモーメントは2つの寄与に分けることができる。 V. F. Dmitriev et. el., Phys. Rev. Lett. 91, 212303 (2003).

原子核のシッフモーメント 原子核の球対称からのずれによるシッフモーメント 中性子と陽子の固有なEDMから来るシッフモーメント : 中性子と陽子の固有なEDM(非相対論的近似)

核子の固有EDMから生じるシッフモーメント : 奇核の全波動関数 今回はこのシッフモーメントのみの評価 PTを破るニ体力のシッフモーメント PTを破る相互作用の例 V. C. Haxton et. el., Phys. Rev. Lett. 51, 1937 (1983).

シッフモーメントの理論計算 225RaのSkyrme-Hartree-Fock計算 199HgのQRPA計算 225Raでの平均場計算 J. Engel et al., Phys. Rev. C 68, 025501 (2003). 199HgのQRPA計算 J. H. de Jesus and J. Engel, Phys. Rev. C 72, 045503 (2005). 225Raでの平均場計算 J. Dobaczewski and J. Engel, Phys. Rev. Lett. 94, 232502 (2005). 219Ra周辺のQRPA計算 N. Auerbach et al., Phys. Rev. C 74, 025502 (2006).

パラメーターは多くの原子核の特徴が再現できるように決める。 Xe 領域の原子核の研究 重い原子核の相互作用の問題 核図表 有効相互作用は良く分かっていない。 現象論的な相互作用を用いる。 対相関+四重極相互作用 対相関 ― 基底状態はBCS状態になっている。 四重極 ― 原子核の励起は四重極変形で起こる。 パラメーターは多くの原子核の特徴が再現できるように決める。

中性子、陽子共に核子数 50~82 の 5つの軌道を考える。 単一粒子軌道 129Xe 中性子と陽子の単一粒子軌道 中性子  → 空孔 中性子         陽子 82 s1/2 2.99 2.7927 h11/2 d3/2 0.0 d3/2 2.7078 0.2418 h11/2 s1/2 0.33158 陽子    → 粒子 0.96202 d5/2 1.65476 d5/2 g7/2 g7/2 2.43404 0.0 50 中性子、陽子共に核子数 50~82 の 5つの軌道を考える。

S 対,D 対を複数個組み合わせることにより原子核を記述する。 重い原子核では殻模型計算は事実上不可能。 (例えば、132Ba の全状態数は約200億 ) 殻模型空間に制限が必要。 ほとんど全ての偶偶核は基底状態が 0+,第一励起状態が 2+。 (低い角運動量の) 集団運動的な核子対が低エネルギー状態を支配する。 核子対模型 合成した角運動量は 0 合成した角運動量は 2 S 対 D 対 核子 閉殻の芯 S 対,D 対を複数個組み合わせることにより原子核を記述する。

質量数130領域の偶偶核 質量数130領域の偶偶核で相互作用を決定。 Z N N=82 Z=50 132Pm 133Pm 134Pm 131Nd 132Nd 133Nd 134Nd 135Nd 136Nd 137Nd 138Nd 139Nd 140Nd 141Nd 142Nd 130Pr 131Pr 132Pr 133Pr 134Pr 135Pr 136Pr 137Pr 138Pr 139Pr 140Pr 141Pr 129Ce 130Ce 131Ce 132Ce 133Ce 134Ce 135Ce 136Ce 137Ce 138Ce 139Ce 140Ce 128La 129La 130La 131La 132La 133La 134La 135La 136La 137La 138La 139La 127Ba 128Ba 129Ba 130Ba 131Ba 132Ba 133Ba 134Ba 135Ba 136Ba 137Ba 138Ba 126Cs 127Cs 128Cs 129Cs 130Cs 131Cs 132Cs 133Cs 134Cs 135Cs 136Cs 137Cs 125Xe 126Xe 127Xe 128Xe 129Xe 130Xe 131Xe 132Xe 133Xe 134Xe 135Xe 136Xe 124 I 125 I 126 I 127 I 128 I 129 I 130 I 131 I 132 I 133 I 134 I 135 I 123Te 124Te 125Te 126Te 127Te 128Te 129Te 130Te 131Te 132Te 133Te 134Te 122Sb 123Sb 124Sb 125Sb 126Sb 127Sb 128Sb 129Sb 130Sb 131Sb 132Sb 133Sb 121Sn 122Sn 123Sn 124Sn 125Sn 126Sn 127Sn 128Sn 129Sn 130Sn 131Sn 132Sn N Z=50

g-band 理論 g-band 実験  N. Yoshinaga et al., Phys. Rev. C 69, 054309 (2004).

g-band 理論 g-band 実験  N. Yoshinaga et al., Phys. Rev. C 69, 054309 (2004).

N. Yoshinaga et al., Phys. Rev. C 69, 054309 (2004). 実験 理論 実験 理論 実験 理論  N. Yoshinaga et al., Phys. Rev. C 69, 054309 (2004).

N. Yoshinaga et al., Phys. Rev. C 69, 054309 (2004). 実験 理論 実験 理論 実験 理論  N. Yoshinaga et al., Phys. Rev. C 69, 054309 (2004).

モーメント Magnetic moment Electric moment Nucleus J PTSM expt. 129Xe 1/2+ -0.367 -0.777976(8) 3/2+ +0.208 +0.58 -0.471 -0.41(4) 5/2+ +0.660 +0.112 9/2- -0.870 +0.434 11/2- -0.906 -0.8912223(4) +0.406 +0.64(2) 131Xe -0.635 +0.515 +0.6915(2) -0.248 -0.116(4) +0.545 -0.0112 -0.915 +0.620 -1.00 -0.994048(6) +0.558 +0.73(3) 133Xe -1.09 +0.868 +0.81340(7) +0.125 +0.42(5) +0.661 -0.0295 -0.974 +0.319 -1.05 -1.08247(15) +0.583 +0.77(3) 磁気モーメント 電気モーメント 原子核 スピン 理論 実験 理論 実験

シッフモーメントの各成分の値 st 各成分の値 (fm2) Neutron Proton 単一粒子軌道の占有数 2s1/2 1d3/2 各成分の値 (fm2) st Neutron +0.8698 -1.1056 -0.0811 -0.3169 Proton -0.0240 +0.0306 -0.0005 +0.0061 単一粒子軌道の占有数 2s1/2 1d3/2 1d5/2 0g7/2 0h11/2 Neutron 0.794 1.680 0.474 0.203 3.850 Proton 0.019 0.062 0.287 3.558 0.074

シッフモーメントの計算結果考察 平均場計算との比較 st Neutron 2s1/2軌道にある中性子1個の影響 +0.7648 V. F. Dmitriev et. el., Phys. Rev. Lett. 91, 212303 (2003). 2s1/2軌道にある中性子1個の影響 st Neutron +0.7648 -3.2261 +0.5099 -1.9514

議論 中性原子のEDMとシッフモーメントの関係 中性子のEDMの実験値 V. A. Dzuba et al., PRA. 66, 012111 (2002). 中性子のEDMの実験値 C. A. Baker et al., Phys. Rev. Lett. 97, 131801 (2006).

原子核のEDMの計算 原子核のEDMとイオンのEDMの関係 イオンの状態において原子核のEDMが直接測定できると考えられている。 S. Oshima, Phys. Rev. C 81, 038501 (2010). C. Itoi and S. Oshima (unpublished). イオンのEDM (点状原子核に対して) : 電子の数 : 陽子の数 原子核のEDM : スピン演算子の期待値 : 核子の固有なEDM

議論 中性子のEDMの実験値 C. A. Baker et al., Phys. Rev. Lett. 97, 131801 (2006).

スピン演算子の期待値の占有数依存性 2s1/2軌道の中性子1個の期待値 + 0h1/2 ,1d5/2軌道の補正項 スピン演算子の期待値 : 2s1/2軌道の占有数 : 1d3/2軌道の占有数 : 0h11/2軌道の占有数 2s1/2軌道の中性子1個の期待値 + 0h1/2 ,1d5/2軌道の補正項 129Xeにおける中性子の単一粒子軌道の占有数 2s1/2 1d3/2 1d5/2 0g7/2 0h11/2 0.794 1.680 0.474 0.203 3.850

まとめ 殻模型の波動関数を用いて,質量数130領域の奇核に対して核子固有EDMから来るシッフモーメントと原子核のEDMの数値解析を実行した。 シッフモーメント : 原子核のEDM : 今後の課題 199Hg周辺の原子核の殻模型計算を実行し,質量数130領域の結果との比較を行う。 PTを破るニ体力によるシッフモーメントを計算。

backups

模型空間の依存性 st SD対近似 SDG対近似 SD対近似とSDG対近似のシッフモーメントとその成分 (fm2) 近似 核子 SD SD対近似とSDG対近似のシッフモーメントとその成分 (fm2) 近似 核子 st SD Neutron +0.8698 -1.1056 -0.0811 -0.3169 Proton -0.0240 +0.0306 -0.0005 +0.0061 SDG +0.6932 -0.8774 -0.2681 -0.4523 -0.0292 +0.0373 -0.0019 SD対近似 SDG対近似

ハミルトニアン 対相関+四重極相互作用 二体相互作用の強さ バレンス中性子(空孔)の数 バレンス陽子(粒子)の数  N. Yoshinaga et al., Phys. Rev. C 69, 054309 (2004).

偶偶核 0+ 奇核 1/2+

3-状態の他の領域の原子核との比較 エネルギースケールが違うことに注意。 シッフモーメントへの寄与は期待できない

重い原子核の低エネルギー状態の特徴 集団運動性 核子多体系の集団運動 単一粒子性 少数の核子による個々の運動 核子の集団運動と単一粒子運動を統一的に記述することが原子核研究のテーマの1つ。 その方法の1つが 殻模型 ただし、重い原子核の場合問題がある。

低エネルギーでは外側の核子の運動が重要。 重い原子核を記述する模型 殻模型のイメージ 低エネルギーでは外側の核子の運動が重要。 内側の核子が上の状態に励起するにはエネルギーが必要。 内側の核子の励起は考慮しない。 外側の核子のみを考える。 原子核 殻模型計算 殻模型 ではすべての可能な状態を用い数値計算を行う。

N=80 アイソトーンの高スピンアイソマー J. J. Valiente-Dobon et al, Phys. Rev. C 69, 024316 (2004).