花色は花弁中に存在する色素である アントシアニンで発色する

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花色は花弁中に存在する色素である アントシアニンで発色する アジサイの特徴 アジサイは一般に植物にとって毒である  アルミニウムに高い耐性を持つ アジサイの花色は土壌環境によって変化  はじめに、アジサイの特徴について説明します。  まず、一般的に花だといわれている部分は植物のガクにあたる部分で、装飾花と呼ばれています。 しかし、今回の発表ではわかりやすいように花弁、もしくは花色と言っていくことにします。  次に、アジサイは通常の植物が吸収しないAlについて高い耐性を持っています。一般的な植物では、AlはP代謝に影響を及ぼすことがわかっており、生長が妨げられたり、もしくは枯れてしまいます。  そして、一般的な植物の花色は通常、遺伝子によって決定されているのに対し、アジサイの花色は土壌の環境(酸性、もしくはアルカリ性)によって変化することがわかっています。  最後に、このアジサイの花の色を発色しているのは花弁の液胞中に存在するアントシアニンという色素であるということを念頭に置いて、次に花色の発色のメカニズムについて詳しく説明します。 バラ目 ユキノシタ科 アジサイ属 ガクアジサイ、ヤマアジサイ、西洋アジサイなど 原産地 日本・中国  落葉低木 花期 6月~7月 Al蓄積者 シダ(生育に関与)、チャ樹(生長に関与) AlがPの代謝に影響を及ぼすのはなぜ?・・・植物に必須のリン酸にと結合して植物によるリンの吸収阻害を起こす。もしくは、溶け出したAlイオンが根に吸着し、根の伸長を阻害する。その結果、根は水分や養分を十分に吸収できなくなり生育が妨げられる。また、Alイオンが植物表面に吸着すると細胞内で多量の活性酸素が生じ、呼吸が阻害されて死に至る。動物では神経細胞死を誘発する。 花色は花弁中に存在する色素である   アントシアニンで発色する

PIXE法を用いた、花色に関係する アルミニウムの検出 アジサイを用いた本実験の目的 PIXE法を用いた、花色に関係する     アルミニウムの検出 種類や花色の違いによるアルミニウム  の分布、蓄積の比較 PIXE法(荷電粒子励起X線放出法)               加速器からの荷電粒子を試料に照射し、試料中の元素を励起させる。その際に放出される原子固有の特性X線を検出することによって元素分析を行う方法。  アジサイの微量分析、特にAlに注目した実験を行いました。 アジサイを用いた本実験の目的といたしましては、PIXE法を用いて、花色に関係し、検出しにくいAlを検出すること、種類や花色の違いによる、Alの分布やその他の元素の蓄積量を比較することです。今回の実験は、アジサイの花色とAlの関係に興味をもってはじめたものですが、Alの吸収流路から、Alは花だけではなく葉や茎にも蓄積しているものだと考え、アジサイ全体におけるAl分布を測定することにしました。 ここで、今回の測定方法であるPIXE法について説明します。 PIXE法とは、加速器を用いた分析手法の一つです。加速器からの荷電粒子を試料に照射すると、試料中の原子が励起し、その原子固有の特性X線を放出します。この特性X線を検出器で検出することで元素分析を行うことができます。 加速器とは・・・電子や陽子などの原子核を、高速に加速する装置。原子核や素粒子の構造やそれらの間に働く力の本性を解明するために、加速器から得られる高速の粒子を標的に衝突させ、そのときに起こる反応を記録して解析する。質量、電荷、スピンなど原子核や素粒子のもつ固有の性質やそれらの内部の構造、あるいは原子核や素粒子に働く力の性質が、このような反応から明らかになる。 <バンデグラフがた加速器>ベルト式高電圧発生装置。絹のベルトを回転させ、電荷を接地側から絶縁物で支えられた球形電極に運び、高電圧を発生させる装置。電圧が極めて安定しているので、加速粒子のエネルギーの一様性がいいのが特徴。イオンの注入や微量分析などへの応用範囲も広い。 <コッククロフト-ウォルトン型加速器>倍電圧整流回路を何段にも重ねることにより、入力電圧よりはるかに大きな電圧を発生させるもの。大電流のビームの加速ができるので電子線による高分子の特徴改善などの応用分野に広く利用されている。 <多重加速(サイクロトロン)>電極に比較的木杭電圧を与えながら、粒子を何回も通して繰り返し加速する方法。電極に加える高周波の周期と粒子の運動の間に一定の関係を保ちながら加速するものであるので「共鳴加速」ともいう。 蛍光X線分析(X-Ray Fluorescence Analysis)との相違点・・・試料の励起に用いる一次放射線の種類がXRFではX線、PIXEでは陽子または重水素、α線であること。

色の発色メカニズム アルカリ性土壌で育成 赤色の花 酸性土壌で育成 青色の花 Al 溶け出す 金属錯体作成 構造がpHに応じて変化 強酸性     中性    アルカリ性 赤     紫    青 植物の 細胞液 Al 溶け出す 金属錯体作成 アントシアニン は赤色を発色 アントシアニン は青色を発色 色の発色メカニズムを説明します。 まず、アジサイをアルカリ性の土壌で育成した場合、アントシアニンは赤色を発色し、アジサイは赤色の花となります。この色素であるアントシアニンは、構造がpHに応じて変化し、橙色から青色まで多彩な色を発色する性質をもっていて、酸性で赤、中性で紫、アルカリ性で青を発色します。  そのため、アジサイは酸性の土壌では赤色の花、アルカリ性の土壌では青色の花をつけると考えられてきました。しかし、実際は逆です。通常、健康な植物体の細胞液は酸性であることがわかっているので、アルカリ性の土壌では赤い花がつくことになります。 では、アジサイを酸性土壌で育成した場合です。酸性土壌には土壌中のAlが溶け出しています。アジサイはこのAlを根から吸収し、アントシアニンの存在する花弁の液胞内でAl、アントシアニン、補助色素という3つからなる金属錯体を作成します。この金属錯体型アントシアニンが青色を発色し、酸性土壌中ではアジサイは青色の花となります。今回の実験ではこのAlに注目しています。 <アントシアニン> フラボノイド系色素で、橙色から赤、紫、青色まで多彩な色を持ち、波長にして450 nmから650 nm近くまでの可視光を吸収する。これは、アントシアニンの発色団であるアントシアニジンの構造がpHに応じて変化するためである。 ・強酸性ではプロトン化されたフラビリウムイオン型で赤色 ・中性ではフラビリウムイオンから脱プロトン化した中性分子のアンヒドロ塩基型で紫色 ・アルカリ性ではもう1分子のプロトンが脱離したアンヒドロ塩基アニオン型で青色

今回のアジサイ ホンアジサイ 名称不明 城ヶ崎 ブルースカイ テラーホワイト 西洋アジサイ ロシタ 西洋アジサイ ロシタ テラーホワイト 今回、試料としたアジサイです。写真は、京都府立植物園にご協力をお願いし、アジサイ、ガクアジサイの一部を採取させていただきました。左の2つが青いアジサイのホンアジサイと名称がわからなかったもの。中央2つがガクアジサイのブルースカイと城ヶ崎、右上が赤いアジサイのロシタ、右下のものが白いガクアジサイのテラーホワイトです。計6種類を試料として測定しました。

前処理/試料 採取後、洗浄し、押し花にして乾燥。 導電テープを用いて試料ホルダーに接着。 試料数 計36個 ブルースカイ 花2 葉8 茎1 ステンレススチール 試料 試料ホルダー例 試料数 計36個 ブルースカイ  花2 葉8  茎1 ホンアジサイ   2  2  1 城ヶ崎   2  2  1 名称不明   2  2  1 ロシタ   2  2  1 テラーホワイト  2  2  1  前処理と試料です。  アジサイを保存するため、アジサイは採取後、洗浄し、押し花にして乾燥させました。サンプルは計36個で、花、葉は一部分をそのまま切りとり、茎は断面を薄くスライスしたものを写真ように、導電テープを用いて試料ホルダーに接着しました。 またブルースカイの葉のみ、先端、中心、茎の元、右端、左端、裏というように分布をとりました。

測定装置・条件 京都大学 工学研究科原子核工学専攻 放射実験室 加速器 4MVバンデグラフ型加速器 入射粒子 2.5 MeV He⁺ビーム 京都大学 工学研究科原子核工学専攻 放射実験室 加速器  4MVバンデグラフ型加速器 入射粒子  2.5 MeV He⁺ビーム ビーム電流  15 nA ビーム径  1.0φ ビーム電流量  6 mC or 10分間 検出器  Si(Li)検出器(プリンストンガンマテック社) 分解能  108 eV アブゾーバー  9.4 mm厚  ダイヤホイル 測定装置と条件です。京都大学、工学研究科原子核工学専攻、放射実験室のバンデグラフ型加速器をお借りして測定を行いました。入射粒子にはHe+ビーム、ビーム電流は15nA、ビーム径1.0φ、ビーム電流量は6μC、葉など試料が厚いために電流量が測れなかった場合では10分間で測定しました。 検出器はSi(Li)検出器を用い、アブゾーバーには9.4μm厚のダイアホイルを用いています。

ビームの選択 H+ H2+ He+ MeV 2.5 ダイヤホイルの厚さ(mm) 80 25 10 透過率 10-5 0.03 0.3 電離断面積 2.15×104 1.87×104 4.6×104 透過率×断面積 21.5 561 13800 ここで少し、検出感度を上げるためのビームの選択の仕方について説明します。 今回注目しているAl等の軽い元素は、特性X線の減衰が大きく、検出が困難です。 そこで、通常PIXEでは広範囲の元素を見るために、H+ビームを用いますが、今回はダイヤホイルの透過率と電離断面積をかけて一番値の大きいHe+ビームを用いることで、軽元素の分析感度を上げることに成功しました。 レンジ・・・ビームが膜を通過して止まる距離 減衰率(I0 /I1 )・・・入射時の確立(I0)を出射時の確立(I1)で割ったもの。入った時に比べてどれだけでていくか。 電離断面積・・・放射線と原子核の層が作用の起こる確率を表す量。単位はbarnで1×10 - 4 cm。 ビームの選択原理・・・Al等の軽元素は特性X線の減衰が大きく、検出がしにくい。そこで散乱ビームを遮断する膜でAlが減衰してしまわないように薄い膜を使用する必要がある。そこで、通常、PIXEではH+ビームを用いるが、今回はHe+ビームを用いる。He(m=4)はH(m=1)よりも質量数が大きいため、同じエネルギーでイオンを加速させるとビームの速度が遅くなる。速度が遅いと膜とビームとの相互作用が大きくなり、散乱したビームは薄い膜で十分吸収される。また、内殻の電離断面積はビームの速度と電子の速度の等しいところが1番高い。今、2.5MeVのH+ビームの速度はAlなどの軽元素の速度と同じくらいであるので、He+ビームにして速度が遅くなると軽元素の内殻電離断面積はH+よりも小さくなるものの、Heの原子番号が2であるために相互作用は2乗になり、ほとんど同じ、もしくはH+よりも大きくなる。よってダイヤホイルの透過率と電離断面積(軽元素との相互作用)をかけて一番大きいものが軽元素の検出感度は高い。He+ビームは電離断面積がほとんどかわらない上、膜が薄くなる。 通常H+ビームを使う理由・・・重い元素は電子の速度が速い。よって、ビームのエネルギーを上げてビームの速度を重い電子の速度にあわせることで電離断面積が大きくなって、重い元素をみることができる。そしてビームのエネルギーを上げやすいのがHe(m=4)よりも軽いH(m=1)なのである。 PIXEは多元素同時分析ができることが特徴でもあるので、エネルギーを調節して重い元素まで幅広く測定できるH+ビームが基本である。よって今回のHe+ビームではエネルギーも上がりにくく、重い元素の電子の速度ともあわないので重い元素側は電離断面積が小さく、軽元素の範囲しか見えず、範囲が狭い。

装置写真 Si(Li)検出器 試料チェンバー 試料ホルダ| 差動排気系 装置写真です。大気中でも測定できる装置であるため、差動排気系がありますが、Alは減衰が大きいために真空にして測定しています。 試料チェンバー

装置図 試料チェンバーです。 Si(Li)検出器はビームから135°の位置におき、入り口には散乱したビームを遮断するために、ダイヤホイルを張っています。また、試料が薄いため、試料を通過したビームは試料の後ろにあるファラデーカップで電流量をカウントしました。

ビームによるスペクトルの比較 2.5 MeV H2+ビーム 2.5 MeV He+ビーム Al Si P S Cl K Ca Mg Si P 10 1 2 3 4 X ray counts 14 12 8 6 Energy (keV) Al Si P S Cl K Ca Ca Kb 2.5 MeV He+ビーム Mg 10 1 2 3 4 X ray counts 14 12 8 6 Energy (keV) Si P S Cl K Ca Ti Cr Mn Fe Co Ni Fe Kb Cr Kb Ti Kb Ca Kb 2.5 MeV H2+ビーム Al Mg アジサイの葉のスペクトルです。これは2.5MeVH2+ビームで初めに測定したもので、X軸にエネルギー、y軸にカウントをとっています。検出元素としては、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、塩素、カリウム、カルシウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケルです。植物の基本元素であるP、K、Caの他、Alも少し検出できました。  次に同様のサンプルを2.5MeVHe+ビームで測定したスペクトルを示します。検出できた元素はCaまでですが、Alのピークをはっきりみてとることができます。

アジサイのスペクトル Al Mg Si P S Cl K Ca 2.5 MeV He+ビーム ブルースカイ ホンアジサイ ロシタ 10 1 2 3 4 x ray count Energy (keV) Al ブルースカイ ホンアジサイ ロシタ Mg Si P S Cl K Ca 2.5 MeV He+ビーム  こちらが測定した花弁のスペクトルです。Alに注目しているのでエネルギー範囲は4.5keVにしてあります。青い線が青い花のブルースカイ、水色の線がホンアジサイ、そして赤い線が赤い花のロシタのスペクトルです。植物の基本元素、P、K、Caは同じ位のピークの高さであるのに対し、Alを見ると、赤い花のロシタは、ピークが見えないがわかります。

Kに対するAlのPeak Areaの比較  Alの蓄積量について比較します。測定したスペクトルはPIXEスペクトル解析ソフトのPIXANでフィッティングし、ピークエリアを算出しました。しかし、葉と花や、種類によっても試料の厚さが異なってしまうため、定量ができず濃度を算出することができませんでした。  そこで、ほぼ同じ高さのピークが見えた、植物の基本元素であるKに対してAlを比較してみます。 Y軸はAlのピークエリアをKのピークエリアで割ったものです。  まず、色別種類別に比較すると、4つの青いアジサイに比べ、赤いアジサイは明らかにAlの蓄積が少ないこと、青色発色に関係ない白いアジサイテラーホワイトにもAlが蓄積していること、そして青い花の中で、1番Alの蓄積量が多い城ヶ崎では赤い花ロシタに比べ、花で約4倍、葉で約5倍、ブルースカイでも花、葉ともに約3倍も多くAlを蓄積していることがわかります。  また、同じ植物体での部分によって比較すると、葉、花、茎の順番でAlを蓄積していることもわかりました。 テラーホワイトは?・・・ちゃんとはかれてない?

まとめ アルミニウムは 花・葉・茎 全てに存在 アルミニウムの蓄積量 色別 青花>赤花 概算濃度 部分別 葉>花>茎 部位別 均一に分布 色別 青花>赤花 部分別 葉>花>茎 部位別 均一に分布 概算濃度 城ヶ崎 花 1250 ppm 葉 1500 ppm ブルースカイ 花  900 ppm 葉 1400 ppm ロシタ 花  200 ppm 葉  300 ppm (正常な植物体における無機必須元素の平均含有率より Kの濃度は10000 ppm)  まとめです。 Alは、色の発色する花弁だけに蓄積するのではなくて、葉、花、茎の植物体全体に存在しています。 Alの蓄積量は、色別に比較すると、やはり赤い花よりAl錯体を作成して発色する青い花の方が多く、部分別では、葉、花、茎の順で多いことが確認できました。また、葉の部位による蓄積量の差はないので、Alは葉全体の均一に蓄積していることもわかりました。 最後に、正常な植物体における無機必須元素の平均含有率より、Kの濃度は10000ppmであることから、Kに対するAlの比較のグラフより濃度を概算すると、青い花の城ヶ崎の花で約1250ppm、葉で約1500ppm、赤い花のロシタの花は約200ppm、葉でも約300ppmとなりました。 以上のことより、今回の研究では、PIXE法によるAlの検出と、アジサイのAl蓄積の分布を知ることができました。 酸性土壌のAlによる植物の生育阻害などの研究に役立てていける? アジサイによるAlのファイトレメディエーション? アジサイは高集積植物の可能性(ハイバーアキミュレイション)

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