2005年度・公開講座(2005.9.9) 長期予報はなぜ当たらないか? 北海道大学大学院地球環境科学院 山崎 孝治
はじめに 将来、科学技術の進歩により、「1ヶ月先の 10月10日体育の日の札幌の天気は晴れ」という予報も可能である。 1週間先の天気予報も当てにならないのに、地球温暖化なんて当てにできない。
目次 はじめに 天気予報のしくみ-数値予報- 決定論的予測の限界-カオス- 長期予報は確率的 アンサンブル予報と長期予報の根拠 温暖化予測は信頼できるか まとめ おまけ
気象庁が発表する天気予報の種類 明日・明後日の予報 週間予報(毎日11時と17時発表) 1ヶ月予報(毎週金曜日14:30) 3ヶ月予報(毎月23~25日,9月は22日14:00) 季節予報 暖候期予報(2月24日:3ヶ月予報と同時) 寒候期予報(9月22日: 3ヶ月予報と同時)
天気予報の流れ・原理 将来を物理法則に基づき予測する 全球の初期状態を知る 解析 予報 観測 予報解析サイクル
ウインドプロファイラー
数値予報モデルと数値予報の流れ
数値予報モデルの種類
村松照男「天気の100不思議」より
天気予報の限界 -決定論的(断定的)予測の限界- ロレンツのバタフライ効果
天気予報の限界 -決定論的(断定的)予測の限界-
天気予報の限界 -決定論的(断定的)予測の限界- 中高緯度大気の予測限界は2週間程度。 (低気圧の寿命による) 現象のスケール・寿命により予測限界時間は異なる。 集中豪雨:数時間 エルニーニョ:1~3年? 2週間以上の予報は確率的にならざるを得ない。
現象の時間・空間スケール 村松照男「天気の100不思議」より
アンサンブル予報 初期値を観測誤差の範囲で少しだけ変えた多くの予測を行う。 海面水温偏差は持続。 散らばりが少なければ、予測精度は高い。 散らばりが多ければ、予測精度は悪い。
村松照男「天気の100不思議」より
2003/04夏のオホーツク海高気圧と北日本の気温 2003年 2004年 7月の海面気圧と偏差 6/1 8/31 6/1 8/31 2003年 2004年 7月の海面気圧と偏差 6~8月のオホーツク海付近(140-150E,45-55N)の7日移動平均海面気圧偏差(上) 北日本の5日移動平均気温偏差(下) 6/1 8/31 6/1 8/31 気象庁の前田さんより
オホーツク海高気圧の予測 2003年 140~150E,45-55Nで平均した7日移動平均海面気圧偏差 0612 0710 0619 オホーツク海高気圧の予測 2003年 140~150E,45-55Nで平均した7日移動平均海面気圧偏差 0612 0710 0619 0717 0626 0724 0703 0731 6/1 8/31 6/1 8/31
予測の不確実性 140~150E,45-55Nで平均した7日移動平均海面気圧偏差 2003年7月3日初期値 2004年7月1日初期値
2003年7月3日初期値、予報12~18日 500hPa高度と偏差 実況 アンサンブル平均 あるメンバー あるメンバー
2004年夏の気温偏差
T850の時系列 (東日本)2004年 6/3 7/1 8/5 6/10 7/8 8/12 6/17 7/15 8/19 7/22 8/26 6/24 7/29 モデル係ホームページより
熱帯の40-60日振動により比較的良い予測
2週間より先の長期予報の根拠 中高緯度大気より長い時間スケールをもった現象 *熱帯の40-60日振動 *成層圏 → 対流圏 海面水温、積雪、海氷など大気より長い記憶を持つものを使う。
海面水温で季節平均SLPが決まる割合
3ヶ月予報の例
温暖化予測は信頼できるか 気象庁
IPCC TARより
IPCC TARより
これまでの温暖化 気象庁
IPCC TARより
まとめ 将来、科学技術の進歩により、「1ヶ月先の10月10日体育の日の札幌の天気は晴れ」という予報も可能? 不可能である。予測限界は2週間。 ただし、確率的長期予報は可能かも。 (気象庁・研究者の目標・研究対象) 1週間先の天気予報も当てにならないのに、地球温暖化なんて当てにできない。 信頼できる。CO2が変わるから。 (他の条件が変わらなければ) 週間予報の精度向上の余地はある。 *初期値 *モデル
1か月数値予報の仕様(2004年時点) モデル名 T106V0305 (週間アンサンブル予報と同じ) 予報時間 34日 水平分解能 1.125度,約110km 鉛直層数 40層 モデル最上層気圧 0.4hPa メンバー数 26(BGM法とLAF法の併用) 海面水温 初期時刻の平年偏差固定 計算実行 毎週水曜日と木曜日の12UTC(21時)を初期値とし、各13メンバー
おまけ(1ヶ月予報)
最新の週間予報
成層圏とのリンク
成層圏突然昇温(SSW)の対流圏への影響についての先行研究 LLimpasuvan et al.(2004)は、SSW39事例についてコンポジット解析をおこない、SSW発現時に東風偏差と正の温度偏差が下方伝播していることを示した. Baldwin and Dunkerton(1999,2001)は、突然昇温の指標となる極渦の強弱について考察し、数週間のタイムラグをえて、このシグナルが対流圏へ下方伝播していることを示した. 極渦強 極渦弱 lag(day) 対流圏まで極渦の弱いシグナルが伝播
Baldwin and Dunkerton(1999,2001)では、極渦の強弱が下方伝播する事例ばかりではないことも述べている つまり、SSW発現後において、極域対流圏では昇温するが、逆に降温する事例も存在することは大変興味深い.この違いは何によってもたらされているかを調べる必要がある. 強い極渦 弱い極渦
話の流れ 冬のNAO → 夏のNAM 冬のNAOは太陽11年周期で変調 「冬→夏」も太陽11年周期で変調 雪氷・SSTがメモリィ? SAMも変調…. 成層圏オゾン? NAOの冬から夏へのリンクにおける 成層圏オゾンの役割は?
冬の北大西洋振動(NAO)は 春・夏の北半球大気循環に影響 DJFのNAOとの相関・回帰 (Ogi et al., 2003)
冬のNAOは春・夏の北半球大気循環に影響 DJFのNAOとZ500との相関 (Ogi et al., 2003)
「冬→夏」のMemoryは雪・海氷・SST? DJFのNAOとの相関 (Ogi et al., 2003)
1か月数値予報の仕様(2004年時点) モデル名 T106V0305 (週間アンサンブル予報と同じ) 予報時間 34日 水平分解能 1.125度,約110km 鉛直層数 40層 モデル最上層気圧 0.4hPa メンバー数 26(BGM法とLAF法の併用) 海面水温 初期時刻の平年偏差固定 計算実行 毎週水曜日と木曜日の12UTC(21時)を初期値とし、各13メンバー
実況 (気温 降水量 日照) 北・東・西日本で高温 地域差が大きかった降水量 北日本太平洋側、東・西日本で多照 気候系監視報告より