緩やかなネットワーク・コミュニティの形成支援 Supporting Formation of Network Community with Weak Ties. 修士課程最終審査 2001年2月20日 林研究室の吉田です。 ただいまから、緩やかなネットワーク・コミュニティの形成支援 について研究発表します。 知識システム構築論講座 林研究室 950099:吉田 誠博
もくじ 背景,動機,目的 モデルの提案 処理概要 機能 実装システム 評価実験 まとめ 発表の順番はこのようになっています。
背景 究極:ネットワーク・コミュニティ WWWコミュニケーション 家庭 新しい社会 会社 メッセージ交換コミュニケーション (血縁・地縁) 現代社会は 血縁や地縁をつながりとした家庭と 社縁をつながりとした会社という社会で構成されます。 これらはその社会から離れることが難しい強いつながりの社会といえます。 今、2つの社会の中間に 共通の興味や関心という情報縁をつながりとした 新しい社会の浮上が指摘されています。 この社会の特徴は、個人の意志でオン・オフ可能な緩やかなつながりにあります。 その究極の姿はネットワーク・コミュニティであると言われています。 なぜならば、時間や空間に束縛されないばかりか対面接触も必要としないからです。 現在、この主流となっているのは、 メーリングリスト、ネットニュース、電子掲示板などのメッセージを交換するタイプのコミュニケーションです。 これらはインターネット以前から存在しているのですが、 インターネットによって新たにWWWコミュニケーションが発生しました。 これはメッセージ交換コミュニケーションを取り込むことも可能なスタイルを持ちます。 新しい社会 会社 (血縁・地縁) (情報縁) (社縁) 究極:ネットワーク・コミュニティ メッセージ交換コミュニケーション WWWコミュニケーション
動機 長所 短所 GioCities WebRing コミュニティサーバ内のサイトのURLを管理. ・容易な参加(URL提示) このWWWコミュニケーションで形成するコミュニティの代表的なシステムとして、 ジオシティーズとウェブリングがあります。 ジオシティーズは、コミュニティサーバ内のスペースを利用者に提供して、 そこに構築されたサイトのURLを収集してコミュニティを管理しています。 そのためコミュニティの参加はURLを提示するだけでよいのですが、 参加するサイトをコミュニティサーバ内のサイトに限定します。 また、サイト間には直接のつながりがないのでURL一覧を介した閲覧になります。 ウェブリングは、ナビゲーションバーという独自のリンク情報を 参加するサイト内に設置し、そこからコミュニティサーバの CGIプログラムを呼び出すことでコミュニティを管理しています。 そのため、ナビゲーションバーが設置できるならどのサイトでも参加でき、 ナビゲーションバーからCGIプログラムを呼び出すことで 次のサイトの情報が画面に出力されるので、次々にサイトを閲覧することができます。 しかし、ナビゲーションバーを設置するためにサイトを修正する必要があり、 その設置位置も参加者ごとにバラバラな状態になっています。 GioCities コミュニティサーバ内のサイトのURLを管理. ・容易な参加(URL提示) ・URL一覧を介した閲覧 ・参加を限定 WebRing 独自のリンク情報 (ナビゲーションバー)をサイト内に設置し、 CGIプログラムで管理. ・参加を限定しない ・参加にはサイト修正要 ・ナビゲーションバーの設置がバラバラ ・次サイトを直接閲覧
研究の目的 モデルの提案、実装、評価. [目的] WWWコミュニケーションを用いた緩やかなネットワーク・コミュニティを形成する場の提供. 研究のアプローチ 既存システムの問題点の解決 参加者の意志でコミュニティをつなげる機能 操作を向上するための機能 このような背景から本研究では、 WWWコミュニケーションを用いた緩やかなネットワーク・コミュニティを 形成する場の提供を目的とします。 研究のアプローチといたしまして、 既存システムの問題点の解決に加えて、 参加者の意志でコミュニティをつなげたり、切ったりする機能と 操作性を向上する機能を追加することで、 目的とする場に近づけるのではないかと考えます。 そして、これを実現するモデルを提案し、 システムとして設計・実装して、評価していきます。 + + モデルの提案、実装、評価.
モデルの提案 サイトに対応するハイパーテキストをコミュニティサーバ内に生成し、ハイパーリンクで繋いでコミュニティを管理 利用者に提供 まず、問題点を解決するためのモデルを提案します。 このモデルは、参加するサイトに一対一に対応するハイパーテキストを コミュニティサーバ内に作成してURL情報を管理し、 それ自身をハイパーリンクで繋いでコミュニティを管理します。 利用者に対しては、サイトの情報ではなく、このハイパーテキストを提示することを特徴とします。 このモデルによって、 どのようなサイトでも、 URLを提示するだけでコミュニティに参加でき、 サイトの情報からサイトの情報へ次々と閲覧することができます。 また、移動のためのハイパーリンクもコミュニティサーバ内で管理するので定位置にできます。 ・参加サイトを限定しない. ・参加が容易(URLの提示)である. ・次サイトのハイパーテキストへ直接移動できる. ・ハイパーリンクを定位置にできる.
処理概要(1) HTML-Frameによるハイパーリンクとサイト情報の提示. link1.html frame1.html フレームファイル ハイパーリンク情報 <HTML> <FRAMESET> <FRAME SRC=“link1.html"> <FRAME SRC=“site1.html"> </FRAMESET> </HTML> link1.html site1.html frame1.html 利用者のWWWブラウザ WWWサイト Download このモデルのハイパーテキストを HTMLのフレームで構成する方法でシステムを設計しました。 処理概要を説明します。 ハイパーテキストをフレームで上下に分割して、 上部にコミュニティのハイパーリンク情報 下部にサイトの情報を設定します。 これをフレームファイルと呼び、 利用者にダウンロードさせることで、 2つの情報を同時に提供します。
処理概要(2) ハイパーリンクでフレームファイルをリング状につなぐ. frame1 link1 frame2 link2 link3 コミュニティを形成するハイパーリンクの情報は、 次のサイトに対応するフレームファイルを上書き表示するように コミュニティ全体でリング状に繋ぎます。 このようにして ハイパーテキストをハイパーテキストで繋ぐというプリミティブな処理で コミュニティに参加するサイトの管理を実現しています。 <HTML> <HEAD></HEAD> <BODY> <A HREF=“frame2.html “ TARGET="_top">next</A> </BODY> </HTML>
機能(1)(マルチコミュニティ・サイト) [目的]参加者の意思によるコミュニティの接続. sports health foods 筋肉マン 中高年 Community site Multi-Community System 次に、システムがもつ機能について説明します。 まず、マルチコミュニティ・サイト機能です。 この機能の目的は、 参加者の意志でコミュニティをつなげたり、切ったりできる機能です。 複数のコミュニティに参加するサイトを接点として コミュニティの移動を可能にします。 たとえば、 スポーツ、健康、食べ物の3つのコミュニティが存在して スポーツのコミュニティを閲覧していた場合、 スポーツと健康の2つのコミュニティに参加しているサイト(中高年者のサイト) が存在すると、そのサイトを接点としてコミュニティを接続して、 健康のコミュニティへ移動することができます。 この機能によって、参加者の意志でコミュニティをつなげることを可能にします。 ビタミンおたく
機能(2)(自動閲覧モード) [目的]受動的なブラウジング. コミュニティに参加している複数のサイトを紙芝居のように連続して表示する機能. →表示時間は利用者が指定できる. →HTMLのmetaタグのリロード機能を利用して、利用者のWWWブラウザから本システムを再帰的に呼び出すことで実現している. 次に自動閲覧モードについて説明します。 この機能の目的は、利用者のサイト閲覧作業をより簡易化することです。 コミュニティに参加しているサイトを紙芝居のように連続して画面に表示します。 1つのサイトを表示する時間は、接続環境に応じて利用者が設定できます。 この機能はHTMLのMETAタグのリロード機能を利用して、 利用者のWWWブラウザと本システムをループして再帰的に呼び出すことで実現しています。
機能(3)(サイト評価&並べ替え) [目的]コミュニティのお薦め順のサイト配置. 参加しているコミュニティ内のサイトを評価する機能. →5点評価で投票し、投票得点と評価時の得点の平均点で決定する. (コミュニティ参加時の初期得点:3点) 評価点の良い順にサイト配置を並べ替える機能. →一週間毎に自動実行する. →ダウンロードサイズをチェックして、更新したサイトを上位に配置する. 最後にサイト評価機能について説明します。 この機能は、コミュニティのおすすめ順のサイト配置にすること目的としています。 参加しているコミュニティ内のサイトを5点評価できます。 サイトはコミュニティ参加時に初期得点として3点が与えられ、 この評価機能によって得点が変化していきます。 この変化する評価点に応じて、 コミュニティの先頭から良いもの順に、サイト配置を並べ替える機能をもちます。 この機能は週に一度、自動実行されます。 その際、サイトサイズをチェックして、 前回値と異なる場合は更新サイトとして コミュニティの上位に配置します。
実装システム perlによるCGIでシステム“TSUNAMI”として実装. TSUNAMI WWW Brawser コミュニティ生成処理 tsunami_add.cgi ランダム表示処理 tsunami_random.cgi コミュニティ削除処理 tsunami_delete.cgi 自動閲覧モード処理 tsunami_auto.cgi コミュニティ参加処理 tsunami_enter.cgi 電子掲示版処理 tsunami_bbs.cgi WWW Server このシステムを、パールによるCGIで ネットワーク・コミュニティ形成支援システムTSUNAMIとして実装しました。 WWWブラウザからの利用者の要求に対して、GUI機能をもつコンテンツを出力します。 TSUNAMIは子ウィンドを生成しないので、システムの複数起動を可能にしています。 また、多様なサイトをアクセスする利用者のセキュリティを保護するために、 クッキーやスクリプトをオフに設定しても動作するようにしました。 コミュニティ脱会処理 tsunami_exit.cgi サイト評価処理 tsunami_rank.cgi 定期実行 サイト並べ替え処理 tsunami_bat_rank.cgi マルチ・コミュニティ処理 tsunami_bat_multi.cgi (http://www.jaist.ac.jp/~n-yoshi/tsunami/)
評価実験(1)(サイト閲覧操作①) [方法] 連続するWWWサイトを順番にブラウザで閲覧して、作業負荷(マウスクリック数)と 閲覧時間を計測する。 [実験システム] URL一覧処理、WebRing、TSUNAMI。 サイト閲覧操作に関して、操作性の評価実験を行いました。 実験方法は、連続するWWWサイトを順番にブラウザで閲覧して、 作業負荷(マウスクリック数)と閲覧時間を計測します。 使用するシステムは、 従来のWWWサイト閲覧方法として、URLの一覧から閲覧していく方法と、 ウェブリング、そして本システムです。 実験データとして閲覧するサイトは、 既にウェブリング上に成立しているコミュニティに参加しているサイト、 33個を使用しました。 [実験データ] WebRing上のコミュニティに参加しているサイト(素材屋さんRING)。33サイト。
評価実験(1)(サイト閲覧操作②) クリック回数 URL一覧:サイト数×2(一覧画面を介しての閲覧) クリック数の実験結果を示します。 URL一覧は一覧画面とサイトの画面を切り替えをしなければならないので、 サイト数の倍のクリック数を必要とします。 ウェブリングとTSUNAMIは、サイトからサイトへ直接移動できるので、 サイト数とクリック数が等しいはずだったのですが、 ウェブリングのナビゲーションバーがサイト毎に管理されているため、 必ずしもリンク先の画面(ホームページ)内に設置されてなく、 別のページに設置されているサイトがあり、 その分クリック数が増加しました。 URL一覧:サイト数×2(一覧画面を介しての閲覧) WebRing:サイト数+α(ナビゲーションバーがリンク先画面にない)
評価実験(1)(サイト閲覧操作③) 閲覧時間 URL一覧:一覧画面を介しての閲覧。一覧画面での選択作業. 次に閲覧時間を示します。 URL一覧は一覧画面とサイトの画面を切り替えなければならないのと、 一覧画面上で次のサイトを選択する作業が必要なため、 TSUNAMIより閲覧時間が掛かりました。 ウェブリングはサイトからサイトへ直接移動できるのですが、 サイト毎にナビゲーションバーを探しながら閲覧しなければならないので、 一番時間がかかりました。 それに対して、 TSUNAMIは次のサイトの情報へのハイパーリンクが どのサイトにおいても定位置表示されるので、 マウスを固定して順番に閲覧できることが 最短時間であった原因と考えられます。 URL一覧:一覧画面を介しての閲覧。一覧画面での選択作業. WebRing:ナビゲーションバーを探しながらの閲覧.
評価実験(2)(サイト評価機能①) [方法] [実験用コミュニティ] 実験用コミュニティを作成して、一週間システムの機能(特にサイト評価機能)を使用してもらい、変化するサイト配置を記録する。 (サイトの並べ替えは毎日実行) もうひとつ、 サイト評価機能の操作性の評価実験を行いました。 実験方法は、 実験用コミュニティを作成して、システムの機能、 特にサイト評価機能を意識して使用してもらいました。 期間は一週間です。 この実験ではサイトの並べ替え機能を毎日実行して、 変化するサイト配置を記録しました。 実験用コミュニティは、 ダミーサイト1として不当なURLのサイト ダミーサイト2としてコミュニティのテーマとは無関係なサイト そして実社会でつながりがある3人のサイトを登録して構成しました。 [実験用コミュニティ] ダミーサイト1:不当なURLのサイト。 ダミーサイト2:テーマと無関係なサイト。 実社会でつながりがある3人(30歳前後の女性)のサイト。
評価実験(2)(サイト評価機能②) ①低い評価のため、Bad URLとBad Themeが下降. ②高い評価のため、Cが上昇. 実験の結果を示します。 順位の変化は3箇所発生しました。 まず一回目で、BAD URLとBAD THEMEが 「コミュニティに不必要」という参加者の意思から、低い評価を受け順位を下げました。 もう1つは逆に、 「コミュニティに有用」という参加者の意思が評価点に反映され、Cのサイトが順位を上げました。 最後の変化はサイト評価機能によるものではなく、 Bがサイトを更新したため、並べ替え機能で一時的に上位に位置づけられました。 このように、サイト評価機能により参加者の意思がコミュニティのサイト構成に反映されることが 確認できました。 しかし、使用頻度が低いためコミュニティにどのような影響を与えているかまでは 捉えることはできませんでした。 理由を聞いてみるとほぼ一致した回答が得られました。それは、 「評価点順にサイトが並べ替えられる有効性は理解できるが、 リンクが切れているようなあからさまに悪いサイトや商業サイトなみに内容が充実しているサイトでなければ、 自分に利益にならないのでサイトは評価しない。」 という内容で、サイト評価機能を使用する動機付けの不足を指摘されました。 day Dummy1 12345 Dummy2 A B C ①低い評価のため、Bad URLとBad Themeが下降. ②高い評価のため、Cが上昇. ③Bがサイトを更新したため、一時的に上昇. →サイト評価機能の使用回数が低い.
まとめ 評価実験で以下を確認した 今後の課題 WebRingと比較して、連続するWWWサイトを簡易かつ高速に閲覧した. WWWサイト評価機能によって参加者の意思をコミュニティの構成に反映した. 最後に、評価実験で確認した事項まとめます。 まず、 ウェブリングと比較して、連続するWWWサイトを簡易かつ高速に閲覧した。 そして、 WWWサイト評価機能によって参加者のサイトに対する意思を サイトの配置というコミュニティの構成に反映した。 今後の課題として、 WWWサイト評価機能を動機付ける機構が不足していること。 それに、 本実験は他のシステムで形成されたコミュニティを用いて実施したものであり、 TSUNAMIを基盤としたものではない。 今後はTSUNAMIを基盤としたコミュニティ活動を調査する必要があると考えられます。 今後の課題 WWWサイト評価機能を使用する動機付けの不足. TSUNAMIを基盤としたコミュニティの調査. WWW閲覧操作のシステムを作成し、インパクのパビリオン閲覧システムとして提案。 (http://www.jaist.ac.jp/~n-yoshi/parapara/)