統計的手法による微弱雑音測定システムの開発

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統計的手法による微弱雑音測定システムの開発 氏原秀樹、岳藤一宏、市川隆一、関戸衛、小山泰弘 (情報通信研究機構) 1.概要  ・スプリアス電力やUWB機器などの非常に微弱な放射電波を測定するため、広帯域で高感度電波受信システムの開発  ・無線機器以外から放射される雑音電波や受信機における熱雑音による影響を正確に評価するため、統計的なデータ処理手法を導入するとともに、受信した信号の長時間積分処理を行うことによって、微弱な電波を検出する微弱電波放射電力測定手法を研究開発する。 ・測定周波数帯:0.8-26GHz超を低周波部0.8-3.0GHz,中間周波数部3.0GHz-18GHz,高周波部18GHz-26GHz超に3分割。   低周波数部においては、汎用測定機器では検出が困難な微弱電波EIRP-90dBm/MHz程度の放射電力の評価が目標。   (ゲインが10dBiのホーンと測定物との距離を7m、周波数を3GHzとして0.94Kの受信電力が検出できればよい)  現在、試作した低周波部、中間周波数部システムの性能評価を行っている。 ダブルリッジホーンアンテナと低雑音増幅部 周波数(MHZ) 平均電力 尖頭電力 1600未満 -90dBm/MHz以下 -84dBm/MHz以下 1600-2700 -85dBm/MHz以下 -79dBm/MHz以下 2700以上 -70dBm/MHz 以下 -64dBm/MHz以下 10600-10700 11700-12750 低雑音増幅部 上:中周波数部、下:低周波数部 2. 機器構成 低周波数部、中周波数部の機器構成を図1と2、仕様を表2に示す。VLBIで実績のあるサンプラに広帯域ホーンが接続され、ダミーロードやノイズダイオードとの比較で受信電力の較正を行う。PCへのデータ転送はUSB2.0、機器制御と温度モニタはRS-232Cである。  低周波数部と中周波数部の構成は基本的に同じだが、中周波数数部ではローカル信号は外部供給とし、ノイズダイオードに加えてカプラで受信回路に結合したノイズダイオードも較正に利用可能である。また、切り替えタイミングがハードウエア制御に改良されている。    表1. UWB機器の不要輻射電力の基準 図1 システムの機器構成 高感度受信装置主要ユニット 低周波部 中周波部 受信帯域 0.8GHz~3GHz 3GHz~18GHz 出力信号周波数帯域 0.1MHz~32MHz(発振器から出力される無変調のCW信号と、それを90度位相シフトした信号とでそれぞれミキシングし、32MHz帯域のベースバンドに周波数変換した信号を2系統出力する) 出力信号帯域内平坦性 1.0dB以内 給電部 受信帯域内でゲイン=4dBi以上(3mの距離にて) 低雑音受信機 ゲイン=27 dB 以上 NF(LNA単体)=1.0以下 NF(信号切替SWを含む)= 2.0以下 NF(LNA単体)=2.2以下 NF(信号切替SWとカプラを含む)= 3.7以下 温度計 読み取り分解能0.1度 出力信号レベル (入力信号のない時) -500mV~500mV(ケーブルによる伝送後) 入力信号のレベルに応じて、レベルを1dB単位で60dBまで減衰させることのできる可変アッテネータを備えること。 図2 機器構成図。左は昨年度製作した低周波数部、右は今年度製作した中周波数部 3. 数値シミュレーションによるホーンのビーム幅の改良  広帯域受信アンテナとして市販のダブルリッジドホーンを使用している。これは角錐ホーン内にリッジを設け、遮断周波数を下げて広帯域としたものである。解析モデルを図3a,3b、放射特性のシミュレーションを図4a,4b、寸法を表2に示す。コンパクトではあるが低周波側では波長に比べて開口が小さいため、ビームが非常に広い。1GHzでは、開口部付近のリッジからダイポールに似たパターンで放射していると考えられる。高周波側ではリッジ間隔の狭い奥からの放射となり波長に対する開口の比も大きくなるのでホーンの放射パターンに近づくが、それでもビーム幅が広い。想定されている測定対象物との距離は3m、そのサイズは30cm程度であり、視直径にして約6度にすぎない。ホーンと測定対象との測定距離を近づければカップリングや多重反射が誤差要因となり、遠ければ測定対象がビームに占める面積が小さく、感度で損をするので測定時間が延びる。  そこで、ホーンを延長してビームを絞るためのシミュレーションを行った。今回はフレア角を変えずにホーンを延長したもの(表3)と比較した(図3a,3b)。延長部にはリッジを設けていない。計算は有限要素法ソフトのCOMSOLで行い、1000-1360万自由度程度でメモリは60-80GB程度を消費した。構造上、解析解が利用できないので、直接的に数値計算をせざるを得ない。波長の短い高域側のほうからビームが狭くなっているが、1GHzではまだ開口不足で目立った効果がなかった。しかし、どの周波数でも軸長を倍にして概ね3dB程度、3倍で6dB程度ゲインが向上が見込めることがわかった。    表2. 仕様 ホーン寸法[mm] 軸長(Z)[mm] 開口(長辺Y)[mm] 開口(短辺X)[mm] Case 1. 現ホーン 190(=35+155) 238 140 Case 2. フレア部を2倍に延長 345(=35+155x2) 386 215 Case 3. フレア部を3倍に延長 500(=35+155x3) 524 285    表3. 数値シミュレーションを行ったホーンの寸法 4. システム雑音の測定と受信電力較正 常温の内蔵ダミーロードと液体窒素で冷却したダミーロードからの雑音電力を比較して、システム雑音温度は低周波数部では2.5GHzで100K、中周波数部では5GHzで408Kと求まった。これをもとにノイズダイオードの較正を行い、等価雑音温度を437Kと求まった。これらを基準に受信した微弱電力の絶対値を求める。5秒積分すると、システムの揺らぎは0.1Kであり、目標に十分であることがわかった。 図4a. 冷却したダミーロードと中周波数部の受信機 図3a 上段はCase 1、下段はCase 2.周波数は1GHz。  それぞれ左から解析メッシュ、電力分布、ビームパターン。 図3b ビーム形状の比較  上段はCase 1、下段はCase 3  図の左半分はH面パターン、右半分はE面パターン  周波数は1GHzから5GHzまでを1GHz刻み。 図4b. 32MHz幅での受信スペクトラム。   青はノイズダイオード+冷却ダミーロード、   赤は内蔵ダミーロード、緑は冷却ダミーロード 図4c. ノイズダイオードのon/offによるシステムの揺らぎの評価。   左は受信電力。右は積分時間に対する受信電力の揺らぎ 5. ソフトウエアでのイメージ抑圧 K5/VSSP32の2chを利用してI,Q成分を取得し、ソフトウエアでLSB,USBを分離した。サンプリングは8MHz,8bit。測定場所は鹿島の電波暗室、 LOは2.350GHz、CW2.352GHzである。その処理結果を図5に示す。ソフトウエアでI,Q各チャンネルのDCオフセットを0にし平均電力が揃うように補正をしてフーリエ変換した。チャンネル間の位相差、振幅補正は行っていないが、8dB程度であった。 6. UWB機器での受信試験 実際のUWB機器としてUSB無線ハブを用いて、鹿島の電波暗室内で受信試験を行った。アンテナとの距離は3.7m、ハブに挿したUSBメモリ内の動画をPCで再生することで連続的な通信を行わせている。図6bにスペアナで取得したスペクトラムを示す。ハブの仕様は4.488GHzを中心に帯域528MHz、送信電力-41.3dBm/MHzであるが、10GHz付近にも不要輻射が見られる。また通信状態に応じた時間変動が激しい。 図5. ソフトウエアでのイメージ抑圧試験。左は受信信号、右はLSB/USB分離後のスペクトラム  7.まとめと今後  低周波数部、中間周波数部について性能評価を行った。  較正方法と安定度の確認を行い、-90dBm/MHzの測定が可能であるとの見通しを得た。  今後は周波数範囲を広げた性能確認を行い、時間変動の激しい通信機器へ解析ソフトを対応させる。これらの結果を踏まえて来年度は高周波部の開発を行う。 図6a. 鹿島電波暗室内の機器配置 .・謝辞  本研究は総務省の委託研究「統計的手法による放射電力測定技術の研究開発 」にもとづき行われている。 図6b. 中周波受信部からの32MHz幅の出力をスペアナで取得。 左は4.488-4.520GHz、右は10.0-10.032GHz 無線ハブの動作時:赤、非動作時:緑 動作状況次第でスペクトラムが大きく時間変動する。 (参考文献)  「微弱電力の測定技術の研究開発(I)」電子情報通信学会2009年ソサエティ大会 B-4-30 ○関戸 衛、岳藤一宏、氏原秀樹、小山泰弘(Nict)、