特発性リンパ急性間質性肺炎および分類不能型間質性肺炎 特発性pleuroparenchymal fibroelastosis 九州大学大学院医学研究院附属胸部疾患研究施設 濵田直樹
日本呼吸器学会 CO I 開示 発表者名: 濵田直樹 日本呼吸器学会 CO I 開示 発表者名: 濵田直樹 演題発表に関連し開示すべきCO I 関係にある企業などとして、 ①顧問: なし ②株保有・利益: なし ③特許使用料: なし ④講演料: なし ⑤原稿料: なし ⑥受託研究・共同研究費: 日本ベーリンガーインゲルハイム社 ⑦奨学寄付金: なし ⑧寄付講座所属: なし ⑨贈答品などの報酬: なし
特発性間質性肺炎の分類 2013年改訂 主要なIIPs 特発性間質性肺炎の分類 2013年改訂 主要なIIPs Idiopathic pulmonary fibrosis (IPF) 特発性肺線維症 Idiopathic nonspecific interstitial pneumonia (NSIP) 非特異性間質性肺炎 Respiratory bronchiolitis-interstitial lung disease (RB-ILD) 呼吸細気管支炎間質性肺疾患 Desquamative interstitial pneumonia (DIP) 剥離性間質性肺疾患 Cryptogenic organizing pneumonia (COP) 特発性器質化肺炎 Acute interstitial pneumonia (AIP) 急性間質性肺炎 まれなIIPs Idiopathic lymphocytic interstitial pneumonia (LIP) リンパ球性間質性肺炎 Idiopathic pleuroparenchymal fibroelastosis 分類不能なIIPs 特発性間質性肺炎診断と治療の手引き改訂第3版 南江堂 2017年
疾患概念 臨床像と検査所見 画像所見 病理所見 鑑別診断 治療と予後 各論I.5.2)①-1 特発性リンパ球性間質性肺炎 疾患概念 臨床像と検査所見 画像所見 病理所見 鑑別診断 治療と予後
特発性リンパ球性間質性肺炎 Idiopathic lymphocytic interstitial pneumonia: LIP 疾患概念 びまん性にリンパ球が肺胞隔壁に浸潤する疾患として定義1) リンパ球浸潤が、広義間質主体のものはdiffuse lymphoid hyperplasia、結節性病変を示すものはnodular lymphoid hyperplasiaとして除外 間質性肺炎ではなくリンパ増殖性疾患に含めるという意見もあり LIPの多くは二次性で特発性はきわめてまれ 特発性間質性肺炎診断と治療の手引き改訂第3版2017
特発性リンパ球性間質性肺炎 Idiopathic lymphocytic interstitial pneumonia: LIP 臨床像と検査所見 通常女性に多い 咳嗽、呼吸困難が徐々に進行し、ときに発熱、体重減少なども認められる 肺外のリンパ節腫脹はまれ1)2) 多クローン性または単クローン性の異常高タンパク血症を認め、リンパ増殖性疾患との鑑別が重要 気管支肺胞洗浄(BAL)ではリンパ球比率の増加を認める Liebow AA, et al. Med Clin North Am 1973;57:809-843 Loyd JE, et al. Am J REspir Cell Mol Biol 2003;29(Suppl 3):S47-S50
特発性リンパ球性間質性肺炎 Idiopathic lymphocytic interstitial pneumonia: LIP 画像所見 下肺野優位でスリガラス影が主体、cellular NSIP様 ときに蜂巣肺を示す のう胞の存在が特徴的 「特発性間質性肺炎診断と治療の手引き改訂第3版 南江堂 2017年」より許可を得て引用
特発性リンパ球性間質性肺炎 Idiopathic lymphocytic interstitial pneumonia: LIP 病理所見 病変は比較的均一 リンパ球系細胞が、肺の間質、特に肺胞壁に著名に浸潤 異型のないリンパ球、形質細胞が主体 細胞浸潤は高度で密であり、ときに肺胞構造の改築や線維化を伴う 肺胞隔壁へリンパ球がびまん性に浸潤 「特発性間質性肺炎診断と治療の手引き改訂第3版 南江堂 2017年」より許可を得て引用
特発性リンパ球性間質性肺炎 Idiopathic lymphocytic interstitial pneumonia: LIP 鑑別診断 NSIP リンパ増殖性疾患(悪性リンパ腫、Castleman病など) 膠原病(特にシェーグレン症候群、リウマチ、SLE) 過敏性肺炎 薬剤性肺炎 ウィルス肺炎 HIV感染 IgG4関連肺疾患 など 「特発性間質性肺炎診断と治療の手引き改訂第3版 南江堂 2017年」より許可を得て引用
特発性リンパ球性間質性肺炎 Idiopathic lymphocytic interstitial pneumonia: LIP 治療と予後 一般的にはステロイドが用いられ、50-60%に効果が認められる. 免疫抑制薬の効果も報告されている. 自然軽快例も報告されている. 死亡原因としては、感染の合併、肺線維化、悪性リンパ腫への転化などが挙げられている. 特発性間質性肺炎診断と治療の手引き改訂第3版 南江堂 2017年 ATS/ERS International Multidiscipliary Consensus Classification for the IIPs. Am J Respir Crit Care Med 2002; 165:277-304
各論I.5.2)①-2 分類不能型特発性間質性肺炎 疾患概念 画像所見、病理所見 治療と予後
分類不能型特発性間質性肺炎 Unclassifiable idiopathic interstitial pneumonia 疾患概念 2013年の特発性間質性肺炎国際集学的分類で正式なカテゴリーとされた. 時間をかけた集学的検討(MDD)を行っても最終診断が得られない場合に分類不能型IIPsとする. 代表的には下記の場合である. 臨床、画像、病理データが不適切な場合 臨床、画像、病理の間で大きな不一致がある場合 治療の影響 現在の分類では特徴付けられない新しい病気や通常は認められない特殊な場合(線維化を伴った器質化肺炎など) HRCT、病理パターンで複数のパターンがある場合 現時点では「分類不能」としておき、将来的に診断を再検討する、という含みもある. Travis WD et al, Am J Respir Crit Care Med 2013;188:733-48
分類不能型特発性間質性肺炎 Unclassifiable idiopathic interstitial pneumonia 画像所見、病理所見 画像所見としては、1370例の外科的肺生検中132例(10%)が分類不能であったという報告1)では、132例中、UIPパターン17.4%, possible UIPパターン49.5%、not UIPパターン33%であった. 病理診断としての「分類不能型IIPs」という診断は好ましくないが、「線維化に移行する器質化肺炎」や「複数の組織型が認められる場合」など、現時点では分類不能型とせざるをえない場合がある. 1) Reyson CJ, et al, Eur Respir J 2013;42:750-7
分類不能型特発性間質性肺炎 Unclassifiable idiopathic interstitial pneumonia 治療と予後 診断が「分類不能」であるため、エビデンスのある治療はないが、病態によってはステロイドや免疫抑制剤、また抗線維化薬の効果が期待される. 経過(Disease behavior1))に応じた治療・管理を行い、症例を集積することが重要であろう. Travis WD et al, Am J Respir Crit Care Med 2013;188:733-48
各論I.5.2)② Idiopathic pleuroparenchymal fibroelastosis 疾患概念 臨床像と検査所見 画像所見 病理所見 鑑別診断 治療と予後
Idiopathic pleuroparenchymal fibroelastosis: iPPFE 疾患概念 2013年の国際分類で初めてカテゴリーされた、上肺野優位の、胸膜直下の弾性線維の集簇、膠原線維が充満した肺胞、硝子化した膠原線維による胸膜肥厚が認められる慢性線維化間質質性肺炎. 移植関連のPPFEなど、多種多様な病態に併存するが、特発性と二次性を明確に区別できないことも多い. 病変が上葉に限局するものや、下葉にも線維化病変が形成されるものもある. PPFEの概念 特発性間質性肺炎診断と治療の手引き改訂第3版2017より許可を得て引用
Idiopathic pleuroparenchymal fibroelastosis: iPPFE 臨床像と検査所見 性差は明らかでなく、発症年齢に幅がある 喫煙歴を有する症例は30%に過ぎない るいそうが目立ち、扁平胸郭がしばしば見られる1). 気胸で発症することがある. KL-6の上昇は軽度のこと多いが、SP-Dが高値を示す例が報告されている2). 肺機能検査では、FVCやTLCが減少するが、RVは保たれ残気率が上昇する3). HaradaT, et al. Eur Respir Rev 2014;23:263-6 Sato S, et al. Lung 2014;192:711-7 Kusagaya H, et al. BMC Plumonary Medicine 2012;12:72
Idiopathic pleuroparenchymal fibroelastosis: iPPFE 画像所見 上肺野優位、胸膜直下のconsolidation、肺門の挙上を認める 側面像では扁平胸郭が確認できる. CTでは、胸膜直下に拡張した細気管支を伴うconsolidationを認める. 下肺野に間質性変化を伴う場合は、UIP、NSIPいずれの場合もある. 「特発性間質性肺炎診断と治療の手引き改訂第3版 南江堂 2017年」より許可を得て引用
Idiopathic pleuroparenchymal fibroelastosis: iPPFE 病理所見 固い線維化が胸膜から肺実質へ楔状に、あるいは帯状に認められる. 病変内では弾性線維が著名に増加し、気腔は膠原線維により置換されている. 炎症細胞浸潤は目立たないことが多い. 牽引性の細気管支拡張像が線維化内に認められる(矢印) エラスチカ・ワンギーゾン染色にて黒色の弾性線維の増殖が認められる 「特発性間質性肺炎診断と治療の手引き改訂第3版 南江堂 2017年」より許可を得て引用
Idiopathic pleuroparenchymal fibroelastosis: iPPFE 鑑別診断 原因の明らかなPPFE(移植後、血液疾患など) 慢性過敏性肺炎 じん肺 膠原病関連間質性肺炎 抗酸菌感染症 薬剤性肺炎 サルコイドーシス IgG4関連肺疾患 など 特発性間質性肺炎診断と治療の手引き改訂第3版 南江堂 2017年
Idiopathic pleuroparenchymal fibroelastosis: iPPFE 治療と予後 効果のある薬剤は今のところ存在しない1). 抗線維化薬、特に弾性線維をターゲットとした治療戦略が必要かもしれない. 下葉にUIPパターンを有するPPFEの予後は、IPFよりもよくないという報告2)もあるが、これまでの報告例をまとめるとIPFより予後がよいとも報告3)されている. 進行が緩徐な症例から急激に進行する症例まで、非常に幅広く、症例の蓄積と今後の検証が必要である. 特発性間質性肺炎診断と治療の手引き改訂第3版 南江堂 2017年 Oda T, et al. Chest 2014;146:1248-55 Watanabe K. Curr Respir Rev 2013;9:229-37
まとめ リンパ球性間質性肺炎は、肺胞隔壁へのリンパ球浸潤を特徴とするまれな間質性肺炎である. 分類不能型間質性肺炎は、時間をかけた集学的検討(MDD)を行っても最終診断が得られない場合に用いる. PPFEは、胸膜直下の弾性線維の集簇、線維化、胸膜肥厚が、上肺野優位に認められる間質性肺炎であるが、多様な病態を含んでいる. これらの「まれな間質性肺炎」は、更なる研究と、疾患概念の確立が求められる.
参考文献 特発性間質性肺炎診断と治療の手引き改訂第3版. 南江堂 2017 Travis WD et al, Am J Respir Crit Care Med 2013;188:733-48 Liebow AA, et al. Med Clin North Am 1973;57:809-843 Loyd JE, et al. Am J REspir Cell Mol Biol 2003;29(Suppl 3):S47-S50 Reyson CJ, et al, Eur Respir J 2013;42:750-7 HaradaT, et al. Eur Respir Rev 2014;23:263-6 Sato S, et al. Lung 2014;192:711-7 Kusagaya H, et al. BMC Plumonary Medicine 2012;12:72 Oda T, et al. Chest 2014;146:1248-55 Watanabe K. Curr Respir Rev 2013;9:229-37