無衝突プラズマにおけるイオン粒子スケール速度勾配層の構造

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無衝突プラズマにおけるイオン粒子スケール速度勾配層の構造 STPセミナー 2009.11.11 無衝突プラズマにおけるイオン粒子スケール速度勾配層の構造 中村琢磨 篠原研PD Collaborators: 長谷川洋、篠原育

数値シミュレーションの種類 MHDシミュレーション Hall-MHDシミュレーション Two-fluidシミュレーション Hybridシミュレーション Full particleシミュレーション Full vlasovシミュレーション

数値シミュレーションの種類 対象とする現象 (e.g., ケルビン・ヘルムホルツ渦) 基礎的研究 現象論的研究 線形計算 基礎的設定の下での数値計算 (流体 to 粒子) パラメータサーベイ 現実的パラメータによる数値計算   (流体 to 粒子) 観測との比較

数値シミュレーションの種類 対象とする現象 (e.g., ケルビン・ヘルムホルツ渦) 基礎的研究 現象論的研究 線形計算 基礎的設定の下での数値計算 (流体 to 粒子) パラメータサーベイ 現実的パラメータによる数値計算   (流体 to 粒子) 観測との比較 Kinetic-scaleを含めた基礎的研究が未完成のままKinetic効果を含めた現象論的研究が進む。 ⇒地球磁気圏でKH渦が観測される状況が、non-kinetic scaleであるから。

ケルビン・ヘルムホルツ渦 無衝突プラズマ中では基本的にtransverse case (k⊥B)の場合に成長しやすい。 ケルビン・ヘルムホルツ不安定 ⇒速度勾配により励起される流体的不安定 非線形段階へ発展すると渦として成長 不安定成長条件 流体力学(HD):KH不安定は圧縮性により成長が阻害される。       ⇒成長条件: 電磁流体力学(MHD):KH不安定は磁張力によっても成長が阻害される。       ⇒成長条件: (k∥Bの時)                 (k⊥Bの時)  無衝突プラズマ中では基本的にtransverse case (k⊥B)の場合に成長しやすい。

ケルビン・ヘルムホルツ渦 k⊥B ケルビン・ヘルムホルツ不安定 ⇒速度勾配により励起される流体的不安定 非線形段階へ発展すると渦として成長 速度勾配層をtanh(Y/D0)関数で作る。 (D0:速度勾配層のhalf thickness) KH不安定が最大成長率を持つ波長   λKH~15-20D0 MHD線形計算 [Miura & Pritchett, 1982]

地球におけるKH渦 速度勾配層、渦のサイズ共にMHDスケールの範囲内 速度勾配層の厚さ:1000kmオーダー(数イオンジャイロ半径) [Berchem & Russell, 1982] ⇒最大成長波長:10000km以下 IMFが北向きの時KH波は観測される傾向。⇒k⊥Bに近い。 観測されるKH波の波長:数RE~数万キロメートル(渦合体?) [Kivelson & Chen, 1995] 速度勾配層、渦のサイズ共にMHDスケールの範囲内

数値シミュレーションの種類 対象とする現象 (e.g., ケルビン・ヘルムホルツ渦) 基礎的研究 現象論的研究 線形計算 基礎的設定の下での数値計算 (流体 to 粒子) パラメータサーベイ 現実的パラメータによる数値計算   (流体 to 粒子) 観測との比較 Kinetic-scaleを含めた基礎的研究が未完成のままKinetic効果を含めた現象論的研究が進む。 ⇒地球磁気圏でKH渦が観測される状況が、non-kinetic scaleであるから。

水星におけるKH渦 惑星磁気圏を包括的に理解するにはion-kinetic scaleを含める必要性 Messengerの水星flybyにより水星磁気圏脇腹にてKH渦と思われる(?)現象が観測された。[Slavin et al., 2008,2009] やはり北向きIMF時に観測⇒k⊥B 観測される波の波長:500-5000km  ⇒勾配層の(最大成長波長のモードだと仮定)50-500km   ⇒イオンジャイロ半径オーダー 惑星磁気圏を包括的に理解するにはion-kinetic scaleを含める必要性

粒子スケールの速度勾配層で発生するケルビン・ヘルムホルツ不安定に粒子性は効くか? -研究目標- 粒子スケールの速度勾配層で発生するケルビン・ヘルムホルツ不安定に粒子性は効くか? ⇒粒子計算によりtransverse case(k⊥B)のKH不安定についての基礎的研究は未だなし [Wilber & Winglee, 1995] Transverse case(k⊥B)において速度勾配層のブラソフ平衡解は見つかっていない。

研究内容:まずは粒子シミュレーションより速度勾配層の粒子的平衡状態を理解。 -研究目標- 粒子スケールの速度勾配層で発生するケルビン・ヘルムホルツ不安定に粒子性は効くか? ⇒粒子計算によりtransverse case(k⊥B)のKH不安定についての基礎的研究は未だなし EM-full particle [Wilber & Winglee, 1995] ES vlasov [Cai et al., 1990] Transverse case(k⊥B)において速度勾配層のブラソフ平衡解は見つかっていない。  ←対流電場が勾配層をまたぐ粒子のジャイロ運動を変化させるため。 研究内容:まずは粒子シミュレーションより速度勾配層の粒子的平衡状態を理解。

Simulation settings Simulation method:2-D full particle (EM-PIC) simulation -parameters- Ni0=const Bx0=By0=0 Bz0=B0 =const Dusk-like case: Vx0=-V0*tanh(Y/D) Dawn-like case: Vx0=+V0*tanh(Y/D) V0=VAi~Vthi D=0.5λi~1.1ri, 2.0λi~4.4ri Ti/Te=1 Mi/Me=25 ωpe/Ωe=1.0 100 paeticles/cell Lx=1λKH For simplification, initial density, temperature and the magnetic filed are constant. The difference between the dawn and dusk cases is only the direction of vorticity. The difference of the vorticity leads to the difference of the convection electric field direction.

Kinetic equilibrium 対流電場による、勾配層をまたぐイオンの軌道変化を反映 D=0.5λi~1.1ρi 数イオンジャイロ周期で平衡状態に落ち着く。 ジャイロ運動の届く範囲で粒子が混合。 イオンの混合はdawn-like caseで大きい。  (初期の勾配層の厚さを超える) 対流電場による、勾配層をまたぐイオンの軌道変化を反映

Kinetic equilibrium D=0.5λi~1.1ρi Dawn-like caseの勾配層が平滑化 ⇒イオンジャイロ運動による混合領域と対応。 イオンだけでなく電子の速度場も同時に変化。

Kinetic equilibrium D=0.5λi~1.1ρi Dawn-like caseの勾配層が平滑化 ⇒イオンジャイロ運動による混合領域と対応。 イオンだけでなく電子の速度場も同時に変化。 対流電場によるイオン吐き出しが起こり   イオン混合領域の密度低下。 (b) 負の電荷が溜まる。 (c) 付加的な電場が発生。 (d)初期の対流電場を平滑化。 ⇒この電場に乗りイオン・電子共に対流する。

Kinetic equilibrium 勾配層の厚みについて D0の減少と共に平衡後の勾配層の厚み D’も現減少。 Dawn-like caseではD0が小さくなると  D’はD0より大きくなる(D’/D0が増加)。 平衡に達した後の勾配層の厚さ

Kinetic equilibrium 勾配層の厚みについて D0の減少と共に平衡後の勾配層の厚み D’も現減少。 Dawn-like caseではD0が小さくなると  D’はD0より大きくなる(D’/D0が増加)。 シア強度を弱くした場合、  Dawn-like caseのD’/D0が増加は弱まり、  Dusk-like caseのD’/D0が増加が発生。 ⇒対流が弱まるとdawn-duskの差はなくなる傾向。 イオン熱速度を強くした場合、   Dawn-like case, Dusk-like case共に   D’/D0が増加が強まる。 ⇒ジャイロ半径が大きくなると勾配層も厚くなる傾向。 平衡に達した後の勾配層の厚さ

Kinetic equilibrium 勾配層の厚みについて D0=0の極端な場合を考える。 Boundaryを垂直に横切る軌道を持つ  熱的イオンに注目 対流電場により加速・減速された イオンの熱速度 その粒子のY方向の軌道半径 (修正ジャイロ半径) 混合領域のhalf thicknessに対応

Kinetic equilibrium 勾配層の厚みについて D0,D’をD0=0時の修正ジャイロ半径ρ’で規格化すると全ケースがほぼ同じラインに乗る。 D’はD0がゼロに近づくとρ’に収束する。 ⇒修正ジャイロ半径の範囲内の薄い速度勾配層はジャイロ半径の届く範囲(混合領域)の  厚みまでしか薄くなれない。 修正ジャイロ半径

Growth of KHI 粒子計算結果より線成長率を見積もる。 D’で規格化するとMHD計算より得られた成長率とほぼ同じとなる。 ⇒KH不安定の成長そのものには粒子効果は効かない。  ←KH不安定成長前に勾配層がkinetic equilibrium(non-kinetic scale layer)に達するから。

Summary -研究目標- 粒子スケールの速度勾配層で発生するケルビン・ヘルムホルツ不安定に粒子性は効くか? -研究結果- ケルビン・ヘルムホルツ不安定の成長に粒子性は効かない。  ←不安定のonset以前に粒子的平衡状態への遷移が起こるから。 粒子的平衡状態では、速度勾配層は対流電場によって  修正されたイオンジャイロ半径より薄くなれない。 修正ジャイロ半径にはdawn-dusk非対称性がある。  ⇒Ion-kineticな勾配層はdawn-likeの方が分厚くなる傾向。 修正ジャイロ半径 -今後の展開(より現実的な状況へ)- 密度差をつけるとどうなるか?  ⇒電荷の乱れが増すためより複雑化することが予想される。 水平成分の磁場の効果は? ⇒渦内の磁気リコネクションによるプラズマ混合・輸送 [Nakamura et al., 2008]

Application to planetary magnetopause Growth for the fastest KH mode ・Ion-kinetic scale case D0=0.5λi~1.1ρi, V0=VAi~0.9Vthi ・MHD scale case D0=2.0λi~4.4ρi, V0=VAi~0.9Vthi におけるKH渦の成長を比較。 dawn dawn dusk T=200 [Wi-1] T=200 [Wi-1] T=45 [Wi-1] T=85 [Wi-1] 30li D0=2li~4ri D0=0.5li~ri 40li 40li 10li 15li 0.7 Density [N0] 1.3 MHD-scaleの速度勾配層は粒子性が効かず、dawn-duskで成長に差はない。 Ion-kinetic scaleの速度勾配層はdawn-sideで平衡状態に達するのに粒子性が効きやすい。  その結果、dawn-duskで発生するKH不安定の波長が変化。 ⇒地球のようなMHDスケールの磁気圏境界層ではdawn-dusk非対称性が弱い。 [Hasegawa et al., 2006] 水星のようなイオン粒子スケールの磁気圏境界層ではdawn-dusk非対称性が強い。

計算手法