現場散水型浸透能試験による泥流発生限界雨量についての教育手法

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大阪城 OB P 寝屋川流域 総合治水対策 流域面積 約270k ㎡ 東西約14k m 南北 約19k m 寝屋川流域の特徴 淀川 大和川.
都市域で起こる水害の防止対 策 C07047 村上彰一 C07048 森田紘 矢 C07049 矢口善嵩 C07050 矢田陽 佑 C07051 山河亮太 C07052 山下優 人.
2013/12/10 宮城県総合教育センター 平成 25 年度防災教育グループ スライド型資料 1 〈目次〉〈目次〉 火山の基礎知識火山の基礎知識 小高・火山 ① ・ 10 分 ※このスライドは非表示になっていま す 1 活火山とは 2 宮城県の活火山の分布 3 噴火の歴史 ① ~ ③ 4 噴火による被害.
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現場散水型浸透能試験による泥流発生限界雨量についての教育手法 特定領域研究「火山爆発のダイナミクス」 A05班2006年度班会議  平成18年11月25日 現場散水型浸透能試験による泥流発生限界雨量についての教育手法 北海道大学大学院農学研究院 山田孝

火砕物(火山灰など)堆積斜面から、降雨によって発生する 土石流・泥流 噴火による火砕物の山腹斜面への堆積(有珠山2000年噴火) 国土交通省大隈河川事務所 土石流・泥流 (桜島野尻川) 土砂災害(雲仙普賢岳) 国土交通省大隈河川事務所

様々な行政施策とともに、「科学的かつ実践的な住民への減災教育」を実施していく必要がある 火山地域での土砂災害対策(行政主導) ●砂防・治山施設の整備(ハード対策) ●警戒避難体制の整備(ソフト対策)   ・警戒避難基準雨量の設定、改定   ・警戒避難システムの整備 ●ハザードマップの整備(ソフト対策) 国土交通省砂防部 様々な行政施策とともに、「科学的かつ実践的な住民への減災教育」を実施していく必要がある 有珠山2000年噴火時での泥流発生限界雨量の決め方(北海道)

図ー1 火山灰が堆積した山腹斜面での雨水の浸透、表面流の発生、泥流発生の概念 火山灰が堆積していない山腹斜面 降雨 火山灰が堆積した山腹斜面 ●降雨強度>浸透能 ●飽和地表流、復帰流 などの場合に表面流発生 浸透 降雨 噴火による火山灰の堆積 山腹斜面 表面流の発生 山腹斜面 表面流によって火山灰が堆積した山腹斜面が侵食 (ガリー、侵食流路の形成) 降雨は浸透しにくい 泥流へと発達 図ー1 火山灰が堆積した山腹斜面での雨水の浸透、表面流の発生、泥流発生の概念 

火山灰堆積層の浸透能変化 表面流発生限界雨量値の変化 土石流発生限界基準雨量の変化

火砕物の被覆による浸透、表面流発生、土石流・泥流発生の認識のための教育メニュー 例えば、火山灰が堆積するとなぜ泥流が頻発するようになるのか、どのくらいの雨で泥流が発生するようになるのか、降雨時にはどのように注意したらよいのかなどを理解させる必要がある 火砕物の被覆による浸透、表面流発生、土石流・泥流発生の認識のための教育メニュー 現場での観察授業(火砕物の堆積、侵食状況) 表面流による土砂流出、浸透、表面流発生限界雨量についての野外実験演習 主要なパラメータに絞った現象の本質的理解のための実験演習 表面流の発生から土石流・泥流への変化プロセスの理解 行政による雨量情報の理解と自主的な雨量観測

●現場からの不撹乱土砂試料の採取⇒室内試験 表面流発生限界を知るための浸透能試験 ●現場試験(散水型、冠水型、流水型) ●現場からの不撹乱土砂試料の採取⇒室内試験 散水型が最もシンプルであり、表面流の発生などについてもビジュアルに観察することができる。 散水型による浸透能試験

実験演習の構成 JICA火山砂防工学研修で実施(2004~) ●演習B:火山灰が堆積する前の斜面と火山灰が堆積したあとの斜面とでは、最終浸透能、すなわち表面流発生限界雨量(泥流発生限界雨量)がどのくらい異なるのかを定量的に理解させる。 新しい灰を散布していない山腹斜面 演習A 演習B 新しい灰を散布した山腹斜面

演習の対象とした有珠山西山川流域山腹斜面での2000年火砕物の堆積断面と粒径分布 50 cm 演習の対象とした有珠山西山川流域山腹斜面での2000年火砕物の堆積断面と粒径分布

有珠山板谷川流域内での火山灰が堆積した山腹斜面での表面流観測結果 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 6:00 7:00 8:00 9:00 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00 表面流出高(mm/5min) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 降雨(mm/5min) 雨量 表面流 2004年8月31日 1 2 3 4 5 22:00 23:00 0:00 1:00 2:00 3:00 4:00 5:00 6:00 7:00 8:00 9:00 6 7 8 9 10 表面流出高(mm/5min) 降雨(mm/5min) 2004年9月18~19日 三角堰をつけたタンク 雨量 表面流 有珠山2000年噴火により火山灰が堆積した山腹斜面に設置した表面流観測装置(2006年8月現在、板谷川流域) 有珠山板谷川流域内での火山灰が堆積した山腹斜面での表面流観測結果

浸透能(mm/sec) = (Q1-Q2) /A/ t Hortonの浸透能式 浸透能(mm/sec) 時間 最終浸透能 ft : 時刻tでの浸透能(cm/sec)、fc : 最終浸透能(cm/sec)、f0 : 初期浸透能(cm/sec)、α: 係数 Q1:1回の供給水量(cm3) 今回は、4000cm3 (降雨量16mm/1回) A:面積(cm2) t:1回の供給時間(sec) 今回は、約80sec Q1-Q2 :浸透量(cm3) 今回は、2500cm2 Q2:流出量(cm3) 浸透能(mm/sec) = (Q1-Q2) /A/ t  浸透能の算出方法と最終浸透能の概念

図ー4 演習Bで得られた結果(上)浸透能の変化と最終浸透能、(下)土壌水分の変化 フライアッシュを散布しなかったプロット 実際の表面流の発生限界に近似している フライアッシュを散布したプロット 10 20 30 40 50 1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 体積含水率(%) フライアッシュを散布しなかったプロット フライアッシュを散布したプロット 27 29 31 33 時間(min) 図ー4 演習Bで得られた結果(上)浸透能の変化と最終浸透能、(下)土壌水分の変化

北海道提供

研修生の感想 ●火山灰が山腹斜面に堆積して、強い雨が降ると、どのようにして表面流が発生し、泥流になるのか、そのイメージをとても良くつかむことができた。 ●表面流の発生限界雨量がとても簡単にかつ安い材料を用いて短時間で試算できるのが非常によい。高価な観測機器を用いた方法は、自国では普及させることはできないが、この方法ならば、自国でも簡単にできる。是非、自国でこの方法を普及させ、住民の警戒避難の意識を高めることに役立たせたい。 簡易雨量計(例) 雨量を知ることの重要性 自分でも雨量計を作って雨量をはかり、警戒避難行動につなげていくための意識の高揚と技術の取得

メラピ火山2006年火砕流堆積区域での散水実験(2006年9月) 散水実験状況 火砕流堆積状況 実験場所(勾配23°) 散水実験場所 最終浸透能30mm/5min メラピ火山2006年火砕流堆積区域での散水実験(2006年9月)

火砕流堆積後の降雨による泥流の発生実態 メラピ火山ゲンドール川で発生した小規模泥流(2006年11月16日撮影) 小規模泥流を発生させたと推定される降雨(観測ポイント:カリアデム集落下流Batur) 火砕流堆積後の降雨による泥流の発生実態 連続雨量約26mm、最大時間雨量18mmの降雨でも小規模ながら、泥流は発生している。

ラハール発生までの雨量 ・連続雨量 24mm ・最大10分間雨量 11mm 出典: JICA Study Team on Technical Guidance of Urgent Sabo Countermeasures Plan Against Volcanic Disasters in Mt.Merapi(1995)  Study Report on Urgent Sabo Countermeasures Plan Against Volcanic Disasters in Mt.Merapi

土層内が飽和状態であれば、砂質土壌の場合、飽和透水係数も大きいため、地中流の流量、浸透強度は大きくなり、最終浸透能値も高くなる 飽和地中流の二次元流としての取り扱い ω ⊿hg ⊿h ⊿x hg z 土層 不透水層 x 飽和地中流の一次元流としての取り扱い  qg:断面内の単位幅あたりの流量、 Ks:飽和透水係数、 hg:斜面に垂直方向に測った水深、 ω:斜面傾斜角  Dupuit-Forschheimerの準一元流の仮定 ●静水圧分布 ●等ポテンシャル線が断面内で不変 土層内が飽和状態であれば、砂質土壌の場合、飽和透水係数も大きいため、地中流の流量、浸透強度は大きくなり、最終浸透能値も高くなる 斜面の傾斜角が一定ならば、流量は、飽和透水係数の大きさに影響される。 例えば、砂:Ks:10-2~3cm/sec, 粘性土: Ks:10-5~8cm/sec 有珠山2000年火砕物堆積斜面では、 Ks:6.2~9.7×10-6cm/sec

今後の課題 散水型浸透能試験の適用性(実際の泥流発生雨量との比較)のチェック、他の方法(雨量強度を適格に制御した雨の与え方の工夫) 表面流の発生から土石流・泥流への変化プロセスを統一的に理解させる方法の開発 行政による雨量情報を理解し、自主的に雨量観測を実施し、適格な警戒避難活動を行うための方法の開発