治療用フィルムによる線量分布測定の 基礎的検討Ⅱ

Slides:



Advertisements
Similar presentations
Multi-Purpose Particle and Heavy Ion Transport code System
Advertisements

数値気象モデルCReSSの計算結果と 観測結果の比較および検討
較正用軟X線発生装置のX線強度変化とスペクトル変化
導波路放出光解析による量子細線の光吸収測定
相対論的重イオン衝突実験 PHENIXにおける Aerogel Cherenkov Counterの シミュレーションによる評価
技術センター原爆放射線医科学研究所部門 第二技術班 菅 慎治
単色X線発生装置の製作 ~X線検出器の試験を目標にして~
スパッタ製膜における 膜厚分布の圧力依存性
CALET主検出器のモデリング・シミュレーションによる性能評価
放射線(エックス線、γ線)とは? 高エネルギー加速器研究機構 平山 英夫.
リニアコライダー実験における衝突点回りの測定器の最適化
埼玉大学大学院理工学研究科 物理機能系専攻 物理学コース 06MP111 吉竹 利織
Multi-Purpose Particle and Heavy Ion Transport code System
繰り返しのない二元配置の例 ヤギに与えると成長がよくなる4種類の薬(A~D,対照区)とふだんの餌の組み合わせ
原子核物理学 第4講 原子核の液滴模型.
Astro-E2衛星搭載 XISの データ処理方法の最適化
信号電荷の広がりとデータ処理パラメータの最適化
信川 正順、小山 勝二、劉 周強、 鶴 剛、松本 浩典 (京大理)
X線CTにおけるファントム中の エネルギー変化についての検討
2.5MeV単色中性子に対する TGCの動作特性の研究
応用実習用資料 Environmental radioactivity
トリガー用プラスチックシンチレータ、観測用シンチレータ、光学系、IITとCCDカメラからなる装置である。(図1) プラスチックシンチレータ
Radiation dosimetry of 137Cs γray for a long time irradiation
電子後方散乱の文献調査 総合研究大学院大学 桐原 陽一.
QMDを用いた10Be+12C反応の解析 平田雄一 (2001年北海道大学大学院原子核理論研究室博士課程修了
物質中での電磁シャワー シミュレーション 宇宙粒子研究室   田中大地.
放射光実験施設での散乱X線測定と EGS5シミュレーションとの比較
IAEA phase space fileを用いた X線治療シミュレーション
FPCCDバーテックス検出器における ペアバックグラウンドの評価 4年生発表 2010/03/10 素粒子実験グループ 釜井 大輔.
目的 イオントラップの特徴 イオントラップの改善と改良 イオンビームの蓄積とトラップ性能の評価
八角シンチレータ偏光計の性能 性能実験 ~八角シンチレータとは~ 結果 第3回宇宙科学シンポ
ATLAS実験における J/Y->mm過程を用いたdi-muon trigger efficiency の測定方法の開発及び評価
理研RIBFにおける 中性子過剰Ne同位体の核半径に関する研究
光子モンテカルロシミュレーション 光子の基礎的な相互作用 対生成 コンプトン散乱 光電効果 レイリー散乱 相対的重要性
高エネルギー陽子ビームのための高時間分解能 チェレンコフビームカウンターの開発
全天X線監視装置(MAXI)搭載用CCDカメラのエンジニアリングモデルの性能
K核に関連した動機による K中間子ヘリウム原子X線分光実験の現状 理化学研究所 板橋 健太 (KEK-PS E570 実験グループ)
Charmonium Production in Pb-Pb Interactions at 158 GeV/c per Nucleon
Thesis Supervisor: Katsushi Ikeuchi 池内克史
Multi-Purpose Particle and Heavy Ion Transport code System
Mini-RT装置における 強磁場側からの異常波入射による 電子バーンシュタイン波の励起実験
CCDカメラST-9Eの      測光精密評価  和歌山大学 教育学部           自然環境教育課程 地球環境プログラム 天文学専攻 07543031   山口卓也  
黒澤君計算との違い 岸本 祐二.
電子後方散乱の モンテカルロ計算と実験の比較 総研大 桐原 陽一 KEK 波戸 芳仁、平山 英夫、岩瀬 広.
Dark Matter Search with μTPC(powerd by μPIC)
偏光X線の発生過程と その検出法 2004年7月28日 コロキウム 小野健一.
X線CCD新イベント抽出法の 「すざく」データへの適用
X線CCD新イベント抽出法の 「すざく」データへの適用
製図の基礎 6回目 5/21 日本工業大学 製図の基礎.
計算と実測値の比較 高エネルギー加速器研究機構 平山 英夫.
Geant4による細分化電磁 カロリメータのシミュレーション
増倍管実装密度の観測量への影響について.
pixel 読み出し型 μ-PIC による X線偏光検出器の開発
核内ω中間子質量分布測定のための 検出器開発の現状
宮本 八太郎(日大、理化学研究所) 三原 建弘、桜井 郁也、小浜 光洋(理化学研究所)
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆に関する研究 テンプレート:A0 ページ設定※ 幅 84.1cm 高さ 118.9cm
電子ビームラインの構築と APDを用いた電子計測試験
γ線パルサーにおける電場の発生、粒子加速モデル
2008年 電気学会 全国大会 平成20年3月19日 福岡工業大学 放電基礎(1)
弱電離気体プラズマの解析(LXXVI) スプラインとHigher Order Samplingを用いた 電子エネルギー分布のサンプリング
北大MMCセミナー 第82回 附属社会創造数学センター主催 Date: 2018年4月26日(木) 16:30~18:00
5×5×5㎝3純ヨウ化セシウムシンチレーションカウンターの基礎特性に関する研究
CSP係数の識別に基づく話者の 頭部方向の推定
高次のサンプリングとスプラインを用いた電子エネルギー分布のサンプリング
高計数率ビームテストにおける ビーム構造の解析
荷電粒子の物質中でのエネルギー損失と飛程
北大MMCセミナー 第17回 Date:2013年12月16日(月) 16:30~18:00 ※通常とは曜日が異なります
シンチレーションファイバーを 用いた宇宙線の観測
60Co線源を用いたγ線分光 ―角相関と偏光の測定―
北大MMCセミナー 第94回 附属社会創造数学センター主催 Date: 2019年1月25日(金) 16:30~18:00
Presentation transcript:

治療用フィルムによる線量分布測定の 基礎的検討Ⅱ 名古屋大学大学院医学系研究科 捫垣 智博 田伏勝義

背景① 治療用フィルムによる線量分布測定は、2次元の線量分布を得ることができ、かつ電離箱では測定が困難である急峻な線量変化を示す線量分布測定に便利である。 しかし、放射線エネルギーと入射方向の依存性や現像条件の影響を受けやすいという欠点がある。 背景として、 治療用フィルムによる線量分布測定は、2次元の線量分布を得ることができ、かつ電離箱では測定が困難である急峻な線量変化を示す線量分布測定に便利である。 しかし、放射線エネルギーと入射方向の依存性や現像条件の影響を受けやすいという欠点がある。

背景② フィルムを検出器とする場合、線束中心をフィルムの直上から入射させると、一次線がフィルムに直接入射してしまう。 その場合、フィルムと水等価ファントムとの密度や実効原子番号の違いなどにより、得られる線量分布は水等価ファントムの線量分布ではなくなってしまうといった考えがあるため、フィルムで線量測定を行う場合は、線束中心をフィルムからずらして測定が行われている。 フィルムを検出器とする場合、線束中心をフィルムの直上から入射させると、一次線がフィルムに直接入射してしまう。 その場合、フィルムと水等価ファントムとの密度や実効原子番号の違いなどにより、得られる線量分布は水等価ファントムの線量分布ではなくなってしまうといった考えがあるため、フィルムで線量測定を行う場合は、線束中心をフィルムからずらして測定が行われている。

背景③ フィルムを線束中心からずらして測定を行う際、中心からどれだけずらすか、またそれによりどのような影響があるのかは明確にされていない。 フィルムを用いての線量測定の方法についても、明確に記述されている文献が少なく、施設毎に異なる手法により測定が行われている。 フィルムを線束中心からずらして測定を行う際、中心からどれだけずらすか、またそれによりどのような影響があるのかは明確にされていない。 フィルムを用いての線量測定の方法についても、明確に記述されている文献が少なく、施設毎に異なる手法により測定が行われている。

目的 線束の中心をずらしたことで、フィルムによる線量分布測定にどのような影響を与えているかを、フィルムを用いた2種類の測定方法による実測とそのジオメトリを再現したモンテカルロシミュレーションコードEGS5によって検証する。 本研究の目的は、 線束の中心をずらしたことで、フィルムによる線量分布測定にどのような影響を与えているかを、フィルムを用いた2種類の測定方法による実測とそのジオメトリを再現したモンテカルロシミュレーションコードEGS5によって検証する。

実験条件① 装置:VARIAN 21EX エネルギー:10 MV 線量:80 MU フィルム:X-Omat V (レディパック) ファントム:Tough Water DDシステム 実験条件は以下の通り。 装置:VARIAN 21EX エネルギー:10 MV 線量:80 MU フィルム:X-Omat V (レディパック) ファントム:Tough Water DDシステム DDシステムは、スキャナを用いてフィルムをディジタル化し、濃度対線量の校正、PDDなどの取得を行えるシステムである。

実験条件② フィルムの濃度対線量の校正方法として、フィルムを10 cm深にビーム軸と垂直に置き、MU値を30~350と変化させて照射し、それぞれのMU値における10 cm深での線量[cGy]をシャロー形電離箱により測定した。 すべての実験で使用されたフィルムは、同時に現像された。

実験配置① ファントム:フィルムの両側 30.0 cm×15.0 cm×30.0 cm X Y Z 15.0 cm 30.0 cm フィルム ファントム ファントム:フィルムの両側   30.0 cm×15.0 cm×30.0 cm フィルム:      24.5 cm×0. 3 mm×30.5 cm フィルムの長軸が、30 cm以上あったため、ファントム表面よりはみ出した状態で照射した。 実験配置としては、 ファントムをフィルムの両側に30.0 cm×15.0 cm×30.0 cmとし、 フィルムの長軸が、30 cm以上あったため、ファントム表面よりはみ出した状態で照射した。

実験結果①:PDD film 結果として、フィルムより得られたPDDを示します。

PDDの変動性 以下の式でPDDの変動性をみた。 PDDcomparison:比較の対照となるPDD 基準としたのは、線束直下(0mm)にフィルムを置いたときのフィルムのPDDと、 電離箱により取得したTough WaterのPDDの2種類で行いました。 PDDcomparison:比較の対照となるPDD PDDstandard  :電離箱により取得されたPDD

実験結果②:変動性

実験配置② ファントム:フィルムの両側 30.0 cm×15.0 cm×30.0 cm X Y Z 15.0 cm 30.0 cm フィルム ファントム ファントム:フィルムの両側   30.0 cm×15.0 cm×30.0 cm フィルム:      24.5 cm×0. 3 mm×30.5 cm フィルムの上縁を、ファントム表面に正確にそろえて照射した。 実験配置としては、 ファントムをフィルムの両側に30.0 cm×15.0 cm×30.0 cmとし、 フィルムの上縁をファントム上縁にそろえて照射を行った。

実験結果③:PDD film 結果として、フィルムより得られたPDDを示します。

実験結果④:変動性

考察① フィルムにより得られた分布としては、どちらの照射方法でも電離箱によるPDDとはあまり良い一致を示さなかった。 フィルムにより得られたPDD曲線において、10 cm深で曲線に若干の折れが生じている。 この原因としては、10 cm深でフィルムの校正を行ったため、フィルムのエネルギー依存性などによると考えられる。 考察としまして、 フィルムにより得られた分布としては、どちらの照射方法でも電離箱のPDDとはあまり良い一致を示さなかった。 フィルムにより得られたPDD曲線において、10 cm深で曲線に若干の折れが生じている。 この原因としては、10 cm深でフィルムの校正を行ったため、フィルムのエネルギー依存性などによると考えられる。

考察② また、フィルムにより得られたPDD曲線が電離箱によるPDDと一致しなかった原因として、ビーム軸に対して平行にフィルムがおかれているかどうか、深部でのOCRなどの実験自体の精度の問題があると考えられる。 ここで、アライメントの問題を排除して考えるため、モンテカルロシミュレーションコードであるEGS5を用いてシミュレーションを行った。 考察としまして、 また、フィルムにより得られたPDD曲線が電離箱によるPDDと一致しなかった原因として、ビーム軸に対して平行にフィルムがおかれているかどうか、深部でのOCRなどの実験自体の精度の問題があると考えられる。 ここで、アライメントの問題を排除して考えるため、モンテカルロシミュレーションコードであるEGS5を用いてシミュレーションを行った。

ジオメトリ① ファントム:フィルムの両側 (片側) 30 cm×15 cm×30 cm X Y Z 15 cm 30 cm フィルム ファントム ファントム:フィルムの両側    (片側) 30 cm×15 cm×30 cm フィルム:        24.5 cm×0. 3 mm×30.5 cm レディパックの遮光紙などを正確に表現することで、2つの実験配置をそれぞれできる限り細部まで再現した。 ジオメトリは実測に基づき、できる限り細部まで再現した。

ジオメトリ② 検出領域:フィルムの中央部分。 Y X Z 14.0 cm 2.0 mm 0.3 mm 20 mm 25.0 cm ファントム

シミュレーション条件① 入射粒子エネルギー:10 MV X-ray SSD:100 cm 粒子数:109 個 粒子数:109 個 統計誤差:25 cm深で1%以下 カットオフエネルギー:   光子:0.01 MeV、電子:0.521 MeV 照射野:10 cm×10 cm シミュレーションの条件は以下の通り。 入射粒子エネルギー:10 MV X-ray SSD:100 cm 粒子数:109 個 統計誤差:25 cm深で1%以下 カットオフエネルギー:   光子:0.01 MeV、電子:0.521 MeV 照射野:10 cm×10 cm

シミュレーション条件② フィルム材質:重量比(%)*1 C:22、H:2.4、O:47、 N:9.9、 Ag:10、Br:7.7 Tough Waterファントム:重量比(%)           C:0.6633、H:0.0821、O:0.2065、N:0.0221、           Cl:0.0040、Ca:0.0220 *1:Med. Phys.31(12) Åsa Palm et al. また、シミュレーションで用いた材質としては以下の通り。 フィルム材質:重量比(%)*1 C:22、H:2.4、O:47、 N:9.9、 Ag:10、Br:7.7 遮光紙の材質:セルロース(C6H10O5)n ファントム:Tough Water C:0.6633、H:0.0821、O:0.2065、N:0.0221、Cl:0.0040、Ca:0.0220                               *1:Med. Phys.31(12) Åsa Palm et al.

結果①:PDD film シミュレーションの結果です。

結果②:PDD film シミュレーションの結果です。

考察 線束中心をずらしたとき、シミュレーションにおけるPDDに顕著な影響は見られなかった。 考察として、 線束中心をずらしたとき、シミュレーションにおけるPDDに顕著な影響は見られなかった。 測定方法の違いとしては、フィルムの上縁をファントム表面と一致させて測定を行った方がより電離箱により得られたPDDと近い曲線となった。

まとめ 測定方法としては、フィルムの上縁とファントム表面を一致させて測定を行うほうが良いと考えられる。 線束中心からフィルムをずらして置くことによる変動は、実測とシミュレーションにおいても大きな変化は無かった。そのため、実験全体の精度を考慮すると、線束中心に一致させて測定を行う方が良いと考えられる。 実測において、フィルムによる線量分布が10 cm深で折れ曲がっていたため、濃度対線量の校正方法について、他の方法を模索する必要があると考えられる。 まとめとして、 測定方法としては、フィルムの上縁とファントム表面を一致させて測定を行うほうが良いと考えられる。 線束中心からフィルムをずらして置くことによる変動は、実測とシミュレーションにおいても大きな変化は無かった。そのため、実験全体の精度を考慮すると、線束中心に一致させて測定を行う方が良いと考えられる。 実測において、フィルムによる線量分布が10 cm深で折れ曲がっていたため、濃度対線量の校正方法について、他の方法を模索する必要があると考えられる。

今後の課題 照射ヘッドをシミュレーションに組み込む。 より精度の高い実測を取り直す。 フィルムの校正方法の検討。 DDシステムの精度の検証。