SLHC実験に用いる 高放射線耐性P型シリコン マイクロストリップセンサーの開発 筑波大学 高橋 優 金信弘, 原和彦, 濱崎奈都美,三井真吾,山田美帆(筑波大) 池上陽一, 海野義信, 高力孝,寺田進(KEK) 高嶋隆一(京都教育大), 花垣和則(阪大), 中野逸夫(岡山大) 他アトラスSCTグループ 2010春季大会 物理学会
Super LHCでのシリコン検出器 sLHC実験 LHCのアップグレード計画(2018年頃) 瞬間最高ルミノシティ 1×1035cm-2s-1 (LHCの10倍) ・ LHC加速器の検出器の一つであるATLASの内部飛跡検出器を すべてシリコン検出器にする ・ 現行のSCTシリコン検出器は、より放射線耐性が優れたものと交換 SCT領域では最大1×1015 1‐MeV neq/cm2の放射線量が見込まれる 荷電粒子:中性子~1:1(衝突点近く) ~1:5 (R~1 m) 本研究の目的 ★放射線耐性のあるセンサーを設計する ★1cm2のテストセンサーを陽子や中性子照射して耐性を測定する 2010春季大会 物理学会
シリコン検出器の放射線損傷 p+-on-nセンサー 放射線量2×1014 1-MeV neq/cm2 (LHC10年分) で 現SCT n-bulk 空乏層 SiO2 p+ n+ 現SCT p+-on-nセンサー 照射により p型に変換 p-bulk 信号を分離して読むには全空乏化する必要あり!全空乏化電圧がSCTの耐圧(500V)を超えるとp+-on-nは使えない 放射線量2×1014 1-MeV neq/cm2 (LHC10年分) で 全空乏化電圧はSCTの最高運転電圧の500Vに達する 現SCT 放射線量が1桁上がるsLHCでは同様の設計のものは使用できない n+-on-pセンサー sLHC 型反転しないので、常にストリップ面から空乏化する。耐圧を超えたら、部分空乏状態で作動させる。 信号量は減少するが、ストリップ長を短くする(現行12cm→ 2.4cm)のでアンプのノイズも低減できる。 n + p-bulk 空乏層 p+ 2010春季大会 物理学会
p型シリコン検出器の開発 評価項目(陽子、中性子照射に対して) p型センサーの問題点:酸化膜SiO2にホールが蓄積され、可動性の電子層が p-stopやp-spray 電子の移動を遮断し、ストリップ間が電気的につながるのを防ぐ 解決策 p-spray ホール p-stop N+ p-bulk N+ p-bulk N+ N+ p-bulk 評価項目(陽子、中性子照射に対して) 上述の理由からp型バルクは今までシリコン検出器に用いられていなかった P型バルクがN型と同等の性能(暗電流の増加など)を示すか バルク容量(C-V), 電荷収集量(CC-V) : 収集電荷量が十分か、 全空乏化電圧がどの程度変化するかの評価 ストリップ間抵抗(Rint) : ストリップ間が電気的に分離しているかの評価 パンチスルー(PTP) : 大電流発生時に絶縁膜保護が機能するかの評価 2010春季大会 物理学会
照射用サンプル p-stop : 不純物濃度 p-spray : 不純物濃度 P-stop & P-spray : 電極分離構造 電極分離構造濃度 ZONE1: P-stopなし ZONE2: ZONE3: ZONE4:P-stopはZONE3と同じ PTPの構造(A,B,C,D)が入る ZONE6:P-stopはZONE3と同じ ストリップピッチが100μm p-stop p-stop : 不純物濃度 4 × 1012 /cm2 10 × 1012 /cm2 20 × 1012 /cm2 N+ 74.5μm N+ p-bulk p-stop p-spray : 不純物濃度 2×1012 /cm2 N+ N+ p-bulk P-stop & P-spray : 不純物濃度 (2+8)×1012 /cm2 適正な電極分離構造と濃度を探る 2010春季大会 物理学会
陽子線・中性子照射 陽子線照射 中性子照射 陽子線照射と中性子照射による損傷の違いを探る ために2つの照射において照射線量を近くした 2009年6月 @東北大学CYRIC 放射線量:(0.14, 1.2, 60, 120) x1013 1-MeV neq/cm2 中性子照射 2009年8月 @スロベニアのLjubljana原子炉 放射線量:(0.1, 1.0, 50, 100) x1013 1-MeV neq/cm2 以降、放射線量は、すべて1MeVのneutron換算値を用いる 2010春季大会 物理学会
C-V, Rint-V測定 C - V Rint C-V:静電容量をLCRメータで測定 バイアス抵抗(約1.5MΩ) C - V Rint C-V:静電容量をLCRメータで測定 Rint:ストリップにテスト電圧を0V, ±0.5V , ±1V かけて両側の ストリップに発生する電流を測定 2010春季大会 物理学会
β線による収集電荷量(cc)測定 読み出しは6本。両端2本をまとめ、4chの電荷量をADCで測定した。1 fC≒186 ADC counts トリガーは、約20 Hz ピーキングタイムは20ns (SCTとほぼ同じ) Srβ線(最大2.3 MeV)は、最小電離粒子(MIP)相当であり、320 μmのシリコンセンサーでは3.2 fC程度の信号となる。 ch2 ch3 ゲート 8 8
全空乏化電圧の評価 C-V測定 CC-V測定 Charge2 [fC2] Vbias [V] 収集電荷量は空乏層の厚さdに比例する。 Full Depletion Voltage Charge2 [fC2] Vbias [V] 収集電荷量は空乏層の厚さdに比例する。 (NA=アクセプタ密度 ND=ドナー密度 ε=シリコン誘電率 V=バイアス電圧 e=素電荷 S=表面積) 2010春季大会 物理学会
全空乏化電圧 全空乏化電圧の変化は中性子照射による方が大きい 500Vの電圧では、部分空乏化で運転する可能性が高い 全空乏化電圧 全空乏化電圧の変化は中性子照射による方が大きい 500Vの電圧では、部分空乏化で運転する可能性が高い 1.0×1015 1-MeV neq/cm2 程度で… C-V測定 陽子:732±78V(サンプル数:82個) 中性子:1140±72V(サンプル数:39個) CC-V測定 陽子: 721±13 V(サンプル数:82個) 中性子:1000V以上(サンプル数:39個) 2010春季大会 物理学会
ストリップ間抵抗(Rint)@300V 陽子 中性子 陽子照射の方が中性子照射よりもストリップ間抵抗の減少が大きい(酸化膜への電荷蓄積が大きい)が、バイアス抵抗(1.5MΩ程度)より十分大きくストリップ間分離は達成されている。p-stop構造による大きな違いは見られない。 2010春季大会 物理学会
Punch Through Protection(PTP) 絶縁膜の耐圧である-100V以下での達成が求められる 測定 Vtestを100Vから-100Vまで変化させ、 DCパッド-バイアスリング間の抵抗値を測定 PT達成電圧の定義 中心値:50%Rbias 幅:10%Rbias~90%Rbias 2010春季大会 物理学会
PTP測定 PTPの中心値は、陽子、中性子照射によらず、電極分離濃度に依存する。 1×1015 1-MeV neq/cm2 5×1014 1-MeV neq/cm2 中性子 陽子 中性子 陽子 PTPの中心値は、陽子、中性子照射によらず、電極分離濃度に依存する。 中性子照射したサンプルは10% Rbiasに達しやすい(蓄積電荷が少ないため) 構造Aタイプ(右図)のものが10% Rbiasに達しやすい バイアス抵抗がstrip-island間のp-stop電位を抑え込んでいるため 2010春季大会 物理学会
まとめ 1cm×1cmのサンプルに1×1015 1-MeV neq/cm2 までの中性子と 陽子線を照射しp型シリコンマイクロストリップセンサーの耐性を評価した。 全空乏化電圧:CC-V測定とC-V測定の結果はほぼ一致した。 全空乏化電圧の増加は中性子照射による方が大きい。 ストリップ間抵抗(Rint) : 照射によりストリップ間抵抗は減少するが十分高く ストリップ間分離は達成される。中性子照射による減少は少ない。 PTP: 中性子照射したサンプルは10%Rbiasに達しやすい。 目標とする100Vより十分小さな電圧でPTが達成できる。 電荷収集効率(詳細は割愛):照射量1×1015 n/cm2において、 バイアス500V 陽子照射:0.57±0.01 中性子照射:0.42±0.03 電荷収集効率が>0.3以上なので、S/N>10が達成できる 表面損傷(Rint, PTP)は中性子の影響は小さいが、バルク部損傷(電荷収集効率、全空乏化電圧)はやや大きいことが分かった。 いずれにしても、p型センサーはsLHCに使用できる。 2010春季大会 物理学会
Back up 2010春季大会 物理学会
SCT (Semiconductor Tracker) O(10mm)の分解能が得られる 高速(数ns)応答性 コンパクト 2010春季大会 物理学会
シリコンマイクロストリップ型検出器の動作原理 P型 1 : pn接合に逆バイアスをかけ、空乏層(キャリアのない領域)を広げる 2 : 空乏層に電荷をもった粒子が入った 際に、電子と正孔のペアが生成される 3 : 電場によってキャリアが読み出しストリップ側へと移動する 誘起された電荷はアンプで読みだされる 4 : アンプの信号から電極のピッチ(80mm)に対応した、位置情報がえられる 2010春季大会 物理学会
LHCで期待される照射量 荷電粒子 中性子 衝突点から離れた所では中性子の寄与が大きい 2010春季大会 物理学会
I – V測定 マイクロ放電(MD)局所的な高電場によって電子雪崩が発生し急激に MD マイクロ放電(MD)局所的な高電場によって電子雪崩が発生し急激に 電流が増大する。p-stop, p-sprayのような構造が入ると起こりやすい。 高放射量でMDは見られなかった 低照射量での電流の増加はMDではなく表面電流によるものと考えられる 2010春季大会 物理学会
損傷係数の評価 α=3.99±0.03 A/cm 2010春季大会 物理学会
C – V測定 中性子照射の照射による変化の割合の方が陽子線照射によるものより大きい 陽子:732±78V(サンプル数:82個) (NA=アクセプタ密度 ND=ドナー密度 ε=シリコン誘電率 V=バイアス電圧 e=素電荷 S=表面積) 1.0×1015 1-MeV neq/cm2 程度で… 陽子:732±78V(サンプル数:82個) 中性子:1140±72V(サンプル数:39個) 2010春季大会 物理学会
Rint(150V) 2010春季大会 物理学会
Rint(300V) 2010春季大会 物理学会
β線による収集電荷量測定 2010春季大会 物理学会
電荷収集効率 β線を入射し、ADCで収集される電荷量を測定 1×1015 n/cmにおいて、 バイアス500V 陽子照射:0.57±0.01 中性子照射:0.42±0.03 バイアス800V 陽子照射:0.67±0.01 中性子照射:0.64±0.02 エレクトロニクスのノイズによりS/N>10には、電荷収集効率が0.3以上あればよい 2010春季大会 物理学会
PTP構造