民事訴訟法 基礎研修 (1日目) 関西大学法学部教授 栗田 隆
私法と民事訴訟法 行為規範 裁判規範 予見可能性の重要性 例えば、特許法35条3項の「相当の対価」
公法と私法の交錯 民事訴訟法 裁判という公的サービスを提供する国家とそのサービスを受ける国民との関係を規律する公法 民事訴訟法 裁判という公的サービスを提供する国家とそのサービスを受ける国民との関係を規律する公法 実体法(裁判規範) 対等な関係にある私人間の法律関係を規律する私法 特許法 公法と私法の両方の要素を持っている
甲野太郎 乙野次郎 債権 消費貸借契約 代理権の授与? 金銭 乙野三郎
第一審の訴訟手続の概略 訴え(133条) 審理(口頭弁論・対審) 弁論(148条 以下) 証拠調べ(179条 以下) 判決(243条以下)
訴えの提起 処分権主義 訴え提起の方式 訴えなければ裁判なし(246条 )。 原則 裁判所に訴状を提出する(133条)。 原則 裁判所に訴状を提出する(133条)。 例外 簡裁では口頭起訴も許される。調書に記録する(271条・規則169条)。
訴状の必要的記載事項(133条2項) テキスト142ページの例を参照 当事者および法定代理人 請求の趣旨および原因
訴えと請求 訴えは、(α)一定の法律関係を主張して、(β)その法律関係の保護に適した一定内容の判決を求める訴訟行為(申立て)である 。訴状の提出によりなされる。 請求は、原告が訴えによりなす法律関係の主張である(狭義の請求)。 請求の語は、「原告の権利主張」+「その権利の保護に適した一定内容の判決の要求」の意味でも使われる(広義の請求 )
この債権があるとの主張 甲野太郎 乙野次郎 債権 消費貸借契約 代理権の授与? 金銭 乙野三郎 訴訟上の請求 訴訟物 請求を根拠付 ける事実の主張 乙野三郎
請求の趣旨と原因 請求の趣旨は、原告が求める判決内容である。 請求の原因は、請求の趣旨とあいまって請求を特定するのに必要な事実 をいう(規53条1項) 。
訴訟物の2つの意味 訴訟上の請求の中身となっている特定の実体法上の権利関係 「審理裁判の対象」である「訴訟上の請求」を、訴訟の対象の意味で「訴訟物」ということもある。
実体法上の権利の分類 権利の作用の点から分類すると 支配権 所有権など 請求権 金銭債権など 形成権 取消権など
訴訟の3類型 確認訴訟 確認の訴え 確認判決を求める訴え 給付訴訟 給付の訴え 給付判決を求める訴え 確認訴訟 確認の訴え 確認判決を求める訴え 給付訴訟 給付の訴え 給付判決を求める訴え 形成訴訟 形成の訴え 形成判決を求める訴え
判決の効力 既判力 執行力 形成力
確認の訴え 「別紙目録記載の土地につき、原告の所有権を確認する」との判決を求める訴え 「別紙目録記載の土地につき、原告の所有権を確認する」との判決を求める訴え 請求棄却判決は、原告主張の権利関係がないことを確定する。 請求認容判決は、原告主張の権利関係があることを確定する。
事実の確認を求める訴え 証書真否確認の訴え(134条) 株主総会決議不存在確認の訴え(商法252条)
給付の訴え 「被告は原告に金100万円を支払え」 との判決を求める訴え 請求棄却判決は、既判力のみを有する確認判決である。 請求認容判決は、給付判決と呼ばれ、執行力と既判力がある。
将来給付の訴え(135条)の例1 [62] 最高裁判所 昭和61年7月17日 第1小法廷 判決(昭和56年(オ)第756号) 土地の所有者が不法占拠者に対し、将来給付の訴えにより、土地の明渡に至るまでの間、その使用収益を妨げられることによって生ずべき損害につき毎月一定の割合による損害金の支払を求めた事例
将来給付の訴え(135条)の例2 [65] 最高裁判所 昭和63年3月31日 第1小法廷 判決(昭和59年(オ)第1293号 共有者の一人が共有物を他に賃貸して得る収益につき、その持分割合を超える部分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち事実審の口頭弁論終結時後に係る請求部分は、将来給付の訴えの請求としての適格を有しないとして、この部分に係る訴えが却下された事例。
形成の訴え 「原告と被告とを離婚する」 との判決を求める訴え 請求棄却判決は、既判力のみを有する確認判決である。 請求認容判決は、形成判決と呼ばれ、形成力と既判力がある。
形式的形成訴訟 境界確定訴訟 共有物分割訴訟(民258条) 父を定める訴え(民773条)
共有物分割訴訟 [40] 最高裁判所 昭和45年11月6日 第2小法廷 判決(昭和41年(オ)第648号) [40] 最高裁判所 昭和45年11月6日 第2小法廷 判決(昭和41年(オ)第648号) 数個の建物が一筆の土地の上に建てられていて、外形上一団の建物とみられるときの分割方法。
境界の確定訴訟 [97] 最高裁判所平成11年2月26日第2小法廷判決(平成9年(オ)第104号) 境界確定の訴えは、公簿上特定の地番により表示される甲乙両地が相隣接する場合において、その境界が不明なため争いがあるときに、裁判によってその境界を定めることを求める訴えである 。
境界確定訴訟の図例 B主張の境界線 A所有 の甲地 B所有 の乙地 A主張の境界線
請求の特定の必要 1 最判昭和27年12月25日民集6-12-1282 訴訟物が金銭債権である場合には、請求の趣旨において債権額を特定することが必要であり、このことは給付の訴であるか確認の訴であるかにより差異はない。
請求の特定の必要 2 [108] 東京地方裁判所 平成11年12月21日 民事第47部 判決(平成11年(ワ)第20965号) 「東京地方検察庁平成九年検第一九九八七号著作権違反について、平成九年一一月二五日に不起訴処分となった本件に新たに違反が行われたので確認する。」との請求に係る訴えが、確認対象が特定されていないことを理由に却下された事例。
請求の特定方法 訴訟上の請求は 当事者 と 訴訟物 により特定される
訴訟物の特定 訴訟物は 請求の趣旨 と 請求の原因 により特定される
「請求原因」の3つの意味 請求を特定する事項(133条) 請求を理由づけるのに最小限必要な事実(規則53条) 請求権を数額と存在とに分解した場合の後者に関する一切の事実(245条)
訴訟物論争 実体法説(旧訴訟物理論) 判例 訴訟法説(新訴訟物理論) 有力な学説
論争の要点 バスの運転手ミスによりバスが道路から転落し、乗客が怪我をした。その乗客がバス会社に損害賠償請求の訴えを提起する。 バスの運転手ミスによりバスが道路から転落し、乗客が怪我をした。その乗客がバス会社に損害賠償請求の訴えを提起する。 債務不履行による損害賠償請求権(民415条) 不法行為による損害賠償請求権(民715条)
関係する論点 判決事項(246条) 既判力の客観的範囲(114条) 請求の併合(136条) 重複起訴の禁止(142条) 訴えの変更(143条) 再訴の禁止(262条2項)
判例は実体法説である [95] 最高裁判所平成10年12月17日第1小法廷判決(平成6年(オ)第857号) 共同相続人の一人が遺産に属する預金証書および株券を密かに持ち出して、預金の払戻金および株券の売却代金を着服したので、他の共同相続人が損害賠償請求の訴えを提起し、その訴訟の係属中に不当利得返還請求を追加した場合
一部請求 明示の一部請求 黙示の一部請求
訴訟類型ごとの訴訟物の特定 確認訴訟 給付訴訟 形成訴訟
明示の一部請求 [9]最高裁判所 昭和34年2月20日 第2小法廷 判決(昭和31年(オ)第388号) 一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴が提起された場合(明示の一部請求)、訴訟物となるのは右債権の一部である。
黙示の一部請求 [38]最高裁判所 昭和45年7月24日 第2小法廷 判決(昭和44年(オ)第882号) 一個の債権の一部についてのみ判決を求める趣旨が明示されていないときは(黙示の一部請求)、請求額を訴訟物たる債権の全部として訴求したものと解され、時効中断の効力は、債権の同一性の範囲内においてその全部に及ぶ。