気候シナリオモデルを用いた将来のヤマセ発生可能性について 菅野洋光 東北農研センター
研究の端緒 農林水産省委託プロジェクト研究「地球温暖化が農林水産業に及ぼす影響評価と緩和及び適応技術の開発(温暖化)」{研究期間2008-2010}で「地球温暖化による夏季の気温変動に対応した水稲冷害リスクの評価」課題を担当(全3名)
使用した気候シナリオモデル 高分解能大気海洋結合モデルThe Model for Interdisciplinary Research on Climate (MIROC)、SRES排出シナリオはA1B 気象庁地域気候モデルによる温暖化実験出力(JMA-RCM)、SRES排出シナリオはA2
RCM20を用いた現在気候(1981~2000)と将来気候(2081~2100)におけるやませ型低温の出現割合.将来気候下で43半旬(7月30日~8月3日)以降にやませの発生が増加することが示されている.現在気候のはじめのピーク(34~35半旬)は6月15日~24日. (出典:遠藤洋和、第4章 現象別の再現性検証と将来予測.気象研究所技術報告第52号、地球温暖化による東北地方の気候変化に関する研究、2008,82pp.)
夏季気温の変化量(2031-50年-1981-2000年平均、JJA) RCM20 MIROC 夏季気温の2031-50年平均マイナス1981-2000年平均分布。左は気象庁地域気候モデルによる温暖化実験出力(JMA-RCM)、右はMIROCである。RCM20は内陸中心の昇温がみられ、またMIROCは太平洋側で昇温が大きい。昇温量はMIROCの方が大きい。 夏季気温の変化量(2031-50年-1981-2000年平均、JJA)
夏季気温の変化量(2081-2100年-1981-2000年平均、JJA) RCM20 MIROC 夏季気温の2081-2100年平均マイナス1981-2000年平均分布。昇温パターンは似ているが、昇温量はMIROCの方が2倍程度大きい(凡例を変えてあるので注意)。 夏季気温の変化量(2081-2100年-1981-2000年平均、JJA)
八戸における夏季(JJA)平均気温(MIROCとRCM20) 八戸気象官署が含まれる1kmメッシュの夏季気温変化。MIROCは一定の気温上昇がみられるが(約4.8℃/100年)、RCM20の昇温量は小さい。年々の変動はRCM20の方が大きく、2081-2100年でも周期的に低温(相対的な冷夏)になっている。 八戸における夏季(JJA)平均気温(MIROCとRCM20)
稚内と仙台の気圧差(PDWS)は北高型の気圧配置とやませの吹走による低温を示すインデックスとして用いる。PDWSと夏季気温との関係を見ると、特に北日本の太平洋側と相関が高く、やませによる低温をよく再現していることがわかる。文献は示してあるとおり。 稚内と仙台の気圧差(PDWS)および北日本夏季気温との相関係数分布(JJA,1950-2002).全地点で危険率5%以下で有意.Kanno(2004):Five-year Cycle of North-South Pressure Difference as an Index of Summer Weather in Northern Japan from 1982 Onwards.JMSJ,82,711-724.
PDWSの時間変化.縦軸は年、横軸は月.Kanno(2004)より引用. 1980年代以降の周期的な変動が明瞭 PDWSの時間変化を見ると、特に夏季に変動が明瞭である。1980年代以降は5年程度の周期変動が明瞭に把握でき、5~10年規模の周期変動を監視するのに有効である。 PDWSの時間変化.縦軸は年、横軸は月.Kanno(2004)より引用.
夏季PDWSの時間変化(JJA, MIROC) MIROCによるPDWSの年々変動。直線的な上昇傾向は認められない。周期的に変動の大きい時期と小さい時期がみられる。 夏季PDWSの時間変化(JJA, MIROC)
八戸における夏季平均気温(上昇量を無視)とPDWS(MIROC) MIROCを用いた、八戸における夏季平均気温(上昇量を無視)とPDWS。両者の変動傾向はおおむね一致しており、相関係数は0.36で、危険率1%未満で統計的に有意である。気圧差インデックスは、将来気候下でもやませの吹走をある程度再現している可能性がある。2040年頃までは両者はほぼ一対一に対応しているが、それ以降になると、2044年のように全く逆の関係もみられる様になる。 八戸における夏季平均気温(上昇量を無視)とPDWS(MIROC)
八戸における夏季平均気温とPDWS(RCM20) 八戸における夏季平均気温とPDWS(RCM20)。2031-50年では、両者の相関が高く、北高型の気圧配置とやませによる寒気移流が示唆される。ただし、PDWSが低下しており、オホーツク海高気圧が相対的に弱化している可能性がある。2081-2100年では、有意な相関関係が見られない。今後は、両モデルによるデータを比較しながら用い、気圧配置パターンとやませの吹走についてみていきたい。 八戸における夏季平均気温とPDWS(RCM20)
今後の予定 異なった気候シナリオモデルを用い、将来のやませ型気圧配置パターンの出現状況、寒気の移流状況を把握する。 水稲生育予測モデルに気候シナリオモデルデータを導入し、生育の変動可能性について検討する。 以上を総合して、将来気候下での水稲栽培技術に関する提言を行う。