『モデリング・シミュレーション入門』 井庭 崇 第4回 非線形とカオス

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『モデリング・シミュレーション入門』 井庭 崇 第4回 非線形とカオス Keio University SFC 2004 『モデリング・シミュレーション入門』 第4回 非線形とカオス いば  たかし 井庭 崇 慶應義塾大学総合政策学部 専任講師 iba@sfc.keio.ac.jp http://www.sfc.keio.ac.jp/~iba/lecture/

宿題(授業第3回)内容 ①教科書『複雑系入門』の第4章「フラクタル」を読んで、次の点について、それぞれまとめる。  (1)海岸線の長さが測り方によって、異なるのはなぜか?  (2)「フラクタル」と「無限」はどのような関係があるか?  (3)現実世界(自然界や社会)において、フラクタル性をもつものには、どのようなものがあるか? ※4.3「フラクタル次元」は除いてよい。 ※この他の文献・Webページ等を積極的に調べて参照することも歓迎する。その場合には、必ず、参考文献・URLを明記すること。 ②今日の授業で新しくわかったこと、考えたこと、感想

教科書 『複雑系入門:知のフロンティアへの冒険』 (井庭崇, 福原義久, NTT出版, 1998) 第I部 『複雑系』科学  第1章 『複雑系』とは何か?  第2章 『複雑系』科学の位置  第3章 『複雑系』科学の方法論 第II部 複雑性の現象  第4章 フラクタル  第5章 自己組織的臨界状態  第6章 カオス  第7章 カオスの縁 第III部 複雑適応系  第8章 複雑適応系  第9章 進化と遺伝的アルゴリズム  第10章 カウフマンネットワーク  第11章 ニューラルネットワーク 第IV部 『複雑系』科学のフロンティア  第12章 『複雑系』経済学  第13章 人工生命  第14章 カオス結合系  第15章 内部観測 第V部 『複雑系』研究への道標  第16章 『複雑系』科学の鳥瞰図

授業スケジュール 第1回(10/1) イントロダクション 第2回(10/8) モデリングとは 第3回(10/15) 数理モデリング 第1回(10/1) イントロダクション 第2回(10/8) モデリングとは 第3回(10/15) 数理モデリング 第4回(10/22) 非線形とカオス 第5回(10/29) オートマトン(状態機械) 第6回(11/5) オブジェクト指向モデリング 第7回(11/12) オブジェクト指向プログラミング (三田祭休み) 第8回(11/26) シミュレーションとは 第9回(12/3) シミュレーションによる分析 第10回(12/10)自律分散協調システムと自己組織化のシミュレーション 第11回(12/17)遺伝的アルゴリズムによる進化のシミュレーション (冬休み) 第12回(1/7) ニューラルネットワークによる学習のシミュレーション 第13回(1/14) 成長するネットワークのシミュレーション

システムの内部状態は、内部変数といわれるいくつかの数値の組によって表される。 復習 システムの内部状態と内部変数 システムの内部状態は、内部変数といわれるいくつかの数値の組によって表される。 内部状態の変化はその内部変数の変化として表される。 内部状態 (内部変数1,2,3・・) システム

相空間(Phase Space) z y x y x 内部変数の組をある空間上の点として表す。 (A) x 1変数の場合 x=A 復習 相空間(Phase Space) 内部変数の組をある空間上の点として表す。 (A) x 1変数の場合 x=A x y 2変数の場合 x=A, y=B x y z 3変数の場合 x=A, y=B, z=C 内部状態とその変化を具体的にイメージするために、数学者は幾何学の言葉を用いる。

xn+1 = a xn (1 - xn) 親世代と子世代の個体数の関係 現在の個体数と次世代の個体数との関係 次世代の 個体数 現在の 復習 親世代と子世代の個体数の関係 現在の個体数と次世代の個体数との関係 次世代の 個体数 現在の 個体数 現在の 個体数 定数 xn+1 = a xn (1 - xn) 実際には、 具体的に数値が入る 個体数の値は、0~1。 (単位が「千匹」など だと考えればいい)

xn+1 = a xn (1 - xn) x2 = a x1 (1 – x1) x3 = a x2 (1 – x2) 次世代の 個体数 現在の 定数 順を追って みてみると・・・ 初期値 x2 = a x1 (1 – x1) n=1 x3 = a x2 (1 – x2) n=2 x4 = a x3 (1 – x3) n=3

f (x) = a x (1 - x) 数式ではなく仕組みで描くと・・・ 関数=函数 井庭崇, 福原義久, 『複雑系入門』. NTT出版, 1998

xn+1 = a xn (1 - xn) 親世代と子世代の個体数の関係 現在の個体数と次世代の個体数との関係 次世代の 個体数 現在の 復習 親世代と子世代の個体数の関係 現在の個体数と次世代の個体数との関係 次世代の 個体数 現在の 個体数 現在の 個体数 定数 xn+1 = a xn (1 - xn) 増減のバランス 個体数が多いほど 次世代を増やす 個体数が多いほど 次世代を減らす

xn+1 = a xn (1 - xn) メイの生態モデルの振る舞い 増減バランスを決める定数aの値が 0<a<1のとき 復習 メイの生態モデルの振る舞い 増減バランスを決める定数aの値が 0<a<1のとき 絶滅してしまう。 xn+1 = a xn (1 - xn) 個 体 数 世代(時間)

xn+1 = a xn (1 - xn) メイの生態モデルの振る舞い 増減バランスを決める定数aの値が 1<a<2のとき 復習 メイの生態モデルの振る舞い 増減バランスを決める定数aの値が 1<a<2のとき ある個体数に落ちつく xn+1 = a xn (1 - xn) 個 体 数 世代(時間)

復習 複数の個体数を振動するというのは 個 体 数 世代(時間) 時系列でみると・・・ イメージでいうと・・・

xn+1 = a xn (1 - xn) メイの生態モデルの振る舞い 増減バランスを決める定数aの値が 2<a<3のとき 復習 メイの生態モデルの振る舞い 増減バランスを決める定数aの値が 2<a<3のとき 振動したのちに、ある個体数に落ちつく。 xn+1 = a xn (1 - xn) 個 体 数 世代(時間)

xn+1 = a xn (1 - xn) メイの生態モデルの振る舞い 増減バランスを決める定数aの値が a>3.5699456のとき 個体数の変化が不規則になる。 xn+1 = a xn (1 - xn) 個 体 数 世代(時間)

個体数が不規則に変化するということは・・・!? 世代(時間) 時系列でみると・・・ ? イメージでいうと・・・

カオス (chaos) メイの生態モデルが与えた衝撃 モデルの数学的な意味での単純さと、結果が示す複雑さの間の驚くべきコントラスト 「単純な法則から生じる単純な現象」という信念に動揺を与えた。 カオス (chaos) 規則に従って発生したにもかかわらず、不規則にみえる振る舞いを示す現象。

カオスを生成するシステムでは、初期値に対する鋭敏性がある。 →「バタフライ効果」と呼ばれる カオスを生成するシステムの特徴 カオスを生成するシステムでは、初期値に対する鋭敏性がある。  →「バタフライ効果」と呼ばれる 値 初期の個体数の値が10桁の精度でわかっているものとしよう。このことは、地球の人口でいうと、全人類の人口に対して、誤差が数人というほどの精度である。たとえそれほどの精確さで初期の個体数がわかったとしても、1世代ごとに、予測される個体数の精度は一桁ずつ減っていく。つまり、10世代後には誤差が全人口の数の程度にまで膨らんでしまう。これはもはや個体数に関して何もいえないことを意味している。この意味で少なくとも遠い将来の予測は完全に不可能ということになる。 井庭崇, 福原義久, 『複雑系入門』. NTT出版, 1998

xn+1 = a xn (1 - xn) 分岐現象 パラメータの値の変化に対して、安定周期解が現れたかと思うと、カオスが現れる システムの外的要因を定めているパラメータの値が変動すると、システムはまったく異なった性格を示す。 xn+1 = a xn (1 - xn) コントロール・パラメータ

カオス結合系

f (x) = a x (1 - x) 数式ではなく仕組みで描くと・・・ 関数=函数 井庭崇, 福原義久, 『複雑系入門』. NTT出版, 1998

カオス結合系 井庭崇, 福原義久, 『複雑系入門』. NTT出版, 1998

カオスをつなぐということ。 「東京に帰って、カオスを百個つないで、というモデルのコンピュータ実験を始めてみた。しかし何がなんだかわからん、というのが実状だった。考えてみればカオスが何かということが議論されているさなか、いきなりこんな無謀な研究をしても、数値計算の結果をどう表現したらいいかすらよくわからなかったからだ。」(金子邦彦) 金子邦彦, 『カオスの紡ぐ夢の中で』, 小学館, 1998

カオス結合系 井庭崇, 福原義久, 『複雑系入門』. NTT出版, 1998

カオス的遍歴 井庭崇, 福原義久, 『複雑系入門』. NTT出版, 1998

システムの階層性と創発 創発 創発 生物システム 細胞システム 生体高分子 システム ルール 創発特性が存在していることはわかっているが、 各階層は固有のルールをもっている。 生物システム 創発 ルール 細胞システム 創発 「システム概念というのはこのように対象を全体と部分との関係でとらえる認識論の一種で、古くは、AristotelesやHegelに端を発しているとみることもできますが、システム概念が明確に打ち出されてきたのは1930年代に入ってからBertalanffyに始まり、WienerやBouldingによって展開されてきたと考え方がよいでしょう。」(竹村81) 生体高分子 システム 創発特性が存在していることはわかっているが、 それがどのように生じるのかについては、解明されていない!

現実をそのまま知覚しているわけではない。 人間は想像力によって現実を認識する 現実をそのまま知覚しているわけではない。 頭の中の イメージ 想像力を用いて 構築する 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、体性感覚 + 記憶

パラドキシカルなこと システムが決定論的=「現在の状態を記述する数値が完全に決定されれば、未来が完全に確定される」ということである。 一方、システムが不確定的に振る舞うとは、現実的には、観測によっては状態を定める数値として近似的なものしか得られないこと、そして、そこに発生する「誤差」が時間の経過とともに指数的に急速に拡大することにより、事実上未来の状態を決定できないということであった。

宿題(授業第4回)内容 ○今日の授業で新しくわかったこと、考えたこと、感想。 (特に決定論、カオス、カオス結合系、創発など) 提出&締切:来週の授業開始時に教室で。 形式:A4用紙1枚(両面可) 宿題(第4回)と明記 学部・学年・学籍番号・メールアドレス・名前を明記