森美賀子 山田亮 小林香子 川井田礼美 山本一彦

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森美賀子 山田亮 小林香子 川井田礼美 山本一彦 自己免疫疾患感受性SNPの人種差の検討 Ethnic difference in allele frequency of autoimmune disease-associated SNPs 森美賀子 山田亮 小林香子 川井田礼美 山本一彦 理化学研究所 遺伝子多型研究センター 関節リウマチ関連遺伝子研究チーム

はじめに 近年SNPを用いたホールゲノムケース・コントロール解析により,関節リウマチ(RA)をはじめ多くの自己免疫性疾患関連遺伝子が同定されている. しかし,一人種にて関連が報告されたのち 他人種にて追認できないという報告が散見される.

対象・方法 人種   376 Japanese (J)      94 African American (A)(Human Variation Panels for 100)      94 Caucasian (C) (Human Variation Panels for 100) 遺伝子  4 locus, 10 SNPs 方法   Invader assay, TaqMan assay または       Direct sequenceにてタイピングを行ない, 各人種ごとに疾患感受性SNPのアレル頻度を 算出し,人種によるアレル頻度差を比較検討 した.

対象とする自己免疫疾患関連遺伝子 locus gene SNP数・機能 PADI4 4SNPs SLC22A4 3SNPs Crohn RA SLE T1D PADI4 PTPN22 PDCD1 PADI4   4SNPs         シトルリン化酵素                   SLC22A4 3SNPs          有機カチオントランスポーター 代表基質:Ergothioneine SLC22A5 1SNP         有機カチオントランスポーター      代表基質:carnitine  PDCD1 1SNP         免疫グロブリンスーパーファミリー 分子 PTPN22 1SNP        TCRシグナル抑制性制御酵素 1 2 3 4 SLC22A4/A5 Crohn:クローン病 SLE:全身性エリテマトーデス T1D:Ⅰ型糖尿病

人種間のアレル頻度の差の評価方法 (1)観測アレル人種間分布差分割検定 ☞Fisher’s Exact Test (正確確率検定) (2)人種間遺伝的距離の推定    ☞Wright’s FST 人種間のアレル頻度を観測した時に,同一集団から分かれてきたと仮定した2群が相互にどれくらい離れているか, 遺伝的な差の大きさを示す指標がFST.   2群に遺伝学的差がない時 FST=0   2群が完全に分かれている時 FST=1 遺伝的な差の程度に応じ,FSTは0~1の間の値をとる. FST :0-0.05 little differentiation, 0.05-0.15 moderate, 0.15-0.25 great, >0.25 very great

結果① PADI4 【疾患感受性SNPのアレル頻度】 J vs. C J vs. A C vs. A 10kb Genes Exons SNPs PADI4 Chromosome 1p36 PADI2 PADI1 PADI3 2 3 4 SNPs Val→Ala Gly→Ser Leu→Leu Gly→Ala 【疾患感受性SNPのアレル頻度】 Japanese: J,Caucasian: C, African American: A                         §P<0.01     J   C    A  P value FST P value FST P value FST SNP1  0.40  0.38  0.49 0.86 0.00034 0.10 0.0079 0.078 0.12 SNP2   0.40 0.42   0.46 0.86 0.00052 0.51 0.0037 0.88 0.0014 SNP3   0.39 0.38  0.48 0.84 0.000053 0.023 0.0090 0.31 0.010 SNP4 0.33 0.31  0.35 0.66 0.0056 0.70 0.00065 0.73 0.0024 J vs. C J vs. A C vs. A 3人種ともにアレル頻度は高く,3人種間の差はない.

結果② SLC22A4/ 5 【疾患感受性SNPのアレル頻度】 J vs. C J vs. A C vs. A Chromosome 5q31 IRF1 RIL SLC22A4 SLC22A5 10kb Genes Exons SNPs intron1 intron2 Leu→Phe promoter (slc2F2 ) (slc2F1) SNP1・2 Japanese RA・Crohn SNP3・4 Caucasian Crohn 【疾患感受性SNPのアレル頻度】 SNP1   0.29  0.09  0.04 <0.00001§ 0.064* <0.00001§ 0.12* 0.14 0.012 SNP2    0.29 0.09   0.04 <0.00001§ 0.066* <0.00001§ 0.12* 0.14 0.012 SNP3 0.001 0.39  0.04 <0.00001§ 0.24* <0.00001§ 0.018 <0.00001§ 0.19* SNP4   0.001 0.52  0.58 <0.00001§ 0.35* <0.00001§ 0.40*  <0.00001§ 0.0038 J vs. C J vs. A C vs. A    J   C   A  P value FST P value FST P value FST §P<0.01, *FST> 0.05 SNP1・2⇒Jでアレル頻度が高く,人種間の差を認める. SNP3・4⇒C or C&Aでアレル頻度が高く,Jでは多型をほとんど認めない.       人種間の差を認める.

結果③ PDCD1 【疾患感受性SNPのアレル頻度】 J vs. C J vs. A C vs. A 10kb Genes Exons SNPs Chromosome 2q37 Intron4(PD1.3A) PDCD1 【疾患感受性SNPのアレル頻度】 SNP1 0.00   0.13  0.03 <0.00001§ 0.068* 0.00040§ 0.014 0.0039§ 0.036    J   C    A  P value FST P value FST P value FST J vs. C J vs. A C vs. A                                        §P<0.01,  *FST> 0.05 C,Aにある上記SNPは, Jには存在しない.人種間での差を認める.

結果④ PTPN22 【疾患感受性SNPのアレル頻度】 J vs. C J vs. A C vs. A 10kb Genes Exons SNPs PTPN22 Chromosome 1p13 Arg→Trp 【疾患感受性SNPのアレル頻度】    J   C    A  P value FST P value FST P value FST SNP1 0.00   0.08  0.02 <0.00001§ 0.040 0.00032§ 0.011 0.16 0.016 J vs. C J vs. A C vs. A                                           §P<0.01  *FST >0.05  C,Aにある上記SNPは, Jには存在しない.人種間での差を認める.

疾患感受性SNP アレル頻度 人種による比較 J       C       A 人種差  なし  あり 疾患     既報での関連           あり   なし     RA     J・C  C      RA      J    C Crohn    Crohn C   - (J:多型なし)       RA, SLE C   - T1D RA, SLE  C   -  T1D   PADI4  SLC22A4/5  PDCD1  PTPN22

まとめ 近年報告のあった自己免疫疾患関連遺伝子 4 locus 10SNPsにつき, 3人種でアレル頻度を比較検討した. PADI4では, 3人種間で有意なアレル頻度の差はなく FSTも0に近い値であった. SLC22A4/5において,Japaneseで関連の認められた SNPはCaucasian, American Africanでは低頻度であった. SLC22A4/5, PDCD1, PTPN22では,Japaneseにおいて 多型でないものが見られた. 疾患感受性関連遺伝子の研究では,人種によるSNPの差を考慮する必要があると思われる.

謝辞 ●臨床施設 ●理化学研究所 遺伝子多型センター 謝辞  ●臨床施設   東京大学病院アレルギー・リウマチ内科   日本医科大学附属病院リウマチ科   行岡病院・(独)相模原病院・松原メイフラワー病院   (独)大阪南病院・鳥取大学整形外科   県立山梨中央病院 ●理化学研究所 遺伝子多型センター   関節リウマチ関連遺伝子研究チーム   鈴木亜香里(PADI4),徳廣臣哉(SLC22A4)   高地雄太,山中美弥子,菅野栄美,駒木根啓子