電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 6/28, 7/5講義分 光導波路と光共振器 山田 博仁
今後のスケジュール ・ 本日(第11回目) 光導波路と光共振器 (第3回レポート出題) ・ 本日(第11回目) 光導波路と光共振器 (第3回レポート出題) ・ 7/5(木)(第12回目) 電磁ポテンシャルとゲージ変換 ・ 7/11(水)(第13回目) 4講時(14:40~16:10) 電気双極子による電磁波の放射 (第3回レポート〆切) ・ 7/12(木) 休講 ・ 7/19(木)(第14回目) 点電荷による電磁波の放射 ・ 7/26(木) 定期試験
光共振器 q = 3 q = 1 q = 2 完全導体による平行平板間に存在することができる電磁波の波長は離散的になり、 完全導体 z = 0 z = L (q = 1, 2, 3 ‥) で与えられた。このように、完全導体の平行平板によるFabry-Perot共振器によって 電磁場は量子化され、このような電磁場の形態をモードと呼ぶ。(q はモード番号) 光の場合は、完全導体の代わりに、2枚の平行平面鏡によりFabry-Perot共振器を構成し、レーザーの光共振器などに広く用いられている。 光ビーム 平行平面鏡 レーザーの光共振器の概略
Fabry-Perot (FP)共振器の共振モード 共振器長 L のFP共振器内に立つ定在波の数(モード番号 q )と共振器内での光の波長 λ との間には、 の関係がある モード番号が十分大きい(q >>1)場合に、隣り合うモード間での共振波長の差 Δλ は、 鏡 L 鏡 Δλ Δλ 半導体レーザー λ q+2 q+1 q q-1 q-2 FP共振器の共振モード 発振波長 l 発振スペクトル q: モード番号 1,2 ‥‥ neff: 半導体の屈折率 FP共振器型半導体レーザーの構造 出展: www.phlab.ecl.ntt.co.jp/master/04_module/002.html
光導波路 コア クラッド n2 n1> n2 n1 光ファイバー 屈折率分布 n1> n2 n2 n1 屈折率分布 コア スラブ導波路 屈折率分布 n1 n2 n1> n2 コア クラッド
光導波路が光を導くメカニズム n2 n1 φ1 j2 入射波 屈折波 反射波 n1< n2の場合 n2 n1 n1> n2の場合 φ2 入射波 屈折波 反射波 全反射 臨界角 qc Snellの法則 全反射 n1 n2 n1> n2 放射モード qc 2θmax 光が伝搬可能な入射角度の範囲 開口数: NA= sin(θmax)
全反射角 コアとクラッド界面での全反射角θcは、前スライドの臨界角より で与えられるが、 ここで、 と置いたが、Δは比屈折率差と呼ばれている ここで、 と置いたが、Δは比屈折率差と呼ばれている 従って、n1と n2との差が小さい時、全反射角 θcは以下の式で与えられる さらに、導波路が受け入れることのできる受光角(2θmax)は、 また特に、 を開口数 (Numerical Aperture)という
導波路内での光伝搬 屈折率 n の媒質中 ・光の速度: 1/n ・光の波長: 1/n ・波数: n 倍 クラッドへの光の浸み出し ϕ: Goos-Haenchen Shift n2 ϕ ϕ a k0n1 n1 k0n1sinθ コア θ -a k0n1cosθ n2 n1> n2 ϕ 自由空間中での波数: k0=2π/λ (λ: 波長)、媒質中では k0n1 光の伝搬方向の伝搬定数成分 β は、 β = k0n1cosθ 光が伝搬方向に伝わる速度は、 であり、vgを群速度(Group Velocity)という (c は光速度) 光の伝搬方向と垂直方向の伝搬定数成分 (k0n1sinθ)に対して、以下の式が成り立つ時、光伝搬と垂直方向に定在波ができる N: モード番号 (0, 1, 2 ‥‥)
導波モードと定在波 E N = 0 Δϕ = 0 E N = 1 2π E N = 2 4π
入射角度 光伝搬と垂直方向での定在波条件の式より、モード番号Nに対する入射角度θNは、 で与えられる。 ここで、 Goos-Haenchen Shiftの値 ϕN は一般的には入射角度 θN の関数になるが、 θN が全反射角 θc よりも十分に小さい場合には、 と近似できる。 従って、モード番号 N に対する入射角度 θN は、 で与えられ、大きなモード番号 N に対しては入射角度 θN は大きくなる。 モード番号がある値よりも大きくなると、全反射条件が満たされなくなり、伝搬できなくなる。つまり、伝搬可能なモードは、以下の条件を満たさなければならない。 従って、導波路内を伝搬可能なモード番号の最大値 Nmaxが存在し、以下の条件を満たす。
モードの数 導波路内を伝搬可能なモード番号の最大値 Nmaxは以下の式で与えられる。 ここで V は、Vパラメータ或いは規格化周波数と呼ばれている Nmaxよりも大きなモード番号のモードは伝搬できないので、カットオフにあると言う 注) 式(1)は光線近似によるもので、厳密な波動方程式から導くと、 N = 0の基本モードに対してカットオフは存在しない 導波モードの分散関係 β ω/c (k0) 1/n1 1/n2 N=0 N=1 N=2 N=3 カットオフ領域 (放射モード) 群速度 曲線の傾きはvg /cで 、群速度に対応 モードによって群速度の値は異なる 単一モード条件: V < π /2 n1=1 ライトラインよりも上の領域では、光の速度を超えることになるので、伝搬できない ライトライン
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 電磁ポテンシャルとゲージ変換 山田 博仁
再びMaxwell方程式 Maxwellの方程式 4つの式から成っている 構成方程式(物質中) 真空中では、 磁場(磁束密度)B(x, t)を と表すと、式(2)は恒等的に満たされる。 ( ベクトル恒等より、 ) これを式(1)に代入すると、
電磁ポテンシャル さらに式(10)は、 とおくことにより、恒等的に満たされる。 ( ベクトル恒等式より、 ) ( ベクトル恒等式より、 ) つまり、Maxwellの方程式の式(1)と式(2)は、 とおくことにより、自動的に満たされることになる。従って、電磁気学の基本法則は、残り2つの式で表せることになる。 この A と f を、電磁ポテンシャルという。 以下では、残りのMaxwell方程式(3)と(4)を、E, B, H, Dではなく、電磁ポテンシャル A と f を用いた式として書き直してみる。 まず、式(5), 式(6)の関係を用いると、式(3)は、 となる。
電磁ポテンシャル これに式(12), 式(13)を代入し、 のベクトル恒等式を用いると、 となる。 また、式(4)に式(12)を代入すれば、 これに式(12), 式(13)を代入し、 のベクトル恒等式を用いると、 となる。 また、式(4)に式(12)を代入すれば、 従ってMaxwellの方程式(1)~(4)は、以下の方程式系で置き換えられる。
新しいMaxwell方程式系 上の新しいMaxwell方程式系による解法は、電荷密度分布re(x, t)および伝導電流密度の分布 ie(x, t)が与えられていれば、まず式(15), (17) による連立方程式を解いて電磁ポテンシャルA(x, t)およびf(x, t)を決める。次にこれを式(12), (13) に代入することにより、電場 E(x, t)および磁場 B(x, t)が求まる。 しかし、この新しいMaxwell方程式系では、最初に式(15), (17) による連立方程式を解かなければならないので解法が煩雑。 もっと簡単にできないか? そこで、上の式(12), (13), (15), (17)の方程式系の次の性質に注目する。
新しいMaxwell方程式系 今、任意の微分可能な関数をu(x, t)とし、先の電磁ポテンシャルAおよびfの代わりに として、新しくA’(x, t)およびf’(x, t)を定義する。 このとき、 また、 即ち、式(18), (19)によって与えられた A’と f’は、式(12), (13) により、元の電磁ポテンシャル A, f と全く同じ電磁場 E, B を与え、これらも新しい電磁ポテンシャルと見ることができる。つまり、式(12), (13)で与えられた電磁ポテンシャルには、任意関数 u(x, t)だけの不定性がある。
新しいMaxwell方程式系 今、 A’, f’ を新しい電磁ポテンシャルと見なして式(15) に代入すると、 従って、A’とf’は、 A とf と全く同じ方程式を満たしている。
ゲージ変換 即ち、式(18), (19)の新しい電磁ポテンシャルA’と f’は、 A と f の組と同じ電磁場 E, B をもたらすだけではなく、これらの満たす方程式も全く同じである。つまり、電磁ポテンシャルA およびf には、任意関数 u の不定性がある。 式(18), (19)をゲージ変換と言う。また、関数 u(x, t) をゲージ関数と言う。 新しいMaxwell方程式系(12), (13), (15), (17)は、ゲージ変換(18), (19)のもとで不変。 それなら、任意関数をうまく選ぶことによって、新しいMaxwell方程式系(12), (13), (15), (17)をもっと簡単に解けるようにできないだろうか? 例えば、式(15)の左辺第2項の括弧内がゼロとなるように任意関数を選ぶことができれば、式(15), 式(17)はずいぶん簡単な式にできるだろう。 そこで、 となるような任意関数 χ を選ぶことができるかどうかを考えてみよう。 今、 となるような任意関数 χ を考える。 このゲージ変換による新しい電磁ポテンシャルALと fLは、勿論もとの A とf と同じ電磁場 E, B を導き、またそれは式(15), (17) と同じ形の方程式を満足する。
ゲージ変換 式(21), (22)を式(20)に代入すると、 従って、 つまり、式(23’)を満足するような関数 χ を選んでやれば良いだけではないか。 そうすれば、式(20)が満足されるので、 新しいMaxwell方程式(15), (17)は、 と非常に簡単な式になる。 上の式(24), (25) を、ダランベール(d’Alembert)の方程式と言う。
ローレンス(ツ)・ゲージにおけるMaxwell方程式 この新しいMaxwell方程式系では、式(24), (25) を見ると式(15), (17) とは異なり、ALと fLとはそれぞれ独立な方程式を満たしており、連立方程式にはなっておらず、 AL, fL, ie, re の4個の成分に関して極めて対称性の良い形をしている。 式(23) の条件をローレンス(ツ)(Lorenz)条件と言い、この条件を満足する電磁ポテンシャルAL(x, t), fL(x, t)を、ローレンス(ツ)・ゲージにおける電磁ポテンシャルと言う。
ローレンス・ゲージにおけるMaxwell方程式の解法 このローレンス・ゲージにおけるMaxwell方程式による解法は極めて見通しが良く、電流密度分布 ie(x, t)および電荷密度分布re(x, t) が与えられていれば、まず式(24) および式(25) を各々独立に解いて、電磁ポテンシャルAL(x, t)およびfL(x, t) を求める。その求まった AL(x, t) と fL(x, t)が式(23) を満たしているかどうか確認し、次にこれを式(12), (13) に代入することにより、電場E(x, t)および磁場B(x, t)が求まる。 2人のローレンツ ローレンツ力、ローレンツ変換 → ヘンドリック・ローレンツ(Hendrik Antoon Lorentz 1853-1928) オランダ ローレンツ(ス)・ゲージ → ルードヴィヒ・ローレンツ(ス)(Ludvig Valentin Lorenz 1829-1891) デンマーク
Maxwell方程式のゲージ不変性 ところで、このローレンス・ゲージにおける電磁ポテンシャルAL(x, t), fL(x, t) も、一義的な値を持たない。何故なら、 を満たすような c0 を用いて、ゲージ変換 を行うと、この新しいローレンス・ゲージの電磁ポテンシャルAL’(x, t), fL’(x, t) もまた、(12), (13), (23), (24), (25)と全く同形の方程式系を満たす。 即ち、 (12), (13), (23), (24), (25)の方程式系は、式(26), (27), (28) の条件に基づいて制限されたゲージ変換のもとで不変である。
静電場、静磁場の式 さて、 (12), (13), (23), (24), (25)の方程式系において、全ての物理量が時間 t に依存しないとき、 静電場の基本法則 静磁場の基本法則 となり、静電場と静磁場では独立な方程式系が得られる。
相対論における扱い 以下のローレンス・ゲージにおけるMaxwell方程式は、 相対論においては、4次元ベクトルとしての電磁ポテンシャル および4次元電流密度 を用いて r v は、電流密度の次元を持つ と表される。 さらに、ダランベルシアン□を用いて(34)式は、 と表される。
クーロン・ゲージ このように、ゲージ変換を行っても、 E や B の物理量の値に変化がなければ(ゲージ不変性と呼ぶ)、計算の都合のいいように自由にゲージを選ぶことができる。 ローレンス・ゲージ以外にも、ベクトルポテンシャルを発散のないように選び、 の条件式を満たす電磁ポテンシャルを用いてマクスウェル方程式を書き換えると、 となり、第一式が静電場の場合のポアソン方程式の形になっており、クーロン・ゲージ(Coulomb gauge)と呼ばれる。 放射ゲージ 自由空間中のように電荷密度、電流密度が共にゼロの場合、式(28)の右辺がゼロとなるように関数 χ0 を選び、スカラーポテンシャル ϕ をゼロとするようなゲージを選ぶこともできる。このゲージはローレンス・ゲージであり、かつ でもあるのでクーロン・ゲージでもあるが、放射ゲージと呼ばれており、以下の基本方程式で与えられる。
自由空間への電磁波の放射 次に、自由空間への電磁波の放射の問題を取り扱う。 まず、ローレンス・ゲージにおける基本方程式系は、 真空中を仮定して、 としている。 電荷分布 ρe(x, t)と電流分布 ie(x, t) とが与えられているとき、それらの時間的変化に伴って発生する電磁波を求める。 そのためには、非斉次項をもつ波動方程式(3)および(4)を解いて、その特解を求めなければならない。
時間に依存した静電ポテンシャル 式(3)において、左辺第2項が無いときは、静電場におけるポアソンの方程式 になり、その特解は、 教科書の式(2.34)参照 式(7)では、電荷分布 ρe(x’)は時間的に変化していないから、それによって作られる場所 x における静電ポテンシャルϕ(x)も時間に依存しない。 で与えられていた。 しかし、電荷分布が時間的に変化する時でも、|x|→∞の遠方におけるポテンシャルの様子は、だいたい式(7)と同じであろうと考えられる。ただし、式(3)の波動方程式で伝わる電磁波は、有限の速度 c で空間内を伝搬していくので、x’点の電荷分布の変動の影響は、時間 |x - x’|/c だけ遅れて x 点に到達するはずである。従って、x 点でのポテンシャルϕ(x, t)は次式のように表される。
遅延ポテンシャル このような物理的考察から、式(3)の特解は式(8)のように表される。ここで積分領域 V は、観測点 x および電荷分布の存在する全領域を含む空間領域を表している。 式(4)に対しても同様に考えることができるので、式(4)の解として次式が得られる。 式(8)或いは式(9)で表される電磁ポテンシャルは、影響が光速で伝わることによる時間的な遅れを考慮して導かれるというので、遅延ポテンシャルという。 それに対して、 で表される式(10)或いは式(11)の電磁ポテンシャルも、式(3)および式(4)の解となる。 式(8)~(11)は、式(5)のローレンス条件を満足していることも確かめられている。
先進ポテンシャル 式(10), (11)は、電荷や電流の動きよりも前に、何故かその動きを知っていたかのように存在していて、それが周囲から電荷に向かって集まってくる電磁波であり、言わば 映画を逆回ししたようなイメージである。そのため、先進ポテンシャルと呼ばれている。 先進ポテンシャルの物理的解釈については色々と議論があるが、これはMaxwell方程式やそれらから導かれる波動方程式が時間反転に対して共変的(即ち、Maxwell方程式において、t’= -t とおいて変換してやっても、全く同じ方程式系が得られる)であることに由来するものである。 つまり、電磁波の伝搬においては時間反転が可能であり、映画を逆回しにしたように伝搬する波(位相共役波)も波動方程式の解となり、実在する。 位相共役波を発生させるには、縮退四光波混合などの非線形光学の手法を用いる。位相共役波には、以下のような様々な応用が考えられる。 1. 通信応用 ・ 伝搬路の障害物による波面の乱れを補正 ・ 暗号通信(信号波形を解読できないように歪ませて送信し、受信側で元に戻す) 2. 軍事応用 ・ 対光ビーム兵器に対する防御シールド 3. その他天文学や医療応用 等々