第1回 (目次) 判決手続の基本的事項の復習 請求の併合(136条)

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第1回 (目次) 判決手続の基本的事項の復習 請求の併合(136条) 2005年 民事訴訟法3 関西大学法学部教授 栗田 隆 第1回 (目次) 判決手続の基本的事項の復習 請求の併合(136条)

民事訴訟 実体法 誰がどのような場合にどのような生活利益を有するかを定める法規 実体法  誰がどのような場合にどのような生活利益を有するかを定める法規 訴訟法  法的利益を保護したり、法的利益をめぐる紛争を解決するための手続に関する法規 「民事訴訟」の語義(多義的である) 民事訴訟手続 手続を開始させる訴え 民事訴訟手続により解決される私人間の法的紛争(争訟) 個人は、自分の幸せのために生きることが認められています。何が幸せかは、人により、状況により異なりますが、通常は次のことが必要です。まず、生命があること、身体および身体的自由を害されないこと、財産を所有することが認められ、その財産を害されないこと、その財産を自由に利用しあるいは処分することができること、精神的自由を保障され、名誉や名誉感情を害されないことなどです。これらの生活利益は、国家との関係のみならず、市民相互間で尊重される必要があり、国家は、こうした利益を保護するために、法律を定めています。 誰がどのような場合にどのような生活利益を有するかを定める法規を実体法といいます。法によって認められ生活利益を法的利益といい、その法的利益を他人に強く主張する場合に、権利といいます。私人の法的利益を保護するためには、この他に、その法的利益が侵害された場合、あるいはそれに関して紛争が生じた場合に、その法的利益を保護したり、紛争を解決するための手続を国家が用意しておくことが必要です。そのための法規を、訴訟法といいます。 暴力を用いなくても自分の利益を守ることができること、あるいは他人との紛争を解決できることも、より多くの人が幸福を追求することができるために必要なことであり、社会経済の健全な発展のために不可欠なことです。そのような手続を民事訴訟手続といい、そのための制度を民事訴訟制度といいます。 民事訴訟という言葉には、いくつかの異なる意味で使われます。第一は、民事訴訟手続です。第二は、訴訟手続を開始させる訴えです。訴訟を提起するという場合は、この意味です。第三は、民事訴訟手続により解決される私人間の法的紛争です。この意味であることを明確にするために、争訟ということもあります。 T.Kurita

民事訴訟制度の目的 法的利益の保護(権利の保護) 紛争の法に従った解決(紛争の解決) 法秩序の維持 公平な論争の場の提供 T.Kurita 民事訴訟制度は、対等な私人関係にある者の間の法的紛争について、国家が設営する裁判所が中立な立場に立って、当事者の言い分を公平に聴いて、法にしたがって判断を下す手続です。民事訴訟制度の目的に関しては次のような見解があります。 第一は、法的利益の保護(権利の保護) が目的であるとする見解です。 第二は、紛争の法に従った解決(紛争の解決)が目的であるとする見解です。 第三は、法秩序の維持が目的であるとする見解です。 第四は、公平な論争の場の提供 することが目的であるとする見解です。 一般には、2番目が民事訴訟法の主たる目的としてあげられることが多いのですが、この講義では1番目を主要な目的と考えて説明していきます。ただし、2番目・3番目の目標を排除する趣旨ではありません。保護されるのは、法的利益です。「権利とは、法律上主張することができる生活利益である」という有名な定義に従えば、「法的利益」は「権利」の言い換えに過ぎず、すべての法的利益に適当な名前をつけることができることになります。しかし、民事訴訟制度により保護されるためには、権利として定着した名前が付されている必要はありません。例えば、債務整理をやっとすませた多重債務者に対して、貸してもいないのに貸金があるから返せと言ってくる闇金融業者がありますが、このような者に対して、債務者と主張された者は、債務を負っていないことを確認する判決を求めて訴えを提起することができます。その訴訟を、債務不存在確認訴訟といいます。この訴訟では、財産を奪われないという生活利益(一般財産権)と、不当な弁済要求から逃れて平穏に生活する利益(人格権)の保護が求められています。 2番目の目的は、時に「紛争の解決」と簡略に表現されることがあります。もとより、紛争が単に解決されればよいという趣旨ではありません。社会の存続発展のためには、「勤勉に働く者が報われる」との社会原則が維持されることが必要です。実体法は、その原則が維持されるように組み立てられています。紛争は、実体法により各人に認められた利益が維持されるように解決されるべきです。そうでなければ、この社会原則が崩壊し、社会は衰退していきます。民事訴訟制度は、「紛争の法に従った解決」を目的としているというべきです。「紛争の解決」というのは、その短い表現にすぎません。紛争を法に従って解決することは、法により各人に認められた権利の保護を意味し、また、法秩序の維持を意味します。したがって、1と3の目的は、2の目的から導かれる副次的な目的と考えることもできる。しかし、例えば、金銭の支払請求訴訟では、債務者が債権の存在を認めていても、なおかつ債権者は強制執行のために、裁判所に自己の権利の救済を求めることができることを考慮すると、法的利益の保護が民事訴訟法の主要な目的であると言う方がよいでしょう。 訴訟により紛争が解決されるといっても、提起された訴訟の全部が判決により終了するわけではありません。むしろ、訴えの取下げや和解などにより終了することが多いのです。後者まで含めて訴訟制度の機能を考えると、公開の法廷で公平な論争を行わせ、その結果として相当数の場合に訴えの取下げによりあるいは和解により紛争が解決され、それができないときに、裁判所が公平な論争の結果を斟酌して判決により紛争を強制的に解決するのであるということができます。このように考えると、訴訟制度の目的は、自主的な紛争解決を促し、または強制的な解決の基礎を形成するために、「公平な論争の場」を提供することにあると見ることもできる。 ただ、この講義では、伝統的な考えに従って、訴訟制度の目的を「権利の保護」または「紛争の解決」と見て説明していきます。 T.Kurita

民事訴訟手続の概略 訴え 審理(口頭弁論) 判決 通常の不服申立て 判決の確定 民事訴訟手続の概略を説明しておきましょう。 訴訟は、訴えの提起により開始され、判断材料を集めるために審理が行われ、判断材料が集まると判決が下されます。 訴え、審理、判決。 訴訟はこの3つの段階をたどるのが原則です。 大阪地裁に訴えが提起され、大阪地裁が審理をして判決をした場合に、大阪地裁を第一審裁判所といいます。当事者は、この判決に不満があれば、上級裁判所である大阪高裁に文句をいうことができます。不服申し立てです。判決に対する通常の不服申し立て方法として、控訴と上告があります。通常の不服申し立て方法がなくなったときに、判決は確定します。判決は、確定すると、その内容の正当性を原則として争うことができないという強力な効果が認められます。 T.Kurita

訴 え 管轄裁判所(4条・5条) 訴状の提出(133条) 裁判長による訴状審査(137条) 被告への送達(138条・98条以下) 訴 え 管轄裁判所(4条・5条) 訴状の提出(133条) 裁判長による訴状審査(137条) 被告への送達(138条・98条以下) 処分権主義(訴えなければ裁判なし。246条) T.Kurita

審 理(87条) 事実の主張 → 訴訟資料(狭義) 証拠調べ(179条以下) → 証拠資料 口頭弁論の終結(243条) 弁論主義 審 理(87条) 事実の主張  → 訴訟資料(狭義) 証拠調べ(179条以下) → 証拠資料 口頭弁論の終結(243条) 弁論主義 双方審尋主義 公開主義(憲82条) 審理の効率化  争点整理手続(164条以下)と集中証拠調べ(182条) T.Kurita

判 決 判決書の作成(253条) 判決の言渡し(252条,250条) 送達(255条) 判 決 判決書の作成(253条) 判決の言渡し(252条,250条) 送達(255条) 処分権主義-判決事項(246条)≒既判力の生ずる事項(114条) 自由心証主義(247条)、証明責任 直接主義(249条) 判決の不可撤回性 T.Kurita

通常の不服申立て 控訴(281条) 上告(311条) 訴訟係属の移転 判決確定の妨止(116条2項) 上訴不可分の原則 控訴審について続審主義 上告制限(312条・318条) T.Kurita

X Y 複数請求訴訟の発生形態 売買契約の 無効を主張 請求の併合 (136条) 所有権確認請求 買主 登記請求 売主 明渡請求 反訴(146条) T.Kurita

複数請求訴訟の発生 当事者の行為 請求の併合(136条) 訴えの変更(143条) 反訴(146条) 中間確認の訴え(145条) 裁判所の行為 弁論の併合(152条) T.Kurita

請求の原始的複数と後発的複数 請求併合は、当初から複数の請求について審判を開始させる点に特色がある(原始的複数)。 訴えの変更と反訴は、ある請求について審理が進んだ段階で他の請求について審判を開始させる点に特色がある(後発的複数)。問題点: 相手方の困惑と防御の困難 相手方の審級の利益 訴訟手続の長期化 T.Kurita

併合審判が強制される場合 併合審判を求めるか否かは、通常、当事者の自由に委ねられている。 次の場合には併合審判が要求されている。 紛争の一括的解決のために併合審判が個別的に規定されている場合(人訴25条・18条)。 重複起訴の禁止(142条)により併合審判が要求される場合 T.Kurita

請求の併合(136条) 同一の原告が同一の被告に対し1つの訴えをもって複数の請求をなす場合を請求の併合という。 裁判所 X Y 訴状 原告X 請求1・・・ 請求2・・・ X Y T.Kurita

請求の併合の要件 複数の請求が同種の訴訟手続によって審判されるものであること(136条)。 各請求について受訴裁判所が管轄権を有すること。(7条、13条) 法律上併合が制限ないし禁止されておらず、また、請求間の関連性が要求されている場合にはその要件を充足すること。 T.Kurita

請求の併合の態様 併合された複数の請求の審判について、原告は一定の条件を付すことができる。この条件の有無および条件の内容に従い、併合の態様はつぎの3つに分かれる。 単純併合(並列的併合) 予備的併合 選択的併合(択一的併合) T.Kurita

単純併合(並列的併合) 複数の請求のすべてについて無条件に判決を求める併合態様をいう。原則的な併合態様である。 物の給付を請求するとともに、その執行不能の場合にそなえてその価格相当額の請求(代償請求)を併合した場合には、いずれの請求についても認容判決が求められているので、単純併合である(代償請求は将来給付の訴えとなる。 T.Kurita

X Y 代償請求の例 時計の引渡請求 所有者 占有者 損害賠償請求 強制執行が成功することを見込んで 単純併合 強制執行が不成功になる場合に備えて 将来給付の請求 T.Kurita

予備的併合 法律上両立しえない複数の請求に順位を付し、先順位の請求が認容されることを後順位請求の審判の解除条件として、それらを併合する場合をいう。 併合される請求が2つの場合には、先順位の請求を主位(的)請求、後順位の請求を予備(的)請求あるいは副位請求などという。 T.Kurita

X Y 予備的併合の例 代金支払請求 売主 買主 返還請求 売買契約の 主位請請求 有効を主張 予備請求 売買契約の 無効を主張 T.Kurita

予備的併合の有用性 両請求を単純併合にすると、原告は売買契約の有効を主張しつつ、同時にその無効を主張することになり、主張の矛盾が生じて適当でない。 別訴によったのでは、代金支払請求訴訟では売買契約は無効であるとの理由で敗訴し、返還請求訴訟では売買契約は有効であると判断されて敗訴する可能性がある(矛盾した理由による二重敗訴)。 予備的併合は、こうした問題を解決するために認められた併合形態である。 T.Kurita

選択的併合(択一的併合) 同一の目的を有し法律上両立することができる複数の請求を、そのうちの一つが認容されることを他の請求の審判の解除条件として併合する場合をいう。 訴訟物について旧実体法説に立った場合に必要とされる併合形態である。 T.Kurita

Y X 選択的併合(択一的併合)の例 所有権に基づく 返還請求 借家人 家主 賃貸借契約に 基づく明渡請求 私の所有物だから明け渡せ 賃借権がある 所有権に基づく 返還請求 Y 借家人 X 家主 賃貸借契約に 基づく明渡請求 賃貸借契約は 終了したから 明け渡せ 終了して いない T.Kurita

条件付併合の許容の根拠 1 訴訟行為に条件が付されると訴訟手続が不安定になるので、条件を付すことができないのが原則であるが、予備的併合あるいは選択的併合という条件付訴訟行為は、次の理由により許される。 条件の成否が当該訴訟手続内で確定され、かつ 上記のように条件付併合を認める必要性がある。 T.Kurita

条件付併合の許容の根拠 2 原告勝訴の場合に、被告から見れば、裁判されなかった請求について勝訴判決を得る機会を奪われたことになるが、そのことによる不利益は小さい。 予備的併合の場合  主位請求が認容された場合に、原告が予備請求と同内容の請求を新たに別訴でしても、禁反言の法理ないし信義則により排斥される。 選択的併合の代表例である請求権競合の場合  一つの請求権の満足は他の請求権の消滅をもたらすという関係にあるので、強制執行がなされた後で、別の請求権について訴えが提起されても被告が勝つ。 T.Kurita

予備的併合が許される場合の拡張 予備的に併合された請求は、法律上両立しえない関係(排斥関係)にあることが本則である。その他の場合については、見解が対立している。 排斥関係にある場合に限定する説。 請求権競合の場合のように同一の目的に向けられた両立しうる請求が併合された場合にも許されるとする説。 請求の基礎が同一(審理対象が共通)で、再訴の可能性が少ない場合に許されるとする説 原告の意思を尊重して限定を付さない説(無限定説)。 T.Kurita

単純併合に親しむ請求が予備的に併合された場合の取り扱い 有効説  無限定説からは、この結論が出てくる。 一部無効説  予備請求に付された条件部分のみを無効とし、単純併合として扱う。 不適法却下説  予備請求自体を不適法なものとして却下する (福岡高判平成8.10.17判タ942-257)   T.Kurita

選択的併合が許される範囲の拡張 選択的併合は、伝統的に、同一の目的に向けられた法律上両立することができる請求について認められてきたが、次の2つの方向の拡張傾向がある。 両立しない請求についても認めてよい 両立しうる請求の趣旨に若干の差異があっても、実質的には同一の目的に向けられている場合には、選択的併合を肯定してよい T.Kurita

遺産確認請求と、相続により取得した財産の共有持分確認請求との選択的併合を認めた。 最判平成1・9・19判時1328-38 遺産確認請求と、相続により取得した財産の共有持分確認請求との選択的併合を認めた。 T.Kurita

東京地判平成3・9・17判時1429号73頁 Y X 加害者 損害賠償請求 被害者 所有権移転登記等の請求 不法行為による損害賠償義務を不動産で代物弁済する合意が成立したが未履行である 加害者 被害者 損害賠償請求 Y X 所有権移転登記等の請求 どちらかの請求を認容してほしい。 上記の選択的併合と、所有権基づく明渡請求と賃貸借契約の終了による明渡請求との選択的併合とを、比較しなさい。 T.Kurita

併合訴訟の審判 併合要件の調査  併合要件のみの欠如の場合には、裁判所は可能な限り独立の訴えとして扱い、必要に応じて弁論を分離し、あるいは管轄裁判所に移送すべきである。但し、分離審判を望まないことが明らかな場合には、却下する。 審理・裁判  併合された請求は、その後に弁論の制限あるいは分離がなされなければ、同一の訴訟手続で審理裁判される。争点整理、弁論および証拠調べは、すべての請求に共通になされる T.Kurita

単純併合の審判 裁判所は、すべての請求について判決をしなければならない。一部の請求について判決を脱漏すれば、追加判決をしなければならない(258条1項)。 弁論の分離や一部判決は可能であり、それをするか否かは裁判所の裁量に委ねられている(通説)。ただし142条等に注意。 1つの判決に対して上訴が提起されると、判決全体の確定が遮断され、判決されたすべての請求が上訴審に移審する。 T.Kurita

予備的併合の審判 すべての請求が条件関係で結ばれているので、一括して取り扱われる。弁論の制限は許されるが、分離は許されない。 先順位請求を認容する場合  後順位の請求について裁判できない 先順位請求を排斥する場合  後順位請求についても裁判しなければならず、併合された請求を個別に棄却する一部判決は許されない。 いずれの場合も、判決は1個の全部判決である。 T.Kurita

主位請求認容判決に対する控訴 被告のみが控訴の利益を有する。 控訴審が主位請求を棄却すべきものと判断すれば、原判決を取り消して主位請求を棄却した上で、一審判決のない予備請求について裁判することができる 控訴審が予備請求を認容する場合には、予備請求についてはまだ判決による応答がないから、原告からの附帯控訴は必要ない。 T.Kurita

主位請求棄却・予備請求認容判決に対する上訴 原告・被告の双方が控訴の利益を有する。 この判決に対して被告のみが控訴を提起し、原告が控訴も附帯控訴も提起しなかった場合の取扱については、議論が分かれている。 判例・多数説は、審判の対象となるのは予備請求に関する部分のみであり、主位請求に関する部分は対象とならないとする(最判昭54・3・16民集33-2-270。 これに批判的な見解も有力である。 T.Kurita

練習問題 返還請求 X Y 代金支払請求 主位請求 売主 買主 予備請求 売買契約は無効だ 売買契約は有効だ 契約が有効なら代金を払え 代金は支払済みだ 予備請求 第一審は、主位請求を棄却し、予備請求を認容した。これに対して、Yのみが控訴した。Xは、控訴も附帯控訴も提起しなかった。 控訴審は、売買契約は公序良俗に反し、無効であると判断した。控訴審は、主位請求を認容することができるか。 T.Kurita

選択的併合の審判 すべての請求が条件関係で結ばれているので、一括して取り扱われる。弁論の分離は許されないが、制限することはできる。 一つの請求を認容するときは、他の請求について判断する必要はない。 原告を敗訴させるためには、すべての請求を棄却しなければならない。併合された請求を個別に棄却する一部判決は許されない。 上訴が提起されるとすべての請求が上訴審に移審する。 T.Kurita

請求認容判決に対する控訴 控訴審が第一審の認容した請求Aではなく別の請求Bを認容すべきであるとの判断に達した場合の取扱いについては、次の2つの選択肢がある。 控訴審は請求Bを認容するだけでよく、原判決を取り消す必要はない。(判例) 原判決を取り消した上で請求Bを認容する。 原審が認容した請求以外の請求を上訴審が認容する場合に、その請求の認容を求める原告からの控訴や附帯控訴は必要ない。 T.Kurita