オルソポジトロニウムの寿命測定による束縛系QEDの実験的検証 日本物理学会 第61回年次大会 愛媛大学、松山大学 2006.3.27 オルソポジトロニウムの寿命測定による束縛系QEDの実験的検証 東大素粒子センター(ICEPP) 片岡洋介 浅井祥仁、小林富雄
イントロダクション 束縛系QED オルソポジトロニウム(o-Ps) o-Ps寿命測定 さらに精度を上げてO(α2)補正項を検証 高次輻射補正の扱いが難しく、未だ一般的な計算手法が確立せず、実験的な検証が必要 オルソポジトロニウム(o-Ps) 寿命が長く(約142ns)、直接測定が可能 ハドロンのような強い力に伴う不定性がない O(α2)の計算が実際に行われている o-Ps寿命測定 東大、ミシガン大によって精密測定が行われている 現在の精度は約200ppm さらに精度を上げてO(α2)補正項を検証 G.S.Adkins(2000) term correction(ppm) tree level 0.0 A (α/π) -23893.9 B α2ln(1/α) -87.3 C (α/π)2 240.2
実験手法 物質との相互作用による対消滅(pick-off)の正確な取り扱いがカギ 3γ崩壊 (λ3γ) Pick-off (λ(t)) 観測される崩壊率 1. Ge検出器を用いてγ線のエネルギースペクトラムを測定し、 2. 3γの連続分布と511keVのピーク(pick-off)の比からλpick(t)/λ3γを測定 熱化過程を考慮した正確な測定が可能 (詳細は後述) この実験手法に基づく、さらに高精度な測定を行っている e+線源 ターゲット (シリカ) o-Ps生成 γ Δt o-Ps 物質(ターゲット) γ
今回の実験のセットアップ 前回(2001)のセットアップの限界~統計誤差170ppm 統計を増やすため抜本的な改善が必要(詳細は後述) 線源を変更 トリガーシステムを変更 シンチレータを変更 統計10倍化 真空容器 線源 トリガー用プラシン シリカエアロジェル YAPシンチレータ 4台 (o-Ps寿命測定用) Ge検出器(同軸型) 3台 (pick off rate 測定用)
セットアップI 線源周り β+線源 陽電子トリガー シリカエアロジェル アンチトリガーを導入 β+線源 前回(22Na)はプラシン中で大部分が対消滅 68Ge (Eβmax1.9MeV)を採用 0.4μCi 陽電子トリガー プラシン(200μm厚) アルミナイズドマイラーのコーンで光収集 シリカエアロジェル 0.03g/cm3 前回はシリカパウダー アンチトリガーを導入 約半数のe+がシリカを抜ける (DAQレートを圧迫) 円筒形プラシン(1mm厚)で陽電子を捕捉 ½インチPMT 1インチPMT ライトガイド プラシン (200μm) プラシン (1mm) 68Ge 105mm e+ シリカエアロジェル 65mm
セットアップII γ線検出器 高統計な測定に適したYAP(YAlO3)シンチレータを導入 減衰時間約30nsのシャープな波形 (前回:NaI~230ns) pile up が大幅に減少 優れた時間分解能(~400ps) 安定な物性 潮解性がなく、非常に硬い結晶 その他 光量 40% (NaI比) Z=39 400ps @511keV 今回使用したYAPの結晶 50mm×50mm×33mm
解析I time walkの補正 YAPの補正 速い立ち上がり γ線のエネルギーで補正 約400psのtime resolution Geの補正 遅い立ち上がり(~200ns) 立ち上がりの時間で補正 約3~5nsのtime resolution Walk エネルギー Walk cut 立ち上がり時間
解析II 3γのnormalization Energy spectrum Ge time spectrum data simulation prompt 2γ(511keV) data decay curve 3γ simulation accidental simulation(Geant4)による3γスペクトラムを dataの3γ連続分布でnormalize pick offの割合を求める (n2γ/n3γ) 崩壊時間毎にslice pick-offの割合の時間依存性が分かる
解析III pick-off rate 測定されたpick-off rate pick-off rateをlife time o-Psの熱化を反映した カーブが観測される 数百nsで収束、約2% pick-off rateをlife time fittingに取り込むことで 正確に崩壊率が求まる
解析IV time spectrum fitting YAP time spectrum Fitting 関数 prompt 3γ decay curve Free parameter: λ3γ,N0,C accidental
Systematic error 正確に見積もり、simulationにフィードバック SRT (遅い立ち上がり成分) Simulation(Geant4)で考慮されない検出器の特性が主要なエラー SRT (遅い立ち上がり成分) 円筒同軸Geの複雑な電場 Resolutionが悪く、テールになるため、offlineでカット Efficiencyを正確に見積もり、simulationに入れる必要がある (エネルギー依存性、位置(電場の強弱)依存性) Response function 電荷収集のもれ(特にSRT成分)やpile up 2γピークの数や3γのスペクトラムを変化させる 正確に見積もり、simulationにフィードバック cut 立ち上がり時間(50-150keV) 電場の弱い部分で SRTが発生 G4 G4(補正) pile up 電荷収集のもれ 511keV peak 現在、スタディ中
Life timeと今後の計画 Preliminary(系統誤差含まず) fitting start time依存性は 比較的少ない エアロジェルのラン(約2ヶ月) O(α2)計算値 統計エラー 150ppm Preliminary(系統誤差含まず) fitting start time依存性は 比較的少ない 熱化過程の補正 systematicなずれ systematic errorを中心に 現在調査中 次期計画 (データ収集開始) pick offが約1/3のシリカパウダーを採用 efficiencyなどpick offに比例するsystematicエラーを抑える
まとめ オルソポジトロニウムの寿命測定のセットアップを構築 高統計、高精度な測定が可能になった 2ヶ月の運用で統計エラー150ppmのデータを収集 統計量の増加を確認 次の長期ラン(約半年)で統計エラーを100ppm以下に抑える systematicエラーの評価と改善を行っていく