シンクロトロン放射・ 逆コンプトン散乱・ パイオン崩壊 ~HESS J16161-508は陽子加速源か? CRコロキウム 2006年1月25日 内山 秀樹
動機 すざく AO-1で未同定ガンマ線源 HESS J1614-518を提案したのは良いが・・・ HESSのTeVガンマ線が陽子起源or電子起源であることに対してX線の観測で何が言えるかをはっきりさせたい。 シンクロトロン放射、逆コンプトン散乱、パイオン崩壊を復習・勉強。
目次 宇宙線加速と超新星残骸 シンクロトロン放射 逆コンプトン散乱 パイオン崩壊 HESS J1616-508は陽子加速源か? まとめ
宇宙線加速 宇宙からは高エネルギー(1012~1020eV)の宇宙線が等方的にやってくる。 主成分は陽子。陽子の1%程度が原子核。 電子も1%程度含まれる。 加速現場はいったい どこか? →超新星残骸 (衝撃波加速) knee ankle 宇宙線粒子の積分エネルギー分布
超新星残骸 X線 シンクロトロン放射 100TeV以上の電子加速の直接的証拠 電子が加速→同様に陽子も加速されているであろう 電子が加速→同様に陽子も加速されているであろう →陽子加速の間接的証拠
超新星残骸 TeVガンマ線 TeVガンマ線が見える →TeV以上のエネルギーの粒子の存在の直接証拠 逆コンプトン散乱:電子起源 パイオン崩壊:陽子起源→陽子加速の直接証拠
シンクロトロン放射 高エネルギー粒子が磁場で曲げられて放射を起こす過程 エネルギーEe電子の放出光子の典型的エネルギーEp Ep~4keV×(B/10μG)×(Ee/100TeV)2 速度βの粒子のpower (erg/s) →同じβの時、電子のシンクロトロン放射に比べて陽子の 放射は非常に弱い(~3×10-7) →強度はUBβ2γ2に比例 :磁場のエネルギー 密度(erg/cm3)
シンクロトロン放射 RX J1713 n(E)∝E-pの粒子分布の時→冪(p-1)/2のパワーロー E5/2 E(p-1)/2 Synchrotron Log(E/1MeV) 自己吸収が効く E5/2 RX J1713 E(p-1)/2
逆コンプトン散乱 高エネルギー粒子に光子(CMB)が叩かれてTeVガンマ線になる過程。 エネルギーEe電子の放出光子の典型的エネルギーEp ETeV ~10TeV×(hν0/2×10-4eV)×(Ee/100TeV)2 hν0:ターゲット光子(CMB)のエネルギー kB・(2.7K)~ 2×10-4eV 速度βの粒子のpower (erg/s) →強度はUphβ2γ2に比例 Uph=a(2.7K)4 =4×10-13 erg / cm3 :CMBのエネルギー密度
逆コンプトン散乱 IC スペクトル:n(E)∝E-pの粒子分布の時 RX J1713 →冪(p-1)/2のパワーロー:シンクロトロンと同じ Synchrotron E(p-1)/2 E(p-1)/2 IC Log(E/1MeV)
パイオン崩壊 高エネルギー陽子がガスとぶつかってパイオンを作り、そのパイオンが崩壊してガンマ線が放出 pp → π0 → 2γ pp → π0 → 2γ 放出光子の典型的エネルギー: 1GeV~ σpp(Ep) ~30[0.95+0.06ln(Ekin/1GeV)] mb (Ekin>1GeV) ~ 0 mb (Ekin < 0.3 GeV) 強度(積分フラックスJγ) Jγ(>0.3GeV) ~ 3 ×10-8 ×A cnts/s/cm2 A=(WCR/1050erg)(d/1kpc)-2(n/1cm-3) WCR:全陽子の持つ全エネルギー d:ソースからの距離 n:ガスの密度 →陽子のエネルギーと周りのガスの密度だけで強度が決まる。
パイオン崩壊:スペクトル Γp=2.0 Γp=2.5 Γp=2.75 Log(E/1GeV)
=(逆コンプトン散乱TeVガンマ線の上限値を決めること) X線とTeVガンマ線の関係 シンクロトロン放射と逆コンプトン散乱 どちらも電子起源 Psyn / PIC = UB / Uph (速度βの電子1個当たり) →逆コンプトン散乱の強度∝シンクロトロン放射の強度 磁場>星間磁場~3μG (X線強度の上限値を決めること) =(逆コンプトン散乱TeVガンマ線の上限値を決めること) パイオン崩壊 パイオン崩壊によるTeVガンマ線強度は陽子のエネルギーと周りのガスの密度だけに依存。
HESS J1616-508 FX(2-10keV) < 2×10-13erg/cm2/s HESSの銀河面サーベイによって見つかった新TeVガンマ線源。X線・電波の対応天体は無い。 TeVガンマ線では非常に明るい。 Fγ(>0.2TeV)=4×10-11erg/cm2/s ~0.19Crab すざくPVフェーズで観測 FX(2-10keV) < 2×10-13erg/cm2/s すざく 2-10keV HESS
HESS J1616-508は陽子加速源か? HESS J1616のTeVガンマ線は 逆コンプトン散乱では説明できない! F(>0.2TeV) =4.3×10-11/cm2/s Γ=2.4 103yr SNR WCR= 1051erg, d=1kpc, n=1/cc (A=1) π0 (A=1) IC Log(E/eV) HESS J1616のTeVガンマ線は 逆コンプトン散乱では説明できない! Fx (2-10keV) =3.8×10-11 erg/cm2/sの時 (Vela Jr. 3.2 ×10-11 erg/cm2/s) Fx (2-10keV) =2×10-13 erg/cm2/sの時 (HESS J1616の上限値)
HESS J1614-518ですざくは何を見たいのか? 同じくHESSの新TeVガンマ線源。 X線、電波に対応天体無し。(X線ではASCA,Chandra,XMMいずれもそもそも観測が無い。) TeVガンマ線では今回発見された新ソース中で最も明るい。 F(>0.2TeV) = 0.25 Crab すざくAO-1で提案中。 →何か見えたらもちろん嬉しい。 →厳しいX線強度上限値は 陽子起源を示唆。嬉しい。 「見えないことを見たい」 すざくは大面積、低バックグラウンド、 迷光少ない→上限値決めに適する。
まとめ シンクロトロン放射X線と逆コンプトン散乱TeVガンマはどちらも電子起源なので強度は比例する。 HESS J1616のTeVガンマ線強度はICでは説明できないことがすざくによるX線の観測から分かった。 本当はこんな単純な話では無いのかもしれませんが・・・。 ・X線が見えない→TeVはパイオン崩壊が見えているかも ○ ・TeVはパイオン崩壊が見えている →X線は見えない × この場合どうX線が見えるかは更に勉強が必要。
いろいろと 反省します おまけ ・つっちー(正) と 1Jy(ジャンスキー)=10-23erg/s/cm2/Hz カール・ジャンスキー:GCからの電波を発見(1931) 間違えやすいもの ・HESS J1616-508(正)とHESS J1614-518(正)と HESS J1614-508(誤)とHESS J1616-518(誤) ・つっちー(正) と うっちー(誤) いろいろと 反省します