海氷の生成を考慮した 流氷運動の数値計算 指導教官 山口 一 教授 船舶海洋工学科 80403 昆 純一
本研究の背景 板氷からの成長 新たな海氷の生成 ・ 本研究室では、流氷運動の数値計算の研究が続けられており、 熱的影響を考慮しない力学的なモデルとしてDMDFモデルが 開発されている。 ・ 鈴木・松沢(卒論、1995)や長岡(修論、1999)によって DMDFモデルと熱的モデルとの結合がなされた。 しかし、その内容は板氷になってからの成長のプロセスに限られ、海氷が存在しない海域から新たに海氷が生成するプロセスは考慮されていなかった。 板氷からの成長 新たな海氷の生成
本研究以前(長岡、1999)の、全氷量の計算結果と観測結果の推移 本研究の背景Ⅱ そのため、海氷が新たに生成する、海氷の増加期についての 計算に限っては、誤差が大きいという問題が残されていた。 1月 2月 3月 4月 観測値 全氷量 計算値 本研究以前(長岡、1999)の、全氷量の計算結果と観測結果の推移
本研究の目的 以上の背景を踏まえ、本研究ではDMDFモデルを基盤として、海氷が存在していない海域から新たに海氷が生成するプロセスをモデル化し考慮する。 それにより、オホーツク海における、海氷の増加期の 流氷計算の精度向上を目指す。 新たな海氷の生成
本研究で行ったこと 1.熱モデルの検証のため、単純化した条件下で熱の出入りと 氷厚の変化のシミュレーションを行い、経験式との比較をした。 その結果に基づいて、熱に関するパラメーターを修正した。 2.熱モデルで重要となる、海水温観測データがオホーツク海 南部に限られるため、海水温分布の推測を行った。 3.海氷が存在していない海域から、新たに海氷が生成する プロセスをモデル化し、DMDFモデルと結合した。 そして、オホーツク海について海氷の増加期の計算を行った。
1月の海水温分布の推定 海流図 94年1月1日の海水温データ (この範囲しか観測データはない。) 東サハリン海流の影響 宗谷暖流の影響 気象庁のオホーツク海数値予報資料中の 94年1月1日の海水温データ (この範囲しか観測データはない。) 海流図 東サハリン海流の影響 宗谷暖流の影響
推定の仕方 ・ 南ほど海水温は高い。 (275-280K) ・ 北部では、西側よりも東側の方が 海水温は高い。 1月の海水温分布の推定Ⅱ 推定の仕方 海流 ・ 南ほど海水温は高い。 (275-280K) ・ 北部では、西側よりも東側の方が 海水温は高い。 西側:271.3K 東側:275K ・ 間宮海峡の北は、その東西よりも 海水温は高め。 275K ・ 計算結果と観測値の比較による 修正も行った。 270K 275K 280K 結氷点(271.35K)
開水面から新たに海氷が 生成するプロセスのモデル化 ① モデル中の氷は一種類 実際の海氷の生成 軟氷 板氷 氷晶 海氷のない海域 この間の数値は 判らない。 海水の短波長反射率:0.2 板氷の短波長反射率:0.6 モデルでの海氷の生成 海氷のない海域
開水面から新たに海氷が 生成するプロセスのモデル化Ⅱ ② 大気に熱を奪われて 海水温低下 ↓ 海水温=結氷点 更に熱を奪われる → 奪われた熱量分の 海氷が生成 風との乱流顕熱熱伝達 海水からの 放射 太陽からの 短波長放射 大気からの 長波長放射 反射 海面の熱収支
開水面から新たに海氷が生成するプロセスのモデル化Ⅲ ③ 現実 モデル 上から見た1計算格子 計算では氷が受ける風や海流による力は 氷の水平面の 面積に比例している。 水平方向に大きくて、 極端に薄い海氷は、 計算中では 異常に速い速度で 動くことになる。 それを避けるために、 氷厚を3mm以上に 限定し、それから 水平面の面積を 決定した。 断面図 任意 3mm 体積は等しい
④ 薄すぎる氷は厚くなるまで、観測結果との 比較の対象としない。 開水面から新たに海氷が生成するプロセスのモデル化Ⅳ ④ 薄すぎる氷は厚くなるまで、観測結果との 比較の対象としない。 非常に薄い海氷は普通の板氷とは物性が異なるので、 SSM/Iデータ(本研究で観測値として用いた、衛星観測 データ)では、海氷とみなされていないと思われる。 ↓ 観測値と比較する時点で氷厚15mm以下の海氷は、 観測値との比較するデータから除外する。
計算条件・用いたデータ ① 計算格子:25km ② 計算ステップ:60s ③ 海氷分布データ:格子サイズ25kmのSSM/Iデータ
計算領域 オホーツク海全域を 80×104の計算格子に分割 カムチャツカ半島 シベリア大陸 計算格子 10×10 格子サイズ 25km 計算格子 10×10 格子サイズ 25km サハリン島 北海道 千島列島
計算結果 2週間の計算結果 オホーツク海全域に占める 海氷の面積比(%) 60 50 40 94/1/10 1/14 1/18 1/22 海氷の面積比(%) 海水温を一様に ← 結氷点として、海氷の 生成 を考慮した計算 60 観測値 ↓ 50 ← 海水温データを与えて 海氷の生成を考慮した計算 40 ← 板氷からの成長のみを 考慮した計算 94/1/10 1/14 1/18 1/22
94年1月の密接度分布の推移 衛星からの観測データ(SSM/Iデータ) 白:密接度0 黒:密接度1 1/1 1/4 1/7 1/10
図の見方 図の見方Ⅱ 時間変化の比較 が、時間変化によって 密接度(格子に占める海氷の面積比)が 増えた格子。 密接度が減った格子。 0.4 が、時間変化によって 密接度(格子に占める海氷の面積比)が 増えた格子。 密接度が減った格子。 3日後 0.4 0.4 密接度差分
計算結果Ⅱ 94/1/4-7 計算上の変化の仕方 実際の変化の仕方 時間変化による増減の 位置が一致している。
図の見方Ⅱ 観測値と計算結果の比較 が計算結果の密接度の方が 小さい格子。 が計算結果の密接度の方が 大きい格子。 が計算結果の密接度の方が 小さい格子。 が計算結果の密接度の方が 大きい格子。 →は、格子毎の海氷の平均速度。 観測結果 計算結果 0.4 0.4
計算結果Ⅲ(94/1/4-7) 観測値と計算結果の 密接度差分表示 本研究以前のモデルによる 計算結果 本研究の計算結果
氷圧の表示 計算結果Ⅳ 計算結果Ⅳ 1000000 0 1 氷圧分布(Pa) 密接度分布 94年1月22日 密接度分布とは別に氷圧分布を見る必要があることが判る。 サハリン油田があるところで、 氷圧が高いために、リッジや 洗掘現象が問題となっている。 1000000 0 1 氷圧分布(Pa) 密接度分布 94年1月22日
結論 1.海氷の増加期においてもほとんど海氷が増加しなかった 本研究以前のモデルに比べて、現実と同じように海氷が増加する ようになった。 本研究以前のモデルに比べて、現実と同じように海氷が増加する ようになった。 2.海水温分布を推測することで、特定の場所で海氷が増加していく様子をモデル上でも表現できるようになった。 ただし、計算期間が1月末になると、海氷の結氷・融解が観測より 進みすぎる傾向がある。このことは、海水温分布の季節的変動を 考慮する必要があることを示している。 3.本研究で構築した、海氷が新たに生成するプロセスのモデルは、説明したように多くの仮定を含むものであり、データの蓄積などの 検討を重ねる必要がある。
4.気象データの一部(放射熱量)を間接的にしか求めていないため、大まかな傾向を表現できても、短期的・局所的な誤差が存在している。 気象データについても、詳細な観測データが必要である。 5.力学的誤差が存在している。 これは長岡(修論、1999)が指摘していた、計算で求めた風成海流の値が実際よりも大きい傾向があることが原因とみられ、修正が必要である。 6.本研究で構築した、海氷が新たに生成するプロセスのモデルは 多くの仮定を含むものである。 実際の現象についてのデータの蓄積などの検討を重ねる必要がある。
↓ 熱モデルの検証 ↓ 新たな海氷の生成に関する 経験式などが存在しない。 氷厚 (m) 熱モデルの計算結果 板氷からの成長モデルの 検証を行った。 その結果から、 乱流顕熱係数を 0.00175から7に修正した。 上下2つは、経験式 ΣT [K]
計算結果Ⅳ 力学的要因による誤差
計算結果Ⅴ 局所的・短期的な変化の比較 実際の変化 計算上の変化
計算結果Ⅵ 海水温分布の変化