深宇宙通信への応用に向けた サブ・ガイガーモード光子検出器の開発 片岡研究室 宮本義人 (学籍番号:5310A094-6) 深宇宙通信への応用に向けたサブ・ガイガーモード光子検出器の開発 について発表させて頂きます。片岡研究室 宮本です。よろしくお願いします。
目次 深宇宙通信について サブ・ガイガーモード光子検出器について 光子検出器の性能評価 深宇宙通信の検証実験 まとめ ここに目次が書かれています。はじめに、深宇宙通信とサブガイガーモード光子検出器の話をします。そして、組み上げたサブ・ガイガーモード光子検出器の性能評価をおこなった結果を示します。次に、サブ・ガイガーモード光子検出器を用いた深宇宙通信の検証実験の結果を示します。それで、最後に「まとめ」がくるような発表の流れとなっています。
深宇宙通信のターゲット 火星や、その他の惑星との通信 距離:> 4億km 光が本命 送られた電力 赤外レーザー光:1um 電波:1cm 届く電力: 電波通信 赤外レーザー通信 電波通信 赤外レーザー通信 波長 1cm 1um 送信電力 35W 5 W データ送信速度 2.8 Mbits/s 46 Mbits/s 通信モジュールの直径 送信機:3m、受信機:34m 送信機:0.3m、受信機:5m 深宇宙通信とは、宇宙空間で遠くにいる相手とバイナリー情報のやりとりをすることです。距離としては、4億km以上が想定されていて、火星やそれより遠方の惑星がターゲットとなっています。通信手段としては、電波なども考えられますが、赤外レーザーを利用した通信が有力となっています。PTが送られた電力で、PRが実際に検出器に到達する電力となっています。赤外レーザーの波長は1um程度、電波の波長は1cm程度であるため、赤外レーザーのほうがより多くの電力を受信させることができ、より長距離な通信が可能となります。この表では、電波と赤外レーザーで、火星通信モージュールのスペックが比較されています。電波では火星から地球までの通信に成功していて、スペックはこのようになっています。一方、不景気の影響で中断してしまった、赤外レーザー通信モジュールのスペックはこのようになっています。赤外レーザーにすることで、より高速な通信が可能となり、通信モジュールをコンパクト・低消費電力にすることができます。以上の理由から、深宇宙通信では、赤外レーザー通信が世界のスタンダードになりつつあります。
地球への画像転送時間は約90分! (@電波通信) ここにある写真は、高解像度カメラで撮影された火星の写真となっています。 この写真は電波で地球に送信されていて、画像を転送するのに、約90分間もかかるそうです。 そこで、より長距離でより高速な深通信システムの開発が現在求められており、 NASAでは2015年までに、通信速度100Mbps以上を達成することが目標となっています。 通信速度100Mbpsにすることで、この火星の画像を約5分で転送させることが可能となります。 火星探査機マーズ・リコネッサンス・オービターに搭載されている 高解像度カメラ(HiRISE)により撮影された火星の画像 http://hirise.lpl.arizona.edu/ESP_024398_1835 地球への画像転送時間は約90分! (@電波通信)
NASAがおこなった検証実験 超伝導素子(SSPD)光子検出器デモ 周波数変換型 Si APD光子検出器デモ(25アレー) 2年後 データ転送速度が非常に高い 極低温(~1.8K)にする必要がある 1ビット転送に必要な光子数 0.5 photons/bit データ転送速度 781 Mbits/s 火星の画像を、約40秒間で転送可能 (電波だと約90分間) 周波数変換型 Si APD光子検出器デモ(25アレー) Opt. Lett., 31, 444 (2006). 2年後 1ビット転送に必要な光子数 0.47 photons/bit データ転送速度 188 Mbits/s 2006年には、NASAで超伝導光子検出器SSPDを用いたデモ実験が行われています。 結果として、SSPDのデータ転送速度は非常に高く、先程の火星の画像を約40秒で送信することが可能で十分すぎるくらいの性能を達成しています。 ただし、超伝導ナノワイヤーを極低温にすることが大きな問題となっています。 極低温にすることがネックになっているのか、NASAは2年後に周波数変換型Si APDを用いたデモ実験をおこなっています。この検出器のメリットとして、常温で動作可能、信号が到達する時間のゆらぎタイミングジッターが短いことなどが挙げられます。ただし、波長変換をするため消費電力が大きい、光の入射以外で信号を検出してしまう暗件数率が高いなどが問題となっています。この検出器は、APDを25個のアレーにすることが想定されており、データ転送速度は188Mbits/sで火星の画像を約3分で転送することができます。 火星の画像を、約3分間で転送可能 (電波だと約90分間) 波長変換をするため、消費電力・暗計数率が大きい 常温で動作可能、ジッターが短い ワイヤー幅:100nm
動機 衛星搭載のためには、性能だけではなく、様々なコストを考える必要あり 低消費電力 コンパクト ・・・ InGaAs APD光子検出器に注目している (波長感度:1.0um~1.6um) 低消費電力、コンパクト 暗電流値・アフターパルス確率が高い NASAが、超伝導検出器からSi APDにシフトしたことから分かるように、衛星搭載のためには、性能だけではなく、低消費電力・コンパクトなど様々なコストを考える必要があります。 そこで、InGaAs APDを用いた光子検出器が注目されています。InGaAs APDとは赤外波長に感度のあるAPDのことで、非常にコンパクトであり、100V程度の電圧で動作させることができます。 ただし、暗電流・アフターパルス確率が高い問題があります。これらの問題を解決するために、さまざまなInGaAs APDの動作方式が模索されています。 それで、我々はInGaAs APDをサブ・ガイガーモードで駆動させる動作方式に注目しています。研究目的はこうなっています。 研究目的: InGaAs APDをサブ・ガイガーモード動作させることで解決!
InGaAs APDの動作方式 アクティブ・クエンチング方式 サブ・ガイガーモード方式 Break down voltage 時間 InGaAs APD 印加電圧 アクティブ・クエンチング方式 サブ・ガイガーモード方式 InGaAs APD 印加電圧 Break down voltage 時間 光子入射 アクティブ・クエンチング サブ・ガイガーモード 発生キャリア数 ○多い ×少ない アフターパルス確率 暗計数率 ×高い ○低い 深宇宙通信では、InGaAs APDの動作方式として、アクティブ・クエンチング方式が報告されています。アクティブ・クエンチング方式では、 ブレークダウン電圧以上の印加電圧でAPDを駆動させます。 そして、光子を検出したら、アクティブ・クエンチング回路でAPD印加電圧を急激に下げる手法をとっています。この手法ですと、 発生するキャリア数が多くすることができます。ただし、アフターパルス確率・暗計数率は高くなってしまう問題があります。そこで、我々はInGaAs APDを サブ・ガイガーモードで駆動させた光子検出器に注目しています。サブ・ガイガーモードとは右の図のように常にブレークダウン電圧以上の印加電圧を APDにかけて、光子を検出する手法です。これにより、アフターパルス確率・暗計数率を改善させることができます。ただし、APDで発生するキャリアの 数が非常に少ないため、電荷信号から電圧信号へ高効率に変換させることができる、低雑音電荷積分アンプを使用する必要があります。 低雑音電荷積分アンプ使用
サブ・ガイガーモードInGaAs APD光子検出器 特徴 低暗計数率・低アフターパルス 低消費電力 ペルチェ素子で冷却可能 シンプルな系 +HV(0V~59.205V) -80℃冷却 整形アンプ カウンター 1550nm e- 電荷積分アンプ ディスクリミネーター 学部時代から開発を続けてきた サブ・ガイガーモード光子検出器の概要図がここに書かれています。学部時代では、サブ・ガイガーモード光子検出器で1光子レベルの微弱な光を検出できること を実証しました。光の入射によりAPDで発生した電荷信号は、電荷積分アンプで電圧信号へ高効率に変換されます。そして、変換された電圧信号は整形アンプに通すことで、周波数帯域を狭くして、S/N比を向上させています。 この検出器は、低暗計数率・低アフターパルス・低消費電力な特徴を持っています。また、冷却温度がー80度であることから、ペルチェ冷却により光子検出器をコンパクトにすることが可能で、非常にシンプルな系となっています。この検出器は発生キャリアが少ないので、どれだけ雑音を減らせるかが鍵となっています。そこで、光子検出器の雑音低減のためにいろいろ頑張ってやりました。 低雑音化のために、、 InGaAs APD 暗電流の低いAPDの選定 APDとCSAの冷却 CSA前段の入力容量を低減させる 固定タイプのBNCコネクタ使用
Afterpulse probability 光子検出器の性能評価 Counts / 10000s Afterpulse probability Detection efficiency Dark count rate [Hz] Time [ns] Time [us] アフターパルス確率 4.0%(τd=0us) 1.0%(τd=0.4us) 暗計数率DC:5.6Hz (@検出効率DE:0.21%) ジッター:3.3ns RMS 波長変換型 Si APD (25アレ-) アクティブ・クエンチング InGaAs APD (単素子) サブ・ガイガーモード InGaAs APD 暗計数率 (DC) 10kHz/アレー? (@DE:7.6%) 428kHz (@DE:28%) 5.6Hz (@DE:0.21%) ジッター (J) 0.04ns RMS < 0.85 ns RMS 3.3 ns RMS アフターパルス 1.0%(τd=0.07us) 8.0%(τd=24us) 1.0%(τd=32us) 4.0%(τd=0us) 1.0%(τd=0.41us) サブ・ガイガーモード光子検出器の性能評価をおこなった結果がここに示されています。これが暗計数率・光子検出効率を測定した結果で、暗計数率は5.6Hzとなりました。そして、これは信号を検出する時間のゆらぎタイミングジッターの測定結果で、3.3 ns RMSという結果になりました。そして、これがアフターパルス確率時間分布を測定した結果です。アフターパルスとは、光が入射したあとにAPDに残った電荷が遅れて出力されてしまう現象のことです。横軸は光が入射してから経過した時間で、黒線が指数関数でフィッティング曲線となっています。得られた確率時間分布を積分することで、アフターパルス確率を見積もったところ、デッドタイム0usでアフターパルス確率は4%となり、デッドタイム0.4usでアフターパルス確率は1%となりました。結果として、期待された通り、暗計数率・アフターパルス確率を低くすることに成功しました。
深宇宙通信のフォーマット {00} {11} {01} オンオフ変調(OOK)通信 パルスポジション変調(PPM)通信 Bits/Symbolを増やすことで、受信感度向上 Slot数を増やすほど、暗計数率による影響大 最後にサブ・ガイガーモード光子検出器を用いて、深宇宙通信のデモ実験がおこないました。 一般的な光通信は、オンオフ変調通信 OOK通信という方式がとられており、シンボルフレームのなかに 光があるか・ないかで、1・0情報をおくる手法となっています。一方、深宇宙通信では、パルスポジション変調通信 PPM通信が有力な候補となっています。PPM通信は携帯電話の赤外線通信にも使われているそうです。 PPM通信では、シンボルフレームを複数のスロットにわけて、光が存在する スロット位置によって、複数ビットのバイナリー情報を与えています。たとえばシンボルフレームを4つのスロットにわけた場合を考えます。 このシンボルフレームでは、1番目に光信号が検出されているので{0000}の信号が送られたことになります。 そして、次のフレームでは{0001}の信号が送られていることになります。 この手法では、シンボルあたりのビット数を増やすことで、1ビットを検出するのに必要な光量を下げることができて、ビット受信感度を向上させることができます。 ただし、スロット数を増やすことで、暗計数率の影響が大きくなるので、低暗計数率な特徴をもつサブ・ガイガーモード光子検出器はPPM通信に適しています。 {00} {11} {01}
サブ・ガイガーモードInGaAs APD 光子検出器デモ Slot幅:30ns 検出した光子数 / ビット ビットエラーレート 6 Bit/Symbol 7 Bit/Symbol 8 Bit/Symbol 9 Bit/Symbol サブ・ガイガーモード光子検出器でPPM通信をおこなった結果がここに書かれています。 横軸がビットあたりに検出された光子数、縦軸がビットエラーレートとなっています。黒線は 理論曲線となっています。この赤がシンボルあたりのビット数が7ビットのときで、青が7ビット、 緑が8ビット、紫が9ビットとなっています。そして、 結果として、光子検出器の暗計数率が低いため、シンボルあたりのビット数を 増やしても、ビットエラーレートの理論曲線のずれはほとんど見られませんでした。 シンボルあたりのビット数を増やすことは、データ転送速度の向上につながっていいです。 「ビット数 / シンボル」を増やしても問題なし ⇒ データ転送速度の向上につながる
データ転送速度100Mbpsを達成するためには? 波長変換型 Si APD (25アレー) アクティブ・クエンチング InGaAs APD (単素子) サブ・ガイガーモード InGaAs APD 暗計数率 (DC) 10kHz/アレー? (@DE:7.6%) 428kHz (@DE:28%) 5.6Hz (@DE:0.21%) ジッター (J) 0.04ns RMS < 0.85 ns RMS 3.3 ns RMS アフターパルス - 8.0%(τd=24us) 1.0%(τd=32us) 4.0%(τd=0us) 1.0%(τd=0.41us) 最大カウントレート 2.5MHz / アレー 33kHz 最大 5.3MHz (実測:>2.5MHz) PPM通信での データ転送速度 187.5 Mbps (@6 Bits/Symbol) 0.1 Mbps 最大7.5 Mbps (@6 Bits/Symbol) 深宇宙通信で報告されているほかのAPD光子検出器と比較した表がここに書かれています。 赤で囲まれたのが、今回測定したサブ・ガイガーモード光子検出器です。期待された通り、暗計数率・アフターパルス確率は非常に低くすることに成功しました。 性能評価の結果から、深宇宙通信をおこなったときの最大データ転送速度を 試算したところ、7.5Mbpsという結果が得られて、アクティブ・クエンチングよりも高いデータ転送速度 が達成できるという結果になりました。また、25アレーを想定したSi APDよりも低い結果となりましたが、 8×8アレーと8波長多重を組み合わせて使うことで、NASAが目標としているデータ転送速度100Mbpsを達成できるという試算が得られました。 8×8アレーと8波長多重をつかえば、 データ転送速度100Mbps達成可能
まとめ ご静聴ありがとう ございました 光子検出器の性能評価をおこなった結果、「暗計数率・アフターパルス確率」を低くすることに成功した PPM通信では、Bits/Symbolを増やしても、暗計数によるビットエラーレートの悪化は見られなかった 8×8アレーと8波長多重をつかえば、NASAが目標としているデータ転送速度:100Mbpsを達成できる可能性を示した これが「まとめ」となっています。 サブ・ガイガーモード光子検出器の性能評価をおこなった結果、 「暗計数率・アフターパルス確率」を低くすることに成功しました。 実際に、パルスポジション変調(PPM)通信をおこなったところ、 シンボルあたりのビット数を増やしても、暗計数によるビットエラーレートの悪化 はほとんど見られませんでした。 そして、8×8アレーと8波長多重を組み合わせて使うことで、NASAが目標としているデータ転送速度100Mbpsを達成できる可能性を 示しました。 ご静聴ありがとう ございました