Ⅰ. 5. 1). B). 喫煙関連間質性肺炎 杏林大学医学部付属病院呼吸器内科 石井 晴之
日本呼吸器学会 CO I 開示 発表者名: 杏林大学医学部付属病院呼吸器内科 石井晴之 日本呼吸器学会 CO I 開示 発表者名: 杏林大学医学部付属病院呼吸器内科 石井晴之 演題発表に関連し、開示すべきCO I 関係にある企業などとして、 ①顧問: なし ②株保有・利益: なし ③特許使用料: なし ④講演料: なし ⑤原稿料: なし ⑥受託研究・共同研究費: なし ⑦奨学寄付金: 日本ベーリンガーインゲルハイム社 ⑧寄付講座所属: なし ⑨贈答品などの報酬: なし
<喫煙関連肺疾患> 慢性閉塞性肺疾患 (COPD) 原発性肺癌 喫煙関連間質性肺疾患smoking-related interstitial lung diseases (SRILD) ・肺ランゲルハンス細胞組織球症 pulmonary Langerhans’ cell histiocytosis (PLCH) ・呼吸細気管支炎を伴った間質性肺疾患 respiratory bronchiolitis-associated interstitial lung disease (RB-ILD) ・剥離性間質性肺炎 desquamative interstitial pneumonia (DIP) ・特発性肺線維症 idiopathic pulmonary fibrosis (IPF) 文献1)より引用
IPF, iNSIP*, RB-ILD, DIP, COP, AIP 特発性間質性肺炎国際指針の主要6疾患 IPF, iNSIP*, RB-ILD, DIP, COP, AIP An official American Thoracic Society/European Respiratory Society statement:2013年 *iNSIP: ideiopathic nonspecific interstitial pneumonia 文献2)より引用
①呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患 <RB-ILD>
RB-ILDは、1989年にYousemらが 病理学的にRB(respiratory bronchiolitis)を認め、 労作時呼吸困難や拘束性換気障害などの臨床症状を伴う疾患 として提唱された。 1974年に喫煙者の手術肺や剖検肺に、 呼吸細気管支腔を中心に褐色調のマクロファージの集簇が みられたものを、respiratory bronchiolitis (RB)と命名した。 本疾患は喫煙率は100%であり、禁煙で改善し予後良好 文献3), 4)より引用
喀痰、血痰、胸部不快感もあるが、臨床症状は軽度。 無症状の事もある(胸部異常陰影を指摘されるのみ) ばち指はみられない。 発症関連因子: 喫煙 疫学: 40~50歳代の喫煙者に多く、男女比2:1 臨床像: 乾性咳嗽・労作時呼吸困難を認める。 喀痰、血痰、胸部不快感もあるが、臨床症状は軽度。 無症状の事もある(胸部異常陰影を指摘されるのみ) ばち指はみられない。 約半数でfine cracklesを聴取 文献5), 6)より引用
画像所見: 胸部エックス線写真:両側上肺野優位に不鮮明な粒状影、網状影をみとめる 異常陰影が認められない事も多い 異常陰影が認められない事も多い 胸部HRCT:小葉中心性粒状影、斑状すりガラス影 ・上肺優位の分布で小葉中心性肺気腫 ・蜂巣肺はみられない ・呼気CTでair trapping所見がみられることあり 文献7), 8)より引用
<臨床検査> 血清KL-6, SP-D, LDHは正常例も高値例もあり、症例により異なる 呼吸機能検査: 軽症では肺拡散能が軽度低下するが、正常例もある 進行例では閉塞性換気障害をみとめ、残気量の増加をみとめる 気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage fluid: BALF): 喫煙者にみられる褐色マクロファージ、黒色顆粒を含んだマクロファージを多数みとめる。 好中球を中等量みとめることもある 文献9)より引用
<病理学的所見> 小葉中心部主体に病変は散在性にみられる 呼吸細気管支から近傍の気腔内に褐色色素を貪食した肺胞マクロファージの集積がみられる 細気管支壁や周囲肺胞隔壁に小円形細胞浸潤や線維化が軽度みられる 滲出する肺胞マクロファージも線維化巣も小葉中心性の分布を呈し、びまん性に病変分布することはない 線維化に陥った肺胞隔壁の断裂(気腫性変化)をみとめることも多い 鑑別診断は後述するDIP、石綿肺などのじん肺 文献3), 6)より引用
喫煙者において、HRCTで小葉中心性に粒状影・すりガラス影 をみとめ、BALFでリンパ球増多を認めずマクロファージ増多が主体であれば、RB-ILDの可能性が高いとされている。 治療・予後: 多くは禁煙のみで改善し予後良好である 重症例もしくは禁煙にて改善しない例では、ステロイド治療を考慮する 高度に線維化が進行する症例は稀である 文献2), 10)より引用
②剥離性間質性肺炎<DIP>
DIPは、1965年にLiebowらが提唱した疾患でUIP: usual interstitial pneumoniaとは 組織学的および臨床的所見で異なる 間質性肺炎である。 気腔内へ肺胞マクロファージが広範、高度に滲出 胸膜側から肺内側まで比較的均一で、びまん性に分布 胸部HRCTで斑状ないしびまん性の均一なすりガラス影 5年生存率は80%以上と、UIPよりも予後良好 文献11), 12)より引用
*Ⅱ型肺胞上皮細胞が剥離して肺胞腔に多数の細胞が集簇している、とされて名付けられた診断名である。実際には肺胞マクロファージの集簇であることが分かった現在も名称変更されていない。
発症関連因子: 喫煙、粉塵、膠原病、ウイルス感染など 発症関連因子: 喫煙、粉塵、膠原病、ウイルス感染など 疫学: 特発性間質性肺炎の3%未満 30~40歳代の喫煙者に多く、男女比2:1 80%以上が喫煙者で喫煙指数は中央値31 pack-year 臨床像: 咳嗽や労作時呼吸困難が数ヶ月の経過で緩徐に進行 80%以上が労作時呼吸困難を自覚 ばち指は26~46% 胸部聴診上ではfine cracklesを60%で聴取 文献13), 14), 15)より引用
画像所見: 胸部エックス線写真:両側下肺野に淡いすりガラス影、肺容積の減少は著しくはない 胸部HRCT:両側肺底部優位に両側肺にすりガラス影が拡がる ・すりガラス影に伴って気腫性変化や嚢胞性変化がみられる ・すりガラス影は周囲との境界が比較的明瞭 ・すりガラス影の濃淡は比較的均一である 牽引性気管支拡張像や蜂巣肺は通常みられない 文献17), 18)より引用
<臨床検査> 血清KL-6, SP-D, LDHは正常例も高値例もあり、症例により異なる 呼吸機能検査: 正常ないしは軽度の拘束性換気障害、拡散能障害はみられる 気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage fluid: BALF): 肺胞マクロファージが主体で、喫煙者では褐色粒子を貪食した細胞が目立つ。 また好酸球数が増加する症例も少なくない。 文献12), 15), 18)より引用
単球/マクロファージに発現するCD68が強陽性 <病理学的所見> 病変は胸膜側から肺内側まで比較的均一で、びまん性に分布 気腔内へ肺胞マクロファージが広範・高度に滲出し、背景に軽度の構造改変を伴った線維化と炎症細胞浸潤 滲出する肺胞マクロファージはジアスターゼ抵抗性のPAS陽性顆粒がみられ、鉄染色で軽度の陽性反応を呈する 線維性に肥厚した肺胞壁が断裂し、気腫性変化も伴う (CD68免疫染色 100×) HE染色で肺胞腔内に多数集簇する細胞は 単球/マクロファージに発現するCD68が強陽性 (HE染色 100×) 文献19), 20)より引用
特にfibrotic NSIP, UIP, RB-ILD 石綿肺などの塵肺症 薬剤性肺炎 好酸球性肺炎 Langerhans細胞組織球症 鑑別診断: 特発性間質性肺炎の他の病型 特にfibrotic NSIP, UIP, RB-ILD 石綿肺などの塵肺症 薬剤性肺炎 好酸球性肺炎 Langerhans細胞組織球症
非常に緩徐に進行する例が、ほとんどである 大部分の症例は禁煙とステロイド薬で軽快・改善がみられる 治療・予後: 非常に緩徐に進行する例が、ほとんどである 大部分の症例は禁煙とステロイド薬で軽快・改善がみられる 10年生存率78%という報告もあり、UIPよりも予後は良好 しかし線維化が進行する症例など治療抵抗例もみられる 急性増悪する症例は少ない 文献12)より引用
問題:喫煙関連間質性肺炎について正しいものはどれか RB-ILDは、しばしば蜂巣肺をみとめる RB-ILDは、拘束性換気障害が主体である RB-ILDは、呼吸細気管支周囲にマクロファージ集積がある DIPは、肺胞腔内に剥離したⅡ型肺胞上皮細胞が集簇する DIPは、ステロイド薬が不応性のことが多く、予後不良である
問題:喫煙関連間質性肺炎について正しいものはどれか RB-ILDは、しばしば蜂巣肺をみとめる RB-ILDは、拘束性換気障害が主体である RB-ILDは、呼吸細気管支周囲にマクロファージ集積がある DIPは、肺胞腔内に剥離したⅡ型肺胞上皮細胞が集簇する DIPは、ステロイド薬が不応性のことが多く、予後不良である 正解は C )
問題:喫煙関連間質性肺炎について正しいものはどれか RB-ILDは、しばしば蜂巣肺をみとめる →気腫性変化はあるが蜂巣肺は伴わない(P.8) b. RB-ILDは、拘束性換気障害が主体である →進行したものは閉塞性換気障害が主(P.9) c. RB-ILDは、呼吸細気管支周囲にマクロファージ集積がある → (P. 10) d. DIPは、肺胞腔内に剥離したⅡ型肺胞上皮細胞が集簇する →集簇しているのは肺胞マクロファージ(P.18) e. DIPは、ステロイド薬が不応性のことが多く、予後不良である →ステロイド薬は奏功し、禁煙のみで軽快する例 もみられる(P.20)
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