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非正規雇用が心理的ストレス反応に及ぼす影響: 全国規模のコホート研究

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1 非正規雇用が心理的ストレス反応に及ぼす影響: 全国規模のコホート研究
可知悠子 大塚俊昭 川田智之 日本医科大学 衛生学公衆衛生学 第87回日本公衆衛生学会総会 於:岡山 2014年5月22日(木)

2 背景 非正規雇用の現状 非正規雇用とは①有期雇用、②パートタイム、③間接雇用の3条件のいずれかを有する雇用形態であり、雇用者全体の約3割を占める。

3 背景 先行研究 非正規雇用がメンタルヘルスに及ぼす影響については2000年以降、北欧を中心にコホート研究による知見が報告されているが、我が国ではほとんど報告がない。 メンタルヘルスが悪く非正規雇用で就労せざるをえない人々もいるため、非正規雇用とメンタルヘルスとの関連には双方向の因果関係が考えられる。 非正規雇用がメンタルヘルスを悪化させるかどうかはコホート研究によって検証する必要がある。

4 背景 目的 本研究は中高年の被雇用者を対象とした全国規模のコホート研究により、非正規雇用が重度の心理的ストレス反応 serious psychological distressの発生に及ぼす影響を検討した。

5 方法 データソースと対象者 データソース 対象者 中高年縦断調査の個票データ
ベースライン(2005年)の雇用形態と4年間の追跡期間(2006~2009年)における心理的ストレス反応の発生との関連を検討 対象者 ベースライン調査に回答した50~59歳の被雇用者のうち、ベースラインで循環器疾患や心理的ストレス反応のなかった15,222名(男性8,486名、女性6,736名)

6 方法 結果変数:重度の心理的ストレス反応 K6質問票日本語版(Kessler et al. 2002; 古川ら, 2003)
過去 30 日間の非特異的な心理的ストレス反応 non-specific psychological distress を評価 6項目:例)神経過敏に感じましたか 5件法:「全くない(0点)」から「いつもの(4点)」 合計点:0~24点(値が高いほど心理的ストレス反応が高い) 重度の心理的ストレス反応の定義 K6合計点が14点以上 DMS-Ⅳ気分・不安障害の有病率が5%の時、陽性的中率は85% 世帯全体の可処分所得を世帯の人数の平方根で割って算出。

7 方法 予測変数:雇用形態 雇用状況に関する質問への回答を2つに分類 「どのようなかたちで仕事をしていますか。」 正規雇用 パート・アルバイト
 「どのようなかたちで仕事をしていますか。」 正規雇用 パート・アルバイト 派遣労働者 契約社員・嘱託 正規雇用 世帯全体の可処分所得を世帯の人数の平方根で割って算出。 非正規雇用

8 方法 交絡変数 年齢(連続変数) 婚姻状況(既婚、未婚、離婚・死別) 1か月の家計支出(世帯の人数の平方根で割った後、4分位で分類)
労働時間(<40、≧40時間) 職業(専門・技術、管理、事務・販売・サービス、保安・運輸・生産、その他) 企業規模(1-29、30-299、 、 1000人以上、官公庁) 勤続年数(<5、5–14、15-29、≧30年) 慢性疾患(あり、なし) K6合計点(0-13点) 世帯全体の可処分所得を世帯の人数の平方根で割って算出。 いずれもベースラインで測定

9 方法 統計解析 離散時間生存分析 感度分析 重度の心理的ストレス反応に対する雇用形態の ハザード比(HR)とその95%信頼区間(CI)を算出
労働時間による層別解析 婚姻状況による層別解析 分析は男女別に実施 すべての検定において、有意水準は5% 世帯全体の可処分所得を世帯の人数の平方根で割って算出。

10 結果 ベースラインにおける対象者の特徴 男性 女性 正規 非正規 特徴 N = 7770 N = 716 N = 2664 N = 4072
結果  ベースラインにおける対象者の特徴 男性 女性 正規 非正規 特徴 N = 7770 N = 716 N = 2664 N = 4072 年齢(歳) 54.4 (2.7) 55.2 (1.7) 54.2 54.3 K6合計点(0-13点) 2.4 (3.1) 2.7 (3.3) 2.8 (3.2) 婚姻状況 既婚 91.0 80.0 75.7 86.7 未婚 4.8 10.8 6.9 離婚・死別 4.0 8.9 17.2 10.7 欠損 0.2 0.3 等価家計支出(/月) 第1分位 (低支出) 22.0 45.8 30.0 34.0 第2分位 18.4 18.0 15.4 20.1 第3分位 16.3 12.2 14.9 第4分位 (高支出) 33.4 28.8 21.0 9.9 11.9 10.9 10.0 慢性疾患 あり 31.0 28.5 24.8 22.4 なし 69.0 71.5 75.2 77.6 数値は%または平均値(標準偏差)。 世帯全体の可処分所得を世帯の人数の平方根で割って算出。

11 男性 女性 正規 非正規 特徴 N = 4,376 N = 383 N = 1,640 N = 2,759 労働時間(週/時間)
< 40 7.6 28.5 16.1 79.0 ≥ 40 91.5 69.1 82.7 19.8 欠損 0.9 2.4 1.2 職業 専門・技術 25.1 15.8 27.6 10.1 管理 21.8 5.7 4.9 0.6 事務・販売・サービス 23.6 47.5 52.6 保安・運輸・生産 25.2 39.0 13.8 20.0 その他 3.8 13.6 5.6 15.7 0.5 0.8 1.0 企業規模(人数) 1-29 25.8 32.8 33.5 35.1 30-299 28.6 36.9 36.8 35.5 12.5 12.2 10.0 9.0 ≥ 1000 22.4 11.3 11.1 官公庁 9.3 3.4 9.2 1.4 3.5 1.5 5.5 勤続年数 (年) < 5 62.0 12.1 39.7 5–14 18.6 37.8 15–29 26.3 7.0 ≥ 30 44.1 4.6 22.5 7.8 4.2 数値は%または平均値(標準偏差)。 世帯全体の可処分所得を世帯の人数の平方根で割って算出。

12 雇用形態と重度の心理的ストレス反応発生との関連
結果  雇用形態と重度の心理的ストレス反応発生との関連 最大4年間の追跡中・・・ 心理的ストレス反応の発生有り: 男性374名、女性364名 追跡不能: 男性440名、女性271名 ハザード比(95%信頼区間) 雇用形態 無調整 全交絡変数調整† 男性(n = 8486) 正規雇用 1.00 非正規雇用 2.00 ( )* 1.79 ( )* 女性(n = 6736) ( ) 0.96 ( ) *P < 0.05. †年齢、婚姻状況、家計支出、労働時間、職業、企業規模、勤続年数、慢性疾患、K6合計点 世帯全体の可処分所得を世帯の人数の平方根で割って算出。

13 結果 感度分析①:労働時間による層別解析 ハザード比(95%信頼区間) 雇用形態 無調整 全交絡変数調整† 男性(n = 8400)
結果 感度分析①:労働時間による層別解析 ハザード比(95%信頼区間) 雇用形態 無調整 全交絡変数調整† 男性(n = 8400) <40 h/week 正規雇用 1.00 非正規雇用 2.28 ( )* 2.82 ( )* ≧40 h/week 1.86 ( )* 1.77 ( )* 女性(n = 6655) 1.49 ( ) 1.24 ( ) 1.04 ( ) 0.84 ( ) *P < 0.05. †年齢、婚姻状況、家計支出、労働時間、職業、企業規模、勤続年数、慢性疾患、K6合計点 世帯全体の可処分所得を世帯の人数の平方根で割って算出。

14 結果 感度分析②:婚姻状況による層別解析 ハザード比(95%信頼区間) 雇用形態 無調整 全交絡変数調整† 男性(n = 8471) 既婚
結果 感度分析②:婚姻状況による層別解析 ハザード比(95%信頼区間) 雇用形態 無調整 全交絡変数調整† 男性(n = 8471) 既婚 正規雇用 1.00 非正規雇用 1.86 ( )* 1.68 ( )* 未婚 2.03 ( ) 3.38 ( )* 離婚・死別 2.54 ( )* 2.76 ( ) 女性(n = 6719) 1.07 ( ) 0.88 ( ) 2.45 ( )* 6.27 ( )* 0.76 ( ) 0.81 ( ) *P < 0.05. †年齢、婚姻状況、家計支出、労働時間、職業、企業規模、勤続年数、慢性疾患、K6合計点 世帯全体の可処分所得を世帯の人数の平方根で割って算出。

15 考察 まとめと考察 男性全体と未婚女性の非正規雇用者は、正規雇用者と比べ、心理的ストレス反応の発生リスクが高いことが示された。
男性と未婚女性の多くは主な稼ぎ手であり、おそらく不本意で非正規雇用として働いている層と考えられる。 より効果的な非正規雇用対策を構築するために、非正規雇用がなぜ心理的ストレス反応の発生リスクを高めるのか、メカニズムについて更なる検討が必要である。


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