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第5章 無機化学 5・1 単体の構造と物性 5・1・1 典型元素
5・1 単体の構造と物性 5・1・1 典型元素 [1族] どうしてHは分子性結晶で、Li, Na, ・・・は金属結晶なのか? なぜ、Li2, Na2・・・はないのか? [2族] BeとMgがアルカリ土類金属とかなり異なった性質を示す。 [13族] B12:分子結晶。Al, Ga, In, Tl:金属。 [14族] CO2とSiO2の構造の違い。 C, Si, Ge, α-Sn:なぜ、Pbはダイヤモンド構造をとらないのか? なぜ、C、Siにはアモルファスが存在するのか? [15族] N2, P4(黄リン), As4(不安定), Sb4(不安定), Bi4(未発見?)なぜ Nは他の同族元素と異なるのか?(なぜP2, As2 は無いのか?) [16族] なぜ、O8にならないか?(なぜS2, Se2, Te2 は無いのか?) なぜ、S、Seにはアモルファスが存在するのか? なぜOとSはらせん構造をとらないのか?
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5・1・2 遷移元素(3~11族元素) 主遷移元素 (n-1)d1~10ns0~2 3d 21Sc~29Cu 4d 39Y~47Ag 5d 72Hf~79Au 内遷移元素 (n-2)f0~14(n-1)s2(n-1)p6(n-1)d0~2ns2 4f 57La~71Lu (ランタノイド) 5f 89Ac~103Lr(アクチノイド) 3族 希土類元素 21Sc、39Y、57La~71Lu 4~7族 前期遷移元素 8~10族 26Fe~28Ni 鉄族元素、44Ru~46Pd、76Os~78Pt 白金族元素 ☆ 内遷移元素の特徴 ランタノイドは3価になることが多い。化学的性質は互いによく似ている。 アクチノイドはいずれも放射性元素であり、またNp以下は人工元素である。ThからPuまでは4価以上が安定、Am以降は3価が安定である。
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◎陽イオンは有色のものが多い。典型元素の陽イオンはほとんど無色である。← dオービタルとs、pオービタルの違い。
☆ 主遷移元素の特徴 ◎最外殻に存在する電子の数はほとんどの元素で2である。したがって、遷移元素の化学的性質は、原子番号が増加しても大きく変化しない(例えば、単原子イオンは2価の陽イオンが多い)。 ◎陽イオンは有色のものが多い。典型元素の陽イオンはほとんど無色である。← dオービタルとs、pオービタルの違い。 Sc Ti V Cr Mn Fe Co Ni Cu 3d14s2 3d24s2 3d34s2 3d54s d54s d64s d74s d84s2 3d104s1 Y Zr Nb Mo Tc Ru Rh Pd Ag 4d15s2 4d25s2 4d45s1 4d55s d55s d75s d85s d105s0 4d105s1 La Hf Ta W Re Os Ir Pt Au 5d16s f145d26s2 4f145d36s2 4f145d46s2 4f145d56s2 4f145d66s2 4f145d76s2 4f145d106s0 4f145d106s1
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5・2 酸と塩基・酸化と還元 5・2・1 酸・塩基の定義
5・2 酸と塩基・酸化と還元 5・2・1 酸・塩基の定義 酸と塩基については現在二通りの考え方がある。一つは Brønsted-Lowry説で、もうひとつの定義はLewis説である。 Brønsted-Lowry説によれば、「酸とはプロトン供与体であり、塩基とはプロトン受容体である」、と定義される。 この定義に基づく酸と塩基をそれぞれBrønsted酸、Brønsted塩基と呼ぶ。この場合、中和は酸から塩基へのプロトン移動である。 ArrheniusとBrønsted-Lowryでは、特に塩基の定義が異なる。 NH3+H2O ⇔ NH4++OH- Brønsted-Lowryの定義をArrheniusのそれと比較して、水溶液中に 限定していないこと、および塩基の表現が大きく変わったことが 注目に値する。 しかし、水素を含んでいないものは永久に酸とは見なされない という欠点がなお残されていた。
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Lewis説では、「酸とは電子対受容体であり、塩基とは電子対供 与体である」、と定義される。この定義に基づく酸と塩基をそれ ぞれLewis酸、Lewis塩基と呼ぶ。 Lewis塩基は非共有電子対またはπ電子系を持っており、Lewis酸 は多くの金属イオンのように空のオービタルに電子対を受け入れ るものである。 Lewisの定義では、プロトンの源を持たない物質も酸・塩基であ り得る。例えば、 Na2O+SO3 → 2Na++SO42- という反応では、SO3はO2-イオンの電子対を受け入れるから酸で あり、O2-イオンは塩基である。
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5・2・2 硬い酸と軟らかい酸、硬い塩基と軟らかい塩基 Lewis酸塩基はそれぞれ二種類に大別して考えると便利であるこ とが分かってきた。それは硬い酸と軟らかい酸、硬い塩基と軟ら かい塩基である(HSAB)。 硬い酸とか硬い塩基は反応中心の電荷や非共有電子対が反応中 心に強く局在していて、分極率の小さい(電子雲がひずみづらい、 つまり硬い)ものをいい、軟らかい酸とか軟らかい塩基というの は電荷や非共有電子対が比較的非局在化していて分極率の高いも のをいう。 この分類によれば、硬い酸は硬い塩基と反応してより安定な塩 を作り、また軟らかい酸は軟らかい塩基と反応してより安定な塩 を作る。
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分極率の復習 2・4・1 van der Waals力で紹介した。 分極率は電場によって原子や分子の電荷分布等がどれだけ歪むかを表している。 電子分極率、原子分極率、配向分極率 分散力は原子あるいは分子が大きくなるにつれて強くなる。これは重原子ほど電子分極率が大きくなるからである。 レジメp.18の表参照。分子結晶の凝集力はvan der Waals力である。
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アルミニウムイオンは Al3++4F- = AlF4- のようにフッ化物イオンとはよく反応するが、臭化物イオンやヨ ウ化物イオンとはほとんど反応せず、アルミニウムイオンに対す る親和力の順は次のようになる。 F->Cl->Br->I- 水銀(Ⅱ)イオンは Hg2++4I- = HgI42- のようにヨウ化物イオンとはよく反応するが、フッ化物イオンと はあまりよく反応せず、水銀(Ⅱ)イオンに対する親和力はアルミニ ウムイオンとは全く逆である。 F-<Cl-<Br-<I-
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アルミニウムイオンのようなイオンは、酸素と硫黄に対して O>S のような親和力の順になり、水酸化物イオンとは反応して水酸化 物の沈殿を生成するが、硫化物イオンとはほとんど反応せず、難 溶性の硫化物を与えない。 一方、水銀イオンはアルミニウムイオンとは逆に O<S のような親和力に順になり、水酸化物も沈殿するが、極めて難溶 性の硫化物を沈殿する。
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アルミニウムイオンはイオン半径が小さくて、電荷が高く(すなわち電荷密度が高い)、原子番号が小さいから電子数が少ないため電子分極率が小さいのに対して、水銀(Ⅱ)イオンはイオン半径が大きくて、電荷密度がアルミニウムイオンに比して小さく、電子分極率が大きい。 アルミニウムイオンのようなイオンを感覚的に硬いLewis酸と称するのに対して、水銀(Ⅱ)イオンは柔らかいLewis酸と称される。 ◎ 硬いLewis酸は硬いLewis塩基と反応して、イオン結合性の化合物を生成する。 ◎ 柔らかいLewis酸は柔らかいLewis塩基と反応して共有結合性の生成物を与える。 ◎ 硬い酸と柔らかい塩基、柔らかい酸と硬い塩基の間には強固な結合が形成されない。 という基準だけで無機のみならず、有機の反応の進行を予想することができる。このような考え方を酸と塩基の硬さと柔らかさ(HSAB)の原理という。
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水素イオンは極めて硬いLewis酸である。ハロゲン化物イオンが 硬いほど水素イオンと強い結合を形成するので、酸として強さは 弱くなる。酸としての強さの順は次のようになる。 HI>HBr>HCl>HF 天然においてもHSABの実例が見られる。 硬いLewis酸のNa+、K+、Ca2+、Mg2+、Si4+、Al3+、Ti4+は酸素と結 合してケイ酸塩岩石の主成分をなしている(親石元素)が、これ らは決して硫化鉱床の鉱石の主成分になることはなく、定性分析 でどの様な条件でも硫化物の沈殿を生成することはない。 硫化物として硫化鉱床に産するCu2+、Pb2+、Zn2+、Ni2+、Co2+な ど(親銅元素)はいずれも柔らかいないしは中間のLewis酸で、こ れらは決してケイ酸塩岩石や炭酸塩岩石の主成分をなすことはな い。これらの金属イオンは定性分析で酸性あるいはアルカリ性で 硫化物の沈殿を与える。
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π電子を持つアルケンや芳香族化合物は柔らかい塩基に分類される。 従って、これらの化合物と、柔らかい酸に分類されるAg+, Pt2+, Pd2+, Hg2+ などの金属イオンとの錯体はできやすく、また、これらの金属イオンがア ルケンや芳香族化合物の反応の触媒として機能するゆえんである。 一方、堅い酸であるNa+やMg2+イオンとの錯体は作りにくい。
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5・2・3 酸塩基反応と酸化還元反応 Lewisの定義によれば、酸塩基反応とは酸(電子対受容体)が塩 基(電子対供与体)の持つ孤立電子対を塩基と共有して共有結合 性の化合物を生成する反応ということになる。 一方、酸化還元反応とは、酸化剤が還元剤の電子を受け取るこ とによって、両者が電子を共有することなく、完全に一方から他 方へ電子が移行する反応である。 電子の動きに着目すると、酸塩基反応と酸化還元反応の間にあ る共通性が見いだされる。すなわち、酸と酸化剤、塩基と還元剤 との間にはある共通性があり、実際に、同じ化学種が酸として反 応するときと酸化剤として反応するときがある。
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例えば、反応 H++NH3 → NH4+ (酸塩基反応) 2H++Zn → H2+Zn2+ (酸化還元反応) では、H+は電子に乏しい状態にあり、NH3の持つ孤立電子対を受 け取り共有することによって塩を作ったり(酸塩基反応)、Znの 持つ電子を1個受け取って中性原子を経て単体分子なったり(酸化 還元反応)する。 4I-+Hg2+ → [HgI4]2- (酸塩基反応) 2I-+Cl2 → I2+2Cl- (酸化還元反応) の例では同じ化学種が塩基または還元剤として反応している。ま た S2-+2H2O → H2S+2OH- (酸塩基反応) S2-+2Fe3+ → S+2Fe2+ (酸化還元反応) の場合には、電子供与体としての塩基または還元剤から電子受容 体としての酸または酸化剤に電子が移動する。しかし、酸塩基反 応では構成原子に酸化数の変化はない。
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一般に、電子受容体をA、電子供与体をDで表すと、酸塩基反応 と酸化還元反応を 酸塩基反応 A+D → A-D 酸化還元反応 A+D → A-+D+ のように書くことができる。 酸塩基反応では、AとDの間に新しく配位結合が形成され、反応 を推進する駆動力は本質的にA-D結合の強さである。 これに対し、酸化還元反応は、 A+e- → A- D →D++e- の二段階に分けて考えることができる。すなわち、Aの電子受容反 応(還元)とDの電子供与反応(酸化)との組み合わせから成って いる。気相では、電子供与体(還元剤)のイオン化エネルギーが 小さいほど、また電子受容体(酸化剤)の電子親和力が大きいほ ど、反応は右に進む。従って、電子親和力が大きいほどAは強い酸 化剤であり、イオン化エネルギーが小さいほどDは強い還元剤であ る。
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