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民事法の基層と現代的課題(3-1) コースの定理と損害賠償ルール
今日の講義の目的 (1)コースの定理の基本的な考え方を理解する (2)ルールの中立性という発想を理解する (3)コースの定理の限界を理解する (4)不法行為に基づく損害賠償制度とコースの定理の関係を理解する (5)債務不履行に基づく損害賠償と不法行為に基づく損害賠償のメカニズムの違いを理解する 民事法の基層と現代的課題
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パレート効率性 ・パレート改善:誰の経済厚生を悪化させることなく、少なくとも一人の経済厚生を改善する
・パレート効率的な資源配分:パレート改善の余地のない資源配分 パレート効率性:望ましい資源配分であるための必要条件(一つの価値観) 民事法の基層と現代的課題
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望ましい社会状態 (例)可能な資源配分が3つある。 状態1から状態2への変更はパレート改善
状態2から状態3、状態3から状態2への変更はともにパレート改善ではない ⇒パレート効率的な状態は状態3か状態2。どちらかの状態が望ましい。 状態2から状態3への移行はパレート改善ではないから望ましくない×(パレート基準の誤用) 状態2と状態3ではパレート基準ではランキングはつけられない。 民事法の基層と現代的課題
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コースの定理 (1)権利の帰属が明確 (2)情報が完備 (3)交渉(取引)に費用がかからない
→(賠償制度や環境税、強行法規的な規制などがなくても)交渉によって効率的な資源配分が達成される 民事法の基層と現代的課題
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コースの定理の例 甲はピアノを弾きたい。隣の乙はその騒音に迷惑している。考えられる資源配分は以下の2つ。 (1)防音装置をつけてピアノを弾く
(2)防音装置なしでピアノを弾く 防音装置の設置費用C。 乙はL円もらってピアノの音を我慢するのと、何ももらえないでピアノの音がない(防音装置が付けられた状態)のが無差別。 乙はピアノの音を我慢するのと、L円払ってピアノの音に苦しまなくなるのが無差別。 (所得効果ない世界) 民事法の基層と現代的課題
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この例での効率的な資源配分 (a) L>C ⇒(1)「防音装置をつけてピアノを弾く」が効率的 (b) C>L
⇒ (2) 「防音装置なしでピアノを弾く」が効率的 民事法の基層と現代的課題
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デフォルトルール (A)乙の了解なしに甲はピアノを弾くためには防音装置が必要。 (B)甲は自由にピアノ弾くことができる。
民事法の基層と現代的課題
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交渉過程 (A)+(b) ルールでは防音装置を付けることになっているが、防音装置なしが効率的 コースの定理の世界
効率的な状態に移ると甲はCの利益。乙はLの損失。甲は乙にXだけお金を払って防音装置設置の義務を免除してもらう。甲はX≦Cなら払ってもよく、乙はX≧Lなら受け入れる。(b)だからC >Lのはず。 →交渉の結果防音装置なしでピアノを弾く。 民事法の基層と現代的課題
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交渉過程 (B)+(a) ルールでは防音装置を付けなくていいことになっているが、防音装置ありが効率的 コースの定理の世界
効率的な状態に移ると甲はCの損失。乙はLの利益。乙は甲にYだけお金を払って防音装置設置を付けてもらう。乙はY≦Lなら払ってもよく、甲はY≧Cなら受け入れる。(a)だからL >Cのはず。 →交渉の結果防音装置を付けることに。 ⇒デフォルトルールが非効率的⇒デフォルトを交渉の出発点として効率的な状態が交渉によって実現。 民事法の基層と現代的課題
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コースの定理とルールの中立性 ・デフォルトルールが(A)(B)いずれであっても交渉の結果効率的な資源配分が達成される。
・効率的な資源配分が一つなら、デフォルトルールと実現される状態は無関係 ⇒ルールの中立性:デフォルトルールの設計は実現される状態と無関係 但し所得分配には大きな影響 デフォルトルールが(A)なら甲から乙への所得の移転、(B)なら乙から甲への所得の移転 民事法の基層と現代的課題
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コースの定理の世界と法・司法制度 コースの定理が貫徹する世界の政府の役割 (1)デフォルトルールの設計 (2)取引(契約)の保護
・どんなデフォルトルールでも効率的な資源配分 →公平性の観点からのみデフォルトルールを設計すればよい。 ・ルールは全て任意法規であるべき(強行法規不要) ~契約自由の原則が貫徹する世界 民事法の基層と現代的課題
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コースの定理の諸仮定の意味 ・権利の帰属が明確:デフォルトルールがはっきりしている。=交渉の出発点がはっきりしている。
・情報が完備:情報の格差がない(甲・乙ともL,Cを知っている) ⇒これ以上ふっかけたら相手は拒否すると知っている ⇒お互い無茶はいわない ・取引費用がゼロ ⇒取引費用が大きいと効率的な資源配分に移行できず、非効率的なデフォルトルールが実現 民事法の基層と現代的課題
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コースの定理の重要性 ・市場観の革新 ~分権的な相対取引の集積⇔集権的な(整備された)市場 ・相対交渉・契約の重要性の見直し
⇒法と経済学、契約の理論の出発点の一つ ・任意規定と強行法規の違いの認識 ⇒強行法規の非効率性を明らかにする 民事法の基層と現代的課題
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コースの定理の限界 コースの定理の世界→あらゆる外部性が話し合いによって内部化される⇒外部効果の全くない世界 取引費用は現実には小さくない。
(例)自動車事故:潜在的被害者・潜在的加害者が一堂に会して話し合うことが費用なしに可能? 環境問題:将来の子孫にも影響。将来の子孫が現在世代と話し合う費用は無限大(話し合い不可能) 外部性の問題が必然的に発生。何らかの形で内部化が必要。 ⇒税・補助金、規制、損害賠償制度 民事法の基層と現代的課題
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なぜ強行法規が必要なのか? (1)第3者効果:当事者が合意しても第3者に悪影響を与える契約条項は契約自由の原則に任せられない。
(例1)長期契約、高額な違約金への規制⇒将来の新規参入を抑制 (例2)約款規制 (例3)差別禁止 (例4)有限責任制の保護、個人補償規制 (法と経済学1、法と経済学2で詳しく説明します) (2)スタンダードパッケージ:みんなが同じ契約だといちいち契約を読む必要がなくなり費用が削減できる 民事法の基層と現代的課題
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効率的な契約条項が生き残る 消費者に著しく不利な条項 ⇒消費者は買わなくなる(より安い価格でしか買わなくなる)
⇒供給者は自主的に効率案的な条項の契約を出す このメカニズムが働くための大前提~消費者は契約条項をきちんと理解した上で買う 実際には消費者は読まないことの方が多い 民事法の基層と現代的課題
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消費者に不利な契約条項が生き残る 消費者に著しく不利な条項 ⇒消費者はこれを認識しないで買う ⇒どんな契約条項でも同じ価格
⇒供給者は自分に最も有利な条項にしてしまう 読まない消費者が悪い?消費者の自己責任? 民事法の基層と現代的課題
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約款論 消費者は約款を丁寧に読まない。読まないのが合理的。
読んで悪い契約条項を見つけても再交渉の余地がないので無意味。全供給者が最悪の契約を提示していれば、契約を読んでよい供給者を捜す努力は無意味。 これを所与とすると、供給者もよい契約を出す誘因なし。 ⇒悪循環 民事法の基層と現代的課題
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約款論 消費者がみんな約款を丁寧に読む。 これを所与とすると供給者もよい契約を出す誘因をもつ。 ⇒市場メカニズムが機能するようになる。
消費者の努力~外部性(第3者効果):自分の利益だけでなくすべての消費者の利益になる。 みんなが読むというのは均衡として維持できない ~フリーライダーの誘因があって消費者の努力は過小供給。 ~強行法規の理論的根拠 消費者契約法・金融商品取引法でも同じ理屈 民事法の基層と現代的課題
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損害賠償ルール 甲はピアノを自由に弾くことができるが、乙に与える被害Lを賠償するルールにする L>Cなら防音装置を付ける L<Cなら賠償する
→効率的な資源配分(外部効果を内部化したから) ⇒不法行為に基づく損害賠償制度の経済効率性改善効果 常に加害者が被害額を賠償すれば効率的な資源配分が達成されるか? 被害回避努力をするのが加害者のみならYes 被害回避努力をするのが加害者被害者双方ならNo 民事法の基層と現代的課題
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不法行為(Tort)の例 (1)隣家の騒音によって被害を受けている(前回講義でやった例)
(2)ボールが球場から飛び出して駐車していた自動車を傷つけた (3)自動車事故 (4)医療過誤(?) (5)指導教官がちゃんと指導しなかった(??) (6)テレビが火を噴いて火事になった→次回 民事法の基層と現代的課題
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民法第709条(不法行為の一般的要件・効果) 故意又は過失に因りて他人の権利を侵害したる者は之に因りて生じたる損害を賠償 する責に任ず。
・故意または過失 ・権利侵害+損害 ・予見可能 ・損害との因果関係 民事法の基層と現代的課題
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民法717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵あるに因りて他人に損害を生じたるときは其工作物の占有者は被害者に対して損害賠償の責に任ず。但占有者が損害の発生を防止するに必要なる注意を為したるときは其損害は所有者之を賠償することを要す。 →無過失責任ルール(厳格責任ルール) 民事法の基層と現代的課題
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損害賠償の2つの大きなルール:厳格責任ルール
(1) 厳格責任ルール:加害者の過失の有無によらず加害者が賠償責任を負う (1') 寄与過失を認めた厳格責任ルール:被害者に過失があるときのみ加害者は免責 (1'') 2重に寄与過失を認めた厳格責任ルール:被害者に過失があり、加害者に過失がないときのみ加害者は免責 民事法の基層と現代的課題
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損害賠償の2つの大きなルール:過失責任ルール
(2)過失責任ルール:加害者が過失のあるときのみ賠償責任を負う (2')寄与過失を認めた過失責任ルール:加害者に過失があり被害者に過失がないときのみ賠償責任を負う 民事法の基層と現代的課題
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厳格責任ルール(strict liability)
被害者の 過失有 過失無 加害者の 賠償責任有 民事法の基層と現代的課題
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寄与過失を認めた厳格責任ルール 被害者の 過失有 過失無 加害者の 免責 賠償責任有 民事法の基層と現代的課題
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二重に寄与過失を認めた厳格責任ルール 被害者の 過失有 過失無 加害者の 賠償責任有 免責 民事法の基層と現代的課題
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過失責任ルール(negligence) 被害者の 過失有 過失無 加害者の 賠償責任有 免責 民事法の基層と現代的課題
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寄与過失を認めた過失責任ルール 被害者の 過失有 過失無 加害者の 免責 賠償責任有 民事法の基層と現代的課題
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賠償責任を認めないルール 被害者の 過失有 過失無 加害者の 免責 民事法の基層と現代的課題
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過失があるとは? ・事故回避のために取るべき十分な努力をしていなかった
・事故を完全になくすことはできない。どこまで努力すれば過失がないと認められるのか? ハードルがとんでもなく高くて実現不可能 ⇒過失責任の体裁を取っていても実質は厳格責任 合理的な努力(なすべき努力) ⇒その努力をする費用<回避できる損失(の期待値)となる努力(ハンドルール) 民事法の基層と現代的課題
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問題 潜在的加害者の事故回避努力X、そのための費用C(X) 潜在的被害者の事故回避努力Y、そのための費用D(Y) 事故確率P(X,Y)
事故の社会的費用 P(X,Y)L+C(X)+D(Y) これを最小にするXとYをX*,Y*とする。 潜在的加害者にX*の、潜在的被害者にY*の努力をさせたい。 民事法の基層と現代的課題
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最適な努力の誘因 ・潜在的加害者が常に全額を賠償 加害者の損失 P(X,Y)L+C(X)を最小化する
→被害者の努力水準を所与として加害者は最適な努力をする ・潜在的被害者が常に全額を賠償 被害者の損失 P(X,Y)L+D(Y)を最小化する →加害者の努力水準を所与として被害者は最適な努力をする 双方の全額損害を負担させれば自然に事故回避努力するようになる。 民事法の基層と現代的課題
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双方に常に全額負担させる事の問題点 (1)そもそもこれでは損害賠償のルールではない (2)訴訟が常に起きない
(2a)被害者の泣き寝入り⇒これを予想すれば加害者は努力しなくなる (2b)被害者と加害者が表沙汰にしないで交渉⇒これを予想すれば加害者・被害者の努力水準が過小に 賠償ルールによってどうやって効率的な資源配分を達成するか? 民事法の基層と現代的課題
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一方に常に全額負担させる事の問題点 厳格責任ルール →加害者には事故回避の誘因があるが、被害者にはなくなる 賠償責任を認めないルール
→被害者には事故回避の誘因があるが、加害者にはなくなる どちらも効率的な資源配分にならない。 民事法の基層と現代的課題
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過失認定 X <X* ⇒加害者に過失有り Y <Y* ⇒被害者に過失有り (寄与過失を認めた)厳格責任
被害者:賠償責任を問うために努力する誘因 加害者:結局は自分が全額負担することになるので適切な努力をする 過失責任 加害者:賠償責任を回避するために努力する誘因 被害者:結局は自分が全額負担することになるので適切な努力をする 民事法の基層と現代的課題
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賠償ルールと経済効率性 (1)4つのルール(寄与過失を認めた厳格責任、二重に寄与過失を認めた厳格責任、過失責任、寄与過失を認めた過失責任)で効率的な資源配分が達成される。 (2)過失責任なら結果的に被害者が、厳格責任なら結果的に加害者が損害を負担する。どのルールにするかは所得分配には影響を与える。~コースの定理との類似性 民事法の基層と現代的課題
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過失責任と厳格責任の違い (1)所得分配・公正性 (2)裁判が起こるか起こらないか⇒過失責任なら完備情報の下では裁判・和解交渉は起きない
(3)どちらの過失を認定しやすいか? X*は正確に分かるがY*はよく解らない ⇒過失責任の方が効率的な資源配分になりやすい (4)被害者加害者どちらの方が危険回避的か・どちらの方が保険市場にアクセスしやすいか ⇒保険市場にアクセスしにくい主体に負担させると、リスクプレミアムの分だけ資源配分のロスが大きい 民事法の基層と現代的課題
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過失相殺 どちらか一方の全額負担ではなく、過失の程度に応じて双方に負担させる。負担割合は双方の過失の割合に依存させる
⇒事故回避努力をすれば負担割合が下がるので、そのスケジュールをうまく設計すれば効率的な努力を引き出すことができる 民事法の基層と現代的課題
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民法418条(過失相殺) 債務の不履行に関し債権者に過失ありたるときは裁判所は損害賠償の責任及び其の 金額を定むるに付き之を斟酌す。
民事法の基層と現代的課題
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過失相殺の特徴 (1)結果的に双方に負担させることが可能で負担の公正を達成しやすい
(2)X=X*でも過失有り、と認定することは可能。単純な過失責任ルールでこれをやると過大な事故回避努力をうむ⇒過失相殺ルールの方が過失を認定しやすい(過失なしとされるハードルが高い) ・日本における過失認定がハンドルールが想定するより厳しい(なかなか無過失と言ってくれない)としても、過失相殺を前提とする限り非効率的なルールであるとは言えない 民事法の基層と現代的課題
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契約関係と賠償ルール 今回取り上げた不法行為の事例~加害者と被害者の間に事前に取引関係がない
次回取り上げる世界~加害者と被害者の間に事前の契約・取引関係がある世界→債務不履行に伴う損害賠償として典型的に出てくる問題 民事法の基層と現代的課題
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