Download presentation
Presentation is loading. Please wait.
1
温暖化に伴う植生移動を、いかにモデル化するか?
生態系変動予測研究領域 佐藤永
2
植生帯決定の古典的な研究パラダイム 大きな地理スケールにおいて、植生帯の種類は有効積算温度と年降水量、および両者を加味した蒸発散量と強い相関をもっている。 年降水量(㎜) 年平均気温(℃) このような相関関係等を元に、ある場所の環境要素から、その場所のPotential Vegetationを求める研究は数多く行われてきている。
3
平衡に達するまでのタイムラグについて 環境条件が変わったとしても植生の追従変化が直ぐに生じるわけではなく
実際には数百年から数千年オーダーのタイムラグがあるはずである。 このタイムラグを生じさせる主な理由は次の2つ。 種子の散布範囲は、特別な運搬機構が無い限り、母樹の周辺に局在する (ギャップ動態の模式図) 現存の林冠木の生存可能範囲内の環境変化では、その林冠木が寿命や台風による攪乱などによって除かれるまでは、新たな環境に適した樹種は侵入できない
4
樹冠木の死亡率 樹種毎の成長競走や 種子分散距離 (ギャップ生成頻度) 繁殖力における環境依存性 考慮するべき個体群過程
新たな環境に対応した植生への置換は、植生境界付近の、林冠木が取り除かれ生じた小区画(ギャップ)から徐々に生じるはずである。従って、100年~200年レベルの動態予測を行うのであれば「植生分布は変化しない」と仮定しても大きな問題は無いだろう。数千年オーダーの予測を行う際に、誤差が無視できなくなると思われる 温暖化に伴った植生の移動を予測するためには、 少なくとも次の3つの要素を考慮する必要がある。 樹冠木の死亡率 (ギャップ生成頻度) 樹種毎の成長競走や 繁殖力における環境依存性 種子分散距離 ここには、環境変動要素が入力できなくてはならない
5
これまでの個体群動態モデル 個体ベースモデル サイズ構造モデル 1個体1個体を区別して、空間上に配置し 各個体の特性の時間変化を追っていく
拡張が容易という利点がある 発芽による新個体の加入 サイズ構造モデル 死亡 成長による次のサイズクラスへの編入 個体頻度 どの種類のどのサイズの木が何本あるのかのみを、時間を追って計算していく。計算量が少なくて済むため、空間的なスケールアップが容易である。 個体サイズ
6
サイズ構造モデルによる植生帯移動予測 Kohyama & Shigesada(1995)
熱帯多雨林 仮想的な3森林帯分布を緯度方向に沿って配列し、各森林構成樹の成長・繁殖速度パラメーターを緯度分布に沿って設定。 そして、この分布が100年間で700㎞北上した場合の森林帯追従変化を、サイズ構造モデルによって予測した。 温帯多雨林 相対的活力 寒冷落葉樹林 緯度に沿った位置(×100㎞) 2100年後の予測 100年後の予測 幹断面積の合計 植生境界の移動は、気候分布の移動に対して際だったタイムラグを示すことが予測された。
7
課題(モデルの拡張) 現実的な植生変動予測モデルを構築するためには 最低でも次の拡張が必要である。
先のモデルでは、一次元空間における植生移動のみを解析していた。 これを二次元メッシュ空間に拡張し、さらに各所における生理パラメーターも、メッシュ毎の気候予測値から算出し入力する。 仮想的な3森林帯の境界だけではなく、現存のバイオーム境界の種類をリストアップし、各々の境界を決定している特殊要因について整理、それらを入力できるようにする。
8
台風の発生頻度分布の変化によるギャップ生成頻度分布の変化
現実的なモデルを構築する際の難点 実際の植生移動は、様々な環境要素による影響を受ける 固定窒素の増大 酸性雨 台風の発生頻度分布の変化によるギャップ生成頻度分布の変化 森林の分断化 森林伐採 表土流出 CO2濃度増大による成長速度の上昇 オゾン濃度の上昇による葉の損傷 これら環境要素の変動が、生態系機能やNPPに与える効果については多くの研究があるが、それが植生帯移動に与えうる効果については殆ど未解明である。 パラメーター推定における難点 気温・水分条件が変わった際の植物の生理的反応を測定したデータは、主に葉や稚樹を用いた短期的な環境改変実験より得られている。そのようなデータから、木本全体が長期的に経験する環境変化への反応を推察することには疑問がある。 同様の推察は、現在の植生分布と環境分布の対応からも行われている。しかし、この推察は、現在の植生分布が植物の生理的特徴によってのみ決定されていることを仮定している。
9
Simplification Validation (a) 入力する環境変動因子としては、気温・降水量のみを考える。
(b) 温度変化に対する反応は当然種毎に異なるので、各バイオームを代表する樹種をFunctional typeとして、各タイプの平均的な値を用いる。 (c) 「環境 vs 植物の生理活性」の対応関係は、葉レベルの実験データと、 現在の植生分布から、それぞれ推定されている。そこで、この両方の推定が、ほぼ重なっている場合にのみ、上記の平均値の算出に用いる。重ならない樹種は、算出から除外する。 Validation (a)モデル化の方法や、上記モデルに含めていない諸過程が、植生帯移動予測の制度に与える影響について一種の感度分析を行う。例えば、温度環境の変化に対する順化の度合いを、各バイオーム構成種毎にバラバラに動かした時の植生帯予測域の変動を調べ、信頼区間を予測する。 (b) 各バイオームにおいて取られた動態データを個体ベースモデルで解析することで、その動態を強く規定している因子をリストアップする。そのような因子は、植生帯移動の予測を行う上で大きな非線形要因となりうるので、変動予測モデルへの取り込みを検討する。
10
まとめ ・植生帯移動を予測するためには、種子分散やギャップ動態といった、森林内の個体群動態を考慮しなければならない。このような過程を考慮し、かつ全球レベルでの植生帯移動予測を行うためには、「サイズ構造動態モデル」が適している。 ・既存のサイズ構造動態モデルを、全球レベルの予測を行う形式に拡張することは簡単な作業である。問題は、実際の植生帯変動には様々な因子が複雑に関与し、また環境 vs 各樹種の生理活性の対応についてのパラメーター推定が難しいことである。 ・そこで、考慮する変動環境因子は温度と降水量だけ等という単純化を行い、パラメーターは複数の推定方法で同じ値が得られたデータのみから算出する。 ・無視した因子の影響を変動分析にかけて、得られた予測の信頼性を求める。また、各バイオームにおいて実際に個体群動態を強く規定している因子を個体群ベースモデルで抽出し、そのような因子をモデルに取り込むことを検討する。
Similar presentations
© 2024 slidesplayer.net Inc.
All rights reserved.