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基礎地学II 宇宙論(1/3) ー自然哲学から自然科学へー

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1 基礎地学II 宇宙論(1/3) ー自然哲学から自然科学へー
北海道大学・環境科学院 藤原正智 単に、最新知識を伝えるだけではなく、人々の思考の経緯を 

2 宇宙論 ー 自然哲学から自然科学へ ー 天体現象の観察の時代 自然哲学の時代 地球中心説(天動説)から太陽中心説(地動説)へ
宇宙は有限か無限か、定常か非定常か 膨張宇宙の発見 ビッグバン宇宙と物質の起源 宇宙論(宇宙をどう理解?)の変遷の歴史から科学の誕生と成長を見る ― 科学とは何か   夜空の観察科学の起源?(なぜ夜空から始まった?)   様々な世界認識(人はいろいろなことを考えますが…人類の起源、宇宙の構造、など)   個々人の思想・宗教観・イデオロギーから実験科学・実証科学へ   極限の世界へ(量子論、素粒子論、相対論、宇宙の始まりと果て)   現代的観測技術の発達と現代科学(現代の科学者とは何か)、現代の世界認識   ― このようなことを考えるきっかけに ― 参 考 文 献   :「宇宙論のすべて」 池内了著 (新書館) (「地学図表」の他に) 「物理学と神」 池内了著 (集英社新書)              「はじめての地学・天文学史」 矢島道子・和田純夫編(ベレ出版)              「宇宙像の変遷と科学」二間瀬敏史・中村士著(放送大学教育振興会)              (cf. 「生物学の歴史」溝口元・松永俊男著(放送大学教育振興会))

3 天体現象の観察の時代 どうして人はそんなに一生懸命夜空を観察していたのか? (どうして科学は天文から(気象でも地震でもなく)始まったのか?)
“天球”上の恒星・太陽・月の規則的な運動の発見 暦(カレンダー、時計):     太陽・恒星の動き1日、1年。月の満ち欠け約1ヶ月 測量(星図から地図へ:緯度・経度の決定)  農業、航海・旅行等のための実用天文学; 政治の道具としての天文学  「法則にのっとった“完全”な宇宙」という考え方の発生 星図の中を不規則運動する星、惑星の発見(逆行運動など) 星図の各種不規則性の発見(ヒッパルコス、BC150年頃)      春分-秋分(夏)と秋分-春分(冬)の時間差地球の公転軌道が楕円であるため      春分歳差(1年に角度45秒ずれる地球自転軸の2.6万年周期の歳差運動のため             ギリシャ時代(ヒッパルコスが黄道12宮決定)と現代とでは星座ひとつ分ずれている!)  2000年以上かけて、宇宙における地球の位置付けに関する正しい認識へ

4 “天球”の“星図”上の太陽の動き(暦) [地学図表より]
図に注意:あくまで天動説(24h-4mで1周)で。太陽をひとつの恒星とした時の星図上の位置。太陽の位置+/-6hでは当然星は見えない。                  (自転+公転の効果)  (BC150年頃にヒッパルコスが「黄道12宮」を定めたが、その後地球の歳差運動により1星座分ずれた)

5 [地学図表より]

6 [地学図表より]

7 惑星(planetギリシャ語のπλαναω(planeo、放浪する))とその逆行運動
[地学図表より] 相互の位置関係を変えない恒星(星座という発想へ)に対して、特に惑星は大変変則的な運動をしているように見える。 (惑星の軌道面はほぼ一致しているため、地球から見ると惑星はほぼ黄道上を動く。ただし、惑星によって、赤経位置や 動き方(順行、留、逆行)は大きく異なる。現代では左下図がさらりと描かれるが、この描像を得るまでに何千年も。) *内惑星(水星、金星)は太陽から一定角度以内、外惑星(火星、木星、土星、…)は上図のように太陽から大きく離れる

8 惑星(planetギリシャ語のπλαναω(planeo、放浪する))とその逆行運動
 [内惑星(水星、金星)は常に太陽の近くにいるが不規則運動を示す] [天文年鑑2005(誠文堂新光社)より] “Mercury Over Leeds”   2004年3月17日~4月5日。日没33分後。   月は、3月22日のもの “A Picturesque Venus Transit ”   金星の太陽面通過 写真はいずれも 

9 “Mercury Over Leeds” 2004年3月17日~4月5日。日没33分後。 月は、3月22日のもの
  2004年3月17日~4月5日。日没33分後。   月は、3月22日のもの 写真は 

10 “A Picturesque Venus Transit ” 金星の太陽面通過
  金星の太陽面通過 写真は 

11 宇宙創生神話と古代宇宙論 [宇宙論のすべて、より]
宇宙創生神話と古代宇宙論 [宇宙論のすべて、より] ・古代人の宇宙創世神話-宇宙は何から生まれたか ・主要なタイプは6つ  創造神(聖書等)、原人/世界巨人の死体(インドのリグ・ヴェーダ)、  宇宙卵(フィンランドのカレワラ)、世界両親(古事記等)、原初の海等、海底泥  多くは比較的身近な現象からの類推か(“創造神”だけは抽象的?)  共通する観念は「混沌(カオス)から秩序(コスモス)へ」 ・古代の宇宙論(四大文明における宇宙論)  エジプト:深淵、無限、暗黒、不可視である“原初の水・ヌン神”が宇宙を創造  メソポタミア:地下水・大地・天の三層構造から天三層・地三層の六層構造へ   (イラク付近)  層を支える“宇宙の網”と層間を移動するための“宇宙の梯子”  インド:宇宙の中心に山(須弥山・シュミセン/メール山/シネール山)       仏教: 時間には初めも終わりもないが、永遠もない       ジャイナ教: 昇りの時代と降りの時代を繰り返す       ヒンドゥー教: 大火・洪水の繰り返しののち空虚へ        転生輪廻と世界の消滅(ハルマゲドン)という考え方へ集約  中国:BC4C~AD2C(前漢・後漢):3つの代表的な学説 (比較的抽象的?)     蓋天説:天は半球型の蓋(バビロニアからシルクロード経由?)「天円地方」     渾天説:天は丸く(卵殻)、地も丸い(卵黄)(鶏卵宇宙)     宣夜説:天は無限・虚空、太陽・月・星は虚空に浮かび“気”により運動           (宣教師によりヨーロッパへ。ガリレオの宇宙像に影響(?)) ・その後の東洋世界 (統治者が利用するための実用天文学の側面が強かった)  天体の規則運動よりも不規則・突発現象への興味:「天行不斉」「天の命を知る」  彗星、流星、日食・月食、新星など(天変)が地の異変を予言するという考え方 ・日本では古くから、 天の異変を監視する役所(陰陽寮/天文博士)と  毎年暦を改定する役所(暦博士)。実際には中国から伝わった暦の移し変え。  江戸時代に入り日本人独自の暦。江戸の天文学者は実用天文学のみ。  (徳川家康が月食予測のおおはずれに激怒) [宇宙論のすべて、より]

12 自然哲学の時代 (1/2) 東洋世界では: 統治者が利用するための実用天文学 天体の規則運動よりも不規則・突発現象への興味
東洋世界では: 統治者が利用するための実用天文学         天体の規則運動よりも不規則・突発現象への興味 いっぽう、ギリシャの自然哲学者達(BC600~AD200):    「自然現象の解釈に神話でなく合理的精神を」 ピタゴラスの弟子のピロラオス    宇宙の中心に火があり、地球や太陽はその周りを回る    (地球は動き宇宙の中心ではないコペルニクスへ) プラトンの弟子のエウドクソス(ユードクソス)    初めて星図を作る。地球を中心とする同心天球説(のちほど)    アリストテレスの地球中心説(天動説)へ アリスタルコス    太陽の大きさを推定(のちほど)    地球と太陽の大きさの比較から、太陽中心説(地動説)を提唱    (コペルニクスの登場まで忘れ去られる)

13 自然哲学の時代 (2/2) アリストテレス(諸学問を体系化。後世に多大な影響を与えた偉大な自然哲学者)
   「目的論的自然観」:全ての物事には目的がある (vs. 機械論的自然観)    2000年近く支持された地球中心説(天動説)宇宙論 (エウドクソス説を発展)    地球を中心に、月・水星・金星・太陽・火星・木星・土星、そして恒星天球=宇宙の果て     月下圏:土・水・空気・火の四元素。生成消滅。直線上の往復運動(不完全な世界)     月上圏:第五の元素エーテル(“真空”を否定)(cf. 1887年マイケルソン・モーレーの実験)           完全な世界。永久に続く円運動。           惑星は円運動するという先入観の原因に     ・地球が丸いこと論証(地平線と星、水平線と船、月食時の地球影)     ・アリストテレスの自然学・宇宙論と中世ヨーロッパ(“暗黒時代”)      キリスト教の権威・政治権力とアリストテレス        トマス・アクィナス「神学大全」( 。ヨーロッパ中世のキリスト教文化期)        ダンテ「神曲」( 。イタリア・ルネッサンス期)      大学、スコラ学者=アリストテレス体系の注釈者     ・生物学の祖でもある:「動物誌」 観察と分類 プトレマイオス(トレミー)「アルマゲスト」          ギリシャ天文学集大成(後述) (天王星は1781年、海王星は1846年、冥王星は1930年に発見) [左の月食連続写真は、

14 地球と月と太陽の大きさを測る -幾何学の利用- (1/3) ・地球の大きさ: エラトステネス(BC 3世紀) [地学図表より]

15 地球と月と太陽の大きさを測る-幾何学の利用-(2/3)
・月と太陽の大きさと距離: アリスタルコス(BC 270年頃)   (0)地球の大きさとしてエラトステネスの値を用いる   (1)月食時の地球の影の大きさ地球と月の大きさの比(1:0.36)       月の大きさ(実際は0.27(衛星としては巨大))   (2)月を見込む視角月と地球の距離(地球直径の9.5倍実際は30.2)   (3)半月の時、地球と月と太陽は直角三角形(月で直角)月-地球-太陽の角度 (87度89.5度)から地球と太陽の距離(地球の直径の180倍11726倍)   (4)日食の時、太陽と月はちょうど重なる太陽と月の大きさの比は距離の比と同じ      太陽の大きさ(地球の6.7倍実際は109倍)  (太陽・月の視角は約0.5度)   測定誤差により月の大きさ以外は間違えたが、太陽が地球よりずっと大きいこと判明   太陽中心説(地動説)を提唱(16世紀のコペルニクス登場まで忘れ去られる) [矢島・和田より]

16 地球と月と太陽の大きさを測る-幾何学の利用-(3/3)
[地学図表より] ・月までの距離をより精度良く測定: ヒッパルコス(BC 150年頃)                     (地球自転軸の歳差運動を発見・黄道12宮決定)   地球上の遠く離れてはいるが距離の分かった二点での視差を利用   地球の直径の30倍と見積もった(現在の観測値に大変近い)

17 2009年7月22日の皆既日食 http://www.jma.go.jp/jma/index.html

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19 地球中心説(天動説) 宇宙の中心に地球をすえるか、太陽をすえるか (現在の認識では、宇宙には中心も端もない?)
   (現在の認識では、宇宙には中心も端もない?) 秩序だった恒星の世界、大地が動くことへの違和  直感的には地球中心説(天動説) 無視できない例外として、太陽、月、そして惑星の存在  やがて、太陽中心説(地動説)へ 太陽は、恒星の間を(“星図”の中を)西から東へ動く(“順行”)(“黄道”―1年で1周)    (cf. 月の場合は“白道”: 黄道から傾き5度つまり自転面でなく公転面。27日で1周。黄道との交点18.6年で天球を1周)    ただし、角速度は一定でない: 太陽は、1月に速く、7月にやや速く、4、10月に遅い   “均時差”(季節により1日の長さが異なる-2月(短)と11月(長)とで30分)の問題に対応       (太陽(“視太陽時”)とは独立な“機械時計”が発明されて初めて発覚)     地球が楕円軌道を描いて太陽のまわりを公転していること、自転軸が傾いていること 惑星は、ほぼ黄道(太陽軌道)を動く(南北8度以内)が、静止した(“留”)のち逆行することもある 赤経方向については、水星と金星(内惑星)は太陽から一定角度以上は離れないが、火星、     木星、土星(外惑星)は太陽位置には一見関係なく大きく動く 特に金星と火星は明るさ・大きさが(従っておそらく距離が)大きく変化する

20 地球中心説の工夫 -プトレマイオス(トレミー)理論を少しだけ-
地球中心説の工夫 -プトレマイオス(トレミー)理論を少しだけ- [二間瀬・中村] 通称「アルマゲスト」:地球中心説に基づいたギリシャ天文学の成果の集大成 「惑星の動きは等速円運動の組み合わせで表現されるべきである」(プラトン) 「自然は真空のような無意味な空間は持たない」(アリストテレス) 「惑星の動きを数学的に詳しくより正確に記述できればよい」 内惑星と外惑星の天球上の動き方の大きな違いを説明 金星や火星の明るさ、したがって、距離の違いを説明

21 太陽中心説(地動説)は何故否定されたかー科学的議論
・ヒッパルコス:  「地球や他の惑星が太陽の周りを円運動しているとするならば、惑星運動の見かけ上   の不規則性が説明できない」(コペルニクスがのちに同じ困難に直面ケプラー)    楕円運動、自転軸の公転面からの傾き、他の惑星の重力の影響 ・プトレマイオス(トレミー):  「そもそも、自身の導円・周転円理論でだいたい説明できてしまう。」  「地球の自転は日常経験に反する。なぜなら、40,000km/day~460m/sなので   雲や鳥は西へ流されてしまう」    角運動量保存、地表摩擦 ガリレオの相対性原理     1851 フーコーの振り子 ・年周視差(季節による恒星の見 える方向の変化)が検出されない   恒星は大変遠方にあり    年周視差は大変小さい    (1秒(1/3600度)以下。    1838年に望遠鏡を用いて    ようやく測定される) [地学図表より]

22 まとめ ー 宇宙論(1/3) ー 天の観察:天球の星図(恒星・星座) 太陽と惑星(外惑星、内惑星)の天球上における動き方 古代宇宙論・神話
  太陽と惑星(外惑星、内惑星)の天球上における動き方 古代宇宙論・神話 ギリシャ時代の自然哲学   太陽中心説(地動説)と地球中心説(天動説)   幾何学と地球・月・太陽の大きさ・距離測定   プトレマイオス(ギリシャ天文学集大成)   アリストテレス(自然学の体系化) 地球中心説(天動説)の工夫 太陽中心説(地動説)は何故否定されたのか   (科学の議論のやり方)

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24 エウドクソスの同心天球説 プラトンの問い: 等速円運動の組み合わせにより惑星運動を説明せよ(そうあるべきである) エウドクソスの答え:
・天球 I : 恒星、太陽、月、惑星の日周運動を表現 ・天球 II : 太陽、月、惑星の黄道運動(約23度         傾いた運動)を表現 ・天球 III: 黄道運動の非一様を表現(?) ・天球 IV : 惑星が黄道から離れる運動を表現(?) (複数の円運動の合成として表現=理解する試み. . . ) 恒星:天球Iのみ 太陽と月:天球I,II,III 5つの惑星:天球I,II,III,IV  合計27の天球 最大の弱点:金星や火星の明るさの変化を説明できない (アリストテレスが自らの自然学体系に取り入れたため、  特に天文学者の外の世界では長く影響力を保つことになる) [矢島・和田より]

25 導円・周転円・エカントの理論 惑星の距離の変化を如何に説明するか (エウドクソス~アリストテレスとは別の体系へ)
惑星の距離の変化を如何に説明するか (エウドクソス~アリストテレスとは別の体系へ) 数学者アポロニオス、ヒッパルコスによる離心円軌道説 プトレマイオス(トレミー)による導円・周転円理論(惑星の順行・留・逆行を説明)  + エカント(“C”が一定角速度で運動するように見える点)の導入(非一様運動を説明) [図は全て、 矢島・和田より] ・星の運動は円運動の組み合わせであるべきであるという強い思い込みがこの後も続く ・エカントの導入により、地球はもはや厳密には宇宙の中心ではなくなってしまった。  また円運動でもなくなった(楕円軌道の近似表現とは言える)  そして、そもそも“円”が多すぎる “美しくない”  (cf. 20世紀の“物理帝国主義”)

26 プトレマイオス(トレミー)理論をもう少し詳しく
通称「アルマゲスト」:地球中心説に基づいたギリシャ天文学の成果の集大成 内惑星:周転円の中心はいつも地球と太陽を結ぶ線上にあり、導円上を周期1年で回る(日周は地球の自転?)      太陽からある角度以内に留まる。逆行する。光度変化する 外惑星:地球-太陽と周転円中心-惑星は常に平行(実はこうしないと観測に合わないことに気付いてきた。 外惑星3つがこの条件を満たさねばならないので制限が強すぎる)。  周転円上を周期1年で回る (さらに精度をあげるために、離心円・エカントを導入等速円運動の放棄、エカントは楕円運動の反焦点に対応) このモデルでは、惑星の並び順、惑星間距離は一義に決まらない。 (当時の発想: 天球上の惑星の見かけの動きを数学的に詳しくより正確に記述できればそれでよい。) そこで、アリストテレス流の考え方「自然は真空のような無意味な空間は持たない」という原理で上右図の ような惑星配列を提案。(これでもまだ大きさは完全には決まらない。) [二間瀬・中村より]


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