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2015年春学期 「企業のしくみ」 第12回 企業統治の目的
2015年春学期 「企業のしくみ」 第12回 企業統治の目的 樋口徹
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4-5-1 長期利益の獲得(p.108) 長期利益の獲得 会社は 営利 を目的とする法人である。 会社は長期的に存続すること( ゴーイング・コンサーン )が前 提となる。短期的な利益より、長期的に安定して利益を獲得し続け ることが重要課題となる。 その主な収入源は 顧客 (=外部)への売上である。 その顧客に財やサービスを提供するために、会社は 社内外 の 資源 を最大限活用しなければならない。 営業 利益とは売上高(収入)から売上原価と販売費・一般管理 費を控除したものであり、会社の営業活動の成果を示している。さら に、営業利益に営業外損益を加減したものが 経常 利益となる。
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株式会社の活動の全体像の一例
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長期利益の獲得のための仕組み 会社は、人、モノ、金、情報などの 経営資源 を有効に活用する ことによって、収益性や安定性を高めることができる。 保有している経営資源を有効に活用するには、社内の 仕組み が重要な働きをする。所有と経営が分離されている株式会社では、 株主総会から 委託 された 取締役 が業務を監督・執行して いる。 そして、株主総会から 委託 された 監査役 が、取締役の行 動および会社の活動が法令や定款を遵守しているかを監視する仕 組みとなっている。
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4-5-2 社会的責任の遂行(p.109) 企業(組織)統治の定義 ※組織は企業を包括するより広い概念
「企業(組織)統治とは、組織が自らの決定および活動の与える影響に 責任をもち、 社会的責任 を適切に果たせるように組織全体を統 合・管理していくことである。」 「社会的責任という文脈で考えたときの組織統治は、組織が行動すると きにしたがうべき中核主題であると同時に、他の中核主題との関連で 社会的に責任ある行動をとるための組織の 能力 を高める 手段 でも あるという特殊な性格をもっている」 企業 企業は社会(多様なステークホルダー) に責任があり、それを遂行するための 決定や行動を企業が採用できるような 組織構造を整える必要がある。 責任 社会 (ステークホルダー)
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企業統治の重要性 企業統治にかかわる議論や企業の社会的責任の問題は、企 業と市場あるいは組織と個人の間の関係の 変化 、そして 企業の 大規模化 などによってもたらされた諸問題によって 注目されるようになった。 日本では企業の 不祥事 の発覚や グローバル 化の進 展(世界基準に合わせた活動が望まれる)に伴って、近年活発 に企業統治にかかわる問題が議論され、多様な施策が導入さ れている。 ※バブル経済が崩壊したのちに、明るみになった企業の不祥 事といった問題もあるが、その主たる原因は、経済のグ ローバル化の進展に起因する。特にアメリカ型企業統治に ならうべきとする圧力が大きくなっている。 ※企業統治について、特定の方法が、必ずしも企業の効率的 運営に役立つとは限らない。
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補足(企業の)社会的責任の定義 (ISO 26000による)
“The responsibility of an organization for the impacts of its decisions and activities on society and the environment (through transparent and ethical behavior that contributes to sustainable development, including health and the welfare of society); takes into account the expectations of stakeholders; is in compliance with applicable law and consistent with international norms of behavior; and is in compliance with applicable law and consistent with international norms of behavior; and is integrated throughout the organization and practiced in its relationships.” (健康と社会の反映を含めた持続的な発展に貢献する透明かつ倫理的な行 動を通じて、)組織の決定及び活動が社会及び環境に及ぼす影響へ の組織の責任は、 ステークホルダーの期待( 利害 )に配慮し、 関連 法令 の遵守および国際行動規範を尊重し、 組織全体で統合され、その組織の中で実践されるものである。 ※社会の発展に寄与する責任感を有し、それに沿って組織的に行動するこ とは、多様な企業の利害関係者にとって有益となる。
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●多様なステークホルダーへの責任 政府 投資家(株主) 債権者 (企業) 従業員 取引先 消費者 地球環境 地域住民
企業が多様なステークホルダーに対して、 ①国内外の法律や行動規範を遵守し、倫理的に行動すること、 ②ステークホルダーの利害や人権を尊重すること、 ③企業活動の透明性を確保し、 説明責任 を果たすこと、 が求められている。
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補足 社会的責任の基本的要素:企業(組織)統治
補足 社会的責任の基本的要素:企業(組織)統治 ステークホルダー 株主/従業員/地域社会 誰のために企業が活動するのか? あるいは 誰が企業の所有者(主権者)か? 企業統治:ステークホルダーの利益を尊重する組織(仕組み)を設計 ↓↓ (指示・命令・監督) マネジメント:効果的・効率的に遂行 企業 活動 多様な社会的責任を遂行 多様なステークホルダーに影響 例えば、人権問題、労働慣行、環境付加、公正な事業慣行、消費者課題、コミュニティへの参画やコミュニティの発展など。
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社会的責任遂行による長期利益の獲得 企業統治がうまく行われている会社は、 法令違反 が少 なく、反社会的とのレッテルを張られにくい(社会ルールの順 守)。 多様なステークホルダーに対する社会的責任を適切に遂行 できており、社会やステークホルダと良好な関係が構築でき る(善良な 企業市民 )。 さらに社会的責任を遂行する過程で、 組織能力 が鍛え られる(環境に優しい車作りなど他社がしていないことを手 掛ける)。 その結果、社会ルールから逸脱する経営が行われずらく、 社会から信頼され、組織の能力が高まり、 長期利益 を 獲得しやすくなる。
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企業(組織)統治の要素 伊丹(2009)では、国家の統治の考え方から類推して、企業統 治を「企業が望ましいパフォーマンスを発揮し続けるための、企 業の『 市民権者 』による経営に対する影響力の行使」と定 義している 。 ※市民権者には多様な利害関係者が含まれている。『広辞 苑』によると、市民権には、①市民としての 権利 、②市 民としての行動・思想・財産の自由が保障され、居住する 地域・国家の政治に参加することができる 権利 という 意味がある。 その主権が社会から受け入れられるための3つの要素として、 経済合理 性(公正性・効率性)、 制度的有効 性(現実的 機能性・チェックの有効性)、 社会的親和 性(歴史状況・権 力の正統性)が挙げられている 。
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以下補足 グーグルやアップル 「使命感」が違い生み出す(日経産業新聞2014年11月18日)
以下補足 グーグルやアップル 「使命感」が違い生み出す(日経産業新聞2014年11月18日) 検索サービスから地図の提供、スマートフォン(スマホ)用の基本ソ フト(OS)、自動運転車など多種多様な事業を手がける米グーグル だが、この会社をひとつにまとめているのは創業以来の ミッション ステートメント、つまり同社の「使命」を唱った文章だ。 「 世界中 の情報を整理し、 世界中 の人々がアクセスできて 使えるようにすること」というのが、それだ。一見バラバラに見える各 種事業を進めるか否かも、このミッションステートメントが基準になる。 ■アップルのCM「Think different.」 米アップルにはこうした宣言文はないが、故スティーブ・ジョブズ氏 が同社に戻った後、1997年に作られた「Think different.」というCMの 詩は、これにかなり近い。枠にとらわれず情熱を持って 挑戦 を続 けたクレイジーな人々が、世界を変え「人間を前進させた」とうたう同 CMだが、実はこれにはテレビで流れたものとは別の長いバージョン があり、そちらでは「我々はこうした人々のための 道具 をつくる」 とアップルの使命を掲げている。
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グーグルやアップル 「使命感」が違い生み出す(続き)
グーグルやアップル 「使命感」が違い生み出す(続き) 多くの 企業は次は何をつくるか、どうやってそれまでの製品や 競合との違いを打ち出すか、を出発点に考える。違いを生み出す 会社はそうではない。会社の核をなす 価値 、つまり「なぜ、 我々の会社はこの世にあるのか?」から考え始めるというのだ。 アップルであれば「我々は世界の人々を 前進 させる」と考え、ど うやったらその 価値 に寄り添いながら 良い 製品ができるか を考える。 ■ 目的、人、プロジェクト、プロセス の順に大事 最近、米国ではこうした考え方が改めて注目を集め、起業家向け の雑誌などでも再び取り上げられている。今、少しずつ生まれ変わ ろうとしているグーグルで、かなり重要な役割を担うグーグル・クリ エーティブ・ラボのエグゼクティブ・クリエイティブディレクターを務め るロバート・ワンは「4つのP」、つまり目的、人、プロジェクト、プロセ スが、この順番で大事だと語っている。
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グーグルやアップル 「使命感」が違い生み出す(続き)
グーグルやアップル 「使命感」が違い生み出す(続き) 使命などの形で、しっかりと目標を提示すれば、そこに 共鳴 する「人」が自然と集まってきて、その後もうまく続く。同じようなこと は、80年代のジョブズ氏も言っている。使命や目的を掲げることは、 そうした人々をその場に引き留めさせる上でも重要な要素だ。 アップルやグーグルの周辺には、自分なりの 使命 を持った人 が大勢集まっている。彼らがこうした企業に踏みとどまるのは、こ れらの企業が個々人の「使命」で動くことの重要さを理解し、容認し てくれているからであり、会社の規模の大きさゆえに、その「使命」 をより大きな規模で果たせるという 計算 があるからだ。 実際、グーグルの日本のオフィスでは、今でも大勢の人々が東日 本大震災で被災した地域の支援活動に力を注いでいる。いわゆる 企業の 社会的責任 の一環としてやるのではなく、社員が自分 が やりたい から現地に足しげく通い、解決すべき 課題 を発 見し、場合によってはその解決策を 開発 したり、事業化したりし ている。まさに「 なぜ? 」からスタートする開発なのだ。
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以下補足 企業の社会的責任論 フェーズ1:利潤最大化マネジメント
以下補足 企業の社会的責任論 フェーズ1:利潤最大化マネジメント 個々人が自らの利益を追求していれば、市場の機能(見えざる 手)によって、公共の利益をも実現する( アダム・スミス )。 競争的市場の規制下で、企業が利潤最大化を目指して行動を 行うことによって、公共の利益も最大化する。 この段階では、 消費者は自らの 危険負担 で商品を市場から購入するの で、経営者は消費者に対して、販売とそれに付随するサービ ス以外に特別な行動を採る必要が無かった。 労働 は、市場で取引される商品と同等に考えられていた。 ※経営者は、他のステークホルダーを考慮せずに、 利潤最大化 を 図れば良かった。
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フェーズ2:多様なステークホルダーへの配慮の始まり
所有権(株主)の 分散 によって、雇用経営者が経営の主流 になった。それによって、株主の企業の物的財産に対する支配 力が失われ、株主が単なる報酬の受取人になった。その際に、 経営者の 説明責任 (accountability)が重要となった。 これによって、企業に貢献あるいは影響を及ぼす消費者、従業 員、供給業者、政府などのステークホルダーを認識し、彼らへの 配慮を行うようになった。 ※経営者は所有者の利益と他のステークホルダーの利害をバラ ンスさせることが重要となった。 その他の ステークホルダー 株主
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フェーズ3:社会の利益(生活の質)重視 物質的な豊かさの次に、 精神的 な豊かさ(日常生活の満足 感や充足感)が重要な時代になった。
物質的な豊かさの次に、 精神的 な豊かさ(日常生活の満足 感や充足感)が重要な時代になった。 企業の 雇用 経営者も、社会の利害に配慮した意思決定を 行うことが当然になった。 経営者の説明責任は、株主だけでなく、多様なステークホル ダーに向けてなされるようになった。 個人主義よりも 集団的参加 が組織の成功要因にとして注 目されるようになった。 現代企業の社会的課題 社会的制度としての企業と経済的実態としての企業の 2面性 の両立が課題となっている。企業の経営者は、単なるヒューマニズ ムの観点からでなく、企業の長期的維持・発展のために、両面を 調和 させたマネジメントを可能にする企業統治の仕組みを整備 しなければならない。
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善良な企業市民 多くの会社にとって、長期的に存続すること(ゴーイング・コンサー ン)が一つの目標となる。
長期的に存続するために、経営学では、 将来性 を考慮した 事業構成、競争優位を発揮できるような ポジション の採択、 持続的競争優位を生み出す 資源 の獲得・強化などの活動に 注目が集められてきた。 しかし、今日では、会社が善良な 企業市民 であることも長期 的な存続の必要条件として考えられるようになっている。
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会社のステークホルダー(利害関係者) 会社は 社会 の一員であり、社会と 共存関係 にある。 会社は、社会における活動を通して利益を獲得する。 その一方で、会社は、社会に対して 責任 を負う存在でも ある。社会の中には、会社と利害関係を有する多様な人々が 存在する。 会社にとって最も身近な利害関係者(ステークホルダー)は、 出資者( 株主 )や従業員( 使用人 )である。出資者は 会社の所有者であり、会社の資産価値の増減が彼らの財産 の増減につながる。そして、従業員は長期的に安定かつ快 適な職場で働くことを望んでおり、会社の業績や従業員への 待遇などへの関心が高い。
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会社のステークホルダー(続き) 会社にとって、 債権者 とも良好な関係を保つことは不可欠 である。事業に必要な設備投資を金融機関からの 融資 で行 う場合や信用取引によって 売掛金 が発生する場合がある。 当然、債権者は融資や売掛金を確実に 回収 することを望む。 したがって、当該会社に対して、堅実な経営と 情報公開 を 求めるのは当然のことである。 消費者への財・サービスの提供は サプライチェーン の ゴールである。消費者が提供されている財やサービスに満足し なければ、 継続的 な購買につながらない。消費者の満足の 度合いには、品質や価格だけでなく、会社あるいはサプライ チェーンの 体質 も影響を及ぼす。例えば、原材料や労働に 関して法令が遵守されていないことが判明した場合には、消費 者の信頼を裏切ることになり、会社およびサプライチェーンの存 続の危機につながることがある。
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会社のステークホルダー(続き) 地球環境や 地域住民 は会社とのビジネス上の関連は弱い が、会社にとって無視することのできない利害関係者である。会 社の規模が 巨大化 し、その活動がグローバル化することに よって、地球環境や地域住民に多大な影響を与える。その活動 規模に比例して、地球環境や地域住民への配慮が必要になる。 政府は 規制 や 政策 を通して会社の活動を左右する。会 社は法人税などの 税金 を納める一方で、国や地方公共団 体が整備した道路などの インフラ や制度を活用してビジネ スを行う。政府は規制や法令を設定し、会社や市民の活動を制 限する。その規制の中身は、安全・健康関係、労働関係、環境 関係、交通・物流関係など多様な範囲に及んでいる。会社は、 最低限、これらの法令や規制を遵守しなければならない。
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企業統治のあり方 今日、会社は多様な利害関係者に対して法令で定められている 以上の責任ある行動が求められるようになっている。
企業の社会的責任はCSR(Corporate Social Responsibility)と呼ば れ、企業の社会における評判や評価も、 株価 、 売上 、資 金調達などに多大な影響を与える。 このことを企業側も認識し、CSR活動を積極的に進めるようになっ ている。具体的には、以下の4点が重要視されている。 ① 国内外 の行動規範を遵守し、倫理的に行動すること、 ②利害関係者の利害や人権を 尊重 すること、 ③企業活動の 透明性 を確保し、 ④利害関係者への 説明責任 を果たすことなどである。 多様な利害関係者の利害を調整し、多様な利害関係者から 協力 体制を構築しなければならい。そのためには、組織(企業)統治の在 り方が重要な働きをする。
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伊藤忠、「社会的責任」ゲームで学ぶ (2014年9月30日日本経済新聞)
伊藤忠、「社会的責任」ゲームで学ぶ (2014年9月30日日本経済新聞) 伊藤忠商事はグループ企業の広報担当者を対象に、企業の社 会的責任(CSR)をテーマとした勉強会を都内の本社で開いた。約 50社計80人の広報担当者らを7、8人のグループに分け、会社や 従業員、株主などの 立場 に設定。人権や労働、環境、腐敗防 止をテーマにした具体的な事例への対応策を発表し評価し合う ゲームを活用した。企業の社会的責任の助言大手、KPMGあずさ サステナビリティがゲームの進行を担当した。今後、広報機能の向 上を狙い勉強会を定期開催する。 人権や労働 環境 腐敗防止 会社 従業員 株主
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