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筑波大学 大学院システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻 井田哲雄
折紙と科学技術 筑波大学 大学院システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻 井田哲雄 折紙というのは,紙を使って「もの」を作る日本古来の手芸です.表題の科学技術は,いうまでもなく近代のHigh Techを表します.折紙は昔からある手を使う技術ですからLow Techといえます.このLowとHighを対比させながら,その背後にある心をご紹介したいと思います. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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折紙 (origami)の起源 折紙の歴史は紙とともに始まった 610年僧侶曇徴が中国から日本に紙の製法をもたらした
宗教,政治,貴族社会などの場で紙をいろいろな形に折って儀式などに使用された 小笠原流,伊勢流などの流派さえ生まれた 折紙という言葉は今や国際語となっており,英語でorigamiのようにかきます.ものの本によりますと,610年曇徴という僧侶が中国から日本に紙の製法をもたらしたとのことです.ですから,日本の折紙の歴史は,この年から始ると言うことができます.当時は,紙は非常に貴重なものであったと思います.紙は文字を記録するものとして使われますが,興味深いのは,紙が,記録メディアとしてだけではなく,ものを包むため,あるいは,様々な気持ちを表現する特別な形を作ることものへと発展してきたことです. 宗教,政治,貴族社会などの場で,紙をいろいろな形に折り,儀式などに使用してきました.生け花には,裏千家とか表千家とかいう流派があることを中国でもご存じの方は多いと思いますが,折紙にも小笠原流,伊勢流などの流派がありました.しかし,折紙の場合は,このような流派はいまや消えてしまいました. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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折る,あるいは包む紙として,まず祝儀袋と言われているものを紹介します.中心に書かれている寿という漢字からおわかりのように,これは結婚や入学のような慶事にお金を贈るときに使うものです.お金を包むための袋です.日本社会では,贈り物として現金を直接手渡すというのは失礼であることになっています.ですから,お祝いの時には,お金は必ずこのような祝儀袋に入れます. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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次の袋は,お年玉袋と言われるものです.左が表で右が裏です.日本では正月に親戚が集まり,新春を祝います.そのときに,子供達に,お年玉と言って少額のお小遣いをあげることが習慣になっています.このお小遣いも,お金を直接に子供たちに手渡すのではなく,お年玉袋にいれて贈ります.その心は,祝儀袋の場合と同じです. このように,紙でものを包むと言うことは,贈る人の心を表現することであります.それと同時に,受け取る人の気持ちを,思いやることでもあるのです.人前で,いきなり現金を手渡されたときの,受け取る側の当惑した気持ちを考えてみますと,包むことの必要性がよくわかります. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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折紙の使われ方 教材として 手で触れることができる 学ぶ側のレベルに応じた抽象的な理解が出来る 紙だけで,他の道具は不要
このような簡単な例で,紙を折る,そして紙で包むと言うことが,私たち日本人の生活に深く入り込んでいるということが少しでもおわかりいただけたかとおもいます.心を表現するための折紙は次第に精緻なものになってまいります.そして,現代では,様々な局面で折紙の技術が使われています.代表的な利用例をあげてみます. まず教材です.折紙は手で 触れることができて,しかも学ぶ側のレベルに応じた抽象的な議論が出来るすばらしい教材であることは教育者の間でよく知られてます.しかも,紙だけで,他の道具を必要としません. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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折紙の使われ方 教材として 日用品として 袋を作る.ものを包む. 紙コップを作る. 厦門大学日中学術交流シンポジウム
次は生活に使う日用品としての折紙です.すでに,祝儀袋,お年玉袋について,ご紹介しました.日常生活で使えるものに,紙コップがあります. ----- 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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折紙による紙コップの作成 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム 7 これは次のように作ります.
BをDに重ねます. Cを通る折れ線に沿って折り,Bを線ACの上に重ねます. 一つ前に戻します. Aを通る折れ線に沿って折り,再びBをACの上に重ねます. CをEに重ねます. AをGに重ねます. AEに沿って折ります.そして,Bを手前に動かします. GEに沿って山折りします.そして,Dを向こう側に動かします. できあがったものは,このようになります.これは実用性のある立派なコップです. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム 7
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折紙の使われ方 教材として 日用品として 工芸品として 厦門大学日中学術交流シンポジウム
工芸品としては,すばらしいものがたくさんあります.世界中の多くの人が,折紙で作る工芸品の美しさに魅了されて,折紙愛好家になっています.私の最初のスライドにあった,折紙の作品もそのような例です. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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六角形の箱と銘々皿 厦門大学日中学術交流シンポジウム
この二つは六角形の箱です.残りの二つは銘々皿とよばれるもので,お菓子などを差し出すのに使います. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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折紙の使われ方 教材として 日用品として 工芸品として 折り方の技術として 宇宙航空技術,ミクロ医療技術 厦門大学日中学術交流シンポジウム
最近になって,折紙の技術が最先端の技術に取り入れられるようになってきました.次の例は,小惑星探査機「はやぶさ」 のイメージ図です. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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パネルの折り畳み・展開 提供 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 厦門大学日中学術交流シンポジウム
このように大きく開いたアンテナはこのままでは,ロケットに格納して,宇宙空間に運び出すことが出来ません.アンテナを畳むことが必要です.ここでも,折り畳みの技術が活用されています. 提供 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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折紙の使われ方 教材として 日用品として 工芸品として 折り方の技術として 宇宙航空技術,ミクロ医療技術 厦門大学日中学術交流シンポジウム
このほかにも,小さく折りたたんであとで開くというような技術は,体内にカメラ付きのロボットを動かして,手術をするようなミクロ医療技術でも重要になっています. このように,折り畳み,展開する技術を高度なものにしていくことが重要になってまいります.私は,コンピュータサイエンスの分野で仕事をしておりますので,技術の高度化のために,計算折紙(Computational Origami)の研究を数年前から始めました. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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コンピュータによる折紙 厦門大学日中学術交流シンポジウム
先ほどの例は,コンピュータで作図しています.コンピュータの高度な機能を駆使しますとより興味深い折紙ができます.まず簡単な例でご紹介します.次の例は,コンピュータで折紙を折り,それをアニメ化したものです.ここでは,折紙は方程式を使って,厳密にモデル化されます.厳密なモデルにより,表現されますので,様々な処理が,数学の緻密さをもって行えます. この例は鶴です.折紙で作った鶴は折り鶴といいます.折り鶴は私たちの心のなかで特別な位置を占めます.鶴は幸せを象徴します.折り鶴を折ることにより,私たちの幸せの願いを表現します.子供たちは,仲の良い友達が病気になり長い間病床に伏しているときに,折り鶴を作って贈ります.一羽ではありません.千羽です.千羽の鶴を,千羽鶴あるいは千鶴と言います.千羽を折ると言うことは大変なことです.こうすることにより,贈る側の強い願いや,祈りを表現します.一方,千羽鶴が病気の子供を勇気づけます.病気の子供は,いつか良くなって空を鶴のように舞うことを願うのです. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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折紙の理論 これらを支える折紙の基礎理論がある 折紙はもともと紙を「折る」という手で必ずできる方法に基づいている
折れることの意味を考察するのが第一歩 これから,科学としての折紙に話を移していきます.科学には,土台となる理論が必要です.折紙の理論の基礎を作るには手で折れるということを考察していくことが重要です.しかし,折紙でできるものは,図形ですから,図形の学問,すなわち幾何学にもどって考えてみることが大事です. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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折紙の公理論的考察 ユークリッド平面幾何学(ユークリッド原論)
ヒルベルトの枠組み(幾何学的基礎論 Grundlagen der Geometrie) 藤田文章の折紙公理 図形の科学は古代ギリシャに始まります.紀元前3世紀頃活躍した,ギリシャ人のユークリッドは後に「ユークリッド原論」と呼ばれる書物を残しました.この本は,中世まで,数学の教科書として,ずっと使われてきました. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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ユークリッド原論:定義 点とは部分を持たないものである. 線とは幅のない長さである. 線の端は点である.
直線とはその上にある点について一様に横たわる線である. 以下21.まで ユークリッドは点と線と平面を最も基本的なものと考えました.そして,すべての概念を,これらの要素から構成していこうとします. 点とは部分を持たないものである. 線とは幅のない長さである. 線の端は点である. しかし,これを読んで,ここまではなんとなくわかるとしても,4番目の「一様に横たわる」といわれても何のことかはっきりしません.これを理解するには,言外にある直感を必要とするのです.そして次に,ユークリッドはこう主張します. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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ユークリッド原論:公準 次のことが要請されているとせよ. 任意の点から任意の点へ直線をひくこと 有限直線を連続して一直線に延長すること,
任意の点と距離(半径)とをもって円を描くこと. すべての直角は互いに等しいこと.および 1直線が2直線に交わり同じ側の内角の和を2直角より小さくするならば,この2直線は限りなく延長されると2直角より小さい角のある側において交わること. 次のことが要請されているとせよ. 任意の点から任意の点へ直線をひくこと,および 有限直線を連続して一直線に延長すること,および 任意の点と距離(半径)とをもって円を描くこと.および などです. ここでユークリッドは,図形を作るための道具として定規とコンパスを用いていることに注意してください. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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折紙の公理論的考察 ユークリッド平面幾何学(ユークリッド原論)
ヒルベルトの枠組み(幾何学的基礎論 Grundlagen der Geometrie) 藤田文章の折紙公理 このような直感に依存することなく,すべてを厳密に構築しようとしたのが,19世紀の偉大な数学者のヒルベルトです.直感を排すると言うことは,対象すべてを数式や論理式のような記号で記述することです.このような考えは形式主義と呼ばれています.これにより,コンピュータによる,数学への道が開けてきたといえます.しかし,形式主義では,直感を表には出しませんので,行き過ぎると,初心者には,何のことかさっぱりわからないと言うことになります.折紙の基礎理論は,直感を排除するような無味乾燥な理論でなく,紙を手で折れるとはどういうことかを具体的に考察するものでなければなりません.一方,現代の科学技術として用いられる体系である以上,計算機で処理できる形式的な体系である必要があります. 折紙の理論で出発点になるのは1989年に日本の物理学者藤田文章が提示した折紙公理と呼ばれるものです. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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藤田の公理系 (O1) 二つの点 P と Qが与えられたとき ,この2点を通る直線に沿って折ることができる
藤田の公理系は6個の公理から成り立っています.詳しくはみませんが,これらの公理はユークリッドの公準にきわめて似てことにお気づきになると思います. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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藤田の公理系 (続き) (O4) 一つの点 P と一つの線mが与えられたとき ,mに垂直で P を通る線に沿って折ることができる
藤田の公理系 (続き) (O4) 一つの点 P と一つの線mが与えられたとき ,mに垂直で P を通る線に沿って折ることができる (O5) 二つの点P ,Q と一つの線mが与えられたとき ,Q を通る線に沿って,Pとmを重ねるように折ることができる (O6) 二つの点P ,Q と二つの線 m,n が与えられたとき, Pと m, Q と nを重ねるように折ることができる 残りの3つはつぎのようになります,興味深いのは最後のO6と書いた公理です.これは,異なる二つの点を各々異なる二つの線上に載せるように折ることが出来るというものです. この折り方は手で行うときには,一つの点を一つの線に載せて,他の点が他の線上にのるように最初の点をずらしていきます.つぎの図をご覧下さい. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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藤田の公理論 (O6) 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム 21
ここで,Pをmへ,Qをnに重ねます.それにはPをmに重ねてからPをmに沿ってずらします.二つの点が線上に載っていく様子に注目してください. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム 21
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折紙とユークリッド幾何学 折紙はユークリッド幾何学よりも強力
角の三等分線は折紙で折れるが定規とコンパスでは折れない 正七角形についても同様 東洋人の手の器用さ,優れた製紙の技術,調整の精神が折紙という芸術と技術を育ててきた 先ほど示しました,カップは藤田の公理系を適用して作ったものです. 折紙は,定規とコンパスを使ったユークリッド幾何学よりも強力です. それは,定規やコンパスのように,点を作図をするのに,交点をかっちり決めるというような方法を折紙はとっていないからなのです.折紙は,どこまでも手を使います.手は直線上に点をずらしながら折るという器用なことが出来ます.もともと東洋人は手が器用であるといわれますが,その特性がここに遺憾なく発揮されています. 折紙を折るには点をずらしていくというアナログ的な動作を必要とします.手の器用さ,和紙という高品質な紙,ずらしながら解を探るという調整・中庸の精神が折紙という芸術と技術を育ててきたものだと思います. これをもって,今日の講演の結論とさせていただきます.ご静聴ありがとうございました. 2006/12/08 厦門大学日中学術交流シンポジウム 厦門大学日中学術交流シンポジウム
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