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全天X線監視装置用 X線CCDカメラの開発
冨田洋、松岡 勝、上野 史郎、片山 晴善 、川崎一義(JAXA)、常深 博、宮田 恵美、上村正樹 (大阪大) MAXIのホームページ: 全天X線監視装置(通称MAXI)は国際宇宙ステーションに搭載するX線オールスカイモニターでX線天体を史上最高の感度で監視する。比例計数管とCCDを用いた2種類のカメラがあり、本ポスターではCCDカメラ(通称Solid-state Slit camera = SSC)について紹介する。SSCは Suzaku/XISから NeXT/SXIへの重要なステップでもあり、それらと比較しながらカメラの紹介を行う。 SSCとは MAXI/SSCは大阪大学、JAXA(つくば)で開発を進めるX線CCDカメラで0.5-10keVをカバーする。X線望遠鏡はなく、スリット、コリメータとCCDの位置検出能力を用いてX線到来方向を決定する(下図)。各X線photonについての角度分解能は 1度程度である。GSCでは見えない2keV以下をカバーすると同時に高いエネルギー分解能でスペクトル情報も豊富になる。またMAXIはCCDで行う初の全天サーベイミッションで大きく広がったプラズマのスペクトル診断も行える。 SSCの構成 SSCの構成要素を上に示す。SSCU(SSC-Unit)はCCDを16個とプリアンプ等の回路を含む2つのカメラである。SSCE(SSC-Electronics)はSSCUへのCCD駆動信号を出すと同時にSSCUからのCCD信号をデジタル化する。DP(Data Processor)はCCD画像からX線イベントを取り出しテレメトリデータの編集を行うと同時に地上からのコマンドを選別しSSCEへのコマンドも出す。XISのDE機能をSSCではDPが担当し、AE/TCEの機能をSSCEが担当する。SSCE、SSCUの製作は(株)明星電気が、DPはNTSpace(株)が行う。上図で冷却系は省略している。 ドライブ信号・ ペルチェ電流 SSCU DP SSCE 地 上 X線 コマンド コマンド SSCU デジタル アナログ プリアンプ、 マルチプレクサ テレメ トリ CCD画像・ HK CCD出力信号 ・HK CCDs SSCのX線到来方向決定の原理 SSCはMAXIに固定されMAXIは宇宙ステーションの軌道に合わせて自転する。SSCは円弧状の視野をもちMAXIの自転に伴い視野が全天を掃く。視野の長さは90°のため極方向は自転ではカバーできないが(all-sky monitorとしては欠点)、軌道軸( =自転軸)のプリセッションにより全天がカバーされる(全天サーベイとしては問題ない)。 CCD Suzaku/XISからMAXI/SSCへの最大の発展のひとつはカメラの心臓部であるCCD(及びその周辺アナログ回路)を国内で開発したことである。これはNeXT/SXIへの重要なステップである。CCD大阪大学、浜松ホトニクスらが10年近く開発を続けてきた素子を用い、すでにHayabusaでその成果は実証されている。以下の表に3カメラの特徴を示す。SSCは素子単体では読み出しノイズ3electron、エネルギー分解能135eVを達成している。近年浜松ホトニクス社のCCDでエネルギー分解能は140eVを切る例が多いがこれはMAXIの開発が大きく寄与している。 各カメラのCCDの比較。ピクセル数は撮像領域のみ。 MAXI用CCD アナログ回路系 MAXIの回路部(SSC-Electronics : SSCE) には、電源部、DPとのIF部分、ペルチェ制御、駆動・読み出し部の4つに分かれる。駆動・読み出し部は2カメラで独立している。各カメラでは16個のCCDを同時でなく順番に読み出し、1つのCCDを読み出している間が他のCCDの露出時間になる。駆動はマルチプレクサで切り替える。駆動電圧は全CCDで共通である(但し電荷注入はCCD毎に可変)。読み出しは積分方式を採用しており(XISと同じ)、駆動速度は125kHz (8usec/pixel)である。積分回路の性能とデジタル処理速度が駆動速度を制限している。CCD駆動は標準でbinningを行う。XISでいうところのtiming modeである。binning=0は診断モードでのみ利用される。 SSCEの駆動・読み出し部(左)とSSCUのプリアンプ部(ともにEM) MAXIの開発で最後まで問題が多かったものの一つがこの回路系である。今後の参考のため、以下に例を挙げる。NeXT/SXIとは構成が違うが今後の参考として頂きたい。 駆動パワー (電流)がたりない SSCはひとつの回路系で16CCDを駆動する。少ない個数で性能が出ていてもCCDを増やすと性能が出ず問題になった。とくに注意すべきなのはたて転送クロックである。 CCDの個性が強い 各CCDの最適駆動電圧が異なり、出力信号のゼロレベルも大きく異なる。そのため各CCDの最高性能が出せなかったり、ダイナミックレンジに制限が出たりした。 温度依存性がある マルチプレクサのON抵抗などに温度依存性があり、ゲインに温度依存性 が出てしまう。試験が行いにくく回路ごとの個性もあり、EMだけで安心するは禁物である。 CCDとりつけでトラブル カメラにCCDをとりつける際、CCDが故障する例が多い。詳細な原因は不明だが、半田付けなどは要注意である。 ノイズ CCDに限らない一般論。グランドのとり方は注意(これも一般論だが)。 リセット信号 この信号波形は大きく速度も速い。AD変換用の積分時間を十分長く取るには重要となる。SXI用では改良を施したようであるが、十分して頂きたい。 Suzaku/XIS MAXI/SSC NeXT/XIS(Goal案) CCD数 4 (1x4) 32(16x2) 2(1x2) ピクセルサイズ(μm) 24x24 24x24 ピクセル数 1024x1024 2048x2048 空乏層厚(μm) 70 200 読み出し口/CCD 4 1 8 メーカー MITリンカーンラボ 浜松ホトニクス 背面/表面照射 1つだけ背面照射 表面照射 背面照射 コメント ペルチェ内蔵 N型ウェハ スリット・コリメータ/カメラボディ / ハウジング スリットとコリメータはカメラ内部に納められコンパクトな形となっている。コリメータは2.3mm間隔で並んだ厚さ 0.1mmの燐青銅でできており、軟X線反射防止のため燐青銅表面はケミカルエッチング処理され、さらに可視光反射防止のため黒クロムメッキが施されている。スリットはタングステン(幅2.7mm)である。 CCDは可視光に感度をもつがCCD表面に蒸着したアルミで遮光するためoptical blocking filterはなく、カメラに機械的な駆動部分はない。そのためカメラの構造がXISに比べ非常に簡単化されている。CCDの進展がこれを可能にしておりSSCで成し遂げた重要なポイントである。 カメラボディ内部(左)とカメラから外したスリット・コリメータシステム(右:CCD側から見た図) Slats of collimator (phosphorus bronze) Tungsten slit デジタル処理系 SSCのデジタル信号処理はDP(Data Processor)で行う。SSCではコマンドのデコード、CCD画像からX線イベントの検出、テレメトリの編集等が主な仕事である。SSC動作のモードとしては通常観測(normal mode)に加えて、darkinit,darkframe,frameの各モードをサポートしている。これらはXISを参考にしたものである。通常観測(normal mode)はXISでいうtiming modeで観測するのでgrade=0-3を判定する。テレメトリ編集はgraded modeとPHA mode(grade判定せず5ピクセルのPHを出す)をサポートする。ダークレベルは全ピクセル分記憶し随時アップデートする。 DPはSSC専用でなくシステムやGSCの処理も行う。 DPはDSPでなくCPUを用いており、DP全体で4枚のCPUボードがVME上に構築されている。そのうち2枚がCCDのイベント処理に用いられ、それぞれがSSCの各カメラ用に働く。片方のCPUボードが故障した場合は残ったCPUで両カメラの処理を行う。但し処理能力が落ちるためCCDの駆動速度を1/2にする。イベント処理プログラムはC言語で記述されている。各CPUボードでは 8MBのメモリを使用できる。 冷却、熱設計 CCDの冷却にはペルチェ素子を使用する。素子からの熱はカメラボディを通じてパッシブラジエター +ヒートパイプで宇宙に逃がす。Suzaku/XISからの進展はCCDへの熱流入を徹底的に小さくしたことにある。CCD素子はペルチェ素子自身のみで機械的に支えられ、CCD表面はアルミ蒸着、裏面は金蒸着で輻射による熱流入を防ぐ。強度と簡素化のためペルチェは一段で、CCDメーカー(浜松ホトニクス)で準備された。ペルチェ素子の機械的強度はH2A(HTV)にも対応し、Hayabusa(M5)での実績もある。但しカメラ取り付けの際のネジトルク、熱サイクルには要注意である(SXIでの注意点その1)。ペルチェ素子は 電気的にはDC/DCの変換効率のため8個が直列に並んでおり、一つが故障すると他の7個が使えなくなるデメリットがある(SXIでの注意点その2)。ペルチェの制御は電流一定、CCD温度をアクティブに一定の2モードを既に確立している。 CCD (及びカメラ全体)からラジエターへの熱の輸送はLoop Heat Pipeで行う。 MAXIはポインティング衛星でないためラジエターは常に深宇宙をみているわけでなく、軌道にあわせて常に温度が変化する。そのためCCDカメラ温度もダイナミックに変動するが、 LHPではそれでも正常に動作することが解析的に示されている。 CCDの動作温度が XISとSSCで大きく違うがこれは使用するウェハの違いに起因する。SSCではEpiを使用しているためダークカレントが圧倒的に小さい。これに加え暗電流低減モードもサポートし、これにより動作温度を10℃程度稼ぐことができている。 SSCでは露光中はCCDの駆動を行わないので読み出しに必要な電流をOFFすることも可能である。SSCではそのような設計を行ったが、電流安定に時間がかかり読み出しに影響することから常に電流を流すことにした。これによる熱流入はふえたものの、CCD温度への影響は小さいことが実測で示されている。CCD内蔵温度計は測定時のみONである。 SSCの性能 SSCの性能(SSC素子と冷却)を以下に示す。EMの結果であるがどちらも要求を上回っている。 この結果を元にFM(カメラ(SSCU)はスペアを入れて3台、SSCEは1台)を製作中で、スペアカメラは完成し、SSCEのEMを使いてEMカメラと同じ性能を確認した。CCDは各カメラで共通の駆動条件になっているため各CCDの最大の能力を発揮できているわけではないことに注意してほしい。 左:EMカメラに各種特性X線を当てた場合のスペクトル5.9keVで150eV(FWHM)の分解能と読み出しノイズで 5eletronが得られている。右:ペルチェ素子の冷却性能。横軸はペルチェ電流、縦軸はCCD温度。カメラ(hot)側を-20℃にした場合。一段ペルチェであるが温度差40Kが得られている。 Suzaku/XIS MAXI/SSC NeXT/XIS CCD温度(目標) -90℃ -60℃ -85℃ カメラ温度 -40 -20 ペルチェ段数 3 1 2 熱流入(mW/CCD) 250 22 177 TEC電力(W/CCD) 4.0 1.0 7.0
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